お題箱からのリクエストです。
プロサッカーチームが受け取るお金は、実は大会で勝ったときにもらえる「賞金」だけではありません。Jリーグには、クラブがもっと成長し、もっとファンに愛されるための、ユニークな仕組みがあるんです。ここでは、Jリーグの少し複雑なお金の流れを、誰にでも分かるようにやさしく解説します。
J1リーグの報酬は「2階建て」!
JリーグのトップであるJ1リーグのクラブがもらえるお金は、大きく分けて2種類あります。これを「2階建て」のイメージで見ていきましょう。
1階部分:分かりやすい「年間賞金」
これは、シーズンが終わったときの順位に応じて、上位3チームに贈られるお金です 。一年間の頑張りが、直接「賞金」という形で評価される、とても分かりやすい仕組みですね。
表1:J1リーグ 年間賞金(2025年度)
順位 | 賞金額(円) | 付与される記念品等 |
優勝 | 300,000,000 | Jリーグ杯(優勝銀皿)、日本サッカー協会会長杯、メダル、チャンピオンフラッグ |
2位 | 120,000,000 | Jリーグ杯(準優勝銀皿) |
3位 | 60,000,000 | – |
優勝すると3億円!これはもちろん大きな金額ですが、実はJリーグの報酬全体で見ると、これは一部分にすぎません。もっと大きなお金が動くのが、2階部分の仕組みなんです。
2階部分:Jリーグの未来をつくる「理念強化配分金」
こちらがJリーグの報酬システムの主役、「理念強化配分金」です 。これは単なる順位へのご褒美ではなく、「もっとJリーグを盛り上げよう!」という未来への投資金のようなものです 。
この配分金は、2つのポイントで評価されます。
ポイント①「強さ」:安定して強いクラブを育てるお金
ここ数年の成績が良いクラブに支払われるお金です。ポイントは、一度だけでなく、複数年にわたって支払われること 。例えば、優勝すると2年間に分けて合計5億円がもらえます 。
こうすることで、クラブは収入が安定し、「今年優勝したから来年は大丈夫」という短期的な視点ではなく、「これから3年、5年かけてもっと強くなろう!」という長期的な計画を立てやすくなります。まさに、持続的に強いチームを育てるための賢い仕組みですね。
ポイント②「人気」:ファンを大切にするクラブを応援するお金
試合の強さだけでなく、「どれだけ多くのファンを惹きつけたか」も評価の対象になります 。DAZNでの視聴者数など、人気を示すデータにもとづいて、上位のクラブにお金が分配されます 。
これにより、たとえ一時的に順位が下がっても、たくさんのファンに応援されている人気クラブは安定した収入を得ることができます 。同時に、すべてのクラブが「もっとファンサービスを頑張ろう!」「面白いサッカーで観客を増やそう!」と考えるきっかけにもなります。
賞金より大きい?配分金のインパクト
実際に2025年度にヴィッセル神戸が受け取るお金を見てみましょう。
- リーグ優勝賞金(1階部分):3億円
- 理念強化配分金(2階部分):5億5,000万円
なんと、未来への投資である「配分金」のほうが、優勝賞金より80%以上も多いのです 。これは、「目先の勝利も大事だけど、それ以上に、ファンに愛され、長く安定して輝き続けるクラブであることがもっと大事だよ」というJリーグからの強いメッセージと言えるでしょう。
表2:理念強化配分金 競技順位配分モデル(シーズン成績ごと)
順位 | 1年目支給額(円) | 2年目支給額(円) | 総額(円) |
優勝 | 250,000,000 | 250,000,000 | 500,000,000 |
2位 | 180,000,000 | 180,000,000 | 360,000,000 |
3位 | 150,000,000 | 70,000,000 | 220,000,000 |
4位 | 150,000,000 | – | 150,000,000 |
5位 | 120,000,000 | – | 120,000,000 |
6位 | 90,000,000 | – | 90,000,000 |
7位 | 60,000,000 | – | 60,000,000 |
8位 | 50,000,000 | – | 50,000,000 |
9位 | 40,000,000 | – | 40,000,000 |
10位 | 30,000,000 | – | 30,000,000 |
人気順位配分:ファンとの関係強化を収益化
理念強化配分金のもう一つの柱は、DAZNの視聴者数などのデータにもとづいて算出される「人気順位」に応じた配分です。これは、ピッチ上の成績だけでなく、ファンを魅了し、リーグのメディア価値向上に貢献したクラブを金銭的に報いるための仕組みです。総額5億4,000万円の資金が、ファン指標の上位10クラブに分配されます。
表3:理念強化配分金 人気順位配分モデル
人気順位 | 支給額(円) |
1位 | 170,000,000 |
2位 | 120,000,000 |
3位 | 70,000,000 |
4位 | 50,000,000 |
5位 | 40,000,000 |
6位 | 30,000,000 |
7位 | 20,000,000 |
8位 | 20,000,000 |
9位 | 10,000,000 |
10位 | 10,000,000 |
この制度の狙いは、クラブの収益源を競技成績から部分的に切り離すところです。
これにより、人気クラブが、一時的に成績が低迷したとしても、急激な収入減に見舞われることを防ぐ「財務的なセーフティネット」として機能します。
これは、クラブの利益(ファン拡大)とリーグの放映権パートナーの利益(契約者増)を一致させる、共に成長するための財務関係を構築するものです。
補足:観客動員上位の名古屋グランパスが人気順位配分では10位というのはまた別途考察が必要だと思います。
カップ戦の賞金はどうなってるの?
Jリーグには、リーグ戦以外にも大きなカップ戦が2つあります。
YBCルヴァンカップと天皇杯
面白いことに、この2つの大会の賞金額は全く同じに設定されています 。
https://www.jleague.jp/leaguecup/2025/history/outline.html
表4:YBCルヴァンカップ チーム賞金(2025年度)
順位 | 賞金額(円) | 付与される記念品等 |
優勝 | 150,000,000 | Jリーグカップ、メダル |
準優勝 | 50,000,000 | 楯、メダル |
3位 | 20,000,000(1クラブあたり) | 楯 |
表5:天皇杯 チーム強化費(2025年度)
順位 | チーム強化費(円) |
優勝 | 150,000,000 |
準優勝 | 50,000,000 |
3位 | 20,000,000 |
歴史の長さでは天皇杯が先輩ですが、賞金を同じにすることで「どちらの大会も同じくらい価値がある、重要なタイトルだよ」という意思を示し、大会全体の価値を高めています 。
ちなみに、天皇杯の賞金は、公式には「チーム強化費」と呼ばれています 。これは、「このお金はクラブの借金返済などではなく、未来の選手を育てたり、練習環境を良くしたりするために使ってね」という、サッカー界の発展を願う主催者の想いが込められた、素敵なネーミングですね。
一点だけ、天皇杯とルヴァンカップで違いがあります。天皇杯では、各ラウンドを勝ち上がったチームには、次戦への準備金も支払われます。
- 1回戦 : 500,000円(税別)
- 2回戦 : 1,000,000円(税別)
- 3回戦 : 1,000,000円(税別)
- ラウンド16(4回戦) : 2,000,000円(税別)
- 準々決勝~準決勝 : 3,000,000円(税別)
https://www.jfa.jp/match/emperorscup_2025/regulations.pdf
まとめ:Jリーグが目指す未来
2025年度のお金の仕組みをみてみると、Jリーグが単に強いチームを表彰するだけでなく、リーグ全体の未来を真剣に考えていることが分かります。
- 一番大切なのは「理念強化配分金」:目先の勝利よりも、ファンを増やし、長く安定して経営できるクラブになることを応援している 。
- 2つのカップ戦は同格:ルヴァンカップも天皇杯も、同じくらい価値のあるタイトルとして盛り上げようとしている 。
Jリーグの報酬システムは、クラブの成長を後押しし、日本のサッカー界全体を豊かにするための、非常によく考えられた戦略的な仕組みなのです。
