契約のステークホルダー(1) 代理人(フットボールエージェント)とは
法律や契約に詳しくない選手が、独力で契約交渉を適切に行うことは困難です。そこで選手の強い味方となるのが「代理人(正式名称:フットボールエージェント)」です。
2015年に導入された「仲介人制度」によって規制が緩和されましたが、その結果、国ごとに監督基準がバラバラになり、手数料の高騰や利益相反といった問題が深刻化しました。
実際、2025年12月発表の「FIFAフットボールエージェントレポート2025」によると、男子プロサッカーにおける代理人手数料の総額は、約13億7000万米ドル(約2156億円)に達しており、その額は年々増加の一途をたどっています。
本来、フットボールの発展や選手の育成に使われるべき資金が、手数料として外部流出してしまう状況は健全ではありません。 こうした背景から、FIFAによる国際的な統一規制「FFAR(FIFA Football Agent Regulations)」の導入が決定され、2023年10月1日より代理人制度が大幅に改定されました。
主な改定ポイントは以下の通りです。
- FIFAの認定フットボールエージェントだけが契約の仲介業務を行うことができる
- FIFA FOOTBALL AGENT認定試験に合格したものだけがFIFA認定フットボールエージェントになれる
- 旧フットボールエージェントでFIFA認定フットボールエージェントではないものが契約の仲介業務を行った場合、無資格者のみならず、無資格者を利用した選手・クラブも懲罰の対象になる
- 手数料の上限設定の厳格化(守らず選手から不当に搾取する仲介人が多かったため)→2023年、一旦係争中のため厳格化の適用が中止されていましたが、まだ2025年12月の時点でもまだ解除されていないそうです。
- FIFA認定フットボールエージェントの最新版リストはFIFAにて公開されている
- FIFA認定フットボールエージェントについてはイマージェント馬淵さんの以下のブログが参考になります
フットボールエージェントは、JFAの定義する契約書に従って契約を行うことになります。ただこれも最低限のことだけを決めているものなので、チームとの契約同様、付帯契約があるかもしれません。
以下含めて引用元:フットボールエージェント制度|JFA|日本サッカー協会
このフットボールエージェントは「サービスの内容」に記載された業務を行う

フットボールエージェントの報酬は、選手の報酬xこの契約書に記載された%になります。ただ、この額は昔から3%上限とされていましたが、守っていないケースが多数あります。
余談ですが、ここのサービス内容に書かれたものが業務対象となり、クラブとの契約交渉以外に税金対策や肖像権の管理など財政面のサポートやコンディション管理、移籍先の新居探しなどパーソナルな部分まで担当することもあるそうです。その場合の代理人の仕事ぶりは以下の記事をご覧ください
「サッカーの代理人って普段どんな仕事してるの?」 エージェント田邊伸明氏に聞いてみた(村上アシシ) – 個人 – Yahoo!ニュース
移籍におけるフットボールエージェントの立ち位置
上記では選手の代理人の話を書きましたが、実はフットボールエージェントはチームに付くこともあります。そのため、フットボールエージェントが以下の図のように存在することもあり得ます。
この図の場合はフットボールエージェント同士のやりとりによって移籍の交渉が行われます。さらに、外国籍選手の移籍の場合は現地のフットボールエージェントが絡んでくることもあり、そうなるとフットボールエージェントが最大4人登場することになります。こういった取引は奇々怪々です。
FIFAフットボールエージェント規則で禁止されている複数代理
FIFAフットボールエージェント規則(FFAR)における「複数代理(デュアル・リプレゼンテーション)の禁止」という規程があります。
一言で言うと、「1回の移籍交渉において、エージェントは『1人のクライアント』の味方しかしてはいけない」というのが基本ルールです。
これまでは1人のエージェントが「選手」「売るクラブ」「買うクラブ」の3者すべてから手数料をもらうようなケースもありましたが、これが厳しく制限されました。かつてミノ・ライオラらの大物代理人が好き勝手おこなった反動ですね。
1. 基本ルール:原則「一人一役」
利益相反(あちらもこちらも立てて、誰の味方かわからなくなる状態)を防ぐため、エージェントは以下のいずれか1つの立場しか取れません。
- 選手の代理人 として交渉する
- 獲得するクラブ(買う側)の代理人 として交渉する
- 放出するクラブ(売る側)の代理人 として交渉する
2. 「OK」な組み合わせと「NG」な組み合わせ
このルールにはたった1つだけ例外があります。それが「選手」と「獲得するクラブ」のペアです。
| 組み合わせ | OK / NG | 理由 |
| 選手 & 獲得クラブ | OK (唯一の例外) | 選手は「良い条件で入団したい」、獲得クラブは「その選手が欲しい」という点で利害が一致しやすいため、事前の書面同意があれば認められます。 |
| 選手 & 放出クラブ | NG | 放出クラブは「高く売りたい」、選手は「給料を高くしたい」と利害が対立しがちです。エージェントが無理に移籍を成立させるのを防ぐため禁止です。 |
| 獲得クラブ & 放出クラブ | NG | 「安く買いたい」と「高く売りたい」の両方を担当するのは不可能です。談合や手数料の二重取りを防ぐため禁止です。 |
| 3者すべて | NG | もちろん禁止です。 |
3. 例外(選手&獲得クラブ)を認めるときの条件
唯一認められている「選手」と「獲得クラブ」の双方代理を行う場合でも、厳しい条件があります。
- 事前の書面同意: 代理活動を始める前に、選手とクラブの両方が「同じエージェントを使います」と書面で同意する必要があります。
- 手数料の上限: 双方から受け取れる手数料の合計には上限(キャップ)が設けられています。
- 例:選手の年俸が20万ドル以下の場合、双方合わせて最大10%(選手5%+クラブ5%)まで。
この規制は、「エージェントが、自分の手数料稼ぎのために無理な移籍を成立させること」を防ぎ、選手を守るための仕組みです。
- 「売る側のクラブ」に関わるなら、他の誰の代理もしてはいけない。
- 「買う側のクラブ」と「選手」だけは、仲良く契約するなら一緒に担当してもいい。
と覚えるとわかりやすいでしょう。
契約のステークホルダー(2)チーム側の担当者:強化・編成部
チームの強化を担当するのが強化・編成部(名古屋グランパスでは強化部)です。契約交渉の窓口はだいたいここの方です。GMや社長という存在は、強化部のお仕事に承認をするだけになります。ですから強化部のメンバーの良し悪しはチームの成績を左右することが多くなります。
有名な強化担当は1992年から2021年まで鹿島アントラーズの強化を取り仕切っていた鈴木満さんが有名です。
鈴木満FDが語る、鹿島が30年で築いた財産と未来への自負【未来へのキセキ-EPISODE 14】 – スポーツナビ
強化については以下に今年まとめてますのでよろしければお読み下さい!


