
サッカーの中継やグラぽのコンウェンさんの記事でよく見る「xG」や「xGA」。
数字ばかりで難しそうに見えますが、
- xG=ゴール期待値は「どれくらいゴールの匂いがしたか?」を数値化したものと考えると、とても分かりやすくなります。
- xGA=被ゴール期待値は「どれだけ冷や汗をかいたか(ピンチの総量)」を表す数字です。
今年の名古屋グランパスには、このxGとxGAに関しておかしな現象が起きていました。その現象を編集長のシーズンレビューで論じる前に、この用語について皆さんに整理しておいていただければと思います
xG(ゴール期待値)とは?
xGは「そのシュート、普通ならどれくらいの確率で入るの?」 という数値です。 (xG = Expected Goals)
過去の何十万本という膨大なシュートデータをもとに、「この場所から、こういう状況で打ったら、何%の確率でゴールになるか」をAIやコンピュータが計算しています。
数値は 0(絶対に点が入らない)〜 1(絶対に点が入る) の間で表されます。
xGの仕組み:チャンスを積み上げる
- PK(ペナルティキック):xG 0.76 くらい
- → 「歴史的に見て、PKは76%くらいの確率で決まる大チャンスですよ」という意味です。
- ゴール目の前の「ごっつあんゴール」:xG 0.90 以上
- → 「これは外す方が難しい!」という絶好機。
- ペナルティエリア外からのミドルシュート:xG 0.03 くらい
- → 「100回打って3回入るかどうか」という難しいシュート。
ポイント: シュートが入ったかどうか(結果)ではなく、「どれくらい良いチャンスを作れたか(過程)」 を評価する指標です。
xGの数値を決める「要因」
ただ場所が近いだけではxGは高くなりません。以下のような要素が考慮されます。
- 距離と角度: ゴールに近く、正面に近いほど高い。
- 体の部位: 足で打つか、ヘディングか(ヘディングの方が難しいのでxGは低め)。
- パスの種類: スルーパスからか、クロスボールからか。
- プレッシャー: 相手DFが目の前にいるか、フリーか。
xGの数字を見ると「何がわかる」の?
チームの「未来」が見える(勝ちは続くのか?)
サッカーは「運」の要素が強いスポーツです。シュートがポストに当たって入るか外れるかで、勝敗がひっくり返ります。
xGを使うと、今の好調(または不調)が「本物」かどうかがわかります。
- 「内容も伴った勝利」なのか?
- 状況: 試合に勝ったし、xGも相手より高かった。
- 診断: これは「健康的な勝利」です。この強さは本物なので、次も勝てる可能性が高いです。
- 「メッキが剥がれそうな勝利」なのか?
- 状況: 試合には連勝しているけど、実は毎試合xGで負けている(相手より決定機が少ない)。
- 診断: これは「運だけの勝利」や「GKの神がかり頼み」です。
- 未来予測: 「このままだといずれボロが出るぞ(連敗が始まるぞ)」という危険信号です。
ポイント:目先の勝ち点に騙されず、「このチーム、今は勝ってるけど、近いうちに落ちるな」といった予想ができるようになります。
ストライカーの「本当の才能」が見える
「点を取る選手=良い選手」なのは間違いありませんが、xGを使うと「その選手がどういうタイプの名手なのか」を分解できます。
A. 「魔法使い」タイプ(決定力が異常)
- 特徴: xG(チャンスの数)は少ないのに、ゴール数は多い。
- 意味: 「普通なら入らない難しいシュート」をねじ込んでいます。
- 選手例: 全盛期のメッシ、ソン・フンミンなど。
- 深掘り: チームが苦しい時に、理不尽なゴールで助けてくれるスーパーヒーローです。ちなみに2025年のレオ・セアラー選手はxGが11.589とめちゃめちゃ高いのに、さらにゴールが21とさらに上振れするという信じられない選手だったりします。
B. 「嗅覚の天才」タイプ(ポジショニングが神)
- 特徴: xGの合計がすごく高い(そしてゴール数もそれなりに多い)。
- 意味: 誰よりも多く「ごっつあんゴール」の場所に顔を出せています。
- 深掘り: 一見「簡単なゴールばかり決めている」ように見えますが、実は「そこに走り込めること」自体が凄まじい才能です。
- 選手例: ハーランド、かつてのインザーギなど。
- ※逆に「xGが高いのに点が取れない」場合は、「動き出しは最高だけど、シュートが下手(またはスランプ)」という診断になります。悲しいかな名古屋グランパスのエース達は・・・
チームの「攻め方の性格」が見える
「xG」と「シュート数」を組み合わせると、そのチームがどうやって点を取ろうとしているか、性格判断ができます。
- シュート数「多」 & xG「低」 = 【数打ちゃ当たる作戦】
- 遠くから無理やりミドルシュートを打ったり、崩しきれていないのに焦って打っている状態。
- 「攻めているように見えるけど、実は相手にとって怖くない」ことが多いです。
- シュート数「少」 & xG「高」 = 【スナイパー作戦】
- 確実に入る!という状況(ゴール前ドフリーなど)を作るまで、我慢強くパスを回して崩しています。
- マンチェスター・シティやアーセナルのような、組織的な強豪チームによく見られる傾向です。
xGのまとめ:xGで「納得感」が得られる
xGを理解すると、試合後のモヤモヤに「答え合わせ」ができます。
- 「なんで負けたんだ!」と怒る代わりに、
- → 「xGは圧倒していた。今日は相手GKを褒めるしかないな(チームは悪くない)」と冷静になれる。
- 「勝ったー!」と喜ぶ代わりに、
- → 「xGは負けていた。今日はラッキーだったから、次の試合は修正が必要だな」と冷静に分析できる。
つまり、xGは「感情的な一喜一憂」を「論理的な納得」に変えてくれるツールなんです。
この2つの数字を使うと、「運」や「選手の凄み」 が見えてきます。
xGA(被ゴール期待値)とは?
xGA(Expected Goals Against)は、「普通に考えたら、何点取られていてもおかしくなかったか?」 を示す通知表です。
サッカーを見ていると、こんなシーンがありませんか?
- 「うわー!完全にやられたと思ったけど、相手が外して助かった…」
- 「キーパーが奇跡的に止めたけど、守備はズタズタだったな…」
試合結果が「0失点」だったとしても、内容はボロボロだったかもしれません。その「守備の崩され具合」を誤魔化さずに数値化したものがxGAです。
相手チームが打ったシュートの「xG」を全部足したものが、こちらの「xGA」になります。
- xGAが高い: 相手に決定的なシュートをたくさん打たれている(守備が崩壊している)。
- xGAが低い: 相手に危険なシュートを打たせていない(守備が堅い)。
xGAの仕組み:ピンチを積み上げる
計算方法はシンプルです。「相手チームのxG(ゴール期待値)」を全部足した数が、こちらのxGAになります。
xGAの数値を決める「要因」
例えば、相手に3本のシュートを打たれたとします。
- ロングシュートを打たれた(xG 0.02)
- → 「余裕、怖くない」
- キーパーと1対1を作られた(xG 0.45)
- → 「危ない!半分の確率で入る大ピンチ!」
- PKを与えてしまった(xG 0.76)
- → 「絶体絶命!」
この試合のxGAは、 0.02 + 0.45 + 0.76 = 1.23
つまり、「内容的には1.23点分くらい取られても文句言えない守備でしたよ」 ということになります。
xGAで「守備のタイプ」がバレる
xGAを詳しく見ると、そのチームの守備が「本当に堅いのか」、それとも「運が良いだけなのか」が分かります。
パターンA:【鉄壁の要塞】
- 実際の失点「0」
- xGA「0.1」
- 解説: そもそも相手にシュートを打たせていないか、打たれても全然怖くない場所からしか打たせていません。「完璧な守備」です。
パターンB:【神キーパー頼み】(要注意!)
- 実際の失点「0」
- xGA「2.5」
- 解説: 数字上は2〜3点取られているはずなのに、失点はゼロ。これは「守備陣は崩壊しているけれど、ゴールキーパーがスーパーセーブを連発して無理やり止めた」か、「相手が勝手に外してくれた(運が良かった)」状態です。誰ですか名古屋グランパスの伝統的なパターンねとか言う人は。
- → 監督としては「勝ったけど、守備を修正しないと次は負けるぞ」と危機感を持つべき状態です。
パターンC:【不運、あるいはザル】
- 実際の失点「3」
- xGA「0.5」
- 解説: ほとんどピンチはなかった(0.5点分くらい)のに、3点も取られた。これは「キーパーが簡単なシュートをミスした」か、「相手のスーパーゴール(ミドルシュートなどがたまたま決まった)」によるものです。守備の組織自体は悪くないことが多いです。
xGAの「質」と「量」の話
ここが少し詳しいポイントですが、同じxGA「1.0」でも、中身によって意味が変わります。
- ① 小さなピンチの積み重ね(xG 0.05 × 20本 = xGA 1.0)
- 遠くからたくさん打たれているだけ。守備ブロックを作って「打たせている」なら、それほど問題ありません。
- ② 1回の大ピンチ(xG 0.80 × 1本 + その他 = xGA 1.0)
- シュート数は少ないけど、完全に崩されて決定機を作られている。一発でやられるリスクが高く、こちらの方が改善が必要です。
xGAのまとめ
「守備陣がどれだけ相手にプレゼントを渡してしまったか」 の総額です。
- xGAが低いチーム = 相手に希望を与えない、塩対応な守備。
- xGAが高いチーム = スリル満点。キーパーの負担がブラック企業並みに重い守備。
もし応援しているチームが「最近勝っているけど、xGAはずっと高いまま」だとしたら……それは「そろそろ運が尽きて大敗するかも」というサインかもしれません。
xGAは、そんな「未来の危険予知」にも使える数字なんですよ。
最後に
xG(ゴール期待値)やxGA(被ゴール期待値)を深掘りすると、サッカー観戦が「結果を楽しむもの」から「過程(プロセス)を味わうもの」に変わります。
- xG(ゴール期待値): 「どれくらい良いチャンスを作れたか」
- xGA(被ゴール期待値): 「どれくらいピンチを迎えたか」
xGやxGAはサッカーにおける「嘘発見器」であり「レントゲン写真」です。スコアボードに表示される「1-0」や「3-0」という結果が、本当に実力だったのか、それとも偶然だったのかを丸裸にします。
これらは、試合結果(スコア)だけでは見えない、チームの本当の調子を知るための「通信簿」のようなものです。
たとえば「試合には負けたけど、xGは相手より高かった」なら、「内容は良かったから、次は勝てそうだ」とポジティブに捉えることができます。
あまりこれまでこの数値を気にしたことがないという方がいたら、是非これから気にしてみてください。コンウェンさんの記事が面白くなるかも。
そして編集長のシーズンレビューでは、名古屋グランパスの2025年のxG、xGAの問題を明らかにします。