この試合では名古屋グランパスの2つの「盤面」の読み違えが勝敗を分けました。
1つは物理的な盤面=ピッチコンディションの読み違えです。前半で数えてみると20回以上も選手が滑って転ぶシーンが目に付いていました。
もう1つは、ヴィッセル神戸の盤面=ゲームプランの読み違えです。
名古屋グランパスの自滅と言うべきゲームになりました。振り返りましょう。
両チームのスターティングメンバー
両チームのスターティングメンバーはほぼベストメンバー。ただしどちらのチームも配置に工夫していました。
ヴィッセル神戸は以下のような変更をしています。
- 4バックに変更
- 前線を3枚にして攻撃を強化
- 前回古橋亨梧が苦しんだオ・ジェソクを想定したか、古橋亨梧を得意な左サイドに。
名古屋グランパスは以下のような変更をしてきています。
- 右サイドバックに宮原和也を採用
- 攻撃と守備のバランスが取れているところが魅力
- これまでトップ下を務めることが多かった阿部浩之を左サイドに配置
- 左に入ったのは阿部浩之の個人の判断だった模様
阿部選手に関しては逆に、どの試合を見ても今日と同じようなゾーンで自由にプレーをさせています。自由とは好き勝手にプレーをするのではなく試合状況を見て、彼はそういう試合状況を読むことにとても優れていますので、彼が他の選手とポジションを入れ替わったりするなかで、阿部選手が一番プレーしやすい状況を作れているとは思ったのですが、なかなか今日の前半は彼のコンディションもまだ上がりきっていないかなと感じる部分もありますし、そこがもっと上がれば、よりチャンスを作る意味でも良いプレーができると思います。
引用元:https://nagoya-grampus.jp/game/result/2020/0930/report__29vs.html
ヴィッセル神戸の狙い
ヴィッセル神戸は前回対戦のときに比べると前線に1枚増やしたせいで、山口蛍の位置が一段下がっていました。
古橋亨梧が前にいるため、そのスペースを潰し合わないようにしよう、という意図もあったと思います。
攻撃はほとんどの場合でイニエスタにボールを預け、イニエスタからのフィードが来ることを信じて走り込むというパターン。シンプルですが、それによって多くのチャンスを作られてしまいました。
三浦淳宏監督のアプローチとして特徴的なのは以下のハーフタイムコメントに現れていると思います。
【ハーフタイム監督コメント】
- ボールを保持している時に距離感を大切にしてボールに寄り過ぎないようにしよう
- ボールに対して常に顔を出しながらシンプルにプレーしよう
- 後半の入りに集中して切り替えを早くしよう
引用元:https://www.vissel-kobe.co.jp/match/game/?gid=20200100012620200930&type=detail
ピッチを大きく使って、グランパスの得意な「ある局面に人を多く集めてボールを奪取」というシーンを作りづらくしていました。
常にグランパスの幅の狭いブロックの外側にヴィッセル神戸の「フリーな選手」がいて、そこからチャンスが作られているような形でした。
そのピッチを大きく、広く使えたキーマンはアンドレス・イニエスタと、それを影支えするセルジ・サンペールです。
名古屋グランパスのアプローチ
どうやら前回の対戦で、西大伍のロビングパスに裏を取られたイメージがフィッカデンティ監督や守備ラインの選手達の脳裏に深く刻まれていたようです。
もともとグランパスはあまり幅の広くないブロックを組んで、その網のなかでボールを奪ってカウンターというのが基本的な形です。
ボールを奪うポイントが低くなってしまうと、カウンターをする距離が長くなります。
ロングカウンターは相手チームがかなり守備ラインを上げてくれないと成功の確率は低くなります。
グランパスが中盤真ん中でのパス出しを捨てて(阿部浩之に任せきって)、稲垣祥と米本拓司というダブルルンバを置いているのはボールを奪うポイントを少しでも高くして、カウンターの距離を短くして成功率を上げようという狙いがあるからです。
この試合でも中盤で奪ってカウンターというアプローチは変わりませんでした。ボールを奪う位置が低くなったこと以外は。
名古屋グランパスの誤算
3 – 名古屋は第29節神戸戦での敵陣ペナルティエリア内タッチがわずか3回に終わった。J1の2015年シーズン以降、1試合での同回数としてはチーム最少だった。迷路。 pic.twitter.com/XCjQfgc4ik
— OptaJiro (@OptaJiro) September 30, 2020
この試合、名古屋グランパスはヴィッセル神戸側のペナルティエリア内でボールタッチできたのは、なんと3回。攻撃らしい攻撃はほとんどできませんでした。
パス成功率は清水エスパルス戦の84%から77%へダウン。特にテンションの高いパスの出る攻撃のシーンでミスが目立ちました。ミスが7%も増えたら攻撃がうまくいくわけもありません。
ではなんでパス成功率が下がったのでしょうか。個人的には盤面=ピッチコンディションの読み違えということもあるとは思いますが、ラインを下げてしまっていることが大きいと考えています。
悪いピッチコンディションで長い距離のカウンターを成功させるというのは至難の業です。
もう1つの失敗が、ラインを低くしたことで、イニエスタにスペースを与えたことです。
「ブロックの外側から」イニエスタがプレッシャーをあまり受けずにパスを供給できるようになっってしまいました。
途中から稲垣祥か米本拓司が必ず付くようになりましたが試合開始当初はプレッシャーがなく、伸び伸びとプレーができたはずです。
ヴィッセル神戸の選手は、繰り返しになりますがイニエスタがボールを持つと、信じて走り出します。そういったプレーを止めるのは簡単ではありません。
後半開始からの変更
後半開始から、ヴィッセル神戸は脚にトラブルのあった大﨑玲央に代えて菊池流帆を投入、古橋亨梧を本来の左サイドに戻します。名古屋グランパスは選手交代はなし。
前半のもう1つの大きな問題として、ヴィッセル神戸に自由にビルドアップさせてしまうという問題がありました。
稲垣祥や米本拓司がイニエスタに引っぱられる。すると押し上げられません。
名古屋グランパスの攻撃はサイドで押し上げるプレーが多い。そうすると中央に広大なスペースができて、サンペールが自由にビルドアップができてしまったのです。
その問題を指摘された阿部浩之は自分のポジションを前田直輝と入れ替えて、阿部浩之ができるだけ中央を見れるようにしました。とはいえ、ボールに向かってプレーしてしまうことが多く、なかなかビルドアップを阻害することができずに試合は進んでいきました。
ここで思い出して欲しいのはヴィッセル神戸の三浦淳宏監督の指示「ボールに近づきすぎないように」です。ここがグランパスはできていなかったのかもしれないです。
しかしヴィッセル神戸もドゥグラスやイニエスタの単発でチャンスを作ることはあっても決定機と言えるシーンは多くなかったと感じています。
しかし、ただ一度、縦に2回クサビをいれてワンツーを繰り返し、DFを剥がしてミドル。これを決められました。
シュートそのものよりも2回のクサビでDFを剥がしたところにアンドレス・イニエスタのワールドクラスを感じました。
得点を奪われたあとの変更
得点を奪われた後、阿部浩之を残し、米本拓司を下げてシャビエルを入れます。4-3-3にしてミラーを仕掛けました。
一定の成果を挙げ、前半とは異なり、名古屋グランパスの攻撃シーンも見られるようになりました。ただ、リードして余裕のあるヴィッセル神戸の守備を崩すまでには至りませんでした。
リードされる前に、もっとはやく手を打つことができなかったのか、というのが気になるところです。
この試合の良かった(Good!)
- 宮原和也がフル出場できたこと
- しかも宮原和也の左サイドは2017年に試合の流れで1度左に入ったことがあるというレベルの経験しかなかったはず
- パスミスもあったものの、中への繋ぎなど、フィッカデンティ監督のサッカーで求められるサイドバックの動きはしっかりとできていた
- 怪我人なく、カードもなく試合を終われたこと
この試合のもっと頑張ろう(More!)
- スカウティング不足
- ノエビアスタジアムのハイブリッド芝は滑るということは他のチームも苦しんでいた以上、本当は判っていなければならないところ
- スパイクの選択など、もっとできることがあったはず
- 試合中の修正が遅かったこと
- 前半で今季最低レベルの状況だったにも言える前半
- ハーフタイムでの修正が最低限だった
- 得点を奪われてからでは遅かったのではないか
もう1つ、ジャッジについて
セルジ・サンペール選手が米本拓司選手のスネを踏みつけたプレーがありました。残念ながら審判の立ち位置からは見えるファールではありませんでした。もしも見えていたら場合によってはイエローカード以上の判定もあったかもしれません。
でも見えないんです。審判はフィールドにいるので。
OTC公式さんのツイートも参照してください。
あともう一つ!!
リプレイ見れば分かると思うけど、これは4審がいないバックスタンド側で発生しかつ、佐藤主審からヨネ自身の体が影になっています。
このファールを取るには、副審がオフサイドラインを捨ててプレーを見届けるか、主審が通常では考えられない位置を取るしかない。 https://t.co/H13J94XRw0
— OTC公式 (@Gram_Leorep) September 30, 2020
自分はプロでもないし、競技レベルでも高いレベルでのプレーもしたことがありません。しかし拙いプレー経験に照らし合わせても、あそこであんな風にスネに体重をかける必要は特にありません。学生サッカーなら乱闘になってもおかしくないプレーです。そしてフィッカデンティ監督が言うように長期離脱に繋がる怪我になってもまったくおかしくないシーンだったと思います。
ですからファールであることは間違いないのです。
・・・ですが、見えないファールは取れません。それもサッカーのうち、と諦めるしかないでしょう。
こういった危険なプレーをきちんと拾えるようにするには、V.A.R.(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が必要です。来年以降の導入を楽しみにしましょう。