スポーツニュースのセンセーショナルな記事も重なり、柏戦では「再現性」という言葉が注目された。柏は「約束事」が分かりやすかっただけに整頓具合が突出したが、名古屋はどうだったのか?ピンポイントに短めのレビューでお送りする。
試合情報
柏は、前節の新潟戦で「(前が)落として、(中盤が)受けて、(裏に)出す」という明快なリズムを攻めの軸にしていた。まるで平成の江頭のネタのような分かりやすさがあった。名古屋としては、この三つのテンポのどこに守備の焦点を置くのかが重要になると予想された。
先制点が語るかみ合わせのズレ
柏の出鼻を挫く形となったのは、柏の守備の仕方と配置のズレが嚙み合った結果である。名古屋は野上がスライドし、柏の2トップに2CBを当て、右サイドでは渡井に「CMFへ行くのか、野上へ行くのか」という二択の守備選択を迫った。このIHの守備選択の厳しさを和らげているのが木下と細谷である。2CB対面をかわされると、CMFまで下がって守備に絡みに来る。
名古屋の視点から見ると、CB-CMFラインまでボールを運び、2FWの守備参加をいなしながらCMFが攻撃に関与できると、白井の周囲で数的優位を取りやすい。この点は1アンカー採用による影響もある。
先制点の場面では、中山が逆足WBであることも関係していた。名古屋が逆サイドへ広がった際、山田は白井の周囲のケアの優先度を下げざるを得なかった。その結果、前進した稲垣がミドルシュートを打つ形を作ることができた。
👍ポイント
中山と森島のサイドが有効だった理由は「可変」によるものだ。この点が明確に表れたことは収穫だったのではないだろうか。中山が高い位置でSB化することで、山田のハイプレス時の守備の役割が曖昧になる。森島と中山が外を取る動きをすることで、山田が必ず外のケアに回らざるを得ない状況が生まれる。これは、右サイドと同様にIHに守備の選択肢を投げかける形となる。
この状況によって、白井の周囲にCMFやFWがアプローチしやすくなる。特に10分50秒からの場面では、FWの守備参加が必須となる状況と、稲垣が高い位置へ押し上げる形が合致し、分かりやすい展開になっていた。さらに、29分00秒からの場面でも、森島と中山が外のラインを作ったことで椎橋が浮き、稲垣が前にアプローチする形となった。これにより、逆サイドからチャンスを生み出すことができた。これも、前述の攻撃の約束事によるものだ。
小噺:再現性の話と健太さんが悲観しない訳を考える
「シチュエーションの偶発性が問題」とメディアでは大きく取り上げられている。しかし、18分12秒からの場面では、鹿島戦で見られた野上のフリックからの抜け出しと同じ形を作ることができていた。その上で、ポイントの部分で解説したように、柏のIHに選択肢を投げかけ、大外へ引っ張ることで中央のスペースを広げる展開を再現していた。稲垣も攻撃参加し、外へ回って三丸を引き出している。そして、和泉か永井が古賀の背後へ走れば決定機という場面だった。
しかし、このような場面でボールに絡もうとしないことが、作り出された攻撃の再現性を見えにくくしている。地上戦で再現性のある攻撃ができたとしても、ラストプレーの局面でボールに絡んでくれるのはマテウスだけ、という状況が続いている。そのため、疲労が見えても交代しづらいという現象が生じている。
サッカーは変数が多く、決められた選手が決められた動きをして盤面を再現することはほぼ不可能である。そのため、再現できた盤面に対して適切に絡んでいけないことが、現状の課題となっている。逆に言えば、これこそが健太さんが「現状を悲観しない理由」でもあると感じられるシーンだった。
いつものプレスとなんか違う
柏は、プレスを誘った後にポストプレイヤー、受ける選手、抜け出す選手を作り出していた。13分22秒の場面では美しい抜け出しが成功したが、17分10秒、22分36秒の場面では制限される形になった。この違いには、名古屋の守備が関係しているのかを考える。
もちろん、木下と細谷のCB陣との個人対決も影響しているが、抜け出しが成功するかどうかの差は「受けに来るスペースを消せる人数がいるかどうか」が大きな要因となる。具体的に、挙げた2つの時間帯を比較してみる。
13分22秒の場面では、プレスに入った名古屋が躱される形になった(CBの潰しが負けたとはいえ)。椎橋と逆サイドの森島以外の全員が中盤の椎橋のラインを越えてプレスに行ったため、椎橋の周辺、つまりピッチ中央は大きく空き、前線にも人数が残っていた。これにより、渡井はサイドから中央へ受ける動きを仕掛けた。
一方、17分10秒の場面では、森島が起点となり、椎橋がサイドに連動してプレスを仕掛けた。この時、椎橋、稲垣、マテウスを含めた横のラインが揃い、さらにマテウスが中央へ絞る動きを見せた。この距離感であれば、木下がボールを落とした際に名古屋の選手が受けに来た選手に寄せることができる。その上、受けた後の出し先へのスペースのケアも十分にできる状況だった。
要するに、「前向きに受けに来る選手のスペースをケアし、プレスの牽制ができるかどうか」が重要であり、IHの2人は守備時にこの点を意識してポジションを取る必要がある。この点を踏まえると、前半に永井が一人で縦横無尽にプレスをかけていたように見えた理由が理解できる。
👍ポイント
マテウスは前半、やや引いた位置を取っていた。右サイドではジエゴが常に高い位置を維持していたため、和泉とジエゴだけでなく、マテウスも対応できるようにポジションを調整していたイメージがある。実際、前半は右サイドが釣り出されると相手に抜け出される場面もあった。そのため、左から右へ守備がスライドする際、三丸の位置では永井が横へ流れるか、和泉が縦ズレして走る動きが多く見られた。三丸を放置する形でプレスをかける場面も前半には見られた。
しかし、後半開始直後、突然マテウスが三丸にプレスをかけに出ていった。戦術変更によるプレスの調整があったわけではないため、明らかに野上が動揺し、対応が遅れた形になった。
組み立てをどうするのか?
名古屋はプレッシャーを受けた際の脱出に苦しんだ。柏は前半途中から、細谷と木下にCMFまで見る役割を任せるのをやめ、渡井と山田がCMFをケアする形に変更した。さらに、野上に対してはジエゴが厳しく当たり、プレッシングを強める対応を見せた。後半に入ると、2トップと2IHで中央を絞りながら、後方で回しているボールに対して積極的に出ていく形を取る。また、前半に左のWB裏を取られていた渡井は、野上まで追う動きに変えた。
中央が絞られると、外回しのパスが増え、外へのプレッシャーが厳しくなる。そのため、名古屋はCMFを右サイドに張り出し、中央のスペースを広げようと試みた。
この形になると、CMFの一人が中央、もう一人がSBの位置に立つため、前半の「高い位置に稲垣を送り込む」構造を維持するのが難しくなる。典型例として、70分50秒のビルドアップの場面が挙げられる。稲垣が攻撃参加した後、一度ビルドアップをやり直す場面だった。中央には椎橋しかいないため、稲垣が戻ってくるまでは柏が中央をケアする。稲垣が戻ると、柏は中央を絞った状態でプレスを開始する。
組み立てが厳しい印象は強いが、実際には80分以降、稲垣が中央に、椎橋がサイドバックの位置に入ることで、柏のプレスをいなすことができた。しかし、最終的にはCMFが「前にボールをつなげるかどうか」という信用問題に行き着く。名古屋の最終ラインは、椎橋が浮くまで右サイドでボールを預け、椎橋が浮いたら渡して運ばせる形を選択した。マテウス、浅野、山岸がある程度柏の選手間で降りていたが、攻撃のスイッチが椎橋に依存していたことが課題として残った。
また、稲垣がビルドアップ時に最終ラインとのリズムを取る時間が増えたことで、守備の切り替え時にボール奪取のため前へ出る動きが増えた。これが失敗すると裏返される場面が多くなり、ボールを保持して攻めあぐねた後に柏のカウンターを受ける、という後半の展開につながった。
つぶやき
- 右で圧縮を作ったことで、中山は活きた。本人も順足で顔を上げる余裕なくプレーするより、逆足の方が自然と顔を上げるため、プレーの選択肢が広くなるのだろう。体のキレやプレーの質が良く見えたのは、ボールに積極的に絡もうとする姿勢が表れたからかもしれない。
- 現地で見ていた人にしか伝わらない、失点後の三國に対するシュミットのコーチング。「危ないと思ったらライン外に切ってくれ」とジェスチャーで伝えていたのは、何とも世知辛い。自分たちがセットプレーで完封していたら、迷わず外にクリアしていたはずだ。そう考えると、戦績を悔やむしかない。
- 稲垣のビッグチャンス3回。アンカー白井の周りを外と奥で引っ張るような、チームで決めた大枠の動きから生まれたチャンスだった。しかし、それに固執しすぎた結果、前線は「一つ仕事をしたら待機」という形になってしまった。この点が「攻撃が偶発的だ」と言われる要因ではないかと感じる試合だった。
- シュミットの記事。要するに、構造の悪さだけを危惧しているのではなく、選手がボールに絡む動きや、サッカーをする上で当然のこととして考え、実行すべきことをやっていないため、偶然のようなプレーになってしまう。特に失点後のコーチングの場面を見ると、その意図がよく表れていた。