デスク:感動的だったルヴァンカップの優勝の翌日、以下の報道がネットを駆け巡った
編集者:記事の本題はタイトル後半だったんでしょうが、思いのほか、前半の長谷川健太監督の来季続投への反応が多かったですね。
デスク:掲示板的なところでの反応を見てみるとネガティブな反応もあるな
・超掲示板
・ドメサカブログコメント欄
編集者:上記のサイトでは過激な投稿は既に削除されていますが、類別すると
1)単純に長谷川健太監督のサッカーでは優勝できないとする意見
2)強化サイドと監督のコミュニケーション不足を憂う意見
になるようです
デスク:それぞれの意見を深掘りしていってみよう
1)長谷川健太監督のサッカーでは優勝できない?を検証してみよう
編集者:11月26日現在で36試合14勝5分17敗 勝ち点47 得点42 失点44 得失点差 -2 となっています。得点は増加傾向にあるものも、負けの数が多いのが気になります
デスク:17敗もするなんて、と2016年の18敗を引き合いに出して批判している声もあったが、2016年は7勝しかできなかったのが最大の問題だと思う(2024年は36節で14勝)
2016年は勝てなかったのが問題
2024年は勝てた・分けられた試合を負けてしまったのが問題
…こう思う
編集者:確かに2-0から逆転されてしまった京都戦、押しこみながらも点を取れず、カウンターに沈んだ北海道コンサドーレ札幌戦、アビスパ福岡戦、リードしながらも逆転負けしたガンバ大阪戦・・・勝ち点を少なくとも1は期待できたであろう試合を落としたケースが多いですね
デスク:フィッカデンティ監督時代から見始めたサポーター・ファミリーからすると、リードしているのに守り切れない、というのは耐えられないだろうな
編集者:その堅守は、怪我をしていない丸山祐市選手と、移籍してすぐにガンバ大阪の失点数を劇的に改善した中谷進之介選手、そして日本代表まで登り詰めた藤井陽也選手という3人がいてからこそ可能だった、という風にも思えます
デスク:引いて守ってロングカウンターという戦術も、押し込まれたときに耐えきれるメンバーがいてからこそ実現できる戦術だったとも言える
編集者:ある程度守備については選手の質に依存する部分がある、ということは、私も同意です。
とはいえ、これは首脳陣に責任はないのでしょうか?
デスク:首脳陣にもいろいろあるが、23-24年オフに中谷・藤井・丸山・森下の4選手が去ったことに監督やコーチが関与しているとは思えない。守備陣が完全にリセットされた以上、今年は苦戦する可能性があることはシーズンプレビューでも書いた通りだ
強いて言えば、関与した可能性があったのは丸山祐市選手の契約満了で、今シーズンの丸山祐市選手の稼働状況 (36試合中4先発2途中出場) を見ると、実力は間違いないものの、コンディション面に不安があったのが契約満了の理由の可能性が高そうです
編集者:たしかに藤井・森下は「夢の海外移籍」ですからね。監督のせい、とは言えないかもしれません。
しかし「守備を監督が仕込めていないのではないか」という観点での批判はあったと思います。
デスク:上記の守備に関わる4人が抜けて、ほぼまっさらからの再構築になってしまったのに、「仕込めてない」は厳しいと思う。
あえて苦言を呈するとしたら、なんで再構築のタイミングで「可変」なんて取り組んだのか、と思うな。難易度めっちゃ高いのに。
まあ、「どうせ再構築するんだから、今やっちゃうか」っていう空気感だったような気もするが
編集者:ものすごくぶっちゃけてるような気がしますが…
中盤に目を向けると、アンカーをやりたくて開幕3連敗に陥ったのは失策だったように思います
用語解説:アンカー:アンカーとは、ミッドフィルダーの中で一人が守備的な役割を担うポジションです。通常、4-3-3や4-1-4-1のフォーメーションで見られます。以下のポイントで説明します。
・守備の要:チームの最終ラインの前でディフェンスをサポートし、相手の攻撃を止める役割です。相手の攻撃の起点を潰したり、ボールを奪い返すためにポジショニングが重要です。
・ボール配給:ボールを奪った後、攻撃の起点となります。パスの精度が高く、味方にボールをスムーズに渡す能力が求められます。
反面、そのポジション取りが成功のカギとなります。かつて田口泰士選手がアンカーのポジションを務めるようにアギーレ日本代表監督に言われたときには、そのポジショニングに大きな注文をつけられました。
デスク:アンカーがハマらなかったのは確かだな。ただ意図はわかる。
アンカーがやりたかったというより、和泉竜司選手・森島司選手という名古屋グランパスのストロングを活かす2IHをやりたくて、そこでそのうしろにアンカーを置いた、ということなんじゃないかな
実際、シーズン当初も和泉・森島の2IHは構想されていて、その前に山岸祐也選手・キャスパー・ユンカー選手を置く超攻撃的布陣だったわけだ。
結果としてルヴァンカップの決勝でも和泉・森島の2IHは継続されていたことを思い出して欲しい
編集者:ただ、やはり17敗は多すぎませんか?
開幕前特番の「優勝を狙う」発言を当てこする方もX(Twitter)ではよく見かけます。優勝を狙うって言って17敗かよ、なんて。
デスク:シンゴさん、カズヤさんとお話ししたとき、「沖縄キャンプの出来が過去一よかった」と聞いていたので、それを受けての優勝を狙う発言だろうな。ただ現実はシーズン開幕では河面もハチャンレもおらず、まさかの井上詩音・三國ケネディエブスの新加入選手が先発する形になってしまった。
今シーズンは大型補強もあって期待も大きかったかもしれないが、その期待の戦力が稼働できなかった期間が長すぎる
編集者:確かに万全な体制でリーグ戦に臨めた試合って、0試合なんですね
この表の「河面離脱フラグ」と、「和泉離脱フラグ」は?
デスク:特に影響が大きかったのがこの2人ということだ。河面が欠場した試合は1勝2分9敗、和泉竜司が欠場した試合は1勝1分6敗だ。2人揃って欠場した試合は、1分4敗になる
編集者:え!それヤバくないですか。単純にいって、どちらかが欠けた試合で2分11敗ってことですよね。17敗中11敗に関与ってことですよね
デスク:正直、この2人が一番替えが効かない選手だということだな
編集者:そんな2人のところに補強をしないっていうのは強化担当の怠慢なんじゃないんですか?
デスク:左利きCBは希少なんだから、そう簡単に取れないよ。和泉竜司に関しては複雑だな。
左WBは当初小野雅史選手と山中亮輔選手で回す予定だったのが、小野雅史選手の怪我と、山中亮輔選手のコンディション不良・守備の問題で、途中から和泉竜司選手を回すことになった。徳元悠平を獲得でき、ある程度守備と攻撃のバランスが取れるようになって、和泉竜司選手を安心して前目で使うことができるようになった。それが変化のきっかけだったと言っていいだろう
編集者:徳元悠平選手だけでそんなに変わるものですか?
デスク:次の画像を見てほしい。本格的に徳元悠平選手が定着したのは、期限付き移籍元のFC東京戦に出場できなかった試合の後だ。その前後の数値を比較してみた。
デスク:注目してほしいのが「チャンス構築率」でそこまでの29試合で11%しかなかった数値が、大幅に改善している。低調だった鹿島戦を除けばかなりよい数字になっていることがわかる
1試合の平均シュート数も4本ほどアップしている。このタイミングはキャスパーが絶不調に陥った時期だから決定率が低すぎるが。
編集者:これは和泉竜司選手を前で使うことができるようになった効果でしょうか。
デスク:それだけではないと思う。怪我人が少なくなり、そして和泉竜司選手の使い方をかえることができたことで、プランA:対ボール保持チーム決戦仕様、プランB:対ボール非保持チーム決戦仕様、プランC:地上戦特化フォーメーションを使い分けることが可能になったことだろう
編集者:プランA・B・Cについては以下の記事をどうぞ
デスク:記事内の繰り返しになるが、風間時代のように「極めたグーはパーも打ち破る」という発想では、本当に突き抜けた「質」が必要になる。
質で大きな差を出せないなら、複数の戦い方を切り替えられるようになる必要がある
編集者:しかし10月も3連敗がありましたが…
デスク:3敗のうち、アビスパ福岡戦と北海道コンサドーレ札幌戦は、優位に試合を進めながら「個のチカラ」に屈した感じだな。そして、北海道コンサドーレ札幌戦は河面旺成選手も和泉竜司選手もいない試合だった
こちらの戦術を殺しにこられたと考えられるガンバ大阪戦も河面旺成選手がいなかったし、和泉竜司選手も時間限定だった。
編集者:なぜ和泉竜司選手と河面旺成選手がいなくなるとうまくいかなくなるのでしょうか?
デスク:プランABCといっても、選手を全員入れ替えるわけではない。キーになる選手というのはいるわけだ。この2人がそうだし、稲垣祥選手・椎橋慧也選手なんかも出場停止を除けばどのプランでも出てくる選手だ。
和泉竜司選手はそのバツグンの戦術理解度で、複数のロールを高い水準でこなしてくれている。ここに尽きるだろう。すべてのプランで和泉竜司選手は必要なはずだ。
編集者:河面旺成選手はいつも左CBを務めているだけ、に見えますが
デスク:河面旺成選手の場合は3バックを成り立たせることができるキーマンということなんだと思う。
野上結貴選手・三國ケネディエブス選手が務めることもあったが、彼らと違って左脚を使えるので、左のライン際を山中・徳元・永井らが攻める際にパスコースを作りやすい。左サイドを活かせるということが大きいのだと思う。
編集者:どちらかがいなかった15試合が2勝2分11敗で勝ち点8、両方が揃っていた21試合は12勝2分7敗で勝ち点38勝ち点平均1.81です。
勝ち点平均で2を越えられれば優勝が近いと言いますが(36節時点の首位神戸が68、勝ち点平均1.89)、かなり近い数字です。
与えられた手札のなかでは監督はよくやっているということですか。
2)強化サイドと監督のコミュニケーション不足を検証してみよう
編集者:戦い方のバリエーションも仕込めて、戦術も遅まきながら定着をすることができてきた。
しかし怪我人などの状況で、満足な戦いができなかった。
と、すると問題は体制にあるんじゃないですか?
強化サイドと監督の連携に問題があるのでは?と感じてしまうのですが。
デスクはどう思いますか?
デスク:たとえば今年の夏獲得した選手は菊地泰智選手、徳元悠平選手、カラバリ選手、イーブス選手だが、イーブス選手は完全な育成枠で、残りの3人のうち2人は主力といっていいと思う。
なにか問題あるだろうか?補強した選手が10割当たり、なんてチームはほかでもないと思うぞ
編集者:カラバリ選手は数分しか出場できておらず、貴重な外人枠を消費する必要があったのか、と疑問視する声も多いです
デスク:カラバリ選手は、徳元悠平選手にいったん断られたことで契約したという。
ただビザの発給に時間が掛かっている間に徳元悠平選手が翻意してくれたということだった。
本来徳元悠平選手が獲れていたら発生しなかった契約なわけで、「徳元さんとれちゃったからカラバリさんいらないです」とは言えないだろう
編集者:このときはどういう選手が欲しいという選手がとれていたというわけですね
重廣卓也選手獲得のときの「どういう選手かわからないのでこれからビデオ見る」という監督インタビューがあって、そこからどうしてもちゃんと強化部と監督が連携できているのか信じられなくなりました
デスク:それは違うと思うぞ?選手名を指定して「あの選手が欲しい!」なんて要求しても獲れるわけない。重廣選手のときのオーダーはおそらく「運動量があり、攻守の切り替えに貢献できる選手」という注文だろう。それで実際に来た選手が注文通りなのかこれから確認する、ということだったのだと思う。
編集者:じゃあ、強化部には問題がないと?
デスク:100点満点とは言わないが、求められた最低限はこなしていると思う
編集者:外国籍選手でもっと当たりを引いて欲しいという声も挙がっています
デスク:外国籍選手の当たりというと、具体的には?
編集者:長崎のマテウス・ジェズス選手ですとか、横浜FMのアンデルソン・ロペス選手、セレッソ大阪のレオ・セアラー選手とかでしょうか
デスク:コンサドーレ時代からアンデルソン・ロペスが活躍することはわかっていたし、そのコンサドーレも成績の良い選手ばかり獲得できているわけではないと思う。
レオ・セアラーはマリノスの出資元でもあるCFG(シティ・フットボール・グループ)からの推薦もあっただろう。そういった太い情報網を持っていることは強みになる。
編集者:名古屋は日本独自のクラブですから、そういった情報入手では後手に回りますよね
マテウス・ジェズス選手みたいな例はどうでしょうか?
デスク:マテウス・ジェズス選手はガンバ大阪時代は18試合で1得点しかできなかったし、守備的なポジションだった。途中契約解除をしていたくらいだ。キャリアのなかでも179試合で19得点とそこまで得点する選手ではなかった。今年(18得点)は下平監督の戦術との相性がよかったのだと考えられる
マテウス・ジェズス選手は、おそらく「良い方向に転がった想定外」だ。
編集者:外国籍選手の獲得について言えば、CFGやレッドブルのような後ろ盾がないグランパスの場合、どうしたらいいんですか?
デスク:今年、個人的10大ニュースの3位に入るのが、カラバリ選手のエージェント、かつてはジョーやシミッチ、マテウス・カストロ、そして現在もランゲラックのエージェントを務めている稲川朝弘さん(スポーツ・ソリューション)との関係復活だ。
編集者:すごいメンツですよね、稲川さんと契約している選手って。ジョーの訴訟で険悪になっていたんでしたっけ。
デスク:そうだ。CFGのような情報源がない以上、稲川さんのような有力なエージェントとの取引ができるようにしなければ、良い選手は獲れない。
またイーブス選手のエージェントも中東・アフリカに強いエージェントだという。イーブス選手そのものが当たるかどうかは育成枠だけにまだ未知数だが、有力なエージェントとの関係拡大は重要な施策だと思う。
編集者:なるほど、弱みと思われた外国籍選手獲得周りも、ちゃんと手を打っているわけですね
結論:長谷川健太監督の続投は是か非か
編集者:検証してみた結果をまとめると、
1)単純に長谷川健太監督のサッカーでは優勝できないとする意見
→圧倒的強さは得られていないものの、怪我人・選手層の問題がなければ優勝争いに食い込めるだけの戦績は残していた
2)強化サイドと監督のコミュニケーション不足を憂う意見
→まだ完全とは言わないまでも、これまで挙がっていた補強ポイントのすり合わせや外国籍選手獲得周りにも打ち手は打てるようになってきた
と、なるでしょうか
デスク:それを踏まえて、結論は「長谷川健太監督を解任(契約満了)にする積極的な理由は見当たらない」だな
編集者:移籍や怪我がなければ・・・というのはありますからね。
ただ、古くさいサッカーというイメージ、つまらないサッカーというイメージで語られることが多いですからね、だからそれで不満を訴える人はいます
デスク:ただの脳みそ筋肉チームというわけでなく、強度を重視しているだけで戦術的な取り組みは凄くしているんだけどな
編集者:イメージがついちゃうと、イメージありきで語られるのは仕方ないかもしれません
デスク:正直、今年みたいにチーム崩壊レベルで選手が抜けた後は降格の可能性も十分にあったと思う。それをここまで立て直しただけでも素晴らしいと俺は思ってる。
正直、就任前よりも俺のなかでは長谷川健太監督の凄みは感じている。
編集者:逆に、監督を交代するとしたらどういう条件になるでしょうか?
デスク:長谷川健太監督よりも成績が上げられると確信できるような監督が起用できないかぎり危険だと思うな
来季に向けて
編集者:今年もあと2試合です。(11月26日現在)
気が早いですが来年に向けて展望はありますでしょうか?
デスク:ほぼ長谷川健太監督の続投は決定的だと思うが、1年くらい万全な状態で指揮してもらいたい
編集者:流出が懸念されるのは三國ケネディエブス選手、パトリック選手、キャスパー・ユンカー選手、稲垣祥選手あたりでしょうか
デスク:獲得する選手もいると思うが、なんとか万全な体制で2025年のシーズンを迎えて欲しいな
編集者:みんなとまた来年、星が増やせますように
デスク:残り2試合もいい試合をして、なんとか1桁順位を目指して欲しいな