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10年の時を超えた帰還。#小屋松知哉 が「背番号58」に込めた覚悟と、名古屋を救う必然 #grampus

10年の時を超えた帰還。#小屋松知哉 が「背番号58」に込めた覚悟と、名古屋を救う必然 #grampus

はじめに:10年の時を経て交錯する運命

2025年12月30日、名古屋グランパスは柏レイソルからMF小屋松知哉選手の完全移籍での加入(2026シーズン)を発表しました。このニュースは、単なる一選手の移籍にとどまりません。クラブの歴史という文脈の中で、サポーターの感情を強く揺さぶる「情緒」と、再建へ向けた明確な「戦略」の両方を帯びた出来事だと言えます。

名古屋グランパスにとって2025年シーズンは、リーグ戦16位という苦渋の結果に終わり、チーム再建が急務となりました。一方で小屋松知哉選手は、柏レイソルでリーグ戦37試合出場3得点+10アシストを記録し、チームの2位躍進に大きく貢献。さらにJリーグ優秀選手賞を受賞するなど、まさにキャリアの絶頂期にありました。

“上位争いの柏”から“再建途上の名古屋”へ。明暗がくっきり分かれたシーズンの直後に、成功の只中にいる選手が、古巣である「苦境のチーム」へ戻る。この決断の重さは、彼がコメントで残した「覚悟」という言葉そのものが、何より雄弁に物語っています。

この記事では2026年シーズンよりミハイロ・ペトロヴィッチ新監督(以下、ミシャ)を迎える名古屋グランパスにおいて、小屋松知哉選手がどのような戦術的変革をもたらし得るのかを掘り下げます。(1)キャリアの変遷(2)2025スタッツ(3)ミシャ式での最適配置の順に分析・考察していきます。

小屋松知哉はどんな選手なのか:悲劇の「9分間」からリーグ屈指のチャンスメーカーへ

小屋松知哉選手のキャリアを語るうえで、2014年の「悲劇」と、そこから10年間にわたる「再生と進化」の物語は避けて通れません。彼のプレースタイルの変遷は、現代サッカーが求める「アタッカー像」のアップデートそのものでもあります。

2014年:未完に終わった英雄のデビュー

京都橘高校時代、第91回全国高校サッカー選手権大会で5得点の得点王(仙頭啓矢と並ぶ)となり、同校を準優勝に導いた小屋松選手は、鳴り物入りで2014年に名古屋グランパスへ加入しました。そのスピードと決定力は同期の青木亮太と共に「名古屋グランパスの将来を担う逸材」と称され、即戦力としての期待値は計り知れないものがありました。

しかし、2014年4月6日のJ1第6節・サンフレッチェ広島戦でのプロデビューは、悪夢へと変わります。後半28分に投入された彼は、わずか9分後の後半37分、接触プレーにより左膝前十字靭帯断裂という大怪我を負いました。クラブ発表で全治6か月は、ルーキーイヤーのすべてを奪い去っただけでなく、「爆発的なスピード」を武器とする選手にとって、キャリアを左右しかねない試練だったと言えます。

2015年の開幕戦(松本山雅FC戦)で復帰し、プロ初ゴールを記録したものの、当時の名古屋はクラブとしての過渡期にあり、2016年にはJ2降格を経験します。小屋松選手自身も完全な輝きを取り戻しきれないまま、京都サンガF.C.への移籍を決断することになりました。

この「やり残したこと」への思いが、今回の復帰コメントにある「覚悟」の源泉になっている——そう考えるのは、ごく自然なことです。サポーターにとっても、あの「9分間」で止まってしまった時間が、10年越しにもう一度動き出す。そんな物語として、この帰還は特別な意味を持っているはずです。

京都・鳥栖・柏での戦術的成熟(2017-2025)

名古屋を離れてからの10年間は、小屋松知哉選手が単なる「速い選手」から、「戦術的な知性を備えた万能型アタッカー」へと変貌を遂げるための修行期間だったと言えます。グランパスサポーターにとっては、あの「未完のまま止まった才能」が、他クラブで時間をかけて磨かれ、いま完成形に近づいた状態で帰ってくる、そう捉えると、この復帰の重みが一段と増して見えてきます。

京都サンガF.C.時代(2017-2019):ストライカーとしての野生の復権

京都サンガ時代はJ2リーグで116試合で22得点。まず小屋松選手に必要だったのは主力として通年で活躍できる場でした。

J2リーグというフィジカルコンタクトの激しい環境の中で、小屋松選手は自身の肉体と感覚を、もう一度「作り直す」作業に取り組みました。特に2018年シーズンなどのゴールシーンを見ると、こぼれ球への反応速度や、ダイレクトボレーといった「ゴールへの嗅覚」が研ぎ澄まされていったことが確認できます。

ここで彼は、怪我への恐怖を払拭し、プロとして戦い抜くためのフィジカルベースを確立しました。言い換えれば、スピードだけに頼らない「点を取るための本能」と「当たり負けしない土台」を取り戻した時期だったのです。

サガン鳥栖時代(2020-2021):ポジショナルプレーの習得

小屋松知哉選手のキャリアにおける最大の転換点は、サガン鳥栖で金明輝監督(当時)と出会ったことです。ここで彼は、単に前へ走るだけの選手ではなく、相手の守備ブロックの間に立つ「中間ポジション(ハーフスペース)」の取り方、守備時の激しいプレッシングと連動性(守備意識改革)を、徹底的に叩き込まれました。

当時のシステム概要:変幻自在の3-5-2

  • 基本配置: 3-5-2
  • ビルドアップ: GK朴一圭が高い位置を取り、アンカーの松岡大起が最終ラインに落ちるなどして数的優位を形成します。
  • 攻撃のメカニズム: 相手のプレスを無効化し、アタッキングサードまでボールを運ぶことを最優先とします。

このなかで、小屋松知哉の果たした役割は以下のようなものでした。

  1. ポジショニング(幅 & 深さ): ビルドアップ時、左CBの中野伸哉が高い位置を取る動きに連動し、小屋松選手もサイドに開いてを取ります。あるいは、中野選手が外に開いた場合は、内側のハーフスペースに侵入します。この「相手守備陣の目線をずらす立ち位置」の妙が、鳥栖の攻撃を活性化しました。当時のインタビューには、「相手が前からプレスをかけてきた時には、GK朴から一気に前線へフィードを送る」という記述があり、小屋松選手はそのターゲットとして、背後へのランニングで深さを取る役割も求められました。
  2. 守備の献身性(トランジション):当時のインタビューでは、ボール非保持時にウイングバックやサイドハーフが素早く帰陣し、「5バック」を形成してスペースを消すハードワークに言及しています。小屋松選手はこのタスクを忠実に遂行し、「攻撃偏重の選手」というレッテルを完全に払拭しました。90分間スプリントを繰り返せる走力は、この戦術の生命線でした。

当時の選手コメントにおいて、小屋松自身が以下のように語っています。

「3バックの相手だったので僕自身はあまり下がらないことを意識して、ディフェンスラインとの駆け引きの中で裏を狙うことは…」

「基本的には前から奪いにいって、GKのところは相手がうまくてはがされてしまうので、どちらからハメて…」

※どちらも 【公式】鳥栖vs大分の選手コメント(明治安田生命J1リーグ:2021年9月18日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp) より抜粋

これらの発言は、対戦相手のシステム(3バックか4バックか)やビルドアップ能力に応じて、自身のポジショニングやプレッシングの開始位置を「微調整」していたことを示しています。これは、監督の指示待ちではなく、ピッチ上で自律的に判断を下せる高度な戦術眼を獲得していたことを示します。鳥栖時代に記録した詳細なスタッツこそ資料にはありませんが、「5試合連続無失点」や上位進出といったチームの躍進は、彼の攻守にわたる貢献なしにはあり得ませんでした。

この時期に培われた戦術理解度は、複雑な可変システムを用いるミシャ式サッカーへ適応するうえで、決定的なアドバンテージとなるのではないでしょうか。

柏レイソル時代(2022-2025):Jリーグ屈指のチャンスメーカーへ

柏レイソル(2022年ネルシーニョ監督/2023年-2024年井原監督体制下)は、サガン鳥栖のようなボール保持型とは対照的に、堅守速攻デュエルの強さを重視する傾向にありました。環境がガラッと変わる中でも、小屋松知哉選手は、持ち味であるスピードと、鳥栖で培ったポジショニングの良さをうまく融合させ、主力として稼働し続けます。速さだけで勝負するのではなく、「どこに立てば前を向けるか」「どのレーンに入れば一気に局面を動かせるか」という「賢さ」が、より実戦的な武器になっていった時期でした。

そして2025年、リカルド・ロドリゲス監督の下で、彼はキャリアの集大成とも言えるパフォーマンスを見せました。チームはリーグ2位へと躍進し、小屋松選手自身も37試合出場・10アシストという傑出した数字を残します。

特筆すべきは、彼が単なるフィニッシャーではなく、チーム最大の「クリエイター」として機能した点です。攻撃の入口と出口の両方に顔を出し、味方の動きを引き出しながら、最後の局面で「決定的な瞬間」を生み出し続けました。

そしてこれは、名古屋グランパスが2025年に最も欠如していた要素でもあります。だからこそ彼の獲得は、単なる戦力補強にとどまりません。攻撃構造そのものを変革するための「ラストピース」として、小屋松選手が加わった意味は極めて大きい、そう示唆する内容と数字だったと言えるでしょう。グランパスサポーター目線で言えば、「足りなかった最後の1枚」が、10年の時を経て帰ってきた、という物語性すら感じさせます。

スタッツ分析:名古屋グランパスの欠落を埋める「解」

ここでは、提供された詳細なスタッツデータ(SofascoreおよびFootball-Labデータ)に基づき、小屋松知哉の2025年シーズンのパフォーマンスを定量的側面から解剖します。比較対象として、2025年の名古屋グランパスで類似ポジション(シャドー、WB)を務めた主力選手である和泉竜司のデータを用い、その差異から小屋松がもたらす具体的上積み(アップグレード)を可視化します。

攻撃スタッツ分析:圧倒的な「チャンス創出力」

名古屋グランパスの2025年の課題は明確に「得点力不足」と「崩しの形の欠如」でした。以下のデータ比較は、小屋松がいかにその解決策となり得るかを示しています。

項目 (2025年実績)

小屋松知哉 (柏)

和泉竜司 (名古屋)

差異・評価

出場試合数

37 (先発33)

37 (先発36)

共に鉄人級の稼働率

得点 (Goals)

3

4

和泉が僅かに上回る

アシスト (Assists)

10

0

小屋松が圧倒的 (+10)

チャンスクリエイト総数

78 (チーム1位)

43 (チーム1位)

小屋松が約1.8倍 (+35)

ビッグチャンス創出

7

3

小屋松が倍以上の決定機を演出

キーパス (1試合平均)

1.5

1.0

小屋松がより頻繁に好機を演出

最も衝撃的なのは、「アシスト数」と「チャンスクリエイト数」の乖離です。和泉竜司選手が37試合に出場してアシスト0だったのに対し、小屋松知哉選手は10アシストを記録しています。さらにチャンスクリエイト総数でも、小屋松選手の78回に対して和泉選手は43回。実に35回もの大差がついています。

この数字が示しているのは、小屋松選手が単なる「フィニッシャー」に収まらず、攻撃の「ハブ(中継点)」として機能していたという事実です。特に柏レイソルでは、マテウス・サヴィオ選手らと共に攻撃を牽引し、チームNo.1のチャンスメーク数を記録しました。この「事実の重さ」は、名古屋グランパスの課題にそのまま直結します。

名古屋は長年、堅守速攻をベースに戦ってきました。一方で、相手がリトリートしてブロックを組んだ試合では、引いた相手を崩し切れない展開が散見されました。小屋松選手の加入は、まさにこの「崩しの局面」において、決定的なラストパスを供給できる人材が、ついに確保されたことを意味します。

パス&ビルドアップ能力:敵陣での質の高さ

ミシャ式サッカーにおいて最も重要視されるのは、相手陣内(アタッキングサード)でのプレー精度です。

項目 (2025年実績)

小屋松知哉 (柏)

和泉竜司 (名古屋)

差異・評価

ボールタッチ数 (平均)

57.7

38.4

小屋松がよりゲームに関与

敵陣でのパス成功数

21.6 (84%)

11.9 (78%)

小屋松の敵陣での安定感が突出

パス成功数 (全体)

32.7 (84%)

19.9 (80%)

ビルドアップへの貢献度は小屋松が高い

クロス成功数

0.4 (22%)

0.2 (47%)

精度は和泉だが試行回数は小屋松

ボールタッチ数は、和泉竜司選手が1試合平均38.4回なのに対し、小屋松知哉選手は57.7回。約1.5倍に達します。これは小屋松選手が、試合の中で自らボールを呼び込み、攻撃のリズムを整える「起点(ハブ)」を担っていたことを示しています。

さらに特筆すべきは、敵陣でのパス成功率84%という数値です。通常、相手陣内(とくに深い位置)ではプレッシャーが厳しくなり、パス成功率は下がりやすいものですが、小屋松選手はそこで高い水準を維持しています。つまり「敵陣で預けても失わない」「怖いエリアでもつなぎ続けられる」タイプだということです。グランパスが引いた相手を崩し切れない局面で、まさに欲しかった性質と言えるでしょう。

Football-Labのデータにおける「パスレスポンス:10」「パスチャンス:17」という高評価も見逃せません。これは、味方からのパスを引き出す動き(オフ・ザ・ボール)と、受けてから味方へつなぐ能力の両面で、小屋松選手が極めて優秀であることを裏付けています。

ミシャ式では、シャドーの選手がボランチ付近まで降りてビルドアップを助けたり、ライン間でボールを受けて前を向き、ターンして前進させたりするプレーが求められます。今回のスタッツは、小屋松選手がその役割を「机上の適性」ではなく、実戦で高い精度でこなせる可能性を示唆しています。グランパスの攻撃が「速攻だけ」から一段階上がるなら、その中心に立てるのがこの選手と言いたくなる数字です。

ドリブルと推進力:局面打開の鍵

項目 (2025年実績)

小屋松知哉 (柏)

和泉竜司 (名古屋)

差異・評価

ドリブル成功数 (平均)

0.9 (56%)

0.5 (46%)

小屋松がより個で剥がせる

被ファウル数

0.4

0.9

和泉の方が潰される回数が多い

「ドリブルチャンス:16」というFootball-Labの評価が示す通り、小屋松知哉選手は個の力で局面を打開できるタイプです。ドリブル成功率56%も、アタッカーとして十分に高い数値と言えます。ミシャ式の特徴である「数的優位を作った状態での仕掛け」においては、相手が「ズレた」瞬間に一気に前進できる選手が価値を持ちますが、小屋松選手の推進力は、まさにそこで大きな武器になります。

和泉竜司選手が全体のバランスを見ながらプレーするタイプだとすれば、小屋松選手は、より能動的に相手の守備網を切り裂く「槍」としての役割が期待できます。停滞した展開で、1枚はがして局面を動かす。引いた相手に対して「崩しのきっかけ」を作る。グランパスが欲してきたのは、まさにその種類の推進力です。

守備貢献度とフィジカル:献身性の証明

攻撃偏重の選手と思われがちですが、データは彼の守備意識の高さも証明しています。

項目 (2025年実績)

小屋松知哉 (柏)

和泉竜司 (名古屋)

差異・評価

タックル数 (平均)

0.8

0.8

同等

インターセプト (平均)

0.4

0.5

ほぼ同等

ボール回収数 (平均)

3.4

3.2

小屋松が僅かに上回る

デュエル勝利数

2.5 (46%)

3.2 (46%)

和泉の方が対人戦の総数は多い

タックル数、インターセプト数において和泉とほぼ同等の数値を残している点は見逃せません。特に「ボール回収数」で3.4回を記録しており、これは前線からのプレッシング(いわゆるゲーゲンプレス)が機能している証左です。ミシャ式サッカーは攻撃的である反面、守備への切り替え(ネガティブ・トランジション)の速さが生命線となります。サガン鳥栖時代に培った守備意識が、この数値に表れており、守備強度の面でもチームに穴を開けることなく適応できると推測されます。

決定力の課題とxG

項目 (2025年実績)

小屋松知哉 (柏)

和泉竜司 (名古屋)

差異・評価

ゴール期待値 (xG)

3.4

3.2

小屋松の方が良質な機会を得ている

実際の得点

3

4

小屋松は期待値に対し -0.4

決定機逸失

5

1

小屋松に決定力向上の余地あり

唯一の懸念点として挙げるなら、決定力です。xG(ゴール期待値)3.4に対して、実際の得点は3点にとどまり、さらに5回の「決定機逸失」も記録されています。Football-Labの「決定力:6」という評価も、決して高い水準とは言えません。

しかし、これを過度にネガティブに捉える必要はありません。むしろ重要なのは、xGが高いという事実です。これは言い換えれば、それだけ「点の取れる位置に入り込めている」ことを意味します。ゴール前に入っていけない選手は、そもそもxGが積み上がりません。小屋松知哉選手は、チャンスメークだけでなく、フィニッシュの「入口」に顔を出せる選手でもある、ということです。

ミシャ式では、シャドーの選手に多くの決定機が訪れます。だからこそ、彼がこのポジショニングの質を維持できれば、周囲(ヴィニシウスや山岸祐也選手など)との連携が深まるにつれて、得点数は自ずと伸びてくるはずです。決定力の数字は「伸びしろ」として捉え、チーム全体の連動が噛み合ったときに、ゴールという形で上積みが出ると見立てるのが自然でしょう。

新生「ミシャ・グランパス」における役割

2026年より就任するミハイロ・ペトロヴィッチ監督の戦術(通称「ミシャ式」)は、Jリーグにおいて革命的なスタイルとして知られています。この特殊なシステムにおいて、小屋松知哉はどのように機能するのでしょうか。

ミシャ式の基本概念と要求

ミシャ式の基本フォーメーションは「3-4-2-1」です。

  • 攻撃時: ボランチが最終ラインに落ち、WBが高い位置を取って「4-1-5」あるいは「3-2-5」のような形で、前線に5人のアタッカーを並べます。
  • コンビネーション: シャドーと1トップ、そしてWBが密接な距離感でワンタッチパスを交換し、相手守備を崩壊させます。
  • 可変性: 選手が流動的にポジションを入れ替え、相手のマークをずらします。

最適解としての「シャドー(2列目)」

小屋松のプレースタイルとデータを照らし合わせると、彼が最も輝くのは「2シャドーの一角(特に左)」だと考えられます。

  • ハーフスペースの支配者:ミシャ式のシャドーは、タッチライン際ではなく、相手CBとSBの間(ハーフスペース)でボールを受けることが求められます。小屋松選手は鳥栖時代にこの動きをマスターしており、敵陣でのパス成功率84%というデータが示す通り、狭いエリアでのプレーを苦にしません。
  • ラストパサーとしての機能: 2025年の10アシストは、彼が「出し手」として超一流であることを示しています。ミシャ式では、シャドーが抜け出してフィニッシュする形だけでなく、シャドーがためてWBや1トップに決定的なパスを供給する形も多用されます。小屋松選手のチャンスクリエイト能力(78回)は、ここで最大限に活かされます。
  • 「パスレスポンス 10」の意味: Football-Labのデータにある「パスレスポンス:10」は、彼が味方のパスに対する反応速度や予備動作の質においてリーグ最高峰にあることを示しています。これは、ミシャ式の代名詞でもある「第三の動き」において、極めて重要な資質です。

柏レイソル時代にハマった「ウイングバック(WB)」

小屋松選手はWBとしても高い適性を示します。ミシャ式のWBは高い位置で「槍」として振る舞うことが求められるため、彼の突破力とクロス精度は大きな武器となります。

確かに守備スタッツ(デュエル勝率46%)だけを見れば懸念材料にも映りますが、ミシャ式サッカーにおいては「自陣で守る時間」を減らし、「敵陣に押し込み続ける」ことこそが守備の重要ポイントです。小屋松選手がサイドの高い位置で脅威となり続けることで、相手のアタッカーを自陣に釘付けにし、結果として守備のリスクを排除する、そうした逆転の発想に基づく起用が考えられます。

したがってWBでの起用は、ビハインド時などの限定的な奇策ではありません。シャドーと並ぶ彼を起用したいポジションの有力候補となりえます。ただ可能であればWBの裏を守り切れる左CBの質が担保したいところです。

どちらのポジションでも必ず実力を発揮してくれることでしょう。

既存戦力とのシナジー

  • vs 和泉竜司: 和泉選手はポリバレントで、守備面でも計算が立つ選手です。現実的に想定されるのは、小屋松選手と和泉選手の共存です。たとえば、小屋松選手を左シャドー、和泉選手を右シャドー、あるいはボランチやWBで起用することで、攻撃的な小屋松選手とバランサーの和泉選手という補完関係を築けます。実際、プレシーズンマッチでは和泉竜司選手をWBに置き、小屋松知哉選手はシャドーや和泉竜司選手と交代のWBを務めたりなど、補完関係にもあります。
  • vs ストライカー陣(ヴィニシウス、山岸、木村): 2025年の名古屋はFWへのボール供給が課題でした。小屋松選手の「スルーパス」「クロス」の供給能力は、決定力のあるヴィニシウス選手や山岸祐也選手にとって垂涎の的となるでしょう。特に「ワンタッチシュート:7」の評価を持つ小屋松選手自身が、彼らの落としを受けてダイレクトで狙う形も脅威となります。

「背番号58」と「覚悟」の正体

データや戦術を超えた部分として、小屋松知哉選手の復帰がチームにもたらす精神的な効果にも触れておく必要があります。

「覚悟」という言葉の重み

移籍コメントで彼が発した「強く魅力的な名古屋グランパスにするために覚悟をもって帰ってきました」という言葉。これは、よくある定型的な挨拶ではありません。

一度は大怪我で夢を絶たれ、チームを去らざるを得なかった選手が、10年の時を経て他クラブで実績を積み上げたうえで戻ってくる。しかも、2位のチームから16位のチームへ移籍するのです。ここには、「自分を育ててくれた(そしてデビューさせてくれた)クラブを、自分の力で救う」という強烈な当事者意識が存在します。

このメンタリティは、INSIDE GRAMPUS Deep 2025を見た方が指摘していた「停滞しがち」なチームの空気を変える起爆剤になり得ます。ピッチ上のプレーだけでなく、練習場やロッカールームに漂う「当たり前」の基準そのものを引き上げる。サポーターが求めているのは、まさにそういう「背中で示す覚悟」なのだと思います。

背番号58の謎と意味

発表された背番号は「58」です。通常、主力選手であれば10番台や一桁を背負うことが多い中で、あえてこの大きな番号を選んだことは印象的です。そこには、過去の自分(ルーキー時代の22番や、その後の番号)との決別、あるいは「ゼロからの再出発」という意志が込められていると信じたくなる番号でもあります。

一方で本人は「子どもが選んだので」と話していました。(なじみ深い14や22は空いてないこともあったかもしれません)

いずれにせよ、「心機一転」を象徴する番号であることは間違いありません。

グランパスにとっても、小屋松選手にとっても、そしてサポーターにとっても、この「58」は、10年越しの物語が「続きから」ではなく、「新しい章から」始まることを示すサインになるはずです。

2026年シーズンの展望

以上の分析から、小屋松知哉選手の獲得は、名古屋グランパスにとって近年の補強の中でも合理性が高く、再建の要所を突く補強だと言っても良いのではないでしょうか。

  • スタッツ的必然性: 2025年に欠如していた「ラストパスの出し手」として、リーグトップクラスの実績(10アシスト、78チャンスクリエイト)を持つ小屋松選手以上の適任者はいません。
  • 戦術的必然性: ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ)の志向する「コンビネーションサッカー」において、高い技術、戦術眼、そしてオフ・ザ・ボールの質(パスレスポンス10)を備える小屋松選手は、戦術の核(コア)となり得ます。
  • ストーリー性: 「悲劇のルーキー」からの「凱旋」という物語は、サポーターの熱狂を呼び、スタジアムの雰囲気を高める要素になります。

2026年の小屋松知哉はどうなる?

彼がシーズンを通して健康を維持し、ミシャ戦術に順応できた場合、「7得点・10アシスト」級の数字(ダブル・ダブルに近い成績)を残すことは十分に現実的です。彼が左サイドのハーフスペースを制圧できるかどうか、そこが、新生名古屋グランパスがJ1上位へ返り咲くための最大の生命線になるでしょう。

10年前、豊田スタジアムのピッチに倒れ込み、苦痛に顔を歪めた若者はもういません。いまそこにいるのは、数々の修羅場をくぐり抜け、技と心を磨き上げた、頼れる「背番号58」です。2026年、小屋松知哉選手は名古屋グランパスの新たな「顔」として、ピッチ上で魔法をかけてくれることを期待したいところです。

小屋松知哉
小屋松知哉

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

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