はじめに
2月に開幕した2026年J1特別大会も、全18節のうち8節が終了しました。
グランパスはここまで3勝2敗1PK勝2PK敗で、WEST10チーム中5位につけています。
2026年からグランパスの監督に就任したミハイロ・ペドロヴィッチ監督(以下、ミシャ)の戦術、いわゆる「ミシャ式」については、シーズン前にメカニズムと見どころを解説する記事を書きました。
ミシャ式はなぜ面白いのか?可変3-4-2-1、ハイプレス、オールコートマンツーの狙い #grampus
実際にここまでの試合を見ていると、シーズン前に予想していた内容について、「予想通りだった部分」と「予想外だった部分」の両方が見えてきました。
今回はこの点について振り返っていきたいと思います。
予想通りな部分
- 数的優位を確保するための可変システム導入
- 相手のビルドアップに対するオールコートマンツーマンディフェンスの採用
1.数的優位を確保するための可変システム導入
ミシャ式といえば可変システム、というイメージを持っている人も多いと思います。
開幕戦の清水戦を観るまでは、「シーズン前にいろいろ書いたけれど、もし形が大きく変わっていたらどうしよう」と少し不安もありましたが、結果的には杞憂でした。
DAZNのハーフタイムで表示される平均ポジションを見て、思わず笑ってしまうほど、非常にミシャ式らしい配置になっていました。
試合では、CMFの稲垣選手または高嶺選手が最終ラインまで落ちてビルドアップをサポートし、左右のCBに入っていた徳元選手、原選手が一列高い位置まで押し上げます。さらにWBの和泉選手、中山選手も一列前に上がることで、相手の最終ラインにCF、2シャドー、2WBの5人が並ぶ形を作っていました。
清水戦以降、メンバーが変わっても、この形を作ってから攻撃を始めるという基本思想は共通しており、チームとして明確な狙いを持っていることが分かります。
可変システムの導入については、事前の予想通りだったといえます。
2.相手のビルドアップに対するオールコートマンツーマンディフェンスの採用
ここまでの試合を通じて、相手のビルドアップに対しては前から積極的にプレスをかけ、ボールを奪いに行くシーンが多く見られました。
基本的には目の前の相手にしっかりマークをつけつつ、状況に応じて挟み込んだりカバーに入ったりと、連動した守備も見られています。
また、山岸選手、木村選手、ヴィニシウス選手といった前線の選手もサボることなくプレスをかけており、得点には直結していないものの、ショートカウンターからチャンスを作るという狙い通りの形は作れています。
札幌時代から始めたオールコートマンツーマンディフェンスの採用についても、事前の予想通りだったといえます。
予想外だった部分
- 選手の順応が短期間で進んでいること
- 全体的に早く攻める意識が強いこと
- ビルドアップ時に細かくつなぐよりも早めに前線に当てるシーンが多いこと
- 遅れて飛び込むボランチというシーンがないこと
1.選手の順応が短期間で進んでいること
まずは良い意味での予想外からです。
選手の順応が思っていたよりもかなり早いと感じました。
ミシャ式は攻撃時と守備時で立ち位置が大きく変わるため、実戦で機能させるまでには時間がかかると予想していました。しかし開幕戦から攻撃・守備ともに狙い通りの形を何度も作ることができており、ある程度機能していたと言えると思います。
この背景には、広島や札幌などでミシャ式を経験してきた選手(浅野選手、高嶺選手、そしてミシャの影響を強く受けた森保監督の下でプレーした野上選手、森島選手)の存在が大きいと思います。また、グランパスでも2025年に可変システムを一部取り入れていたため、そこからの積み上げがあったことも理由の一つでしょう。
開幕時点でここまでチームを仕上げてきた選手・スタッフの努力は大きく、ファンとしては毎試合ワクワクしながら試合を見ることができています。
ここは非常に嬉しい予想外でした。
2.全体的に早く攻める意識が強いこと
ここまでの試合を見ていると、少し攻め急いでいるシーンが多いと感じます。
例えば、本来は一度やり直しても良い場面でクロスを選択したり、最終ラインから早めにロングボールを選択したりする場面です。これらは相手に引っかけられてボールロストにつながることが多くなります。
ミシャ式の理想は「自分たちが攻撃し、相手に攻撃させない」ことであり、本来はボール保持の時間を増やすサッカーです。その意味では、攻め急ぎは少し理想と反する部分でもあります。
ただし、現代サッカーのトレンドとして、ボールを奪ったら素早くゴール前まで運ぶチームが増えているのも事実です。過去のミシャ式からのアップデートとして、早く攻めることを意図的に取り入れている可能性もあります。
しかし現時点では、この「早く攻める意識」がいくつかの弊害を生んでいるように見えます。
早く攻めることの弊害
- トランジションが増え、選手の消耗が激しくなる
- 単調なゲーム展開になり、試合をコントロールできなくなる
トランジションが増え、選手の消耗が激しくなる
選手が消耗するのは、主に
「走行距離が増えた時」と「想定外の動きが増えた時」です。
例えば以下のような場面です。
ロングボール → 跳ね返される → カウンターを受ける
この場合、攻撃参加していた選手は全力で守備に戻る必要があります。そして再びボールを持つとまたロングボール、という流れが続くと、アップダウンが増え、スタミナだけでなく筋肉疲労も蓄積していきます。
その結果、コンディション不良や怪我のリスクが高まり、試合終盤に足が止まって失点する原因にもなります。また前線の選手が消耗すると、決定機で精度の高いプレーができず、得点力低下にもつながります。
単調なゲーム展開になり、試合展開のコントロールができなくなる
グランパスがボールを奪ったら早く攻める場合、試合展開は相手チームによって大きく左右されます。
- 相手も早く攻める → オープンな展開
- 相手がボール保持 → ボールを持たれ続ける展開
本来であれば、保持する時間と早く攻める時間を使い分けて試合をコントロールしたいところですが、現状は早く攻める意識が強いため、試合展開が相手次第になりやすい状態です。
上位チームに互角に戦えたり、下位チームにあっさり負けたりするのは、この試合コントロールの部分が影響しているのではないかと考えています。
3.ビルドアップ時に細かくつなぐよりも早めに前線に当てるシーンが多い
これも攻め急ぎの影響だと思います。
現在のグランパスの攻撃パターンとしては、
- 最終ラインから前線(CF・2シャドー)に当てる
- ポストプレーからシャドーやWBが抜け出す
という形が多いです。
このプレーが成立するためには、
- 前線の選手がマークを外している
- 落としを受ける選手がいる
- 最終ラインから良いタイミングでパスが出る
- 落としたタイミングで裏に抜ける選手がいる
といった条件が必要です。
現在は「裏に抜ける選手」は増えており、この点は改善されています。しかし、
- 前の準備ができていない状態でパスが出る
- 最終ラインと前線が間延びしている
- 落としを受ける選手のポジションが間に合わない
といった場面も多く、まだ完成度は高くないと感じます。
森島選手がボランチに入ることで徐々に改善されていますが、特定の選手に依存するのではなく、チームとして改善していく必要があると思います。
4.遅れて飛び込むボランチというシーンがないこと
これも攻めるテンポが早いことが原因だと思います。
事前の予想では、前線の選手が相手ディフェンスをピン留めし、「+1」の選手がフリーでボールを受ける形が増えると考えていました。しかし、ここまではそのようなシーンはあまり見られていません。
ビルドアップから前線までボールが届くスピードが早すぎるため、「+1」になる選手が攻撃参加する時間がないのだと思います。
特にグランパスでは、稲垣選手が「+1」として攻撃参加する形を予想していましたが、ここまではほとんど見られていません。稲垣選手は空いたスペースに入るタイミングが非常に上手い選手なので、このプレーが増えてくると、チームとしてさらに攻撃の幅が広がると思います。
今後の展望
この記事で取り上げた「予想外だった部分」は、チームの課題であると同時に、伸び代にあたる部分だと考えています。
その理由は、試合後の監督や選手のインタビューで
「剥がし切れないことが課題」
「落ち着いてつなぎたかった」
「プレッシャーに焦った」
といった趣旨のコメントがあり、早く攻めすぎることに対してチームとして課題認識を持っていると感じたからです。
また、広島戦や京都戦では、配球力の高い森島選手をCMFで起用しており、攻撃のテンポをコントロールしたいという意図も見えてきています。
これらのことから、チームとしては現状よりもボールを保持しながらゲーム展開をコントロールすることが理想であり、今見えている「予想外の現象」は、その理想に到達するまでの過程で出ている課題、つまり伸び代の部分だと思います。
ここまでの試合でも、理想の実現に向けた最適な選手の組み合わせの模索や、選手個人の成長、プレーの意識の変化が見られています。中断明けの試合では、さらにいろいろな組み合わせやプレーの変化が見られることを楽しみにしています。
まとめ
ここまでの試合を振り返ると、可変システムやマンツーマン守備といったミシャ式の基本部分は、すでにチームに浸透していると言えると思います。
一方で、攻撃テンポが早すぎることにより、
- 選手の消耗
- 試合展開のコントロール
- ビルドアップの完成度
- ボランチの攻撃参加
といった部分に影響が出ているように感じます。
ただし、試合を重ねるごとに改善されている部分も多く、チームは着実に成長していると思います。
残りのシーズンでどこまで完成度が上がっていくのかを楽しみにしながら、これからも試合を見ていきたいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。