負けました。手ひどい敗戦です。
全勝で優勝できるわけがないのがサッカーですし、ましてや前年度16位のチームですから、うまくいかない試合があっても多少は受け入れないといけないと思います。
と、それで終わったらレビューになりません。さて、この敗戦で注目したいポイントが3つあります。
- なぜ序盤苦戦したのか?
- なぜ良い時間帯に得点できなかったか?
- 後半データ上は名古屋優位も押しこみ切れず、失点したのか?
上記3点について考えてみたいと思います。勿論個人の見解ですので、あくまで仮説としてお楽しみください。
なぜ序盤苦戦したのか?
インサイドグランパスの山岸祐也選手のインタビューでこう言っています。
こうやって相手がきてるからこうするとか、これがあるからこうとか。まだ映像を観ていないので分からないですけど、前半の入りは前にボールが入らないことが多かったと感じています。今日はマンツーだったのでプルして相手から離れて、パスで出ていればというシーンが何個かあったんですけど、そこで1本も出てこなかったからサイドチェンジも効かない。それがあるから3バックの右が絞って、だから勇大が空く。後半のヘディングのときはたぶんそうだったと思います。試合中も相手のディフェンス陣が「プルアウェイ」ということをずっと言っていて、相手も気にしていたと思います。プルが嫌で3バックが締めたら勇大が空くし、勇大が空くのが嫌でワイドが締めたらワイドが空くと思うんです。そこは前半の入りからもうちょっとうまくやっていけたら良かったと思います。
明治安田J1百年構想リーグ 地域リーグラウンド 第3節 長崎戦後 選手コメント③ | インサイド・グランパス
山岸選手はインタビューで、前半は相手のマンツーマンに対して「プルアウェイ(相手から離れる動き)」でパスを引き出そうとしたものの、後方からボールが出てこなかったと指摘していました。
しかし長崎戦のデータ全体を見ると、ボール保持率は56%、パス本数は526本(成功率80.8%)を記録しており、チームの今季平均(448.7本)を大きく上回っています 。さらに、パスCBP(チャンスビルディングポイント)では高嶺朋樹選手(2.13)や稲垣祥選手(1.99)が高い数値を示しています 。
試合全体を通してボールを持てていたにもかかわらず、前半の立ち上がりに機能しなかったのは、後方の選手が前線の動き出し(プルアウェイ)に合わせた「縦パス」を打ち込むリスクを避けていたからだと推測できます。
用語解説:プルアウェイ:プルアウェイとは、FWがわざと相手DFから少し離れる動きのことです。目的は、パスを受けるためのスペースを作る or 相手DFを引っぱって、別の味方が使えるスペースを空けることです。たとえば、FWが後ろや横にスッと動くと、DFもついてきます。すると、そのぶんゴール前に空いた場所ができて、味方が入りやすくなります。
3列目(中山・稲垣・高嶺・甲田の位置)からパスを繋ぐのがミシャ式の生命線だったはずです。前に甲田や中山が張っても、そこにパスがでなければならず、パスコースを塞がれたら意味がありません。
中盤の底(高嶺選手や稲垣選手)や3バックからの「縦への素早い配球」が必要だったのではないでしょうか。WBが少し下がり、パスコースを作るからこそ、縦パスが活きます。清水戦では目立っていたパスが、この試合では序盤まったく見られなかったことが問題です。
ただ、名古屋グランパスの選手の配置だけが問題ではないと考えます。
ハイプレスが厳しかったならロングボールに逃げることもある程度仕方ないのですが、長崎のハイプレスはかなり限定的で、ガンバ大阪のそれに比べたら配球の余裕があったはずです。
それなのになぜボールが出なかったのか。それは3バックの迎撃ディフェンスにあると考えています。
3バック、特に進藤亮佑と江川湧清のヒートマップと守備機会位置を見てみてください。
ハーフラインから前に色の濃い部分があります。実際にインターセプトが行われた地帯もかなり高い位置です。守備機会が低い位置のものはおそらく押し込まれていた時間帯のもの。
⚽ 守備指標 | 進藤亮佑 | 照山颯人 | 江川湧清 |
|---|---|---|---|
守備機会数 | 13 | 14 | 5 |
タックル(成功数) | 3 (2) | 1 (1) | 2 (2) |
インターセプト | 4 | 3 | 0 |
クリア | 6 | 9 | 2 |
シュートブロック | 0 | 1 | 1 |
ボールリカバリー(回収) | 2 | 1 | 4 |
地上戦デュエル(勝利数) | 7 (6) | 4 (2) | 5 (2) |
空中戦デュエル(勝利数) | 4 (3) | 6 (5) | 2 (1) |
ファウル | 1 | 2 | 1 |
ドリブル突破された回数 | 0 | 0 | 2 |
シュートにつながったエラー | 1 | ||
⚽ パス指標(Passing) | |||
アシスト | 0 | 0 | 0 |
キーパス(シュートにつながったパス) | 0 | 0 | 0 |
クロス(成功数) | 0 (0) | 0 (0) | 0 (0) |
パス成功数 | 11/19 (58%) | 9/16 (56%) | 22/23 (96%) |
敵陣でのパス(成功数) | 1/8 (13%) | 1/6 (17%) | 13/14 (93%) |
自陣でのパス(成功数) | 10/11 (91%) | 8/10 (80%) | 9/9 (100%) |
ロングボール(成功数) | 2/5 (40% | 1/2 (50%) | |
⚽ ポゼッション・ドリブル指標 | |||
ボールタッチ数 | 38 | 32 | 38 |
タッチミス(コントロールミス) | 0 | 0 | 2 |
ドリブル(成功数) | 0 (0) | 0 (0) | 0 (0) |
被ファウル | 3 | 1 | 1 |
ボールロスト | 8 | 7 | 3 |
ボールキャリー総距離 | 42.7 m | 12.4 m | 72.7 m |
ボールキャリー(ボールを保持して運ぶ動き) | 6 | 2 | 7 |
前進総距離(ボールを前方へ進めた合計距離) | 7.4 m | -5.8 m | 20.7 m |
高嶺朋樹と稲垣祥のヒートマップを見てみると、ハーフラインより手前に長崎戦は色が濃い部分が多いことがわかります。
これは長崎の迎撃ディフェンス・ミドルゾーン(ピッチの中間くらいの位置)プレスで高嶺朋樹・稲垣祥が苦しんでいたことを示しています。
縦パスを封じて、サイドに逃げたところを中盤サイドCB、CMFで囲んで奪う。その繰り返しでグランパスの前進を防ぐ。これが最初の20分間で起きていたことだと考えます。
次の試合では山岸選手が相手DFを引っ張り出した瞬間に、空いたスペース(木村選手やワイドのポジション)へ逃げずにパスを通すこと、そしてそこから素早くサイドチェンジを展開して相手の守備ブロックを揺さぶる意識の徹底が求められます。
なぜ良い時間帯に得点できなかったか?
これも山岸祐也選手のインタビューを見てみましょう。
ー山岸選手は「チャンスの分母」という話をよくしていますが、分母が増えている手応えはありますか?
明治安田J1百年構想リーグ 地域リーグラウンド 第3節 長崎戦後 選手コメント③ | インサイド・グランパス
増えていると思います。前半の入りは難しかったけど、そこから盛り返して、僕のポストに当たったシュートやヴィニのシュート、後半もコーナーで僕の折り返しから勇大とか、勇大の折り返しが合っていればとか、オフサイドになったシーンでちょっと出ていなければとかいろいろあると思いますが、結局あそこにボールを入れていかないとゴールは決まりません。もちろんハーフウェーラインから打って入るときもあるかもしれないですけど。分母を増やしていくことに関してはチャンスはあったので。そこを決め切るのは個人の能力でもあると思うので、反省して突き詰めていきたいです。
インタビューで「あと一歩合えば」「ヘディングがちょっとズレた」と語られていた決定力不足も、スタッツに顕著に表れています。
今季 | 名古屋 | 長崎 | 今季 | |
|---|---|---|---|---|
平均 | 数 | 項目 | 数 | 平均 |
1.636 | 1.909 | ゴール期待値 | 1.53 | 1.024 |
16.3 | 14 | シュート | 16 | 10.3 |
5.3 | 3 | 枠内シュート | 7 | 3.7 |
0.0 | 0 | PKによるシュート | 0 | 0.0 |
448.7 | 526 | パス | 343 | 445.0 |
16.3 | 23 | クロス | 7 | 6.3 |
13.3 | 12 | 直接FK | 11 | 10.3 |
1.0 | 0 | 間接FK | 2 | 2.7 |
5.3 | 8 | CK | 3 | 1.7 |
18.7 | 19 | スローイン | 15 | 15.0 |
7.7 | 10 | ドリブル | 11 | 12.0 |
20.7 | 13 | タックル | 13 | 13.0 |
21.0 | 15 | クリア | 39 | 29.3 |
2.3 | 4 | インターセプト | 3 | 3.0 |
1.3 | 2 | オフサイド | 0 | 1.3 |
1.7 | 1 | 警告 | 1 | 1.3 |
0.0 | 0 | 退場 | 0 | 0.0 |
43.0 | 52 | 30mライン進入 | 34 | 26.7 |
14.7 | 18 | ペナルティエリア進入 | 11 | 8.7 |
112 | 114,342m | 総移動距離 | 117,633m | 115.0 |
138.3 | 152 | スプリント | 153 | 141.3 |
118.7 | 115 | 攻撃回数 | 102 | 110.0 |
13.8 | 12.2% | チャンス構築率 | 15.7% | 9.4 |
52.2 | 56% | ボール保持率 | 44% | 48.5 |
長崎戦ではシュート数14本を放ちましたが、枠内シュートはわずか3本にとどまりました 。一方で、30mラインへの進入は52回、ペナルティエリアへの進入も18回と、敵陣深くまで攻め込む形は作れています 。また、クロス本数も23本(今季平均16.3本)と多く 、特に中山克広選手がクロスCBP1.15と高い貢献を見せています 。
チームとしての攻撃CBPは20.25で今季平均(15.99)を上回っており、崩しの形自体は非常に機能しています 。
木村勇大選手のシュートCBPが3.92と突出していることからも 、彼がフィニッシュの局面で良いポジションを取れていることは間違いありません。
次節に向けた戦術的な修正は、大掛かりなシステム変更ではなく、「ラストパス(特にクロス)と、中の選手の入り方のタイミングの微調整」で良いのではないでしょうか?
中山選手らサイドからの供給に対し、木村選手、山岸選手、マルクス ヴィニシウス選手がニア・ファー・マイナスにどう走り込むか、練習からその「ズレ」を徹底的にすり合わせることがゴール(枠内シュート率の向上)に直結します。
問題点が多く挙がった一方で、山岸選手はチームの成長や手応えも口にしています。負けたからといって全てが悪いわけではないという視点も重要です。
- 崩しのパターンはできている: 「こうすれば相手が崩れる」という意図的な連係や、アタッキングサードでの良いシーンは確実に増えています。
- 個人のフィーリング: ボールを引き出した後のプレーや動き出しの感覚は良く、悲観するようなコンディションではありません。
総括すると、「意図した攻撃の形は作れるようになってきているため、前半立ち上がりのビルドアップの修正と、ゴール前での最後の質(決定力)の向上」が、勝利への明確な課題と言えます。
修正に期待しましょう。
後半データ上は名古屋優位も押しこみ切れず、失点したのか?
ガンバ大阪戦がうまくいかず、そしてガンバ大阪戦と同じ布陣にした後半うまくいかなくなりました。
これについてはまったくの仮説になりますので、それくらいの気持ちで読んでください。
私個人は、組み合わせに問題があるのでは、と考えています。
データで検証してみました。
2節野上結貴 | 1節徳元悠平 | 3節徳元悠平 (前半CB後半WB) | 3節野上結貴 (45分) | 3節甲田英將 (45分) | |
|---|---|---|---|---|---|
アシスト | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
キーパス | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 |
クロス(成功数) | 0 (0) | 3 (2) | 5 (1) | 3 (1) | 1 (0) |
パス成功数 | 9/13 (69%) | 34/42 (81%) | 37/44 (84%) | 21/25 (84%) | 9/12 (75%) |
敵陣パス成功数 | 4/7 (57%) | 5/8 (63%) | 15/17 (88%) | 12/15 (80%) | 6/8 (75%) |
自陣パス成功数 | 5/6 (83%) | 29/34 (85%) | 22/27 (81%) | 9/10 (90%) | 3/4 (75%) |
ロングボール(成功率) | 1/4 (25%) | ||||
守備関与数 | 6 | 9 | 5 | 2 | 4 |
タックル(成功数) | 0 (0) | 2 (1) | 1 (1) | 0 (0) | 2 (1) |
インターセプト | 1 | 2 | 1 | 0 | 0 |
クリア | 3 | 5 | 3 | 2 | 2 |
シュートブロック | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 |
リカバリー | 3 | 6 | 9 | 4 | |
地上戦デュエル(勝利数) | 1 (0) | 6 (5) | 2 (2) | 1 (0) | 6 (3) |
空中戦デュエル(勝利数) | 6 (3) | 2 (1) | 3 (1) | 1 (1) | 3 (1) |
ファウル | 2 | 1 | 1 | 2 | |
被ドリブル突破 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
シュートにつながるミス | 0 | 0 | |||
タッチ数 | 22 | 65 | 60 | 30 | 24 |
コントロールミス | 1 | 1 | 0 | 0 | 3 |
ドリブル(成功数) | 0 (0) | 1 (1) | 0 (0) | 0 (0) | 2 (1) |
被ファウル | 2 | 1 | |||
ロスト | 5 | 12 | 11 | 6 | 9 |
ボール持ち運び総距離 | 42.9 m | 71.8 m | 70.3 m | 53.1 m | 46.4 m |
キャリー | 5 | 12 | 10 | 8 | 6 |
プログレッシブ・キャリー | 2 | ||||
総前進距離 | 29.3 m | 10.4 m | 6.9 m | 34.7 m | 33 m |
持ち運び前進距離 | 21.1 m | ||||
最長前進キャリー | 9.8 m |
上記データからの考察は以下の通りです。
- 徳元悠平は使う側ではなく、使われる側の選手。うまく使えばクロス精度も高く、アジリティが高いのでリカバリー(こぼれ球)を拾える。現状前で、徳元悠平を活かせる人材がいない or 徳元悠平の特性を判っている選手がいない
- 甲田英將はドリブルがあり、運動量も豊富、クロスも上げられるし危険なところに入り込める。だが彼もどちらかといえば使われる側の選手。
- 野上結貴は戦術理解度も高いし、守備力も高いが現状連携のなかでプレー関与が少なすぎる。
1. 「ビルドアップの停滞」が徳元選手の持ち味を消している
ポイント①②の分析で、チームは「ボールは持てるものの、前線の動き出しに対する効果的な縦パスが出せず、前線の動きが活かされなかった」という課題があります。 これは、ボールの出口となりうる徳元悠平や中山克広にパスが通らないという風に置き換えられると思います。上記の「徳元悠平は使う側ではなく、使われる側の選手であり、パス出しができる相方がいないと活きない」というところが原因となっていると考えます。
- 第3節後半の徳元選手のスタッツを見ると、パス成功数は37/44(84%)、敵陣パスも15/17(88%)と高い水準ですが、総前進距離はわずか6.9mにとどまっています 。
- これは、後方から相手の急所を突くようなパスが出てこないため、徳元選手がWBという前目のポジションにいても「足元で受けて、前進せずに手堅く捌く」ことしかできていない状況を示しています。チームの「配球不足」という病巣が、推進力やクロスを武器とする彼の良さを消してしまっていると言えます。
2. 「クロスの質と連携のズレ」を生む左サイドの役割重複
山岸選手のインタビューで語られていた「ヘディングがちょっとズレた」「あと一歩合えば」というフィニッシュの課題は、大元の「クロスを上げるまでのプロセス」に原因があるのではないでしょうか。
- 1節前半のように、和泉選手という「ボールを収めて味方を使う(パスを出せる)」選手がいれば、徳元選手は良い状態でクロスを供給できました(1節のクロス成功数 3本中2本成功) 。
- しかし、3節のように甲田選手と同サイドで組んだ場合、甲田選手も「ドリブルや裏抜けで危険なエリアに侵入する『使われる側』の選手」であるため、「使う側(パサー)不在」という現象が起きているのではないでしょうか。
- その結果、徳元選手は強引なクロスや体勢の整わない状態でのクロスを余儀なくされ、3節のクロス成功率低下(5本中1本成功)に繋がっていると考えられます 。この「お膳立ての質の低下」が、中のストライカー陣との「数センチのズレ」を生む要因となっていると考えます。
3. 野上選手の孤立と「連携の少なさ」の背景
「野上結貴は守備力は高いがプレー関与が少なすぎる」という考察も、チームの「ビルドアップの意図(崩しの共通理解)の欠如」という課題と根っこが一緒なのでは、と思います。
- 第2節の野上選手はタッチ数22回、パス成功数9/13回と関与が極端に少なく 、周囲との連動性を欠いていました。
- 第3節ではパス成功数21/25回、総前進距離34.7mとスタッツ自体は改善していますが 、チーム全体として「相手のズレを突いて前進する」という共通理解が不足しているため、彼からの効果的な縦パスや、徳元選手を走らせるような連携が生まれにくくなっています。
「各選手の特性(使う側か、使われる側か)が噛み合っていない」という戦術的な違和感は、インタビューで山岸選手自身が語った「前にボールが入らない」「あと一歩合わない」というフラストレーションと根っこは同じだと考えます。
次節の試合に向けて、左サイドを機能させるためには、単に個人を起用するだけでなく、「誰がボールを引き出してタメを作り(使う側)、誰がそのスペースに飛び込んでクロスを上げるか(使われる側)」という明確な役割分担の整理が、ビルドアップ改善および決定力不足解消の重要なカギになるのではないでしょうか。
最後に
データが示す通り、名古屋は「ボールを握り(保持率56%)、敵陣に押し込み(エリア内進入18回)、チャンスを作る(攻撃CBP20.25)」というプロセスまでは十分に成功しています 。
次節・岡山戦のアウェイゲームでは、立ち上がりから相手のプレスを恐れずに前線の動き出しを見逃さず縦パスを入れること。そして、増やした「チャンスの分母」を確実にゴールに結びつけるための、ペナルティエリア内での数センチ・数秒のコンビネーションの修正。この2点が改善されれば、インタビューで語られた「逆の3-1になっていたかもしれない」という爆発力が十分に期待できるはずです。



