エスパルスのグランパス対策
大量失点の続くエスパルスは練習のなかで試していたという3バックを導入しました。
引用元:https://www.jleague.jp/match/leaguecup/2020/080502/live/#coach
--3バックで入った意図、その評価は?
今日3バックでスタートしたのは、自分たちのサッカーを最大限出せること、そしていまのメンバーのバランスを考えてこのシステムで挑むことにしました。
クラモフスキー監督の指揮するエスパルスは、両サイドバックとウィングが高い位置を取り、サイドの選手が前を向いてプレーをすることでショートカウンターを成功させたり、セットプレーを獲得して得点を取るチームでした。2019年までのグランパスは試合の主導権を握りながらも、エスパルスのショートカウンターやセットプレーに沈むことが何度もありました。一方で高いラインを取ることによって、逆にカウンターに弱いチームでもありました。特に今年、4バックでラインを上げることによって様々なチームに攻略されてきました。
今回センターバックの構成を入れ替えることで生じたリスクを3バックという形でフォローをしようとしたのだと思われます。グランパスにサイドを攻略されても中央の3枚で締めていれば、得点には繋がらないだろうという見込みもあったのでしょう。両サイドバックは最初から遠慮無く高めの位置に居ることもできます。
苦境のリーグ戦のために選手を全員入れ替えたなかで、うまくエスパルスのサイド攻撃を実現しようとする試みだったと思われます。
また若手や出場時間の少ないプレーヤーが多いなかで、強力な外国籍フォワード2人を前に置くことで、グランパス守備陣に常にプレッシャーをかけ続けること、そしてその結果後ろの出場時間の少ないプレーヤーに前を向いてプレーをさせようという意図もあったと考えられます。
グランパスのスタメンはなぜこうなったか
名古屋グランパスは出場不可能な選手がかなり多くなりました。
- 怪我:長谷川アーリア・阿部浩之・米本拓司・シャビエル・前田直輝
- COVID-19:宮原和也・渡邉柊斗
- レギュレーションのため不可:金崎夢生・オ・ジェソク
これにより、フィールドプレーヤーで出場可能だったのは二種登録選手を含めて18人。
- DF:丸山祐市・中谷進之介・千葉和彦・藤井陽也・吉田豊・吉田晃・太田宏介・成瀬竣平(8名)
- MF:シミッチ・秋山陽介・稲垣祥・青木亮太・石田凌太郎・甲田英將(6名)
- FW:マテウス・相馬勇紀・豊田晃大・山﨑凌吾(4名)
この中から吉田晃と、豊田晃大が外れることになりました。
誰を休ませるか
そうなると、誰を休ませるかが問題です。ここまで全試合に先発出場しているのはランゲラック・成瀬竣平・中谷進之介・丸山祐市・吉田豊・稲垣祥です。負荷の高さを考慮すると、休ませたいのは両サイドバックと稲垣祥。センターバックも休ませたいところです。
しかし、試合勘のないセンターバック2人というのはリスクが高くなります。そこで藤井陽也に、経験豊富な丸山祐市を付けました。
サイドバックは成瀬竣平を休ませ、左サイドバックに太田宏介を起用、結果として吉田豊が休むことができなくなりました。
三角形を多用するグランパス
グランパスは、前監督の時代から狭い局面を抜けだすパスワークが売りではありましたが、今シーズン特に顕著になっているのが、相手を剥がすための三角形の多用です。三角形でパスを回していくこと自体はまったく特殊なことではなく、サッカーでは基本中の基本です。フィッカデンティ監督のサッカーになってから特に顕著なのは、サイドで3人の絡みで崩したり、相手のプレスをかわしていくという使い方です。
例1:前半13分左サイドのプレー
マテウスが絡んだプレーです。これまでマテウスはあまり周囲をうまく使うことができていませんでした。この試合では青木亮太とのパス交換で生まれたスペースに太田宏介が走り込むことでチャンスを演出しました。
例2:前半15分自陣右サイドで前からのプレスを剥がす
前半15分、自陣右サイドで押し込まれたところを藤井陽也、吉田豊とシミッチのパス交換で軽々持ち上がるシーンです。
このように、サイドで相手のプレスを剥がすプレーによって今年のグランパスはボールを前進させることが比較的容易になってきています。
サイドの裏を突くグランパス
清水エスパルスは3バックの状態でも、4バックの状態でもサイドバックの選手がかなり高い位置を取るため、前半から山﨑凌吾がサイドに流れたり、相馬勇紀が左サイドの裏を狙うプレーが見られました。そのうちのいくつかは決定機にも繋がっています。
試合開始当初は前からのプレスが強かった清水エスパルスですが、裏を突かれるようになるとプレスの枚数が減り、そうなると名古屋グランパスの時間が続くようになりました。
それでもジュニオール・ドゥトラが数的不利のなかでもボールを奪いきるシーンがいくつか見られ、ひとり気を吐くプレーぶりでした。
ペナルティーエリア付近でフリックを多用するエスパルス
清水エスパルスの前線は強力なキープ力を持つジュニオール・ドゥトラを活かしたプレーが多くみられていましたが、1つこれは狙っている形だな、と思ったのが「フリック」で相手DFをかわすプレーです。
フリックは「パスが入ってきたときに軽くボールに触れて、ダイレクトでボールの軌道を変えてパスをずらす技術」を意味します。いきなりボール保持者が変わることになるので、守備をする側にとっては守りづらくなります。
このシーンでは、ドゥトラのキープから鈴木のフリック、奥井のシュートと、フィニッシュまでうまくいった形でした。このほかにも何回かこの形を試していました。
試合の結果を分けたものは
直近の試合からほぼ全員を入れ替えたエスパルスに比べて、グランパスは4人の入れ替えのみでした。
特にマテウス・相馬勇紀の攻撃はエスパルスの若手の選手には辛い相手だったかもしれません。まず、選手の質的優位というのが結果を分けた要因だと考えます。
エスパルス側にも強力な個であるジュニオール・ドゥトラが居ました。彼個人はまさに八面六臂の大活躍でした。が、彼は左右どこにでも現れるようなフリーダムなプレーぶりで、バランスを取ろうとするティーラシンを消してしまっているケースが散見されました。ちょうどそう、シーズン当初のチームに馴染もうとしないマテウスが得点には絡むけれどチームプレーとしてはうまくいっていない状況に似ていました。クラモフスキー監督が彼をリーグ戦で軸に据えないのはそういうところなのではないかと思います。
グランパス側で特筆すべきは後半途中から稲垣祥という優れた質を持つ選手を入れた後にガラリとかわった中盤の状況です。
秋山陽介もシミッチも非常によくプレーはしていましたが、稲垣祥が入った後に清水エスパルスのチャンスは激減しました。それだけ危機察知能力に優れている選手ということかと思います。
ボールを戻すことを恐れない
もう1つのポイントは、グランパスは前が詰まっているとあまり無理して攻撃を続けず、いったん戻します。戻すと相手選手も上がりますから、そこから速攻をかけ直すという形です。
この試合では特に何度も見られた形でした。今年、不利な状況で攻撃を続けたことによるボールロストが減って、速攻をかけやすい状況で何度でも攻撃をトライするということを繰り返しています。
得点が増え、失点が減っているのは選手の質だけではなく、リスクの低いやりかたを繰り返しているからということが考えられると思います。
グランパスのGood(よかった)
- 青木亮太が50分プレーできた!身体面ではもう問題なさそう。
- 秋山陽介が85分出場。セントラルMFと右サイドハーフをこなした。泥臭いプレーもたくさんできて、これならまたチャンスも貰えそう。
- 太田宏介の完全復活。昨年からずっと怪我に苦しんでいた太田宏介だが、この試合では鋭いFKやCKなども魅せてくれた。守備でも大きな破綻なし。
- 石田凌太郎が短い時間でも結果を出した。まだまだ前線での守備など、学ばなければならないことはいっぱいあっても、積極性と身体能力、戦術眼ではマルがつけられると思う。詳しくは別記事で。
- 山﨑凌吾初ゴール。これまでの試合と比べて、この試合では何度も惜しいシーン、シュートも見られ、得点できる匂いがプンプンしていた。この調子で金崎夢生と競って欲しい。
- シミッチが柏レイソル戦と並んで、だいぶフィッカデンティ監督のサッカーに馴染んできた。
グランパスのMore(もうちょっと頑張ろう)
- 青木亮太はまだまだチームとしての約束事が徹底できていない模様。ベンチからも青木亮太にかける声が何度も聞かれた。
- 藤井陽也は無理に繋ごうとして奪われるシーンがいくつもあった。中谷進之介・丸山祐市に勝つには、プレーの正確性をもっと上げていく必要あり。
- 攻守に活躍していたシミッチだが、無理目の守備のときに手を使って相手を止めるプレーが見られる。9割以上の確率でイエローカードを貰うプレーなので、手を使ったプレーはSPA(スパ:相手の大きなチャンスとなる攻撃のじゃまをするという戦術的な目的でのファウル)になるレベルのときの、プロフェッショナルファールだけで良い。(イエローを貰ったプレーは敵陣内)
まだ怪我人が多い状況ですが、浦和レッズ戦、そして引分け以上でグループステージ突破となる川崎フロンターレ戦も良いゲームになりますように。