外的要因が…という事も話したくなるが、自分達に矢印を見つけるしかない。神戸戦の収穫の後に訪ずれた課題について振り返る
試合情報
神戸戦では、相手との配置の違いを踏まえ、ビルドアップの目標を設定して臨んだ。一方で、配置がほぼ同じである清水戦では、名古屋が形を変えても相手がそれに合わせてくる可能性が高い。技術や強度に頼らない選択肢を見出すことが、名古屋にとって次の課題となる。
森島・永井・マテウスの3人は、ともにサイドへ捌く回数や仕草が多いため、ウィングバック(WB)を引き出し、その背後を突くプランは、選手起用の観点から自然な選択肢となるだろう。
同数ならば・・・
試合開始直後に何も仕掛けなかったわけではない。相手がマンマークでついてくるならば、それに対して選手を加えて打開を図る——これが現代サッカーにおける基本的な考え方である。
04分19秒からの場面では、今シーズン、佐藤とピサノが出場機会を得た際に仕込まれた形が見られた。ピサノと三國が中央からプレスを引き出し、その流れの中で佐藤と原がSB(サイドバック)として振る舞う。こうして、北川・乾・松崎によるプレスの噛み合わせを意図的にずらす形を構築していた。
案の定、清水は前線の守備者がズレることで、ブエノが中盤(稲垣・椎橋)をケアするよう動いた。その結果、宇野との前後関係にギャップが生じ、カピシャーバがブエノのカバーに入って内側を締めたことで、外側にいた原と和泉がフリーとなり、そこから効果的に前進する形が生まれた。
この場面では名古屋が4バックを形成していたが、その目的を考えてみたい。人を加えて、いったい何を狙っていたのか。意図としては、相手3バック(北川・松崎・乾)との守備の噛み合わせを崩すことだった。もしこの3人が動かなければ、名古屋が数的優位で前進できる状況をつくれる。
では、この3人が動くことで何が起こるのか。彼らの背後には椎橋と稲垣が控えている。そのスペースを潰していた清水の最前線の守備者たちを引き出すことで、椎橋と稲垣の前方にスペースを創出したかったわけである。04分19秒からの流れでは、彼ら2人のために作り出したスペースの“延長線上”で、永井やマテウスがボールを受けたり、走り込んだりする余地が多くあったのが確認できた。
また、10分00秒〜のビルドアップでは、ピサノを使わず、佐藤と三國が左右に開き、原と徳元がSBの位置に入る4枚構成が明確に現れている。この4バック化により、清水にとって厄介だったのが松崎の守備対応だった。もし佐藤が椎橋の近くにいれば、椎橋をマークしつつ佐藤にも寄せるという判断が可能だったが、佐藤が動くことで椎橋がフリーになる。稲垣=ブエノ、乾=原というマッチアップがほぼ固定されていたため、松崎の担当エリアは、佐藤が動けば必ず守備のズレが生まれるポイントとなっていた。

👍ポイント
10分00秒の場面では、佐藤がロングボールを選択したことが惜しまれる。森島に高橋が引き出されたことで、永井がフリーになる「一撃必殺」の可能性を見込んだ判断だったのかもしれない。その判断の是非は五分五分とも言えるが、佐藤のこの選択には、それ以前の時間帯に伏線があった。
具体的には、徳元が受けたボールをうまくコントロールできなかった場面があった。本来であれば、松崎が後方に対してプレスの連動を要求していたタイミングで、名古屋側は数的優位に加え、立ち位置の優位(+1、+2)も取れていたはずだった。しかし、その丁寧さを欠いた影が佐藤の判断に影響を与えた。
松崎の寄せが想定より早かった可能性もあるが、判断を迷わせた背景には、「徳元の丁寧さ」に対する不安が潜在的にあったとも考えられる。こうした選択は、結果として前線の選手たちの立ち位置にも影響を及ぼす。
せっかくビルドアップの構造を作っていても、地上での展開が見込めないとなれば、WBとCBの間にある「ポケット」だけを縦方向に警戒しておけばよい、という考えが相手の脳裏にちらつく。そうなると、引き込んでビルドアップしているにもかかわらず、前線との縦幅が間延びしてしまう。そして観客の目に映るのは、「前線の選手がただ蹴り出しに反応して走っている」ような印象だ。
この場面で重要となるのは、両脇のCBのポジショニングである。中央のスペースを空けたいのであれば、SBのような役割を担う佐藤と原が外に張ることで、乾や松崎を外側へ引っ張ることができる。これにより、外側あるいは内側から椎橋や稲垣が中央に差し込むルートが開けてくる。
目的にする“場所”はどこ?
15分頃から、清水は守備の形を変え、松崎または乾を1列下げて「北川+1」の布陣で耐える構えを見せた。そうなると、24分03秒のように、2トップの間にセンターの選手が立ち、ブエノと宇野の脇にマテウスと森島が入り込んで前進する形が完成する。
一方で、乾を引く形となった42分53秒の場面では、稲垣がブエノと乾の間にポジションを取ることで、椎橋が安全にボールを持てる状況を作り出した。この形も、松崎に対して徳元と佐藤がアプローチする動きによって成立している。
一方、ゴールキック時には、清水が人数を合わせてハイプレスを仕掛けてくる場面もあったが、名古屋はピサノを活用する形でこれに対応。20分46秒の場面では、乾の背後のスペースに原が抜け出し、清水のセンター裏にロングボールを送り込むことで、その位置に明確に人を集めるアプローチを見せた。
しかし、27分14秒からの場面では、守備から攻撃への切り替えの局面で、清水が守備の方法を変えてきたことに加え、「低い位置での数合わせによりハイプレスが機能してしまった」典型例が見られた。
👍ポイント
この場面で評価したいのは、椎橋の動きによって宇野を引き出し、稲垣がボールを受けるスペースを確保したことにある。そして注目すべきは、全員がその稲垣の動きを意識していたかどうかという点だ。
ビルドアップの原則として、「第1段階ではセンターエリアへの展開を目指す」という共通認識があるべきだが、このポジティブ・トランジションの場面でも、その意識が共有されていたかが問われる。
名古屋の4バック構造により相手の守備者をサイドに引き出し、中央のスペースを空ける仕組みが機能すれば、稲垣のようなインサイドMFに時間と空間を与えることができる。そして、その稲垣に清水の守備者が後追いで寄せた瞬間に、本来目指していたビルドアップ構造が成立する——まさに「次の段」に進むサインである。
実際に27分10秒の場面では、松崎が守備対応に戻った時点で、和泉とマテウスのポジションで優位性が確保されていた(見えてはいないが、原と乾の関係性にも裏付けがある)。つまり、自分たちが保持に転じる局面で、既にビルドアップの構造が整っていたことに気づくべきだった。言い換えれば、それに気づかずしては、ビルドアップ構造を作る意味が薄れてしまう。
なお、33分07秒の場面で見られた椎橋がワンタッチで外しながら縦パスを差し込む動きも、構造の軸を保ったうえでの好例であり、高く評価できる。
30分46秒からの場面は、名古屋にとってやや勿体ない展開となった。三國がボールを運び、稲垣がブエノの位置まで押し上げて乾を後退させる状況を作った。永井が裏で待ち構える中、逆サイドからは森島がロングボールを要求。しかし、この場面でどこを狙うべきだったかを改めて考えると、清水が守備の形を変えて以降、より効果的に狙える“エリア”が存在していた。
前述のとおり、稲垣と椎橋のような中央の選手は、清水の2トップでは消しきれない。そのため、ブエノと宇野の周囲にいるインサイドハーフ(IH)の選手たちが、相対的に優位な状況を得られる。実際、24分03秒からの場面もその好例である。
したがって、今回の三國が運んだ場面でも、稲垣と椎橋のポジションを基点に、IHが優位を取れる位置関係を見ると、「三國→稲垣→原→永井」のラインが浮かび上がる。稲垣がブエノをピン留めしている以上、原にボールが通れば、乾は「原の前進を許す」か「ボール保持者に出ていく」かの2択を迫られることになる。いずれの選択肢も、結果的には永井が優位な状況で受ける可能性が高まる構造であった。
一方で、森島のサイドにおける各選手のポジショニングを見ると、ビルドアップの形として、徳元は松崎への対応を意識したポジション(椎橋と同じライン上)を取っていた。そして森島は、WBとCBに挟まれるような位置でプレーしていた。
名古屋としては、最終ラインを押し下げながら前進を図る意図があったのだろうが、素人目には、森島がそこでボールを受けた後にどう展開するかという「次のプラン」がやや見えにくい印象を受けた。こうした点が、後半から修正される対象となったのだろう。
後半:やる事を変えるか変えないか
後半に入り、名古屋は森島とマテウスのポジションを入れ替えた。開始直後には、佐藤のヘディングから椎橋へのパスが入り、そのまま宇野の食いついた裏を突くパスが通る。これは、前半に構築されたビルドアップ構造を踏襲したプレー選択だった。
一方で清水は、後半からマンツーマンでの対応をより明確に打ち出してくる。51分03秒では、そのプレスの勢いに押し込まれたシーンが見られるが、名古屋は宇野とブエノの関係性の間に侵入するかたちで、マテウスが受けに下がり、原がブエノの脇で前進する構造を展開した(これも前半から共有された原則的なポジショニングによるもの)。清水のプレスがはっきりしている分、その後の52分付近の三國による運び出しも効果的だった。
健太監督談「前半は狙った形を作れませんでした。後半はシャドーを入れ替えて、マテウスを左に、(森島)司を右にし、試合前にやろうとしていたことができるようになったのかなと思います。マテウスが右、司が左でも狙いはあったんですが、それをなかなか出せませんでした。ハーフタイムには狙いをしっかり伝えて、後半に向けて整理しました。選手たちはすっきりした状態で闘ってくれたんじゃないかなと思っています。」
この「やらせることは変えずに、配置だけを入れ替えた」という指示内容は、52分24秒以降に見られるサイドの関係性や、稲垣・原のポジショニングに体現されているように見える。
前半、マテウスはハーフスペースや中央で待機する場面が多く、ボールを受けに下がってくる場面が目立った。しかし本来は、ブエノの背後で駆け引きしながら外に開いてCBを引き出し、そこから和泉や原がブエノとカピシャーバにアプローチをかけることで、稲垣が中央でボールを受けるためのスペースを生み出す——そうした連携が求められていた。
一方、前半の森島のサイドでは、松崎の外側でボールを受ける動きを主に担っていたが、右から守備の選択肢を限定させながらビルドアップするためには、むしろ内側に入って自由にボールを受けてほしい(=後半のマテウスの役割)という意図があった。後半の動きによって、そうした役割の違いが明確に浮かび上がった。
後半のボール保持率は清水が約60%を記録。清水がハイプレスの方針を再確認したことで、「同数の状況には人を足して対応する」という原則に対し、名古屋はその打開策の構築に苦慮する時間帯があった。
58分07秒からの場面は、その象徴とも言えるシーンだ。清水は名古屋の3バックに対して3人でプレスをかけてきたため、椎橋が最終ラインに下がって数的優位(+1)を確保する動きに出る。そして、佐藤にパスを出してその数的優位を継続した結果、原が大外でフリーになっている。
乾としては本来、三國にプレッシャーをかけたいが、原が大外に張っているため、そこを捨てて前に出ることができない。こうした状況下で、佐藤は+1を保ったサイドとは逆方向へ展開を選択。そのまま相手のプレスを受け、最終的には永井の個人能力に頼るかたちでロングボールを蹴るが、ボールロストとなってしまった。
後半に入り、清水のプレスによって名古屋側は小さなポジションの変化を余儀なくされ、それによって本来のビルドアップ構造における原則が崩れる時間帯が多く見られた。
後半60分までの時間帯で、名古屋はビルドアップの構造原則が乱れる展開が見られたこともあり、山岸を投入。彼のようにセンターバックの位置まで降りて受けられる選手がいることで、最終ラインの苦しさをシンプルに緩和する効果が期待できる。
実際、山岸自身もインタビューで「相手の中央に対する縦のスライドや、CBの位置で起点になることを意識していた」といった趣旨の発言をしており、たとえ構造が乱れていたとしても、山岸がいれば立て直せる——そうした意図での投入だったと考えられる。
この残り20分間の質的貢献によって、キャスパーか山岸かという起用の選択が分かれる。仮にチームのクオリティが向上し、相手の修正に対しても原則や構造を保持し続ける展開が可能なら、キャスパーの投入タイミングが早くなる可能性も出てくる。逆に言えば、それが今は叶わず出場機会を得にくいストライカーにとっては、少々酷な状況とも言えるだろう。
つぶやき
- 神戸戦と同様に、この試合でも攻撃面に関する振り返りが多くなったが、それは裏を返せば、中断期間明けの2試合を通じて、名古屋がいかに「試合時間を支配すること」に重きを置いていたかを物語っている。実際、健太監督が後半戦に入ってから、それまでのような率直なコメントを控えるようになった点にも、その変化が表れているのかもしれない。
- 清水のインサイドハーフ陣が持つ自由度に対し、名古屋のディフェンス陣はよく耐えた。しかし後半に入り、自由にプレーできる選手が交代で次々と投入されると、名古屋の守備陣は大外へ引き出される展開が増加。1対1の場面では後手に回るシーンが目立ち、攻撃的な選手たちの守備参加における強制力の弱さが露呈した。それは、健太監督の彼らに対する「リスペクト」あるいは「甘さ」のようにも映った(前任の監督なら、間違いなく出場機会を失っていたであろう)。
- そして最後の失点シーンに関しては、前後の時間帯の試合運びも含めたベンチワークに問題があった。なぜこの時間帯に全員で前からプレッシャーをかけに行く判断をしたのか。ピッチ上では、攻撃構造の再現性が急に曖昧になる一方で、守備構造だけは90分間通して維持を求められる。その偏りが選手たちを混乱させた側面も否定できない。
- 特に、途中投入された選手たちに対しては、あらかじめ手綱を握らせておくべきだった。たとえば野上のように、試合を“締める”術を知るベテランがいたにもかかわらず、その経験がうまく活かされなかった点には、ベンチと現場の連携の弱さも感じられた。