はじめに
2024年の加入以降、苦しいチーム事情もあいまって、批判にさらされる場面もあった中山克広選手。しかし2025年夏以降、主戦場である右WBから左WBでの起用がメインになったことで、見違えるような活気が生まれました。SNS上でも、中山選手への賛辞が急増したように感じます。
2024年ルヴァンカップ決勝でのPK献上と勝ち越し弾、2025年7月の途中出場・途中交代……。苦しい経験を重ねてきた彼が、なぜ今、左サイドで輝きを見せるようになったのか。本記事ではその理由を考察していきます。
なぜ中山選手は「グランパスの左サイド」で活きたのか
結論から言えば、「中山選手が得意なプレーを発揮しやすい環境が、左サイドにあったから」です。
一般的に、選手が試合で活躍するためには、以下の条件が複数組み合わさる必要があると考えます。
- 選手のコンディションが良い
- データが少なく、相手チームが対策を打ちにくい
- チームとして、その選手が得意なプレーを出せる構造になっている
- プレーの感覚が合う選手が周囲にいる
今回の場合、「2」は当てはまりません。中山選手も長谷川監督もJリーグでの実績が長く、データは十分に揃っているからです。「1」についても外部からは判断しづらいため割愛します。
本記事では、重要な要素である「3」と「4」について深く掘り下げていきます。
中山選手が得意とするプレー
まずは、中山選手の武器を再確認しましょう。(過去記事:[中山克広はどんな選手なのか?] もご参照ください)
私が考える彼の得意プレーは以下の3点です。
1. スピードに乗ったドリブル
最大の武器はやはりスピードです。
Jリーグ公式の2025シーズン・トップスピードランキングでは、永井謙佑選手と共に6位タイの35.3km/hを記録(1位は岡山のウェリック・ポポ選手:35.5km/h)。Jリーグ屈指のスピードを活かし、広いスペースで加速しながら相手DFをかわして前に運ぶのが真骨頂です。
2. 斜めに走り込んでのアシスト・ゴール
タッチライン際から一気にギアを上げ、斜めに相手DFの裏へ走り込むプレーです。グランパスではまだ数字(得点)に直結していませんが、決定機に迫るシーンを時折見せています。
3. 逆サイドからのボールに詰める(ファーサイドへの飛び込み)
過去の映像で頻繁に見られた形です。逆サイドからのクロスに対し、マークを外すのが巧みです。特にマイナスのクロスよりも、DFラインとGKの間のスペースに流し込まれたボール(アーリークロス等)へ、相手より先に触ってシュートを打つ場面が印象的でした。
グランパスのWBに求められる役割
一方で、グランパスのWBにはどのようなタスクが求められるのでしょうか。
- 1.「狭い局面」での打開力
- ビルドアップの出口となるため、相手に狙われやすく、挟まれたり後ろ向きで受けたりする「不利な状況」が多くなります。サイドライン際の狭いエリアで、1人、2人を剥がす力が必要です。
- ビルドアップの出口となるため、相手に狙われやすく、挟まれたり後ろ向きで受けたりする「不利な状況」が多くなります。サイドライン際の狭いエリアで、1人、2人を剥がす力が必要です。
- 2. 攻守の切り替え(強度と走力)
- 攻撃から守備へ移る際は激しくプレスをかけ、奪えなければ自陣深くまで全力で戻る。逆に奪った瞬間は相手ゴールへ直進する。この「切り替えの早さと強度」はグランパスの肝であり、サボることは許されません。
グランパスにおける「右と左」の決定的な違い
中山選手が右サイドで苦しみ、左サイドで輝いた理由は、「チームの左右非対称な構造」にあります。
特に右サイドでは、中山選手の得意な「広いスペースでのドリブル」と、チームが求める「狭いエリアでの打開」に大きなズレが生じていました。このズレが解消されたのが左サイドです。
左右の違いを整理してみましょう。
比較項目 | 右サイド | 左サイド |
チームの狙い | 人をかけて攻撃(CBも上がる) | バランス重視(CBは残る) |
CBのタイプ | 運動量豊富、攻撃参加型 (内田、野上、原) | 守備能力、球出し重視 (河面、佐藤) |
スペース | 密集しやすい(狭い) | 広大なスペースがある |
中山選手の守備 | 深い位置まで戻る必要がある | ハーフライン付近で待機可能 |
1. チームの狙いと周囲の選手(環境面)
2024年夏以降、チームは「右で攻め、左でバランスを取る」形を一貫しています。
これに伴い、左サイドで中山選手と組むことになったCMF森島司選手とFW木村勇大選手の存在が鍵となりました。
- 森島司選手: 高い運動量と視野で、最終ラインから前線へボールを運びます。
- 木村勇大選手: 中央から左に流れてボールを引き出し、タメを作ります。
2. 攻撃面:なぜ左なら活きるのか
右サイドは人が密集するため、連携による崩しが求められますが、左サイドには中山選手が好む「広いスペース」があります。
さらに、ただスペースがあるだけでなく、「活かす連携」が生まれました。
森島選手から木村選手へ縦パスが入り、木村選手が左へ流れて起点を作る。空いたスペースへ中山選手がトップスピードで走り込む。この「森島→木村→中山」の3人の連携は、まさに冒頭で挙げた「得意なプレーを出せる構造(3)」と「気の合う選手(4)」の合致でした。
3. 守備面:攻撃力を残せるポジション取り
右サイドではCBも攻撃参加するため、その裏の穴を埋めるべく、中山選手は自陣深く(時にはCBより後ろ)まで戻る必要がありました。これでは攻撃に出る体力が削がれてしまいます。
一方、左サイドのCB(佐藤選手など)はリスク管理をしてくれるため、中山選手はそこまで下がる必要がありません。
相手の攻撃を凌いだ後、ハーフライン付近で手を挙げてボールを要求する中山選手の姿をよく見かけました。守備免除に近い位置取りができるようになったことで、攻撃に専念し、得意のドリブルを発揮できる回数が増えたのです。
終わりに
苦しんだ1年半を経て、ようやく「活躍できる環境」が整った中山選手。その矢先の怪我離脱は、選手として本当に悔しいものだったと思います。来シーズンこそ、この悔しさを晴らす活躍を期待しています。
また、チームとしても苦しい2025シーズンでしたが、観客動員数の歴代最多更新や、ピサノ選手の代表デビューなど明るい兆しもありました。
来期は監督やGMが変わり、チームは大きく変革するかもしれません。しかし、「グランパス」というチームは選手・スタッフだけでなく、街やファミリーも含めて作られるものです。
変化を恐れず、議論を楽しみながら、共にチームを見守っていきましょう。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

