グラぽ

名古屋グランパスについて語り合うページ

メニュー

【ACL放映権問題】なぜDAZNがACL放映権を獲得したのか【事実と推測】 #grampus

DAZNがACLの放映権を獲得!

グランパスファミリーとしては嬉しい限りですが、UEFA Champions League(以下UCL)、UEFA Europa League(以下UEL)の放映から撤退し、ブンデスリーガ(ドイツ1部)の放映からも撤退したDAZNが、なぜ?という疑問を感じた人もいるでしょう。今回はそこを掘り下げてみたいと思います。

【事実】ACLの放映権はどういう取り扱いだったのか

ACLの放映権は、実は「AFC(アジアサッカー連盟)主催試合」という区切りでセット販売されています。

AFC主催試合とは以下の通りです。(男子の場合)

  • 代表
    • アジアカップ
    • U-23アジアカップ(オリンピック予選兼ねる)
    • U-19チャンピオンシップ(U20ワールドカップ予選兼ねる)
    • U-16チャンピオンシップ(U17ワールドカップ予選兼ねる)
    • ワールドカップアジア予選
  • クラブ
    • AFC チャンピオンズリーグ(AFCランキング1位から14位の国のクラブの対抗戦)
    • AFCカップ(AFCランキング15位から28位の国のクラブの対抗戦)

そのため、本来は「ACLのみ」という単体売りはされません。

さて、なにが起こったのでしょうか?

ACL主催試合放映権の歩み
ACL主催試合放映権の歩み

【事実:~2020年】ラガルデール

ラガルデールは、フランスに存在する財閥です。ラガルデール・トラベルなどの事業や衛星放送事業も持っています。ファッション雑誌「ELLE」や、ヴァージン・メガストアといった企業の親会社だったと言えばイメージがつくでしょうか。日本ではチョコレートのパティスリー「Made in ピエール・エルメ」の経営元というと意外かもしれません。

2000年代半ばくらいから事業の整理を始めており、自動車部門なども手放しています。

アジアサッカー連盟の放映権事業の代理店というだけでなく、アフリカサッカー連盟の放映権事業も持っており、これらの事業はそれなりに収益を上げていたものと思われます。

【事実と報道:2021~2028年】FMA(Football Marketing Asia)

2018年、2021年からのAFC主催試合に関する放映権の入札が行われました。

入札したのは中国(香港)とスイスの合弁企業DDMC Fortisと、ラガルデール・電通・パフォームグループ(DAZNの親会社)の一騎打ち。

New era for Asian football begins as AFC agrees partnership with DDMC Fortis | Football | News |

結果、DDMC Fortis が放映権料を落札します。落札額は20億ドルとも40億ドルとも言われています。仮に40億ドルならば日本円約4,400億円相当になります。

FMAはDDMC Fortisのアジアサッカービジネス用のブランドになります。

This is the first time that a Chinese enterprise has secured a comprehensive commercial mandate for a prestigious global football property.

とあるように、中国企業という扱いで、AFCとしても巨大国家、中国がサッカービジネスに本格的に取り組んでくれるということを期待していたことが上記のプレスリリースからも伺えます。

報道通りだとすると年280億円という額は、DAZNの 2017~2028シーズン(12年契約)約2,239億円(年186億円)と比べて、どれだけ巨額の契約なのかわかるでしょう。

【推測】巨額契約の代償

AFCの放映権料収入の4割は、日本と韓国からという報道がありました。

https://www.sportbusiness.com/news/ddmc-fortis-close-to-afc-media-rights-deals-in-japan-and-korea/ (現在は削除済み)

大幅アップとなったという年間280億円の現契約の前ラガルデール時代は仮に150億円くらいだったとしましょう。

4割というと60億円。恐らく40億円くらいが日本から支払われた放映権料だったのではないでしょうか。実際にはラガールデールと電通の利益が計上されるはずなので、30%ずつの利益をとった場合、70億円となります。

ラガルデール時代の放映権料
ラガルデール時代の放映権料

上記のAFC主催試合のうち、収益化できるのはサッカーA代表やオリンピック代表の試合だけです。年間15試合程度として、1試合あたり5億円程度かかることになります。

同じロジックで280億円になった場合はどうなるでしょうか。

FMA時代の放映権料
FMA時代の放映権料

ちなみに代理店利益の3割、というのはかなり控え目の計算なので、実際にはもっと大きな金額になるはずです。

それにしてもいきなり放映権料を倍近く請求されるというのは不況下の日本では厳しいと言わざるを得ませんこのCOVID-19の状況下ではこれまでのような数年間の一括契約を単独のテレビ局が受けることは難しいでしょう。

結果的にFMAはこれまでのような特定のテレビ局と一括契約を結べないまま時間が過ぎていきました。

【事実】放映権のばら売りの開始

特定のテレビ局と一括契約を結べないまま、2021年3月になりました。FIFAワールドカップ・アジア予選 2次予選モンゴル戦が行われました。放映権料の契約がないままなので、テレビ放送がされない可能性がありました。

おそらくFMAはこの時点で一括契約ではなく単体売りをすることを決断しました。この試合はフジテレビ系が獲得しました。その後もTBS系、日本テレビ系とローテーションされています。

【事実】これまでのACL放映権

大会創設当初から2012年まではテレビ朝日系で放映されていました。これはAFCとテレビ朝日がAFC主管試合の放映権を一括で契約していたためです。セカンドソースで各地方局やNHK BSでの中継が行われたこともあります。

どちらかというと、ACLは代表の試合のおまけ的な存在で放映されていたのではないかと想像されます。

2013年から2020年までは日本テレビ系で中継されていました。これはクラブワールドカップの放映権を日本テレビ系が持っていたため、そこに至る道であるACLにも着目したということが想像されます。ということは、悪い言い方をするとACLはクラブワールドカップのおまけ的な存在で放映されていたのではないでしょうか。

ここで注目すべきなのは、2013年、AFC主催試合の一括契約が崩れていることです。

8年ごとの2013年-2020年の契約でも、放映権料の値上がりがあったのだろうと想像されます。そこでラガールデールがクラブワールドカップの放映権を持つ日本テレビに分売することにしたのではないでしょうか。

【事実】あまり知られていないDAZN

このWebサイトを見ている人ならばご存じのはずですが、DAZNはDAZNグループ(元パフォーム・グループ)が運営するスポーツ専門の定額制動画配信サービスです。

ワーナー・ミュージック・グループなどを傘下に持つ投資会社であるアクセス・インダストリーズがDAZNグループの主要株主になっている(77%)ことはあまり知られていません。

アクセス・インダストリーズがDAZNグループに行ったのは、プライベート・エクイティ・ファンドという手法です。

※プライベート・エクイティ・ファンドは、投資家から集めた資金を非上場企業に投資を行い、投資対象企業の「本質的な企業価値の向上」を経営にも関与することで達成し、その結果得られるキャピタルゲインを投資家に還元するというスタイルです。通常、投資期間は長期になります。また経営の改善に自ら積極的に関与するために株式の過半数~100%を取得することが特徴です。

ワーナー・ミュージック・グループのように成熟したものになって安定的な収益をあげられるならそれもよし。売却できるならばそれも良し。

予想できると思いますが投資会社は厳しい存在です。簡単に言ってしまうと、コスパが悪いものについては遠慮無く損切りをしてきます

※損切り:投資家が損失を抱えている状態で保有している株式等を売却して損失を確定させること。 そのまま保有し続けた場合、さらに株価が下落して損失額が膨らむ可能性もあるため、損切りをして損失額を確定させることで、それ以上損失が膨らまないようにする。

【事実】DAZNと電通の関係

DAZNはDAZNグループの一員ですが、実は2021年からのAFC主催試合放映権に電通とともに入札していることからもわかるように、電通と深い関係にあります。

有価証券報告書・四半期報告書 – 株式会社電通グループ

電通子会社Global Sports Investmentsを通じて、DAZNの株式を保有しているのです。電通の公開しているIR情報から、その株式の評価額は500億円以上となっていることがわかります。サッカーをビジネスとして本格活用している電通にとって、DAZNは投資先でもあり、重要なパートナーにもなっているのです。

【推測】DAZNは経営が苦しい?

2020年、COVID-19の影響でJリーグの中断が長引き、多くの退会者が出たということで10年2100億円から12年2200億円に契約を結び直すことになったことから、DAZN経営危機が囁かれる事態にもなりました。

同じようにVODの会社である、ZenseはせっかくDAZNに勝利してタイリーグの放映権を獲得したのにCOVID-19の影響で会員減に悩み、銀行の保証を受けられなかったことで放映権を失うことになりました。

すわDAZNも・・・という声が挙がりましたが、現実的にリストラがはじまったなどの話は聞きません。(私も外資系企業の出身なので、外資系企業は経営が悪化するとリストラがすぐに始まることを良く知っています)

確かに一時的に収入が減ることなどはあったのでしょうが、Jリーグの放映権料を1年分かなり削減することができたことなどから、それなりにきちんと収支は合わせてきているのではないでしょうか。

【推測】DAZNはなぜUCL・UELから撤退したのか

経営がそこまで悪化したわけではないのに、なぜUCL・UELの放映権を放棄したのか、ということが疑問となるのが自然です。

そこで思い出して欲しいのは、DAZNグループはお金に厳しい投資会社の管轄であるということです。

UEFA Champions LeagueとEuropa Leagueの放映権の全世界合計は年間約27.1億ユーロ(約3540億円)になります。

UEFA.com document library | Inside UEFA

DAZNは日本を含むアジアでの放映権料をキャンセルしましたが、おそらくアジアでの放映権料は5%から10%程度と想像します。(180億円から354億円程度)

AFCでの割合から想像すると、日本での放映権料は72億円から142億円程度になりそうです。(WOWOWが獲得した金額は、恐らくディスカウントされていると思われます)

最低72億円という放映権料を支払って、それに「見合ったリターンが得られなかった」という評価になったのではないでしょうか。人気コンテンツに見られていても、時間帯が特殊なUCL・UELを見る人というのは、相当レアな人だったのではないでしょうか。

【推測】AFCが日本の放映権を無視できない理由

ACLには多くのスポンサーがいました。2020年までのスポンサー・サポーターは以下の企業です。

  • オフィシャルスポンサーズ
    • アリアンツ
    • beIN Sports
    • エミレーツ航空
    • ケルヒャー
    • ニコン
    • カタール国立銀行
    • トヨタ自動車
  • オフィシャルサポーターズ
    • セイコー
    • 華潤怡宝(C’estbon)
    • コナミデジタルエンタテインメント
    • モルテン

見ていただければわかりますが、11社中5社が日本企業です。この5社は国内専門の企業ではありませんが、それでもお膝元である日本での露出がないことを「怒りを買うのではないか」とAFCが考えてもおかしくありません。だからこそ、「日本できちんと放映して欲しい」と考えてもおかしくありません。

2021年のACLでは少し様子がおかしくなっています。こちらのビデオを見て下さい。

大口の配信元の契約者だったbeIN Sportsが配信を行っておらず、オフィシャルスポンサーズから離脱していることが予想されます。なおかつスタジアム看板がサウジアラビアのスマートシティプロジェクトNEOMと、KONAMIの看板しかないことも異常です。11社(1社は離脱確認済み)中どれだけ残っているかが不透明です。

そりゃそうです。スポンサーをしていても「放映権料が高すぎるせいで、どこでも放送されずに露出が見込めない」のにスポンサーを続けるモチベーションは持てるでしょうか。

普通は持てません。そのため、正式な発表はないものの昨年並みのスポンサー収入を得ることは難しいのではないかと予想されます。

これ以上、現在残っているスポンサー・サポーター企業の不興を買うようなことはしたくないと考えてもおかしくありません。

【推測】DAZNがACLの放映権を取る理由

そもそもこれまでのACLはBSやCS送りになっており、日本チームが決勝に残ったりしない限り地上波では放映されませんでした。それくらい、出場チームのサポーターくらいしか見ない、死んだコンテンツだったのです。決勝にでも出ない限り、出場チームサポ以外誰も見ないコンテンツでした。

このような状況でDAZNがACLの放映権を取得する理由はなんでしょうか?

グラぽの予想は、以下の条件の複合です。

  • 【コンテンツ拡充】Jリーグのコンテンツとの整合性
    • DAZNにとってはJリーグは大きなコンテンツです。現地観戦される人でDAZNに加入していないという方も一定数いらっしゃいますが、ACLは集中開催で現地観戦できない以上、DAZNで見るしかない、という方を掘り起こすことができる可能性があります。
  • 【政治】電通との関係性(売れないコンテンツを引き受ける)
  • 【政治】AFCが日本のスポンサー・サポーターを無視できないため(前述の通り)

この3つが揃っていなかったら、ひょっとしたらコスパの悪いACLの放映権を取得するようなことはなかったのではないでしょうか。

【推測】それでもコスパの悪いコンテンツ獲得を出資元は許さないはず

タイトルの通りなのですが、放映権料として巨額な費用を払っていたとしたら、上記のような政治的な狙いや、これまで加入してくれなかった層を掘り起こせることなどがあっても、DAZNグループの出資元は許さないはずです。

だとしたらどうでしょう。「放映権料が大幅にディスカウントできていたら?

真実はわかりませんが、放映権を取る「4つ目の理由」があったのでは、と思ってしまいます。

せっかく見られるACL、楽しみたい

長々書いてきましたが、不思議な放映権ビジネスについて推測を交えて「なぜ?」に答えてみました。

西岡アナの実況でグランパスを見られるという幸せ。海外のチームとの真剣勝負。是非楽しんでいきましょう。

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

Leave A Reply

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Share / Subscribe
Facebook Likes
Tweets
Hatena Bookmarks
Pocket
Evernote
Feedly
Send to LINE