はじめに
ちょっと専門的な話が続くので、先に結論を述べておきます。
- チャンスは数多く創るのがミシャ式ですが、そこでの決定力が求められる
- チームを勝利に導く(勝ち点を稼ぐ)ためには、単にシュートが上手いだけでなく、「ワンタッチシュート」や「クロス」といった連携・崩しの局面での質が重要
- 守備やボール奪取の数値が高い年は、チームが機能不全(守勢)に陥っており、成績が低迷する傾向にある
- DFに求められるのは、奪ったボールを奪われずに前線につけるビルドアップ能力
興味があれば先も読んでくれるとデスクがめっちゃ喜びます。
ソースになるデータ
Football-Labのデータ、Jリーグ.jpのデータを加工して以下の集計を作成し、それをソースとして読み込んでいます
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1IyCACGF77KHHQGn75D4DA2bK99FDww0EwPejGHW2GCA/edit?usp=sharing
プレースタイル指標は、偏差値を20段階の数値に置き換えたもので、0は評価なし、1は偏差値35相当、20は偏差値85相当を意味します。
添付Excelは(2014〜2024の11年)で、各年の クラブ成績(勝ち点/得点/失点) と、D〜M列の「その年にポジションごとに最も出場した10人」の プレースタイル指標・ゴール・アシスト・出場時間を集計したものです。
スクレイピング?迷惑になるので、基本コピペを加工の根性マイニングです。
本論の前に:相関ってなに?
統計学における「相関(そうかん)」とは、一言で言うと「2つのデータの間にある、切っても切れない関係性」のことです。
「片方が変化すると、もう片方もつられて変化する」という関係があるとき、この2つには「相関がある」と言います。
1. 正の相関(せいのそうかん)
「一方が増えると、もう一方も増える」関係です。
- イメージ: 右肩上がりのグラフ
- 具体例:
- 「気温」が上がると、「アイスクリームの売上」も上がる。
- 「身長」が高い人は、「体重」も重い傾向がある。
- 「勉強時間」が長いほど、「テストの点数」が高くなる。
2. 負の相関(ふのそうかん)
「一方が増えると、もう一方は減る」関係です。
- イメージ: 右肩下がりのグラフ
- 具体例:
- 「駅からの距離」が遠くなるほど、「家賃」は安くなる。
- 「暖房の設定温度」を上げると、「貯金(光熱費がかかるため)」が減る。
- スマホの「使用年数」が長くなるほど、「バッテリー持ち」が悪くなる。
3. 無相関(むそうかん)
「一方の変化は、もう一方には関係がない」状態です。
- イメージ: 点がバラバラで、法則性が見えないグラフ
- 具体例:
- 「足の速さ」と「国語の成績」(足が速くても国語が得意とは限らない)。
- 「昨日の夕飯」と「明日の株価」。
「相関の強さ」を表す数字
統計学では、この関係の強さを「相関係数(そうかんけいすう)」という数字(r)で表します。
範囲は -1 から +1 までです。
- +1 に近い: 強い「正」の相関(かなり連動している)
- 0: 相関がない(バラバラ)
- -1 に近い: 強い「負」の相関(逆の動きをする)
初心者が陥りやすい罠:「因果関係」とは違う!
ここが一番重要です。「相関がある=原因と結果の関係(因果関係)がある」とは限りません。
例:アイスクリームの売上が増えると、プールでの水難事故も増える(正の相関)
これを見て「アイスを食べると溺れやすくなるんだ!」と考えるのは間違いです。
実は、隠れた原因として「気温(夏)」があります。
- 夏だから、アイスが売れる。
- 夏だから、プールに行く人が増えて事故も増える。
このように、相関関係だけで「これが原因だ!」と決めつけないように注意が必要です。
仮説1:選手の質(プレースタイル指標の数値、ゴール数、アシスト数)と、クラブ成績は相関する

攻撃力(チーム総得点)との関係
「選手の質=得点力」の仮説は完全に立証されました。 主力選手のゴール数・アシスト数は、チーム全体の得点数とほぼ完全に連動しています。

- 主力選手のゴール数(1試合平均): 相関係数 0.94(極めて強い相関)
- 主力選手のアシスト数(1試合平均): 相関係数 0.92(極めて強い相関)
- 決定力(プレースタイル指標): 相関係数 0.89
特に、チャンスは数多く創るのがミシャ式ですが、そこでの決定力が求められるのがミシャ式のポイントということになります。
勝利(勝ち点)との関係
勝ち点(=チームの強さ)に対しては、単純な決定力以上に「ミシャ式」を体現する特定のスキルが重要であることがわかります。

- ワンタッチシュート: 相関係数 0.61(最も勝利と相関が高い指標)
- クロスチャンス: 相関係数 0.54
- ビルドアップ: 相関係数 0.44
- 決定力: 相関係数 0.39(正の相関はあるが、上記指標よりは低い)
ワンタッチシュートの定義は「ペナルティエリアにおけるヘディング以外のワンタッチシュート数を偏差値化したものを「ワンタッチシュート力」としました。」とあるので、高さに頼らずにクロスを決めきるチカラがミシャ式には求められることがわかります。
また、ビルドアップ(「パスCBP」「前方へのパス成功率」「ディフェンシブ・ミドルサードのキープ成功数」「被奪取P」(CBP奪取ポイントのルールで奪われた側にマイナスポイント付与))が重要で、前線に数多くボールを届けることが重要だということがわかります。
守備指標の逆説(負の相関)
今までのグランパスを観てきた人間にとって意外だったのが「守備系の指標との相関」です。守備系の指標は成績が良い年ほど数値が低いという「負の相関」が見られました。

- ボール奪取: 相関係数 -0.67(強い負の相関)
- 守備: 相関係数 -0.56
- 敵陣空中戦: 相関係数 -0.51
これは、「守備スタッツが高い=守備に追われる時間が長い(ボールを保持できていない)」ことを意味しており、ミシャ監督のチームにおいては、守備スタッツが低い(守備機会が少ない)状態こそが、健全に機能している状態であるといえます。
仮説2:選手、特にDFの質(守備関連のプレースタイル指標の数値、特に自陣空中戦・守備・ボール奪取・カバーエリア・ビルドアップ)が下のクラブ成績に与える影響は大きい
ミシャ監督のチームでは進藤亮佑選手や田中駿汰選手、キム・ミンテ選手らのCBが抜かれるたびに成績が不安定になりました。逆に3バックが安定していた浦和レッズ時代の成績は最終年を除き、高めで安定しています。
そこからCBの質が与える影響が大きいのではないか、という仮説を持ちました。
仮説1で既に、DFの数値が高い場合の負の相関が立証されていましたが、CBだけにしぼったときにどうなるのかを検証してみます。
DFの質とクラブ成績の相関
「守備」「ボール奪取」「自陣空中戦」といった純粋な守備指標が高い年は、逆に成績が低下するという、ミシャ監督特有のパラドックス(逆説)がDF陣に絞っても変わらないことがわかります。
「守備」「ボール奪取」といった数値が高い年は、成績が悪い傾向にあります。
- 守備: 勝ち点との相関 -0.45(数値が高いほど勝てない)
- ボール奪取: 勝ち点との相関 -0.37
- 自陣空中戦: 勝ち点との相関 -0.20
DFが高い守備スタッツを記録しなければならない状況=「相手に押し込まれ、守備に追われている時間が長い」ことを意味しており、チームとして機能不全に陥っていることの裏返しと言えます。
ビルドアップ能力の重要性
仮説の中で唯一、成績向上に直結しているのが「ビルドアップ」です。

- 勝ち点(PPG)との相関: 0.68(強い正の相関)
- 失点数(少ないほど良い)との相関: -0.47(負の相関=グラフは右肩下がりとなっており、「DFのビルドアップ能力が高いほど、チームの失点は減る」という傾向が視覚的に確認できます。 これは、DFがボールを保持し、攻撃の起点として機能することで、結果的に相手に攻撃させる時間を与えない(守備機会を減らす)という、ミシャ式サッカーの特徴をよく表しています。)
DFが攻撃の起点として機能している年ほど、チームは勝ち点を積み上げ、結果として守備も安定(失点減)するという、ミシャ式サッカーの根幹をデータが証明しています。
最後に
データが示したミシャ式の真実は以下の通りです。
- FWの仕事:数打つだけでなく、ワンタッチやクロスを決めきる「質」が必須。
- DFの仕事:守備数値が高いのは危険信号。ボールを奪われずに前へ運ぶ「ビルドアップ」こそが失点を減らす。
- チームの正解:守備に追われる時間を減らし、自分たちがボールを持つことこそが最強の守備戦術である。
つまり、ミシャ式において「個の質」とは飾りではなく、戦術を成立させるための「必須機能」なのです。
勝利への鍵は、相手を押し込み続けるための「ビルドアップ能力」と、数多くのチャンスを確実にモノにする「ワンタッチゴールやクロスの質」。ミシャ体制下では、DFであっても「守る人」ではなく「攻撃の起点」であることが、チームを救うための絶対条件と言えるでしょう。
スタメン起用はこのルールに沿って行われると思われます。さて実際の開幕スタメンはどうなってくるでしょう。
楽しみですね
おまけ:相関の次のステップ:重回帰分析
重回帰分析(じゅうかいきぶんせき)を一言で言うと、「ひとつの結果を、複数の『要因(ヒント)』を使って予測・分析する方法」です。
相関関係が一対一の関係だったのに対し、こちらは「チーム戦」で結果を説明するイメージです。
初心者の方にも直感的にわかるよう、身近な例と図を使って解説します。
1. イメージ:「家賃」はどうやって決まる?
例えば、あなたがアパートの「家賃」を予想したいとします。
もし「単回帰分析(要因が1つ)」なら、以下のような単純な予想しかできません。
- 単回帰分析: 「駅から近いほど、家賃は高い」(これだけだと、駅から遠くても広くて高い部屋の説明がつきません)
しかし、現実はもっと複雑です。そこで登場するのが重回帰分析です。重回帰分析では複数のヒントを掛け合わせます。
- ヒントA:駅からの距離(近いほど高い)
- ヒントB:部屋の広さ(広いほど高い)
- ヒントC:築年数(新しいほど高い)
⇒ これらを総合して「家賃」を算出する!
このように、「結果(家賃)」に対して、「複数の要因(距離・広さ・築年数)」がそれぞれどのくらい影響しているかを数式で明らかにするのが重回帰分析です。
2. 何がわかるの?(2つのメリット)
この分析を行うと、ただ予測ができるだけでなく、「どの要因が重要か」がわかります。
① 未来の予測ができる
過去のデータから「方程式」を作れるので、新しいデータが来たときに予測ができます。
例:「徒歩10分、30平米、築5年」の物件なら、家賃はたぶん「8.5万円くらい」だろう、と計算できます。
② 要因の影響力がわかる(ここが重要!)
それぞれの要因が、結果にプラスに働くのか、マイナスに働くのか、そして「どれくらい強力なのか」が数字でわかります。
- 広さ: 家賃への影響度「大」(プラス要因)
- 築年数: 家賃への影響度「中」(マイナス要因)
- 駅距離: 家賃への影響度「小」(マイナス要因)
このように分析すれば、「家賃を上げるには、駅近であることよりも、リノベーションして内装を良くする(築年数のマイナスをカバーする)方が効果的かもしれない」といった戦略が立てられます。
3. 数式は「足し算と掛け算」だけ
難しそうに見えますが、基本の考え方は中学生レベルの式です。
結果(y) = (要因A X 重みa) + (要因B X 重みb) + (要因C X 重みc) + ベースの数
- 結果 (y): 予測したいもの(目的変数といいます)。例:家賃、売上。
- 要因 (x): ヒントになるデータ(説明変数といいます)。例:広さ、広告費。
- 重み (a, b, c): コンピュータが計算してくれる「影響力の強さ」(偏回帰係数といいます)。
この「重み」がプラスなら「増える」、マイナスなら「減る」要因だとわかります。
重回帰分析で気をつけるポイント
「要因(ヒント)は多ければ多いほど良い」わけではありません。
例えば、「店舗の売上」を予測するのに、
- 「来店客数」
- 「レシートの枚数」
この2つを同時に入れてはいけません。なぜなら、この2つはほぼ同じ意味だからです。ほぼ同じ意味=強い相関のあるデータ同士を一緒に入れると、計算がおかしくなってしまいます。
これを多重共線性(たじゅうきょうせんせい)、通称「マルチコ」と言われますが、これは統計分析で非常によくあるトラブルの一つです。「データの中に、似すぎている『キャラ被り』のペアがいるせいで、コンピュータが混乱している状態」です。
直感的にわかるよう、「カレーの辛さ」を例に説明します。
イメージ:カレーの辛さの秘密を知りたい
あなたが「どんなスパイスを入れるとカレーが辛くなるか?」を研究しているとします。 ここで、「赤唐辛子」と「青唐辛子」という2つのスパイスを用意しました。
正常なデータの場合
- ある日は「赤」だけ入れた。
- ある日は「青」だけ入れた。
- 両方入れた日もある。
これなら、コンピュータは「赤を入れると辛さ+5、青を入れると辛さ+3だな」と、それぞれの実力を正しく計算できます。
多重共線性(マルチコ)が起きる場合
もし、あなたが「赤唐辛子と青唐辛子を、常にセットで同じ量だけ鍋に入れていた」としたらどうなるでしょうか?
- カレーは激辛になります。
- でも、コンピュータには「どっちのせいで辛くなったのか」が区別できません。
するとコンピュータは、計算のつじつまを合わせるために、とんでもない答えを出すことがあります。
コンピュータの混乱した回答例: 「赤唐辛子の影響は +1000 です! でも青唐辛子の影響は -995 です!」
合計すれば「+5」になってつじつまは合いますが、「青唐辛子を入れると辛さがマイナスになる(甘くなる)」というのは現実ではありえませんよね?
どうすればいいの?(解決策)
この現象が起きたときは、以下のどちらかの対応をするのが一般的です。
- 片方を消す: 「どうせ似ているなら、代表して片方だけ分析に使おう」と考えます。
- 合体させる: 2つを足して合成指標(新しいデータ)を作って分析します。
ビジネスでは、「広告費と営業人数、どっちを増やせば売上が伸びるか?」などを分析するのによく使われます。
ミシャ式で、勝ち点を増やすにはなにが効いてくるのか?を重回帰分析してみる
上記のエクセルファイルから重回帰分析を行います。
手順:
- データの整理: Excelファイルから各年度のプレースタイル指標(決定力、パスレスポンス、ドリブルチャンス、クロスチャンス、パスチャンス、ビルドアップ)のチーム合計値を抽出します。
- 結合: 年度ごとの「勝ち点」と紐付けます。
- 分析: 「勝ち点」を結果(目的変数)、6つの指標を要因(説明変数)として重回帰分析を行います。
- 評価: どの指標が最も勝ち点にプラスの影響を与えているか(標準化偏回帰係数)を算出します。
分析結果:勝ち点への影響度(標準化偏回帰係数)
数字が大きいほど影響力が強いことを示します。
- パスチャンス (+0.91): 最もプラスの寄与が大きい
- クロスチャンス (+0.70): 2番目にプラスの寄与が大きい
- 決定力 (+0.30): プラスの寄与
- ビルドアップ (+0.05): ほぼ影響なし
- ドリブルチャンス (-0.33): ややマイナスの傾向
- パスレスポンス (-1.15): 数学上は最も大きなマイナス
ここで重要な注意点(多重共線性)
「パスレスポンス」がマイナス(=レスポンスが良いほど勝ち点が減る)というのは、サッカーの感覚として少し変ですよね?
実は、データを見ると「パスチャンス」と「パスレスポンス」の相関が非常に高い(0.91)ことがわかりました。
サッカーでは、「出し手」がいれば必ず「受け手」がいます。 この2つの数字は、ほぼ常に一緒に増えたり減ったりします(相関係数 0.91)。
コンピュータはこれを無理やり分解しようとして、
- パスチャンスに過剰なボーナス(+0.91)を与え、
- バランスを取るために、パスレスポンスに過剰なペナルティ(-1.15)を与えてしまったのです。
これを「多重共線性」と呼びます。
統計学では、似すぎているデータ同士を一緒に分析にかけると、お互いの数字を取り合ってしまい、片方が極端なプラス、もう片方が極端なマイナスになる現象(多重共線性)が起きます。
これが「パスレスポンス」がマイナスになってしまった原因です。
。
グラフの読み方
この棒グラフは、「どのプレーが勝ち点を増やす(または減らす)要因になっているか」を表しています。
1. 棒の「向き」を見る(プラスかマイナスか)
- 右向き(青色): 「この数字が増えると、勝ち点も増える」というプラスの関係です。
- 例:Pass Chance(パスチャンス)、Cross Chance(クロスチャンス)
- 左向き(赤色): 「この数字が増えると、計算上は勝ち点が減る」というマイナスの関係です。
- 例:Pass Response(パスレスポンス)、Dribble Chance(ドリブルチャンス)
2. 棒の「長さ」を見る(影響力の強さ)
- 棒が長いほど、勝ち点への影響力が強いことを意味します。
- Pass Chance(パスチャンス)の棒が右に一番長く伸びているので、「パスチャンスを増やすことが、勝利への一番の近道」という結果が出ています。
この結果をどう読む?
分析結果を一言で言うと、「個人技(ドリブル)よりも、連携(パス・クロス)が大事」ということです。
- パスチャンス (+0.91) が最強の武器
- グラフで一番右に突き抜けています。パスを回してチャンスを作る回数が多い年ほど、チームは勝てています。
- クロスチャンス (+0.70) も重要
- サイド攻撃も有効です。これもプラスの影響が大きいです。
- パスレスポンス (-1.15) の謎(注意!)
- 赤く左に大きく伸びていますが、これは「パスを受ける動きをすると負ける」という意味ではありません。
- 上でも触れましたが、これは多重共線性(マルチコ)の現れです。
- 解釈: 「出し手(パスチャンス)」と「受け手(パスレスポンス)」はセットですが、「出し手の質」の方が勝敗にはより重要だと読み取ってください。
結論:勝ち点を増やすための最重要指標は?
分析結果から、勝ち点増加に一番寄与するのは「パスチャンス」、次いで「クロスチャンス」であると言えます。多重共線性を考慮すると「クロス」が一番重要かもしれません。おそらく胸より低い位置への速くて強いクロス、これです。もちろんパスも重要でしょう。
「ドリブル」よりも「パス」や「クロス」といった連携プレーの指標が高いシーズンほど、ミシャ式サッカーでは成績が良い傾向にあるようです。
山中亮輔の復権や、昨年クロスチャンス18だった中山克広の伸びしろが期待できそうです。







