グランパスファミリーにとっては快勝でしたが、モヤモヤも少し残る試合になりました。それは稲垣祥選手への肘打ちや前田直輝選手のシミュレーション判定などがあったからです。このあたりに関しては一度きちんと整理をしておいたほうが良いかもしれないと思い、今回の記事を企画しました。
まず本題に入る前に
グラぽでは、過去4回、ルールに関して解説する記事を紹介してきました。
グラぽ編集長の記事
OTC公式さんの記事
これらの記事を読んでいただきたい、といいたいところなのですが、この中で重要なのがファールを判定する基準です。
- ボールへのプレーか
- 接触はあるのか
- 体のどこが相手選手のどこに接触しているか
- 接触の強さはどのくらいか
- 接触のタイミングは正しいか
- 接触の結果プレーができなくなっているか
これを頭にいれて、プレーを見なければなりません。接触の強さや、どこで当たって、その影響がどれくらい出ているかです。
この接触が過剰・無謀な場合は俗に「ラフプレー」と言われる競技規則にない、「危険行為」を意味するプレーとして扱われ、これはイエローカードやレッドカードの理由になります。(競技規則にはありませんが、レフェリングスタンダードにはカードの理由の選択肢として含まれています)
OTC公式さんが解説をしていただいているDOGSOやSPAなどの戦術的な理由から発生するカードとは別枠の懲戒措置になります。
まず、これを前提として持っていてください。
車の運転で考えてみよう
みなさんのなかには普段車の運転をされている方もいらっしゃると思います。
交通規則、守っていますか?
さすがに信号無視や逆走などを積極的にしている人はいないと思いますが、黄色信号で急いだけど間に合わず、交差点を通過している途中で赤色信号になってしまった、なんて経験をしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
40km/h制限の道路で、つい45km/hのスピードを出してしまった。これくらいの経験ならしたことがある人のほうが多数なのではないかと思います。
これらは厳密に言えば道路交通法違反になりますが、違反を取り締まられることはほとんどありません。
それは、1)それくらい軽微な違反を厳密に取り締まるほど警察にリソースがないから 2)取り締まりが多すぎると通常の道路交通に支障をきたすから、という2つの理由があると思います。
もちろん大きな速度違反や飲酒運転、交通事故などは程度に関係なく厳密に取り締まらねばなりません。そちらに警察のリソースを残しておく必要があります。
サッカーのプレーとの共通点
ボールに対するプレーというのは、タックル(スライディング)に代表されるように、「程度」が重要視されます。5km/hの速度違反を取り締まることは現実的にはありませんが、50km/hの速度違反は懲戒対象として取り締まります。
同じく程度問題で言うと、ユニフォームを引っぱる行為も厳密に言えば「ホールディング」の反則になります。
抜けだすようなプレーをユニフォームの引っ張りで止めるときは間違いなく懲戒対象になります。しかし、セットプレーの競り合いのようなときに、お互いユニフォームの引っ張り合いをするときはファールを取り締まったほうが有利かどうかの判断がつかず、取り締まられないことも多々あると思います。
また飲酒運転や交通事故は程度に因らず取り締まられますが、これはその「行為」そのものが重要視されるからです。サッカーでもハンドリング(ハンド)は、ハンドリングと判定するための基準がいくつかありますがそれに当てはまれば程度関係なくファールとして取り締まられます。
今年の審判の置かれている状況
今年の過密日程は審判にも影響が出てきています。
選手は疲労が見えたら交代することができますし、試合を休むこともできます。しかし、審判は怪我などの特別な状況を除けば交代ができません。これはかなり厳しい。
年齢層も高いプロフェッショナルレフェリーなどは、シーズン終盤に至って、相当な疲労の蓄積があるように思えます。
また 太古の森と漆黒の獣さん @nemuranaimati の指摘では、
- 今年のレフェリングの基準として、接触プレーの許容「程度」を引き上げる
- ということはファールを流すケースが増える
- プレイが切れにくいので、レフェリーが止まって休めるタイミングが減り、トータルの運動量が増える
- 疲労が溜まり、判定精度が落ちる(見逃しが多くなる)
ということも考慮したほうが良い、とも言われています。
私たちはついついレフェリーに完璧を求めてしまいます。しかし、かなり難しい状況でレフェリングをしているということを理解しておく必要がありそうです。
モヤモヤポイント1:レアンドロと稲垣祥のバチバチ
59分にレアンドロがグランパス右サイドでボールキープしているところに稲垣祥がしつこくチャージを繰り返したプレーに苛立ったレアンドロが左後ろからボールを奪おうとする稲垣祥の顔面に肘を入れたプレーです。
前提として頭に入れておきたいこと
FC東京との前回対戦時には大活躍をされたレアンドロとディエゴ・オリヴェイラに対しては、米本拓司や稲垣祥を中心に、「取り締まられない15km/h以内の速度違反」や、「違反で取り締まられるけど、大事にならない(=カードが出ない)25km/h以内の速度違反」を繰り返して、厳しくマークをしていたことです。
プロフェッショナルのサッカーでは、接触プレーがまったくないなんてことはありません。どちらのチームも速度制限ギリギリ、もしくは「取り締まられない15km/h以内の速度違反」の応酬があるわけなので、どちらのチームだけがクリーンで、どちらのチームだけがダーティなんてことはあり得ないのです。
東京ボールになったわけ
これはこの試合のそこまでと同様に、稲垣祥のプレーがファール相当と見なされたからです。ですから不思議はありません。
肘打ちに懲戒処置が行われなかったわけ
肘打ちはストライキング(相手競技者を打つ、または打とうとする。)という反則になります。ここで注目して欲しいのが「打とうとする」も反則になることです。これはラフプレーという扱いになることがほとんどで、本来ならばカードの対象になることが多いものです。
同じレアンドロ選手の肘打ちの場面についてはJリーグジャッジリプレイで取り上げられたことがあります。
このときは審判が見ていない場面だったため、ノーカードで終わりましたがイエローカード相当であろう、という意見で出演者の意見が一致していました。
同じ動画の後半でストライキング(腕と肘で押し払う)の反則について、Football Zone Webが以下のように報じています。
新ルールでは、今回のようにアドバンテージを適用した場合、流した反則が「決定的な機会の阻止(DOGSO)」ならば、退場だったものが「反スポーツ的行為」で警告になり、「大きなチャンスの妨害、または阻止(SPA)」であれば「反スポーツ的行為」で警告だったものがノーカードに緩和されるようになった。しかし、「ラフプレー」の場合はそれに関係なく、ファウルをした選手に警告が示されることになっているという。牧野氏によれば、そもそも「ラフプレー」の反則は「反スポーツ的行為」と別物なのだという。番組では詳細な説明こそなかったものの、「ラフプレー」は選手を危険に晒すプレーであり、警告する必要があるからこそ別で捉えられていることが見えてくる。
引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/2b325ba701ae66731688c025da42da4e0b006ce4
この記事のなかでは以下のようにサンペール選手のプレーを紹介しています。
J1第8節、北海道コンサドーレ札幌対ヴィッセル神戸の前半40分のシーンだ。センターライン付近でこぼれ球に反応した札幌MF高嶺朋樹がドリブルを開始し、少し運んだところでチャナティップにショートパス。その直後、後ろから追いかけた神戸MFセルジ・サンペールが、高嶺の首下あたりを肘で押してアフターチャージ気味に倒してしまう。主審は、ボールがチャナティップにつながったことでアドバンテージを適用。しかし、今度はチャナティップがサンペールに倒され、そこで札幌がフリーキックを得ることになった。サンペールには口頭の注意はあったが、イエローカードなどの懲戒罰は与えられなかった。
引用元:https://news.yahoo.co.jp/articles/2b325ba701ae66731688c025da42da4e0b006ce4
サンペール選手のストライキングについてはアドバンテージが絡んだため、ノーカードだったと番組中で説明がありましたが(このあたりはOTC公式さんの記事をちゃんとチェック!)、同じ番組のなかで東京都サッカー協会審判委員長の牧野明久氏が「前に人がいて、選手を避けるために出した手。ラフプレーになるようなものではない」という解釈を示しました。
ラフプレーと解釈した場合は、他のファールや、アドバンテージなどに因らず、カードが出されるのが慣例ですが、これはラフプレーではないとレフェリーが判断したので、アドバンテージ>ノーカードになった、というわけです。
これらを考え合わせるとレアンドロ選手の肘打ちにカードが提示されなかったことには、以下の3つの理由が考えられます。
- そもそも、レアンドロの肘打ちの場面が見えていない
- 肘打ちの場面は見えていたが、サンペール選手のときと同様に「選手を避けるために出した手」と見なした
- 肘打ちの場面は見えていたが、大した接触とは考えなかった(ちょっとの接触で大げさに倒れたと見なした)
見えていなかったとすれば審判の責任ではありますが、今年の特殊な状況を鑑みるとそれを責めることはできません。見えていた場合の判断は「見なした」「と考えた」と語尾がなっていることに気づくと思います。そう、主審にどう見えているかで判定されているのです。
判定はすべてレフェリーの主観から
サッカーというスポーツの判定は、機械で代替することはできません。たとえば「程度の問題」などをすべてAIで置き換えるというのは難しいのです。たとえば15km/hオーバーと16km/hオーバー、そのしきい値で区切れるのかどうか。AIで下す判断はどうしても分断的です。本来ならば道路の状況などに応じて速度違反の悪質度は変わります。同じように「状況判断」までを機械任せにできない以上、人間が判定する必要があるからです。
2,3の場合は、審判の主観でそう見えた、ということなので、テレビでいろんな方向から見ることができ、スローでも見れる私たちファミリーは、「なんで見えてくれないんだよ」と嘆くことしかできないのです。
モヤモヤポイント2:前田直輝のシミュレーション判定
シミュレーションは「相手選手のファウルによる転倒を装って、審判を欺く行為」のことです。特に攻撃側の選手がPKを得るために、相手のペナルティエリア内で故意に転んでみせるケースで発生します。
このシミュレーションと判定されると、行為として罰せられるものなので、程度によらず直ちにイエローカードが出されます。ただシミュレーションなのかどうかはレフェリーにとっても非常に難しい判定になります。
判断のフローは基本的には上のような形になります。
まずは守備側の選手との接触があったのか、なかったのかが問題になります。なかったのにワザと倒れたと判定されたらシミュレーションの判定になります。
その次に「接触の結果プレーができなくなっているか」が問題になります。
- プレーができるはずの軽い接触だった場合はノーファールでそのままプレー継続(プレーオン)
- プレーが継続不可能な重い接触の場合はPK
- ワザと接触しにいって倒れる(厳密に言うと、これはイニシエートという反則になります)
- 上のフローには含まれませんが、プレー継続可能なのに倒れに行くと、これもシミュレーション
これでだいたいのことはわかるはずです。
個人的な感想としては、前田直輝がそんなにワザとファールを貰いにいくプレーをするタイプではないと思っているので、シミュレーションの判定でイエローカードが提示されたとき、「うそだー!」とは思いました。
https://twitter.com/a_pplaus/status/1328116589036675072?s=20
すると、見えづらいあのプレーの決定的なシーンの写真を撮ってくださる方がいました。あぷろーずさん @a_pplaus のこの画像を見る限り、まったく接触がなかったわけではないことがわかります。
(2020年11月17日20:00追記)動画でも、この突破のシーンを撮影している方がいらっしゃいました。ソウソウさんです。
前田直輝選手へのシミュレーション判定についての動画
ポイント
①主審の立ち位置
②副審への確認なく直ちに警告提示納得のいかない直輝は、リスタート後も同サイドの副審と話をしてました。
一つ言えることは、3人に囲まれても果敢に突破を試みる直輝、最高❗❗🔴🟡#grampus pic.twitter.com/IIDIgcNwgK— ソウソウ (@guri_gura2010) November 16, 2020
だとすると(ちゃんと接触が見えていたならば)シミュレーションの判定理由は「ワザと当たりに行った」と見なされたか、「プレー継続可能なのに倒れた」のどちらかということになります。いずれにしても「レフェリーを騙そうとした」という風に松尾主審には見えていたということです。
もしかしたら繋がっているかもしれないこと
この試合では激しい球際のせめぎ合いがあり、かなりバチバチのやりとりがありました。
これは仮説ですので、真実であるかどうかはわかりません。
もし、後半59分のレアンドロの肘打ちが見えていなくて、グランパスの選手達はレアンドロを退場させる(もしくはイエローカードを出させるように)レフェリーを騙そうとしているのでは・・・という疑念があったとしたら・・・
また、グランパスの選手達が自分を騙そうとしている、そう感じる下地を作ってしまっていたかもしれません。
判定はレフェリーの主観によるもの
すべての判定は、レフェリーの主観によって決定されるものです。
Jリーグジャッジリプレイでも今回の前田直輝のシミュレーションの判定について、(この試合をフルマッチをみているわけではないと前置きしながら)深野悦子氏が「試合のなかの文脈も影響する」と、騙しているという風にレフェリーに感じさせるものがあったのでは、と示唆しました。
審判に詰め寄ったり、煽ったりする行為がたまに見られますが、それは得策ではないということです。人間なので、主観にブレが出ることは避けることができません。我々ファミリーや選手がそのブレを積極的に作らず、レフェリーと良い関係が作れるようにしていくことが、良いジャッジを生む要因になるのではないでしょうか。
ここで思い出したいのが以前のOTC公式さんの記事にも取り上げられたラグさんのツイートです。
- ファールを受けた、ラフプレーを受けたとしても過剰なアピールはしない。
- プレーをファールやラフプレーを受けた瞬間は可能な限り継続する。
- その後気づかれていないようであればアドバンテージにならないようにプレーを止める。
グランパスの選手はレフェリーを騙そうとしたりしていない、と感じさせることが大事なのかもしれません。
主観で判断するならば見えている必要がある
ただ、気になるのは松尾主審がちゃんとこのシーンを見れていたのかどうかです
https://twitter.com/a_pplaus/status/1328283721401659394?s=20
同じくあぷろーずさんのツイートです。引きの画像で見ても、主審の松尾一さんの姿は見えません。もちろん余り寄り過ぎても全体像が見えなくなり、正しく判定ができなくなりますが、少し遠すぎるように感じます。これも過密日程、そして審判への負荷が高いからか、動き切れていないのではないかと感じてしまいます。
今年の過密日程ならではの不幸と、ここは割り切るしかないのかもしれませんね。
謝辞
今回の記事の制作にはOTC公式さんと太古の森と漆黒の獣さん、査読にはOTC公式さんの尽力をいただきました。お二人に心より感謝を捧げます。
快くツイートの引用許可もいただいたあぷろーずさんもソウソウさんもありがとうございました。
以上で皆さんのモヤモヤが少しでも晴れてくれることを祈っています。