仙台の名古屋対策
仙台の基本戦術
ベガルタ仙台の基本戦術は、高い守備ラインを引いてブロックを作り、相手ゴールにできるだけ近いところでボールを奪うところからはじまります。
その基礎になるのが富田、三田の2人の守備的中盤の選手です。彼らがダイナミックに動いてセカンドボールを拾いまくります。彼ら二人は3節まで最低11km、最高で12.8kmもの走行距離を誇ります。
そして左の石川、梁勇基に渡し、そこからサイドに流れたサイドハーフやフォワードに渡し、高い位置でファールを貰うか、クロスを中央に入れて中央の選手が決める、という流れです。
特にこれまでセンターフォワードという印象の強かったウィルソンが1節、3節とサイドに流れてクロスを上げ、得点を演出するというシーンが見られており、これはかなり練習された形だと思われます。
https://www.youtube.com/watch?v=fzxCzXFT3Yg
鹿島を破った第3節のハイライトを見ていただけると、その形が色濃く見えてくると思われます。
この日の名古屋対策
この日の仙台がとってきた名古屋対策は
- 名古屋の両サイドの裏にフォワードが流れ、そのスペースにボールを出して、いけそうならそのままカウンターでシュートまで、難しそうならクロスをあげてもう片方のフォワードと富田三田コンビのいずれかに決めさせる。
- 高さのあるシモヴィッチの対策として、渡部を置いて、徹底マークをさせる
- 怪我で動きに不安のある田口泰士、パスの繋ぎに不安のあるイ・スンヒに対してプレッシャーを強め、ショートカウンターを狙う
の3点だったと思われます。
名古屋の仙台対策
小倉監督が試合後の記者会見では以下のように述べています。
http://nagoya-grampus.jp/game/2016/0319vs/report.html
予想以上に気温が上がってボールが走らない状態になり、なかなかリズムがつかめない状況が続きましたが、先制点を取れたシーンのように、高い位置からボールを奪い、縦に早い攻撃を仕掛けるというポイントが出せたことは良かったと思います。
これまでの3試合同様に、高い位置で奪って速攻というキーワードが出ています。この狙いは小倉グランパスの戦術ノートの1ページ目、と言えそうです。
それにともなって、赤鯱新報や小倉監督のインタビューでもトランジションというキーワードがたびたび出現します。よくサッカーの詳しいかたが、ポジトラ・ネガトラとか言っている言葉も一緒です。
サッカーのチームの状態として、ボールを保持している「攻撃の状態」、ボールを保持していない「守備の状態」の2つがあることまでは誰でも理解できると思います。
実は、その切り替えの瞬間として、「トランジション」という状態が存在すると考えられています。ボールを奪取した瞬間の守備→攻撃の移り変わりをポジティブ・トランジション(ポジトラ)、反対にボールを失った瞬間の攻撃→守備の移り変わりをネガティブ・トランジション(ネガトラ)と呼んでいます。
たとえば野球は攻撃と守備がしっかり区切られています。ところがサッカーは3秒前は攻撃をしていたチームが、今は守備をしているということが日常茶飯事です。この入れ替わりが絶え間なく続いていくのがサッカーです。
レアル・マドリー、ミラン、チェルシー、パリ・サンジェルマンの指揮を取っていたカルロ・アンチェロッティは以下のように言っています。
組織的な守備が発達し、一旦相手が守備陣形を固めてしまうとなかなかそれを崩すことが難しくなる現代サッカーでは、攻守が入れ替わる一瞬に生まれる「戦術的空白」を攻撃側がどれだけ活かせるか、そして守備側がいかにそれに対応するかが、非常に大きなテーマになっている。近年の戦術をめぐる議論では、この攻守が切り替わる瞬間に焦点を絞って、移行、転換といった意味を持つトランジションという用語が使われるようになっている。
このトランジションを重視したサッカーというのがモダンサッカーのトレンドの一つになっており、それを巧みに活用して成果を挙げた監督としては現リバプール監督のユルゲン・クロップさんが有名です。
今は単純に奪ってから速い攻め、というところだけに現れていますが、逆の守備への素早い移行というところなども含めて、小倉グランパスの戦術第2ページ目がどのような形で現れてくるのかを見守りたいと思います。
小倉監督は、仙台の戦術に対して、以下のように選手に指導したとのことです。
今シーズンに入ってからも、徹底されたブロックや守備意識の高さを保っていたので、かなりタフな展開になるし、なかなか自分たちの思い描くサッカーをさせ てもらえないよとも伝えました。そのような状況では、仙台側がプレスを掛けられた時にディフェンスの背後を狙ってきたり、こちら側もつなげない状況でロン グボールを選択する場面は当然増えてきます。その中でセカンドボールをしっかり奪っていかないと、なかなか自分たちのペースにはならないよと言いました。
競り合うときに、他のプレイヤーが、競り合ったあと、こぼれてくるボールのことをセカンドボールと呼びます。こぼれてくるボールを拾えないと、クリアしてもまた攻められて、という無限ループに陥ってしまいます。
どうやって拾うか、といったらどこに落ちるか予測して動くべきですね。しかし、相手も同じように予測して拾いに来ます。そうなると近くにいる選手のほうが有利になります。そこでポイントになるのが「コンパクト」というキーワードです。
DFの守備ラインとFWとの間が開いてしまうと、ボールが間にこぼれても、それを拾うまでの距離が長くなってしまいます。そうなると敵選手がボールを拾える可能性も高くなってしまいます。そのような状況を間延び(間が空いてすかすか)の状況と呼びます。
間延びしてしまうとセカンドボールを拾うことが難しくなってしまいます。セカンドボールを取るには守備ラインをうまくあげて、中盤がしっかりとコンパクトな狭いブロックを作ることができると、こぼれ球に対して、「誰かが近くに居れる」状態を作ることができます。セカンドボールを拾えるようにしていこう、という指示には上記のようなメッセージも含まれているわけです。
ブロックを作ったら、そのブロックを飛び越えるボールを送り込んでくれば良い、とも考えることができます。そこに対するケアもある程度指示がだされていたものと思われます。
試合を振り返って
名古屋の狙いは達成されたのか?
監督の記者会見では主に取ってから素早い切り替えで速攻ということが言われていましたが、言及されていない狙いとして、仙台の高い守備ラインの裏を狙うというものがあったと思われます。
- 6分、8分に裏抜け(いずれもオフサイド)
- 9分、シモヴィッチのヘッドですらせたところから、松田力のシュート
- 17分、安田の裏抜けパスはライン割る
- 27分、永井がロングボールに裏抜けしてからラストパス、シモヴィッチが裏を取るがハンド
- 33分ゴール前こぼれをつないで左サイドからのクロスは関がクリア
前半だけでもこれだけの裏狙いのプレーがありました。主に永井選手と松田力選手がそのタスクを担い、幾度と無くチャンスを作っていましたので、狙いは達成できていたのではないかと思います。むしろシモヴィッチ選手はポストとしてフリックによって裏を突く松田力選手への供給役に徹していた感もあります。
一方、シモヴィッチの得点については、これまでの3試合で見せていた形と同様に、奪ってからの速い攻めで実現できており、これもまさに小倉監督の狙い通りだったと言えるのではないでしょうか。
守備に関しても、シュートはミスから敵に渡してカウンターを食らった15分までシュートを一本も打たせなかったことからわかるように、良い意識づけができていたのではないかと思われます。
このシーンでも、永井選手は前線から戻りきれていませんが綺麗にペナルティエリア幅で4-3ブロックを作ることができています。このシーンでは後ろの4枚が揃っていることを確認してから、古林がパスコースを消しに行って、実際に仙台の選手はボールを戻さざるを得ない状況になりました。
仙台の狙いは達成されたのか?
試合後の記者会見で仙台渡邉晋監督は以下のように語っています。
http://www.vegalta.co.jp/leagues/post-15.html
(質問者)シモビッチ選手に対しては、どのような対策で試合に臨まれたのでしょうか。結果的に彼が1点を取ったのですが、どういう部分で仙台のディフェンスを上回ったのでしょうか。
(渡邉晋監督)オープンプレーでの怖さというものは、正直、我々の最終ラインからすればおそらく防げるだろうと思っていました。ひとつ大きいポイントになるのは 間違いないので、そこに対するチャレンジを確実に一枚はっきりすること、それに対するカバーをすること、ラインを押し上げて我々が彼を置き去りにすれば、 オフサイドも取れるでしょうから、そういった戦術はしっかり遂行してくれたと思います。
怖かったのは二列目からの飛び出しや、カウンターでの飛び出しであったので、そのあたりを本当に注意しなければいけないと思っていました。最後 に、前半のアディショナルタイムのあのゴールは、彼の素晴らしいゴールだと思いますけれども、我々の失い方も悪かったですし、時間帯を考えればもっとシン プルなプレーの選択も必要であって、そこの出どころに対する蓋というものもしなければいけなかったですし、ただし、組織的に大きく破綻することなく守れた のではないかという気はしています。
単純に渡部の高さで対抗するだけでなく、ラインを押し上げること、平岡がカバーをすること、この2つを徹底していたようですね。実際、この試合のシモヴィッチはチャンスメーカーとしては機能していましたが、得点シーン以外ではフィニッシュに絡めるシーンはあまりありませんでした。そういう意味では成功だったのかもしれません。
また、永井謙佑選手も大岩と平岡にスペースを与えてもらえず、クロスまでに時間がかかって中の守備側選手に準備をさせてしまっていたこともありました。そういう意味では狙いは2つとも達成されていたのだと思います。
それだけうまくやっていた仙台守備陣から2点を取れたのは、素早い切り替えからの戦術的空白を狙った前半アディショナルタイムの田口>シモヴィッチ>田口>古林>シモヴィッチの素早いゴールが有効でした。45分40秒に田口が奪ってから、45分50秒にゴールするまでわずか10秒の速攻に渡部も平岡も対応しきれなかったというのがわかります。トランジションというのが大事なのだと、思い知らされる得点でした。
あきらかになった問題点
1. プレー精度の低さ
前節川崎フロンターレ戦ではパスの成功率は、川崎の86.1%に対して、名古屋は67.9%です。その理由としては、引きすぎてしまうことでパスコースが少なく、結果的にパスミスが増えたのではないか、と記事を書きました。(https://grapo.net/2016/03/16/1616/)
今回のベガルタ仙台戦もパス成功率はあまり高くないと思われます。
その理由は2つあります。
1つ目は、仙台が名古屋の4-3のブロックのうち、田口泰士選手とイ・スンヒ選手のところにプレッシャーを意図的にかけてきていたことにあります。2つ目は、仙台のブロックが4-4で80分くらいまでほとんど崩れずに構築されており、名古屋のパスコースがある程度限定されていたことがあると思います。
特に1つ目についてはおそらく、ボールの取りどころとして設定されていたのだろうと思います。(仙台の狙いの項参照)三田富田コンビがプレッシャーをかけるだけでなく、こぼれてくるボールを奥埜選手が挟んで狙っているのがわかります。
そのため田口泰士選手のトラップが流れたところをカウンターしたり、似たようなシーンが散見されていました。
https://www.youtube.com/watch?v=ZDaIQvJFQa0
ハイライトにもあがっている、15分のプレー、田口泰士選手がトラップしたところを狙って奥埜が拾い、カウンターでウィルソンのフィニッシュまで繋いだプレーがあります。
上にも書いたように、今回は守備のブロックは4-3とちょっといびつな形ながらも作ることができていましたので、守備陣形は整っていたと思われます。
しかしブロックを崩してしまえば残るはラインだけです。なんなくウィルソンが奥埜のパスに走りこんでシュートに持ち込みました。
守備に絶対はありませんが、こういったブロック崩しに隙を与えてしまうことは問題です。中央低めの位置でのミスは、ほとんどの場合、相手のチャンスにつながってしまいます。
フォローも必要かもしれませんし、何よりパスコースを必ずキープしておくことも重要ですが、大事な位置でのプレーの精度を高めることが課題になるかもしれません。
2. 4-1-4-1の熟成不足
この試合、後半になって仙台が陣形を変更、ハモン・ロペス選手がほぼ1トップの状況で、ウィルソン選手が衛星的に左右のサイドに流れるようになると、サイドの選手が押し広げられ、中央の枚数が少なくなってしまいました。
竹内・オーマンともに器用なタイプではないので、枚数が少なくなれば飛び込んでくる選手へのケアが薄くなります。しかも圧力が高くなったことによって、70分過ぎから4-4ブロックがグチャグチャになっていたこともあります。
77分にウィルソンのクロスにハモン・ロペスがフリーでシュートに至ったのを見て、小倉監督は明神選手を投入しました。
小倉監督は明神選手に4-1-4-1で、アンカーを伝えていたようです。しかし実際には79分にはペナルティエリア近くまで来てミドルシュートを打ったりもしています。
(質問者)アンカーの位置に明神選手を投入したあとに同点に追いつかれたことで、監督のプランは一度崩れたように思えました。そこから勝負強さを発揮できたという点は、チームとして大きく成長したところなのではないでしょうか?
(小倉監督)明神選手の投入時に)「4-1-4-1」に変更と伝えました。あれは逃げ切りではなく、もう一点を取りにいった采配でした。結果として各選手の判 断でかなり流動的に動かないといけない状況になりましたが、その中でコンビネーションや組織的な動きが少なくなり、いかなくていいところでの食いつきな ど、個々の対応によってやられた印象です。そのあとにしっかりとしたつなぎが見せられた部分は、もちろん相手が間延びしたという点もあるかもしれません が、距離感的に選手たちがやりやすかったのかなと思います。そこの部分にプラスして守備面も流動的に考えながら、カバーリングとプレスの関係性も含めて改善していければ、一つ持っておきたいオプションであるなとは考えています。 正直失点した瞬間は痛いなと思いましたが、残り時間があったので、チャンスは作れるだろうと思っていました。そこで戦う姿勢を見せてくれたので、評価して あげたいと思います。
小倉監督の狙いは、攻撃タスクを整理して、前線に野田-田口-イ・スンヒの三角形で攻めを作り、最終ラインに明神-オーマン-竹内の三角形のブロックを作って、そこで中央を守ろうという意図だったと思われます。
しかし小倉監督も言っているように熟成が不足しているため、考えながらプレーをすることになってしまい、プレーのスピードと精度が落ちてしまいました。そして機能不全に陥り、かえって失点を喫してしまいました。80分前後には4-1-4-1のかたちはできるようになりましたが、逆に4と4の間が空いてしまい、そのスペースを仙台に使われてパスを繋がれました。失点直前のあたりはだいぶ仙台にボールを持たれてしまう展開がつづいていたわけです。
ここから、まずリードして試合終盤を迎えた時のクローズの仕方について考えなければならないということがわかります。ここで全員の共通理解がないと同じことの繰り返しになってしまいますね。
あまりやることが増えてしまうと消化不良になってしまいますので、まずは試合を締めくくる形を作ることが大事です。ストイコビッチ時代であれば、リードしたら千代反田選手の投入みたいなヤツです。(今年のメンバーでディフェンダーの追加投入が正しいとは思えないのでそれは除外して、です)これが喫緊の課題ですね。
この試合では不思議なことに同点にしたあと、仙台の積極性が急に失われてしまいました。84分に田口泰士選手へのプレッシャーからボールを奪ってカウンターはありましたが、それ以外に目立ったチャレンジがありませんでした。
そうなると押し込みたいグランパスがサイドを押し上げて枚数をかけた攻撃をしていき、その結果矢野貴章選手(実際にはラストタッチは野田隆之介選手)のゴールにつながりました。
攻撃面では狙いを形にできたと思われますが4-1の守備についてはもうちょっと熟成が必要かもしれません。
まとめ
勝った試合ではありましたが、問題も多く出た試合でもありました。田口泰士選手が怪我の影響からかコンディションがあがってこず、キックの精度が低いこと、これによってセットプレーで得点をなかなかあげることができていません。試合をクローズする形が未熟であること。レギュラーの11人以外に入れ替わった時の戦術の維持が難しいということも感じさせられました。
ここから週2ペースの連戦が始まります。厳しい戦いになると思いますが、なんとか底上げをしていってほしいですね。
>その結果矢野貴章選手(実際にはラストタッチは野田隆之介選手)のゴールにつながりました。
これが矢野のゴールになるならば広島のゴールは佐藤寿人ではなく柴崎のゴールですよね。
グランパスはいつも不名誉な記録や引き立て役にされてるのでクラブはJリーグに強く抗議して欲しいです。
サポーターも毎回情けない のび太 役やらさせられてるのに何も感じないんだろうか?!