グランパスにも練習参加していて、密着マンマークしていた安居海渡選手が浦和に内定した。
ここ数年の浦和レッズと流通経済大学の蜜月ぶりを見ると致し方のない部分もあるが、本当に新卒加入選手が獲れない。それは何故だろうか?
ここ10年で獲得した新卒加入選手
- 2021年:児玉駿斗・【レンタル】東ジョン(ユ):2名
- 2020年:三井大輝(ユ)・石田凌太郎(ユ)・吉田晃:3名
- 2019年:【レンタル】松岡ジョナタン(ユ)・藤井陽也(ユ)・成瀬竣平(ユ)・相馬勇紀・【レンタル】榎本大輝・【レンタル】渡邉柊斗:6名
- 2018年:菅原由勢(ユ)・大垣勇樹・秋山陽介:2名
- 2017年:深堀隼平(ユ)・梶山幹太(ユ)・宮地元貴・松本孝平:4名
- 2016年:和泉竜司・高橋諒:2名
- 2015年:大武峻:1名
- 2014年:杉森考起(ユ)・森勇人(ユ)・矢田旭(ユ→大)・松田力・青木亮太・小屋松知哉・野村政孝:7名
- 2013年:ハーフナー・ニッキ(ユ)・牟田雄祐・望月嶺臣・本多勇喜(ユ→大)・チアゴ:5名
- 2012年:佐藤和樹(ユ)・水野泰輔(ユ)・高原幹(ユ)・田鍋陵太:4名
トータルで37名。
(現在もグランパスに所属している選手は児玉駿斗・三井大輝・石田凌太郎・吉田晃・藤井陽也・成瀬竣平・相馬勇紀の7名。しかも、ここ3年以内に加入した選手に限られる。
レンタル中は東ジョン・松岡ジョナタン・榎本大輝・渡邉柊斗の4名。この4人はいまのところ今年出場機会はない。
仮説1:名古屋グランパスの新卒加入選手は名古屋U-18出身者の割合が多い
37名のうちユース出身・およびユースから大学経由で加入合わせて17名。これは45.9%だ。
実はこれはガンバ大阪の2016年以降の獲得新人27名中12名がユース出身というのと割合はたいして変わらない。
アンダー年代で強豪チーム(プレミアリーグ所属)を抱えているチームの場合は、似たような割合になっていることが多そうだ。
仮説2:名古屋グランパスは良い新卒加入選手を獲得できていない
この10年の新卒加入選手のなかで、ここ2年のなかでJ2以上・あるいは海外のチームで一定以上の出場機会を得ている選手は、
- 成瀬竣平
- 相馬勇紀
- 秋山陽介
- 深堀隼平
- 菅原由勢
- 和泉竜司
- 高橋諒
- 杉森考起
- 森勇人
- 松田力
- 青木亮太
- 小屋松知哉
- ハーフナー・ニッキ
- 本多勇喜
の14名だ。現名古屋所属は2名だけ。これは37.8%で、名古屋グランパスの「新卒選手獲得の見る目は悪くない」と考えることはできるだろう。
仮説3:名古屋グランパスは良い新卒加入選手を獲得できているが、チームに定着させられていない
仮説2で挙げた、現在もJ2以上で主力級の働きを示している選手のうち、名古屋に今も所属している選手は2名だけ。14.3%だ。
数字から想像する名古屋グランパスのイメージ
活躍している新卒加入選手が2名しか今残っていない。ということは通常18名くらいの主力グループのなかに生え抜きが2名しかいない、ということでもある。
これでは新卒加入選手が活躍するイメージが湧かないのが普通だろう。
名古屋グランパスは移籍選手の集まり。そう思われてもしょうがない。
なかには自分から出て行った選手もいるが、14名のうち、半分の6名でもチームに定着してくれていたら、生え抜きが活躍するチームというイメージがついたのではないだろうか。
新卒加入選手獲得のメリット
新卒加入選手を獲得するメリットは
- 新卒加入選手は基本的に若い
- 若いということは、長く活躍できる可能性がある
というところにつきる。
よく言われる、「新卒加入選手だからチームに愛着を持って移籍しないでくれる」なんていうのは幻想だと考える。和泉竜司も、田口泰士もあっさりと移籍した。
ただ二人ともある程度の長い期間主力として活躍してくれた。そこだけは確かな事実だ。
新卒加入選手のデメリットは、必ず活躍できるとは限らないということだ。
仮説2の検証通り、だいたい活躍できる可能性は33%前後。それもJ1で活躍できる、まで絞り込むともっと確率は下がるだろう。だから、ある程度の人数を獲得することが必要なのだ。
他チームからの移籍加入選手獲得のメリット
他チームからの移籍加入選手の獲得のメリットは
- 100%ではないが、活躍できる当たりの選手の可能性が高い
こと。これに尽きる。
ただデメリットもある。
- 年齢層が高いので、活躍できる年数に限りがある
- 29歳から30歳で獲得している選手だと、ピークを保てるのが3年くらいの可能性がある
- 年俸や移籍金が高い
移籍加入選手の獲得ベースでチームを作るというのは、相当な資金力が必要だ。COVID-19の状況下では、名古屋グランパスですら厳しい状態。そのためチームのなかのムードメーカーだった千葉和彦などを放出せざるを得なかった。
またピークが短いので、早いサイクルで選手獲得をすると、チームにマッチしない選手補強になってしまう可能性も高くなる。主力の置き換えに失敗すれば、降格の危機も現実的だ。
なぜ新卒加入選手が居着かないのか
理由はいくつか考えられる。
- ベテランの強力な選手が上にいるため出場機会が得られない
- 例:深堀隼平、青木亮太など
- 降格と、それにまつわる様々なゴタゴタ
- 例:永井謙佑、本多勇喜、小屋松知哉、高橋諒など
- 突然の方針転換
- 例:秋山陽介、榎本大輝など
- チームに優勝の可能性が見えない
- 例:和泉竜司など
単純に伸びることができなかったというケースや怪我を除けば、だいたい上記の4パターンに類型できるのではないだろうか。
2、3、4は防ぐことができる原因だ。
3について。
就職するとき、営業になるつもりだったのに、「うちは明日から製造業になります!みんなライン工になってもらいます!」なんてなったら面食らうのが当たり前。そしてそんなことを何回もやらかしている会社は評判悪くなって当たり前。
監督が変わっても方針は大きく変えず、チームカラーを固定できるようにしていれば、時間はかかるかもしれないが選手としては選びやすくなる。
2について。
降格でゴタゴタを起こさないというほうが難しいかもしれない。降格しないためには強くなるしかない。そのためにはいい選手を揃えて、良い指導者を確保するしかない。今は悪い方向には行っていないと考えられる。
4について。
いまのように、しっかりと補強を重ねて戦術を深めていれば、優勝争いに食い込むことは不可能ではないはずだ。そこに参加できるということは良い体験になる。思えば和泉竜司は降格・昇格・残留争い・残留争いと、優勝争いとは無縁の戦いを強いてしまった。本当に申し訳なかった。
いまのチーム作りを続けていくことが大事だ。
一番難しいのは1だ。
ある意味、チームを強くして優勝を狙おうとすると、どうしても飛び抜けた実力が必要になる。そうなると今のグランパスのようにベテラン偏重になってしまうのは理解できる。そうすると世代交代が難しくなってしまうのだ。
新卒加入選手を獲得して活躍させる、ということは会計で言うところの「キャッシュフロー」を良くすることに近い。キャッシュフロー経営は「実際に会社が使える現金」に注目して行うものだが、サッカーチームにおいては「実際に使える選手」を常にキープできるようにするという考えになる。
例として挙げよう。川崎フロンターレは移籍獲得したベテランと、若手が融合して強い。フロンターレならば家長昭博が引退しても、そこに経験を積んだ長谷川竜也や旗手怜央、脇坂泰斗らがすんなり世代交代できそうだ。今使える選手と、仕込んでいる若手選手というのを将来を見て考えることができていて、今年乗り切ればいい、という考え方ではなく、先を見据えて選手がちゃんと居られるようになっている。
副次的なメリットもある。多数のベテランを獲得する必要がないということは、予算を集中して投入することができるということで、それだけ良いベテランをピンポイントで獲得できる、ということでもある。
Jリーグのチームのあちこちで聞こえる「○○選手の穴が埋まらない!」なんていうことが起きないようにするには、うまくいくかどうかはわからないが若手をベテラン選手のところに向けて育てていくことが必要だ。キャッシュフロー経営的な「チームの設計」をして欲しい。
交代でも良いので、若手を同じ場所で使って育てていく。そしてそうやって育ててくれるという信頼があるチームに人は集まる。
「新卒加入選手が活躍している」チームだからこそ、有望な新卒加入選手が獲得できる。一見矛盾に感じるかもしれないが、グランパスも長くJ1で優勝争いができるようなチームになるためには、上記の4点を改善していくことが必要だと考える。