「サッカーに限った話じゃないけど、内容より結果だ、て言う人がいますよね」
「いるな。概ね『どんなに内容が良くても勝てなければ無意味だ』という意味で言ってるようだ」
「この言葉に違和感を覚えるんですよ。だって内容が良ければ勝てるはずじゃないですか」
「人間がやる以上、絶対は無いからな。内容が良くても勝てないことはあるだろう」
「だとしても、じゃあ内容が悪くても勝ちさえすれば良いのかって話ですよ」
「それは結果に対する評価と過程に対する評価とを分けるべきって話だよな。結果評価としては『勝ってるんだから良い』に決まってるが、過程評価としては内容の悪さは問題だ」
「内容が良くなければ、勝てない確率が高まる。勝つ確率を上げるために内容を良くしていこうってことですよね」
「『勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし』だよ」
「ノムさん(元野球監督、故・野村克也さん)の言葉ですね」
「そうだが違う。ノムさんも別の人の言葉を引用してたんだよ」
「そうなんですか。初耳です」
「元々は江戸時代の松浦静山という大名・剣術家の書いた言葉なんだ」
「意味としては、なんかよくわかんないけど勝っちゃうこともあるけど、負けるときは絶対に原因がある、ですよね」
「ちょっと違うな。『負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、その試合中に必ず何か負ける要素がある。一方、勝ったときでも、すべてが良いと思って慢心すべきではない。勝った場合でも何か負けにつながったかもしれない要素がある』という意味だ」
「勝った試合であっても内容を分析し改善できることはしていこう、てことですか」
「そのとおり。ここで逆に質問だ。『良い内容』てなんだ?」
「えっ……うーん……ボール支配率が高い、シュートを多く打ってるとか?」
「お前だってその程度の理解なんじゃないか(笑)。真面目に言うと、サッカーにおいて、どういう内容が良いのか悪いのかっていうのは、チームコンセプトとかで変わってしまうものだ」
「じゃあ一般化は不可能なんじゃないですか?」
「そのとおり。だから『J1で優勝するための内容』と限定して解説しようと思う」
良い内容ってなんだ?
「良い内容とは、良い結果を得るためのものだとして、ならば良い結果とはなんだろう?」
「試合に勝つことですよね」
「試合に勝つために必要な内容とはなんだ?」
「相手チームより多く得点し、失点を少なくする」
「そのとおり。そして実際の得失点は確率の問題なので、つまり『良い内容』とは、得点可能性が高く失点可能性が低いプレーの時間を増やすこと、と言えるだろう」
「どんなサッカーなんでしょうか」
「それを答えられたらプロのコーチになれるだろうな(笑)」
「ええ……。じゃあやっぱりデスクもわからないんじゃないですか」
「焦るなよ。そこまで専門的な・掘り下げた内容は言えないけど、単に『ゴールが多い』とか『失点が少ない』だって、試合結果に対しての内容ではあるわけだ」
「なるほど」
「シーズントータルで見た時に、良い結果ってなんだ?」
「J1優勝でしょうか」
「そのとおり! ちょっと乱暴な定義にはなるんだが、J1優勝したってことは、シーズンを通じて一番良い内容のサッカーをしていた可能性が高いわけだよな」
「つまり優勝チームの数字を見れば、良い内容がわかるかもしれない、ですか?」
「少なくとも優勝できる目安くらいはわかると思うんだよ」
J1優勝のために必要な内容(数字)ってどれくらい?
「18チーム1シーズン制となった2005年以降の優勝クラブの数字を纏めると、次のようになる」
年間勝点 | 得点 | 失点 | 得失点差 | ボール支配率(%) | |
中央値 | 72 | 63 | 31 | +29 | 54.3 |
最大値 | 83 | 88 | 58 | +57 | 61.4 |
最小値 | 60 | 51 | 25 | +17 | 50 |
- ※2016年では年間最大勝点の浦和レッズの値を使用
- ※2021年は34試合換算した値を使用
- ※ボール支配率は2012年以降の値を使用
「中央値が、ざっくり言っちゃうと『優勝するために普通はこんくらい欲しい』内容になるわけですね」
編注:山口素弘GM「当然、今年もそうですし、昨年も優勝したフロンターレとの勝点差が約20ポイントあります。これをどうやって縮めていくかが、今後の課題」
引用元:山口素弘ゼネラルマネジャー オンライン囲み取材 | インサイド・グランパス
長谷川健太監督「前任のマッシモ監督のストロングである守備というところの良い部分は残しながら。あとは攻撃の部分に関しては昨シーズン44得点ということで、一昨シーズンも45得点で、得点が50点以上ないとリーグチャンピオンには届かないと思うので、攻撃力はさらに上げていきたいなと思っています」
引用元:【動画】長谷川健太監督就任記者会見 | インサイド・グランパス
「そのとおり。こうして見ると、長谷川健太監督が『優勝するためには50得点必要』と言っていたけど、50得点では足りないってわかるよな」
「最少でも51得点、普通は63得点しないと優勝できない」
「ボール支配率なんかも、どんなに低くても50%、普通は54.3%支配できなければ優勝できないわけだ」
「川崎フロンターレ以前だと、Jリーグではボール保持型のチームは勝ってないイメージだったんですが、意外とそうでもなかったんですね」
「考えてみれば当たり前の話なんだよ。さっきも言ったとおり、得失点は確率の問題だ。つまりボール支配率を高めれば1試合あたりの得点確率は上がり失点確率は下がるんだから、得点>失点となる……要するに強いチームなら基本的に相手よりボールを持ってるはずなんだ」
「それでも54.3%もあれば十分、と」
「低く感じるかもしれないが、約55%の支配率なら、相手の支配率は100-55=45%であって、相手より10%も長くボールを支配している」
「試合時間90分の内、単純計算で相手より9分多くボールを持っている、と」
「アクチュアルプレーイングタイムで考えれば実際には5~6分だろうけどな」
※アクチュアルプレーイングタイム:ボールがラインを出てからスローインやゴールキック、コーナーキックで試合が再開されたり、ファウルの判定からFKが蹴られるまでなどの時間を除いた、「実際にプレーが動いている時間」のこと。Jリーグではだいたい60分未満。参考→ アクチュアル・プレーイングタイム ~いつも心にリスペクト Vol.40~
長谷川健太監督で優勝できそう?
「長谷川健太監督のJ1戦績は次のようになる」
年間勝点 | 得点 | 失点 | 得失点差 | ボール支配率(%) | |
清水 | 54.5 | 51.5 | 41.5 | +9.5 | データ無し |
ガンバ | 60.5 | 54.5 | 39 | +15 | 51.8 |
FC東京 | 53.5 | 45 | 38 | +5 | 45.9 |
「選手の質・層等、監督だけで解決できないことはありますが、安定した戦績ですねえ」
「少なくとも降格の心配は無さそうだ。数字から読み取れることを箇条書きにするとこんな感じだろう」
- 失点数は非常に安定している(約40失点)が、優勝を目指すには10失点程度の改善が必要
- 得点数も10得点程度の改善が必要
- 東京時代に優勝に届かなかったのは「ボールを持てなさ過ぎた」のが原因ではないか
「攻守に10点ずつ要改善ってハードルが高いように思えますが……」
「そこは監督自身に成長して欲しいところだよな。ちなみに優勝時のガンバでも59得点31失点で、得点数自体は物足りなかった」
「ガンバ時代と比べると東京時代の得点数&支配率低下も気になりますね」
「ガンバ時代ではまだまだ衰えていなかった遠藤保仁がいたし、選手の傾向やクラブ文化的にもボール保持が合っていたんだろうな。他所から見た勝手なイメージで恐縮だが、FC東京は伝統的に堅守速攻型だから、そのあたりの兼ね合いもあったんだろう」
「グランパスではどうなりますかね?」
「クラブが長谷川健太監督にどんな選手を用意できるかで変わりそうだな。サガン鳥栖との試合でも、仙頭の試合中の工夫を咎めなかったようだし、選手を縛り付け過ぎない監督ではあるようだ」
余談
「マッシモ・フィッカデンティ時代のグランパス、『堅守』とよく言われていましたが、優勝クラブ基準では『これくらい守れて当たり前』よりちょっと失点数少ないくらいだったんですね」
「前任者をあまり悪く言いたくはないが、一般的に『堅守』と言われるのは『攻撃に目立ったところが無い』『それしかできない』場合がほとんどだ」
「(´・ω・`)」
「おあとがよろしいようで」
「それではまた次の記事でお会いしましょう」