はじめに:電撃加入の衝撃と期待
1月2日発表というタイミングの意味
2026年1月2日。既に早い時期から新聞報道をされていたものの正式発表されなかったことで、「もう破談となったのでは?」という憶測もでていた高嶺朋樹選手の期限付き移籍による加入が発表されました。北海道コンサドーレ札幌の主将として2025年シーズンを戦い抜き、J2ベストイレブンにも選出された選手の加入発表に、名古屋グランパスのSNS界隈は大いに盛り上がりました。
通常、主力級選手の移籍交渉は年内に大枠が合意されるか、あるいは始動日直前までずれ込むことが通例です。しかし、元旦の翌日という異例のタイミングでの発表は、水面下で迅速かつ周到に進められた交渉の成果を物語っています。同時に、名古屋グランパスというクラブ、そして新任強化部長の中村直志が、この選手に対して示した並々ならぬ「熱意」の証でもあります。
高嶺選手が2025年シーズンに札幌で見せたパフォーマンスは、J2リーグというカテゴリーでの成績にも関わらず、多くのJ1クラブが獲得に動くに十分なものでした。その争奪戦を制し、この早期のタイミングで発表に漕ぎ着けたことは、2026年シーズンにかける名古屋のフロントの本気度を象徴しています。
名古屋が長年求めていた「左利きのゲームメイカー」兼「ボールハンター」
名古屋グランパスの中盤において、長年の課題とされてきたのが「左利きの大型ボランチ」の不在でした。稲垣祥選手という絶対的な「心臓」が君臨する一方で、彼とコンビを組み、かつ異なるタスク(配球、展開、サイズによる制空権)をこなせるパートナーの獲得は、チーム編成上の最重要ミッションの一つでした。
高嶺朋樹選手は、日本サッカー界でも希少価値の高い「レフティ(左利き)」でありながら、泥臭くボールを刈り取れる「ハンター」としての資質を併せ持つ稀有なプレーヤーです。従来の「左利きの司令塔」といえば、華麗なパスワークやテクニックを売りとする一方で、守備強度に課題を残すタイプが少なくありませんでした。しかし、高嶺選手はそのステレオタイプを真っ向から否定します。
ピッチを縦横無尽に走り回るそのスタイルは、まさに「剛」と「柔」の融合です。 マイボール時には、鋭い「高嶺ターン(ボールを左足深くで持ち、軸足を旋回させて相手の背中側へ抜ける技術)」で相手のプレスを華麗にかわします。 一方で相手ボールになれば、懐深くに飛び込んでボールを奪い取る激しさを発揮。さらに、奪った瞬間には左足一本のロングフィードで、戦況を一変させます。この「剛」と「柔」の共存こそが、名古屋が長年追い求めていたものです。
高嶺朋樹という人物像:狂犬かつ理知的
【プレースタイル】: 希少な「ボールを刈り取れるレフティ」
高嶺選手を語る上で避けて通れないのが、「二律背反の融合」というテーマです。彼のプレーデータ(Football LAB指標)を見ると、攻撃と守備のパラメーターが共に高いレベルで突出していることが確認できます。
| プレースタイル指標 (20点満点) | 数値 | 分析・評価 |
| ボール奪取 | 12 | MFとしては極めて高い数値。対人守備における「刈り取り」能力の高さを示す。 |
| ロングシュート | 18 | リーグ屈指の脅威。PA外からの得点力が異常に高く、相手守備ブロックを破壊する武器となる。 |
| ビルドアップ | 11 | 後方からの組み立てに参加し、リズムを作る能力。左足の配球力が反映されている。 |
| セットプレーシュート | 13 | 直接FKでの得点能力。名古屋にとって新たな得点源となる。 |
特筆すべきは、やはり「ボール奪取」と「ロングシュート」の両立です。守備時には、177cm/74kgという数値以上のフィジカルコンタクトの強さを発揮し、相手ボールホルダーに対して恐れることなく体を投げ出します。これは単なるタックルではなく、相手の死角から忍び寄り、ボールを「さらっていく」ような独特の間合いを持っています。
高嶺の魅力は、単なる“潰し屋”で終わらないところにあります。
「狂犬」という愛称から感情で突っ込む選手に見えますが、実際にはボールに触る回数が多く、味方を前進させる配球量も多いです。
2025年の1試合あたりのデータ
| 項目 | 高嶺朋樹 | 稲垣祥(参考) |
| 1試合平均ボールタッチ | 65.7 | 57.4 |
| 成功したパス(1試合平均) | 55.7(成功率81.4%) | 33.0(成功率81%) |
| 敵陣内成功したパス(1試合平均) | 24.5(83.7%) | 16.3(成功率75%) |
つまり高嶺は、闘争心だけでなく、試合の血流とも言えるボール循環を作る側の数値を持っています。
「左利きのボールハンター」ではなく、より正確には“奪って、触って、前へ進める左利き”です。
攻撃時には、さらにその奪ったボールを即座に前線へ供給するだけでなく、自ら持ち運んでのミドルシュートという選択肢を持っています。特に2025年シーズンに見せた、ペナルティエリア外からの強烈な一撃は、相手GKにとって反応不可能な軌道を描くことが多く、「理不尽な左足」としてJ2リーグを震撼させました。
【人となり】: クレバーな言語化能力、闘志あふれる姿勢
ピッチ上での激しいプレーから「狂犬」というあだ名で親しまれる高嶺選手ですが、ピッチを離れれば、その素顔は極めて理知的で冷静な「インテリジェンス」の持ち主です。
筑波大学出身という経歴が示す通り、彼は自身のプレーや試合の流れを論理的に言語化する能力に長けています。試合後のインタビューにおいても、感情論に終始することなく、「なぜその局面でそのプレーを選択したのか」「チームの構造的な課題はどこにあったのか」を的確かつ平易な言葉で説明する姿が印象的です。この高い戦術理解度と言語化能力は、監督の意図をピッチ上で具現化し、周囲の選手に伝える「ピッチ上の指揮官」としての資質を裏付けています。
一方で、「狂犬」の由来となった闘争心は健在です。このあだ名は、札幌のアカデミー時代や大学時代に、ボールに対して執拗に食らいつき、相手をどこまでも追い回すプレースタイルから名付けられました。しかし、現在の彼は単に無鉄砲に走り回るのではなく、予測とポジショニングに基づいた「賢い狂犬」へと進化しています。2025年、札幌への復帰を決めた際には、「札幌でタイトルを取ったら、その時は俺も泣くと思います」と語るなど、クールな分析の裏に隠された熱い情熱(パッション)もまた、サポーターを惹きつける大きな魅力となっています。
波乱万丈のキャリアパス:進化を続ける「旅するボランチ」
札幌(第1期 2019-2022): ミシャの下での開花
北海道コンサドーレ札幌のアカデミーで育った高嶺選手は、筑波大学を経て2020年に正式加入しました。ここで彼を待ち受けていたのが、2026年に名古屋で再会することになる恩師、ミハイロ・ペトロヴィッチ(ミシャ)監督でした。
ミシャ監督が志向する「オールコート・マンツーマン」という極めて特殊かつ高負荷な戦術下において、高嶺選手はその対人守備能力を最大限に発揮しました。ボランチとしての起用はもちろん、3バックの左(左ストッパー)としても重用されました。 攻撃時には最終ラインからドリブルで敵陣深くへ持ち上がり、守備時には相手エースストライカーを執拗にマークする。攻守両面でタフなタスクを完遂しました。「ミシャ式」の申し子として、プロとしての基礎技術と、攻撃的守備のメンタリティはこの時期に確立されたと言えます。
柏レイソル(2023-2024夏): 守備戦術の中での葛藤と成長 -「個」で守る能力の向上-
2023年、彼は「守備の個人能力をさらに高め、異なる戦術下でも通用する選手になる」ために、柏レイソルへの完全移籍を決断します。ネルシーニョ監督(当時)や井原正巳監督の下、札幌とは異なる「ブロック守備」や「組織的な守備」の中での個の強さを求められました。
柏での日々は、彼にとって決して平坦な道のりではありませんでした。特にマンツーマンに特化していた守備の癖を修正し、ゾーンの中でスペースを管理しながら、飛び出すタイミングを見極めるという「我慢」を覚える必要がありました。2024年シーズン前半は出場機会が減少する時期もありましたが、この苦境こそが彼を成長させました。
データを見ても、柏時代の2024年は出場時間が限られる中で、タックル成功率やデュエル勝利数で高い数値を維持しています。 限られた時間でも確実に仕事を遂行するこの経験により、彼は「勝負強さ」と「戦術的柔軟性」を身につけました。
この「柏での経験」こそが、ゾーンプレスやブロック守備を採用する場合がある名古屋の守備戦術に適応するための重要な鍵となります。
KVコルトレイク(2024夏-2024冬): 欧州での挫折と経験(フィジカル基準のアップデート)
2024年夏、彼は「ラストチャンス」と位置づけ、ベルギー1部のKVコルトレイクへ完全移籍を果たします。
半年間という短い期間でしたが、ここでは日本では味わえない「理不尽なフィジカル」と対峙することになりました。アフリカ系選手を中心とした身体能力の高い相手に対し、技術だけでは解決できない「身体のぶつけ方」「腕の使い方」「球際の激しさ」をアップデートする必要に迫られました。
結果として、加入直後からレギュラーポジションを奪取し、全19試合に出場するなど、欧州の舞台でも十分に通用することを証明しました。この半年間で得た「国際基準の守備強度」は、Jリーグに復帰した際、周囲の選手との圧倒的な違いを生み出す要因となりました。
札幌(第2期 2025): チームを救うための帰還、そして新たな挑戦へ
「愛する札幌をJ1に昇格させる」。その一心で2025年1月、J2に降格していた古巣・札幌へ電撃復帰しました。主将を任され、チームの精神的支柱として先頭に立ち続けました。
チームとしてのJ1昇格という目標は達成できませんでしたが、個人としてはキャリアハイとなる圧巻のパフォーマンスを披露しました。
35試合出場・10得点。
守備的MFでありながら二桁得点を記録するという異常事態は、彼が単なる「守れる選手」から「試合を決定づける選手」へと変貌を遂げたことを証明しました。
なぜ2026年名古屋に加入したのか
そして2026年、彼は再び移籍を選択し、名古屋グランパスの一員となりました。その理由は、以下の3点に集約されると考えられます。
- 「サッカー人生の一番良い時期をJ1で戦いたい」: リリースにもあったように、28歳という選手として最も脂の乗った年齢を迎え、国内最高峰のJ1リーグで自身の価値を証明したいという渇望がありました。
- 恩師・ミシャの存在: 名古屋の新監督に就任したペトロヴィッチ氏の存在は決定的でした。「チームの核として考えている」と直接口説かれ、自身のプレースタイルを最も理解し、評価してくれる指揮官の下で、再びタイトルを目指す道を選びました。
- 移籍金を通じた誠意: 今回、完全移籍ではなく期限付き移籍(レンタル料の発生)という形がとられました。 これは札幌に金銭的なメリットを残しつつ、自身のキャリアも追求するという、彼らしい義理堅い選択でもありました。この契約形態は、将来的な完全移籍への移行も見据えた、クラブ間の戦略的な合意であるとも推測されます。
データ分析:名古屋のサッカーに何をもたらすか
高嶺選手は名古屋のサッカーになにをもたらすのでしょうか?
高嶺朋樹2025年vs稲垣祥2025年 (集計生データ)
攻撃データ:名古屋のカウンターを「加速」させ「完結」させる左足
| 項目 (2025年実績) | 高嶺朋樹 (札幌/J2) | 稲垣祥 (名古屋/J1) | 分析・インサイト |
| 得点 | 10 | 11 | ボランチとしては異例の二桁得点。稲垣の11点と合わせれば、もちろん、単純な足し算にはなりませんが中盤だけで20点以上を生み出す計算になります。 |
| ゴール期待値(xG) | 3.0 | 9.0 | 高嶺はxGの3倍以上の得点を記録。これは統計的に「入る確率の低い位置(遠距離)」からのスーパーゴールが多いことを証明しており、戦術で崩しきれない局面を個の力で打開できることを示唆します。 |
| シュート決定率 | 23% | 15% | 決定力において稲垣を凌駕。少ないチャンスを確実にモノにする能力が高い。 |
| チャンスクリエイト | 27 | 31 | カテゴリー差はあるものの、パサーとしても遜色ない数字。 |
| ロングボール成功率 | 48% (3.9本/試合) | 38% (1.5本/試合) | 高嶺の左足フィードは成功率・本数共に圧倒的。名古屋のFW(スピードタイプ)への「一発の裏抜けパス」の精度と頻度を劇的に向上させます。 |
| ドリブル成功率 | 78% | 60% | 中盤でプレスを剥がして運ぶ能力(キャリー)において、高嶺は高い安定感を誇ります。これは名古屋のカウンターの初速を上げる要素です。 |
【攻撃面の分析結果】
名古屋が長く抱えてきたテーマはシンプルです。
“奪って終わりではなく、奪った次の一手で前に進める中盤”。
そして、チームとしての運動量と強度が高いぶん、時間が経つほど消耗していく中盤に対して、層の厚みと役割の分担を作れるかどうかでした。
高嶺選手の加入により、名古屋の攻撃における「ビルドアップの出口」が劇的に増加します。データが示す通り、彼のロングボール成功率(48%)は非常に高く、自陣深くから前線のスピードスターへ直接ボールを供給するアメリカンフットボールで言うところの「クォーターバック」としての役割が期待できます。
また、xG(3.0)に対し実際の得点が10点というデータは驚異的です。これは、組織的な崩しが手詰まりになったとしても、ペナルティエリア外からのミドルシュートで無理やり得点を奪えることを意味します。引いた相手に苦戦しがちな名古屋にとって、この「理不尽な左足」は、勝ち点を拾うための最大の武器となります。
守備データ:強度は維持しつつ、役割を変える「フィルター」
| 項目 (2025年実績) | 高嶺朋樹 (札幌/J2) | 稲垣祥 (名古屋/J1) | 分析・インサイト |
| タックル数/試合 | 1.5 (68.4%) | 3.4 (68.7%) | 稲垣のタックル数はリーグトップクラスの異常値。高嶺は回数は少ないが成功率は同等。 |
| インターセプト/試合 | 0.3 | 0.3 | パスカットの頻度は同等。 |
| ボール回収数/試合 | 11.2 | 4.2 | 最も注目すべきデータです。高嶺の回収数が圧倒的です。これは彼がセカンドボールの落下地点を予測する能力に長けており、「こぼれ球ハンター」として機能していることを示します。 |
| デュエル勝利数 | 7.9 (46%) | 5.4 (55%) | 勝率は稲垣が高いが、勝利絶対数(回数)は高嶺が多い。より多くの競り合いに参加し、カオスを作り出している証拠です。 |
| 被ファウル数 | 1.7 | 1.6 | ボールキープ時にファウルをもらう能力が高く、相手の攻撃時間を削り、セットプレーの機会を創出できます。 |
【守備面の分析結果】
守備面では、稲垣選手が「対人守備の鬼」としてボールホルダーを直接潰しに行くのに対し、高嶺選手は広範囲をカバーする「掃除屋(スイーパー)」としての性質が見て取れます。
特にボール回収数(11.2回/試合)の多さは特筆すべきで、ミシャ監督が好む「即時奪回」の戦術において、相手の攻撃の芽を摘むフィルター役として機能します。名古屋の守備はこれまで稲垣選手の個人能力に依存する部分が大きかったですが、高嶺選手が「こぼれ球」を拾い尽くすことで、守備の穴を未然に塞ぐことが可能になります。
比較と共存:稲垣祥の「後継者」か「相棒」か
「高嶺朋樹は稲垣祥の後継者なのか?」
この問いに対する答えは、データを見る限り明確にNoです。後継者ではなく、最強のパートナーと言えるでしょう。
二人のプレースタイルは、似ているようで明確に異なり、パズルのピースのように噛み合う関係にあります。
Football-LAB プレイングスタイル指標比較と共存のロジック
| 比較項目 | 高嶺朋樹 (特徴) | 稲垣祥 (特徴) | 共存が生むシナジー |
| 攻撃の起点 | ビルドアップ型自陣から長いパスで展開を作る。パス成功数55.7本と多い。 | フィニッシャー型ボックス内への侵入、ワンタッチゴールが得意。パス数は33.0本と少なめ。 | ◎ 完璧な役割分担高嶺が後方でゲームをコントロールし、稲垣が前線へ飛び出すという形が自然に成立します。稲垣がビルドアップに奔走する必要がなくなります。 |
| 守備エリア | 広域カバー・回収スピードを活かしてサイドまでカバーし、こぼれ球を拾う。 | 中央圧縮・迎撃バイタルエリア中央での強度が異常に高い。 | ◎ 守備強度の最大化高嶺が左サイドや広範囲をケアし、中央の危険なエリアには常に稲垣が君臨する。この「二重の壁」は相手にとって悪夢です。 |
| 主な武器 | 左足ミドル・FK | ボックス内の嗅覚・スタミナ | ◎ 得点パターンの多様化遠距離砲(高嶺)と近距離弾(稲垣)の両方を持つことで、相手守備陣は的を絞れなくなります。 |
結論: 稲垣の負担を高嶺が軽減し、両者が輝く
提供されたデータを分析すると、2025年のパス成功数において、高嶺選手(55.7本/試合)は稲垣選手(33.0本/試合)を大きく上回っています。これは、高嶺選手がチームのポゼッションの中心を担っていたことを示します。
一方、稲垣選手はアタッキングサードでのプレーや、ボックス内での得点(9点/ボックス内)が多く、より「シャドーストライカー」に近い動きをしています。
共存のシナリオ:
これまでの名古屋では、稲垣選手がビルドアップの出口作りから、守備の潰し、そしてフィニッシュまで、全てのタスクを過剰に背負う傾向がありました。しかし、高嶺選手の加入により、「ビルドアップ(配球)」と「広範囲のカバーリング」のタスクを高嶺選手が引き受けることが可能になります。
これにより、稲垣選手は自身の最大の強みである「ボール奪取」と「ゴール前への飛び出し」に専念できるようになります。34歳(2026年1月時点)を迎える稲垣選手の身体的負担を軽減しつつ、その決定力を最大化させる「若返り効果」さえ期待できるでしょう。
つまり、高嶺朋樹は稲垣祥の代わりではなく、稲垣祥を「さらに危険な選手」へと進化させるための最高の相棒と考えてもいいかもしれません。
戦術的・環境的適応の鍵
「マンツーマン」から「ゾーン/組織」への適応
名古屋グランパスは近年どちらかといえば「ブロック守備」や「人への意識を持ったゾーン」をベースとしてきました。前線3枚はプレス指向、残りの5バック+2CMFでブロックを構成することが基本で、2025年後半からはゾーン守備にもチャレンジしていました。ある意味ハイブリッドの守備をやろうとしていたわけで、難易度は選手にとって低くなかったことが想像されます。
ここで懸念されるのが、高嶺選手に染み付いた「札幌時代の過度なマンツーマンの癖」が、名古屋の構築途中だった組織的な守備ブロックに穴をあけないかという点です。
しかし、この懸念は柏レイソルでの経験によって払拭されるかもしれません。前述の通り、柏時代には組織守備の中でポジションを守る規律を徹底的に叩き込まれました。
「人が食いつきたい場面でも、スペースを埋めるために我慢する」という判断力は、この2年間で飛躍的に向上したと考えられます。
緻密さと精巧さを兼ね備える“狂犬”のいま。柏レイソルのキーマン・高嶺朋樹に懸かる大きな期待 – footballista
2026年から指揮を執るミシャ監督はマンツーマン戦術の大家ですが、名古屋の人数をかけたリトリート守備に慣れた既存戦力に合わせて戦術を調整する可能性があります。その際、高嶺選手は昨年までの名古屋ができなかった「マンツーマンの強度」と「ゾーンの規律」の両方を知る存在として、チーム戦術のバランスを整える「ディフェンダーリーダー」としての役割を担うことになるでしょう。
豊田スタジアムの芝と左足
環境面での適応も見逃せません。本拠地・豊田スタジアムのピッチは、Jリーグ屈指の良質な芝として知られています。ボールがスムーズに走るこの環境は、高嶺選手の最大の武器である「左足のグラウンダーのパス」や「サイドチェンジ」にとって最高の舞台です。
札幌ドームの人工芝や、荒れたピッチコンディションではバウンドが変わるような場面でも、豊田スタジアムなら計算通りの軌道を描けます。特に、左足から放たれる対角線へのロングフィードは、球足が伸びる良質なピッチでこそ真価を発揮し、相手守備陣のスライドを無効化する強力な武器となるはずです。
懸念点(リスク要因)と対策
光が強ければ影もまた濃くなります。高嶺選手の加入には大きなメリットがありますが、冷静にリスク要因も直視し、対策を講じる必要があります。
1. 怪我のリスクマネジメント(特にハムストリングなど筋肉系)
最も懸念されるのは筋肉系の怪我です。札幌時代の2024年5月、彼は右ハムストリングの肉離れで長期離脱を経験しています。
ボランチというポジションは攻守にわたってスプリントを繰り返すため、ハムストリングへの負荷は甚大です。特に高嶺選手は「全力で追いかける」プレースタイルゆえに、疲労が蓄積しやすい傾向があります。メディカルチームによる徹底的なコンディション管理と、シーズンを通した適切なターンオーバーの活用が不可欠です。
2. カードトラブル(「狂犬」ゆえの警告累積のリスク)
「狂犬」の名の通り、激しいプレーは諸刃の剣です。2025年シーズンはイエローカード8枚をもらっており、出場停止による欠場が3試合ありました。
J1の審判基準やVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入を考慮すると、不用意なスライディングやアフターチャージは命取りになります。特に名古屋の守備陣はクリーンな対応を求められる場面も多いため、熱くなりすぎない「冷静な狂犬」へのさらなる脱皮が求められます。
3. ポジションのミスマッチ(本人の意向とチーム事情)
本人は「ボランチで勝負したい」という強い意向を持っていますが、チーム事情(CBの人選と戦術的な可変)により、左CB(ストッパー)での起用が続く可能性があります。
札幌時代も3バックの左を務めましたが、身長177cmはCBとしては小柄であり、大型FWとの空中戦(2025年の空中戦勝率は53%と決して高くない)で狙われるリスクがあります。しかし、彼を最終ラインに固定してしまうと、最大の魅力である「ミドルシュート」や「ラストパス」の機会は激減してしまいます。 監督が彼をどこで起用するか。我慢強くボランチで使い続けられるかが、彼のパフォーマンスを左右する鍵となるでしょう。
まとめ:2026年、名古屋のボランチ(操舵手)は彼だ
サポーターへのメッセージ
名古屋グランパスサポーターの皆様、ようこそ「狂犬」の世界へ。
高嶺朋樹選手は、単なる戦力補強ではありません。彼は、名古屋グランパスという堅牢な城に、新たな攻撃のスイッチと、中盤の絶対的な強度を持ち込む「変革の象徴」です。
一見クールで理知的な彼が、試合終了の笛が鳴るまで泥臭くボールを追い、左足一閃でスタジアムを沸かせる姿を見たとき、皆様はかつてない高揚感を覚えるはずです。彼がピッチで咆哮を上げる時、それは名古屋が勝利へと加速する合図です。
優勝/ACL権獲得へのラストピースとしての期待
2026年シーズン、名古屋グランパスが目指すのはリーグ優勝、そしてACLE(AFC Champions League Elite)出場権の獲得です。
稲垣祥という絶対的な柱に加え、高嶺朋樹という「展開力」と「得点力」を持ったもう一本の柱が加わったことで、名古屋の中盤はJリーグ最強クラスの強度と構成力を手に入れました。
マンツーマンの強さとゾーンの規律、稲垣との完璧な補完関係、そして稀代のレフティとしての破壊力。
全ての要素が噛み合った時、2026年のJリーグの主役は、間違いなく名古屋グランパスであり、その中心には深紅のユニフォームを纏った高嶺朋樹がいるはずです。
豊田スタジアムに歓喜の歌が響くその日まで、彼の左足から目を離さないでください。2026年、名古屋の舵を取るのは、間違いなく彼です。