デスク:2月になった。いよいよ2025年シーズンが始まる。選手層の厚みも増した。
ストライカー不足ではじまった2022年、
待望のストライカーユンカーを得たのにマテウス・カストロを途中で失った2023年、
主力を移籍で多数失った2024年。
万全の体制で臨めるのは2023年シーズン前半以来だ。(ダニエルは離脱してしまったが)
結論から言えばこれ以上怪我や不測の移籍などが発生しなければ、2023年シーズン前半の再現を期待できると考えている。
編集者:しかし不安もまだまだ多数あります。マテウス・カストロがどこまで怪我から戻っているのか?、シュミット・ダニエルはいつ復帰できるのか?などなど
デスク:不安があるのは当たり前だ。ただ、「納得のいく説明がなければ安心できない」というものではないだろうか。少しでも安心できる材料を提供できるようにしたい。
編集者:2回にわけて、まずは守備、DF陣とCMF陣について考えましょう。お読みになる前に余裕あれば、以下の記事も読んでおいていただけるとありがたいです。
デスク:もしも記事を読む元気がなかったら、以下の図だけでも目を通して欲しい。名古屋の守備の選手は多くのタスクを任されていることがわかると思う。
そもそもなんで3バックなんだっけ?
編集者:3バックを採用したのは長谷川健太監督就任初年度、2022年のことでした。
2021年はルヴァンカップを取ったもののフィッカデンティ監督退任。
2022年は監督も変わりやり方が大きく変わったなかで守備がうまくいかなくなり、そこで採用されたのが3バックでした。
デスク:この時期から欧州のトレンドを取り入れ、センターバックとサイドバックのスキマ「ポケット」を狙う戦術が一般的になった。
編集者:いかに固い4バックでも、100%守り切ることはできないわけで、フィッカデンティ監督時代はポケット侵入を防ぐためにセントラルMF:以下CMF(米本・稲垣)の鬼スライドでカバーするっていう考え方だったと思います。
デスク:4DF−2CMFで守って、柿谷に当てたりマテウスで運ぶことで攻撃はカバーしていた。
ヤクブ・シュヴィルツォクはポストプレーを期待されたようだったが、典型的ストライカータイプで、そのせいであまり先発では使われなかったな。
編集者:長谷川健太監督体制ではどうして4バックがうまくいかなくなったのでしょうか?
デスク:個人の感想だが、フィッカデンティ時代はCMFに組立てを求めていなかったが、長谷川健太監督はCMFにパス出しを求めており、組立ての変化に対応しきれなかったということが大きかったのではと俺は考えている。(長谷川健太監督のチームには遠藤保仁・橋本拳人みたいにだいたい組立てのできるCMFが居たんですよね)
編集者:2021年の守備→攻撃の切り替え・組み立ては吉田豊選手に依存していた部分が大きいと考えていますが、米本選手の流出で中盤の鬼スライドでカバーできくなり、代わりがボールをさばくタイプの仙頭啓矢選手とレオシルバ選手だった、というのも影響ありそうですね。
デスク:CMFが4バックの弱点をカバーできなくなったことで吉田豊選手がカバーせざるを得ず、攻撃のやり方を変えざるを得なかった、ということなんじゃないかな。(当然その使い方では吉田豊選手は活きない。)
編集者:そこで3バックでポケットの前をふさいだ、というわけですね。
デスク:3バックの場合、左センターバックに左利きが欲しい(上の補強ポイント記事参照)、名古屋グランパスの場合、2022年は丸山祐市選手が居てくれた。それを活かす意味でも3バックの導入というのはアリだったんだろうな。
編集者:これにより守備は改善され、安定しました。なによりも藤井陽也選手の台頭は大きかったですね。
デスク:ただ問題はあった。
編集者:そこ、気になります。教えて下さい!
2022年の名古屋グランパスの苦しみ
デスク:3バック化したことで、もっとも誤算だったのが5バック状態になってしまったことだ
編集者:ああ・・・ドン引きって揶揄されるようになったのはこの頃からでしたね。
デスク:ポケット前を左右センターバックでふさぐと、大外が空いてしまう。相手に枚数かけて攻められるとウイングバック(WB)も守ることになり、5-2で守る状態になる。
フィールドにいる10人のうち7人が守ることになれば、そりゃドン引きって言われるようになる
編集者:なんでそんなことになってしまったのでしょうか
デスク:あくまで仮説に過ぎないが、相手がグランパス陣内でボールを握る時間が多くなると、そうなってしまう。危険な位置でボールを握られる時間が多くなる理由は2つあると考えている。
1) 相手ボールになったときに、プレッシャーをかけることができず、自由に攻撃を組立てさせる
2) 自陣で回しているボールを簡単に相手に渡してしまう(結果相手ボールの時間帯を増やしてしまう)
この2つだと考えている
編集者:2022年は相手DFへのプレッシャーなんてかかってなかったですし、不用意なクリアを相手に渡して攻撃が無限に続くということがよく見られました。
デスク:2022年夏の補強が、前からプレッシャーをかけられる永井謙佑と重廣卓也だったことは偶然ではないはずだ。同じような問題意識があったのだと思う。
編集者:2022年シーズンは最終的に持ち直してヒトケタの8位で終わることができました
デスク:まとめると、この3バックを成功させるには、先ほどの2点を丁度裏返したポイントが必要になる。以下の図を見て欲しい
編集者:2022年シーズン持ち直したのは 1)前プレ が永井謙佑と重廣卓也で可能になった。2) はまだ未整備なので、8位が限界だった。という認識で合ってますか?
デスク:そうなる。図にも書いたが、自陣内で相手ボールの時間が増えないようにする。これが大事だ。もっと正確に言うと「危険なところでボールを持たせなければいい」
2023年前半はなぜうまくいったのか?
編集者:なるほど、2023年前半は、どうしてうまくいったのでしょうか?
デスク:相手に自陣に押し込まれないようにするにはこちらのFWが前線からプレッシャーをかけ続ける以外の方法がもう1つある
編集者:ひょっとしてキャスパー・ユンカーですか?
デスク:この年絶好調だった彼が前線にいるだけで1枚マークを付ける必要があるから、相手が押しこみにくる際の枚数を1枚減らせる。さらにいえばマテウス・カストロもいるから10人全部が名古屋陣内に攻め込む、なんてことは難しい。
編集者:相手のプレスが1枚少ないだけで、相手にボールを奪われる可能性はだいぶ減りますよね
デスク:相手にボールを渡さなければ、もう1人絶好調だったマテウス・カストロがいた。キャスパー・ユンカーの待つ前線にボールを運べる人材がいたわけだ。そこは攻撃の話になってしまうのでこれくらいにしておこう
編集者:いずれにせよ、わずかなバランスの違いでここまで変わるのか、というくらい変わりました。
デスク:ちなみに23年も、困った時はクリアでボールを相手に渡してしまう、という傾向はあまり変わらなかった。
クリアに頼らないようにするにはどうすれば良いのか
編集者:まず、押し込まれた状態で、他のチームはどのように打開しているのかについての統計を見つけましたので見てみてください。
※相手がハイブロック=敵が自ゴール近くまで押し込んでいる状態のこと
![相手がハイブロックを敷いてきた場合の打開プレー](https://i0.wp.com/grapo.net/wp-content/uploads/2025/02/%E7%9B%B8%E6%89%8B%E3%81%8C%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%92%E6%95%B7%E3%81%84%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%81%AE%E6%89%93%E9%96%8B%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%BC.png?resize=1024%2C936&ssl=1)
デスク:この図でわかるように、相手にハイプレスに来られた場合、対策は以下のパターンになる
編集者:グランパスの場合は繋げずロングボールというイメージがあるのですが?
デスク:実はグランパスがロングボールが多いというのは迷信だ。絶対数で言うと名古屋グランパスのプレースタイルの上位互換と考えられるヴィッセル神戸は1試合平均のロングボールは64本、グランパスは1試合平均49本だ。試合あたり15本も少ない。
編集者:え、本当ですか!なんでそんなイメージが・・・
デスク:理由は2つあって、
1)ヴィッセルは大迫や武藤のような収まる前線がいるのでロングボールが収まる
2)グランパスはロングパスで繋ぐのではなく、プレッシャーを受けるとクリアしてしまう割合が多い
(クリア:グランパス:24.9/試合、サンフレッチェ18.1/試合、ヴィッセル21.9/試合)
編集者:うわー、そんなに違うもんですか。
デスク:ミッチは止めることに関してはスーパーだったが、パス出しは正直上手いほうではなかったという影響もあるかもしれない
編集者:たしかにクリアは高い確率で相手ボールになってしまいますものね。
クリアが相手に拾われシュート・ゴールっていうシーンも良く見ましたし、ミッチに戻したボールをミッチがクリアしてそのままサイドラインを割る、というシーンもよく見ました。
どうしたらクリアに頼らないようにできるのでしょうか・・・
デスク:不要なクリアは確かに減らしたい。
ただ勘違いして欲しくないのは、クリアが「悪」というわけではないんだ。どうしても繋げない状況では、クリアしたほうがいいこともある。たとえばヤバい位置でのクロスなんかはゴールマウスを避けてクリアしちゃったほうがいいこともある
編集者:いやそれはわかるんですけど、結局はそんな余裕のない状態に追い込まれているってことが問題ってことですよね
デスク:理想論で言えば、どんなに押し込まれても周囲がきちんとパスコースを作ることができればいい。
というかグランパス自体がそこは相手にやってることで、どれだけハイプレスが「効く」ものなのかはみんなわかっているはずだ。
あれだけ「繋ぐ」ことにこだわっていたアルビレックス新潟も結局名古屋に複数失点していたわけで。
編集者:結局は技術を上げること、運動量を上げること、この2つになる感じですか?
デスク:プレッシャーをショートパスを繋いでかわすなら、それしかないだろう。
ただ上の表でわかると思うが、打開方法にはショートパスだけでなく、チップパス(短~中距離の浮き球パス)、ロングパスと9通りある。
これを使い分けられるようになれば、守備する側もプレスに迷いが出る。
そういうことができるようになって欲しいな。
2025年のグランパスのDFはどう変わる?
編集者:ここまで練習試合を見ていると、怪我で河面旺成・宮大樹・三國ケネディエブスが離脱しています。もっとも河面旺成・宮大樹は既に時間制限付きながらも復帰しているようですが。
デスク:まず、ここまで怪我なく、原輝綺が右CBをずっと務めているというところに注目して欲しい。
編集者:インタビューを見るかぎり、監督の信頼は抜群のようですね。
デスク:そもそも昨年内田宅哉選手が務めていた理由は
1)対人に強い(デュエル:1対1に強い)
2)機動力がある
3)戦術理解度が高い
というところだろう。
その特徴をすべて兼ね備えていて、なおかつDFとしての経験値も高い。原輝綺を選んだ最大の理由はそこではないだろうか。
編集者:しかし内田宅哉選手と同タイプで、内田宅哉選手よりDFとしての経験値の高い選手となると、守備の基本コンセプトは変わらないとみて良いでしょうか?
デスク:騒がれた可変システムは継続と見ていいと思う
押し込まれたとき:CB3+WB2+CMF2で守る
攻撃するとき:CB2枚+CMF1枚で守る(WBは流動的)
編集者:昨年後半から、WBの2人(野上結貴選手と徳元悠平選手)が攻撃時かなり高い位置を取っているのが印象的です
デスク:徳元悠平選手が特にその傾向が強かったし、相手ゴール近くでプレーできるなら中山克広選手も活きてくる
編集者:キャンプのなかでは4バックでのプレーの練習をしていたという記述もありましたが、それはどう考えればいいのでしょうか?赤鯱新報ではすごくうっすらとしかそのディティールは書かれていないので想像の部分が大きいのですが・・・
デスク:そのあたりはみぎさんたちとも話をしたところなのだが、最終的に守備への切り替え時のトレーニングなのでは?という結論になった。
編集者:便宜上4バックになるのはグランパスの攻撃時ですよね?野上結貴選手か中山克広選手が上がってウイング化する。逆に徳元悠平選手があがるときには逆サイドが・・・あんまり自重していなかったようにも思えますが(苦笑)
デスク:そのあたりは昨年後半、大幅にチャンス創出が改善したにもかかわらず、結構安い失点を繰り返して勝ち点を失った最大の原因だろう、という風に考えた。
だからどんなときも全員で相手ゴールに突撃をするのではなく、攻撃時には守備への切り替え(ネガティブ・トランジション=ネガトラ)を考えたバランス取りをしたほうが良いという風に結論がでたのでは、という意見でまとまった。
編集者:守備時のリスクヘッジを考えつつ、攻撃時に4-4-2、あるいは4-3-3でバランスを取っていこうっていうわけですね
デスク:そうだな。面白いのは4-3-3のときはWBが前線でサイドに入らず、中に入る形もありそうだ。
編集者:それって可変システムがより定着して発展してきた、ということでしょうか
デスク:大きくメンバーを変えずに新シーズンを迎えることができたので、昨年のサッカーからブラッシュアップできるようになった、ということでもある。実際どこまで仕込めているのか期待している
結論:名古屋グランパスの守備はどう変わる?
編集者:検証してみた結果をまとめると、
1)昨年の右肩上がりだけでなく、左右CBともにSB化して攻撃参加が増えそう(ただしどちらか片方だけ)
2)パス出しスキルの高いCBが複数加入したので、ハイプレス対策が進みそう
3)WBが単純にFWに上がるだけでなく、中盤に入るなどの異なる変形も出てきそう
と、なるでしょうか
デスク:コンセプトの部分だけを聞いているとかなりワクワクしている
ただ問題は、そのコンセプトが実践できるかというところだ
編集者:昨年あったような怪我人多数による無理な配置転換とかをしないですみそうなだけでもちょっと違うなって思います
デスク:野上結貴選手の左CBが悪かったというより、野上結貴選手を左CBに使うと右WBがいなくなってしまうという問題に行き当たって詰んでいた。それが解消できそうなことだけでも大きいよな
編集者:可変がどこまで定着できるのかですか、あとは。
デスク:そう。ついイケイケになってバランスをくずしてしまいがちだが、そうならないようにして欲しい
編集者:あと10日後の開幕で、どんな姿が見られるでしょうか
デスク:浦和レッズ戦のTMを見るだけでも片鱗は見えている。サヴィオらをきっちり押さえて90分2-0勝利だったわけだからな。
編集者:激しいレギュラー争いによるレベルアップも期待ですよね。
デスク:河面旺成選手と宮大樹選手、三國ケネディエブス選手と佐藤瑶大選手のレギュラー争いはさじ加減をうまくすればレベルアップが望めそうだ
編集者:怪我のないようにみんなで良いシーズンを迎えられますように。
次回は攻撃の変化についてのプレビューをお送りします