Hi, there! グラサポのレフェリング・ルール担当のOTC公式(@Gram_Leorep)です。
今回はグラサポの皆様のフラストレーションがたまったと思われる、J1 16節の広島VS名古屋の西村主審ジャッジレビューからはじまり、J1 15節名古屋vs広島のチアゴの退場、さらには特別テーマ「主審によって判定基準が異なるのは仕方ないか」についてお話しようと思います。
さぁ、今日も楽しくレフェリングについて一緒に勉強していきましょう!
というテンションで始まったのですが、久々に気が重い投稿です。
私はレフェリングについて見たり語るときに、基本的にグラサポである心を殺して見ています。
今回取り上げないといけないのはどれも微妙な事象が存在する試合です。
ですので、読者の皆様には、「レフェリングに詳しい人からは、客観的にどのように見えるのか」という視点を感じ取っていただいて、今後の試合を見るときの参考にしていただければと思います。(今回もなるべく分かりやすく解説していきます)
第一章 J1 16節 広島VS名古屋 西村主審レフェリングレビュー
審判団: 主審:西村雄一 副審:田尻智計、田中利幸 四審:西村幹也
VAR:上田益也 AVAR:武田光晴
この試合、名古屋が中二日のゲームで散々な内容であったこともあいまって、西村主審のレフェリングにフラストレーションを溜めた方、西村主審が嫌いになった方が一定数いるんじゃないかと思いました。また、「レフェリングに一貫性がない」「基準がぶれている」と感じた方も多いのではないでしょうか。
そんなグラサポの皆様の気持ち、分かります。「結果的に」名古屋に不利な判定が連続してしまいました。
では、本当に「基準がぶれていた」のか、一貫性がなかったのかを検証するために、
重い腰をあげて試合を見返してみました。以下がアセスメントの結果です。細かいことはいいよ!という方は、表を読み飛ばしてください。大切な箇所は黄色マークします。
(これ、まとめるのって、試合時間の2倍ぐらい時間がかかるんです・・・ああ、大変だった・・・)
DAZN片手にどうぞ!(少しミスがあるかもしれませんが、そこはご愛嬌で)
(正誤は〇正しい・妥当 △どちらでもよい、サポート可能 ▲ギリ、サポート可能 ×誤りで表します)
時間 | チーム | 対象 | プレー内容とジャッジの解釈 | 正誤 |
---|---|---|---|---|
●前半 | ||||
0:15 | 名古屋 | 稲垣 | アフターチャージ | 〇 |
3:00 | 名古屋 | 仙頭 | プッシング | 〇 |
5:11 | 名古屋 | 森下 | プッシング | 〇 |
11:58 | 広島 | 藤井 | プッシング | 〇 |
16:23 | 広島 | 柴崎 | 手を使用して倒す(プッシング) | 〇 |
17:12 | 広島 | 塩谷 | ファール→アドバンテージ | 〇 |
17:14 | 広島 | ベンカリファ | キッキング | 〇 |
20:00 | 広島 | 満田 | ファールチャージ | 〇 |
22:31 | 名古屋 | マテウス | プッシング | 〇
|
25:40 | 広島 | ベンカリファ | キッキング | 〇 |
27:08 | ー | GK武田転倒も、自らファールをもらいにくプレーのため、ノーファール | 〇 | |
27:15 | 名古屋 | 稲垣 | 野津田へキッキング。(強くインパクト)ノーカード →ファールの意図はなく「アクシデント」。 イエローでもおかしくないが、ボールへの意図があるため、アクシデントとして、イエローから1段下げる。 |
〇 |
29:09 | 広島 | 佐々木 | マテウスをトリップ。一般的にはイエローカード。 →おそらく、広島の守備の枚数・距離(35m)・プレーの意図を鑑み イエローなしでコミュニケーションで収めようとした。(ギリギリサポートの範囲) |
▲ |
31:52 | 広島 | 藤井 | 塩谷のファール→アドバンテージからの手を使ってマテウスを止める | 〇 |
35:43 | 広島 | ベンカリファ | ベンカリファの足と中谷の足が交錯。ノーファール →「アクシデント」でトリッピングの意図はないためファールを取らない< |
〇 |
37:20 | 名古屋 | レオシルバ | トリッピング | 〇 |
38:39 | 名古屋 | マテウス | トリッピング | 〇 |
43:21 | 広島 | 藤井 | 足裏が相馬の足に入るも、ノーファール。 →ファールまたはイエローが妥当。恐らく串刺しで見れなかった。 ただし、足裏はボールにアプローチした後にアクシデンタルに入ったもの &勢いもないため、レッドにはあたらない。もちろんVARは介入しない。 |
× |
46:39 | 広島 | 満田 | トリッピング | 〇 |
47:09 | 広島 | 藤井 | 相馬とのPA内競り合いで相馬転倒もノーファール →藤井のプレーの意図はボールへのプレー。 また、相馬は見えていないうえ、クロスの反応は藤井の方が早い。 相馬は分が悪い状況からチャレンジしたので、転倒はフットボールコンタクト。 |
〇 |
●後半 | ||||
49:55 | 名古屋 | 森下 | プッシング | 〇 |
51:44 | 広島 | 柴崎 | プッシング | 〇 |
52:08 | 広島 | 満田 | トリッピング | 〇 |
53:34 | 広島 | ベンカリファ | 手の不正使用 →ファール取らなくてもOK |
△ |
56:00 | 名古屋 | マテウス | 佐々木が倒れるも、ノーファール →佐々木はファールをもらいに行くプレー |
〇 |
56:05 | 広島 | 満田 | 稲垣倒れるも、ノーファール。 →ファールっぽいが、はっきりと分からない。 (カウント対象外) |
? |
56:15 | 名古屋 | レオシルバ | アフターチャージ | 〇 |
59:10 | 広島 | サントス | プッシング | 〇 |
63:36 | 広島 | ? | 石田が転倒も、正当なチャージ | 〇 |
69:55 | 名古屋 | 藤井 | 名古屋DF藤井のハンド疑惑も、体に手がついておりノーファール | 〇 |
71:05 | 広島 | 満田 | 中谷のボールへのアプローチでノーファール | 〇 |
71:12 | 名古屋 | 中谷 | 満田にボールを奪われた後のプレー。お互いシャツを引っ張っているので、 ノーファールでもOK。ただし、より激しく先に引っ張った中谷にファール。 |
△ |
77:34 | 名古屋 | 酒井 | PAエリア内でのファール。 →酒井は「ボールのキープのため相手を手でブロック」というよりも、 「相手を手で抑える」ことを目的として、手を使った。 相手重心をかけているうえ、ボールは広島の選手にもアプローチできる位置にある。 (広島の選手の左足が、酒井よりも前に出ており、完全に酒井のボールではない)下図参照 →もちろん、取らない主審もいます。 |
△ |
78:30 | 名古屋 | 内田 | プッシング
|
〇 |
79:22 | 稲垣 | 手を使って倒す | 〇 | |
82:50 | 広島 | ベンカリファ | キッキング | 〇 |
88:05 | 広島 | 藤井 | 手を使って、相馬の突破を止める。 →ボールへの意図がなく、あからさまにファール。 前半から相馬VS藤井はやりあっていて、西村さんもコミュニケーションをとっていた。 |
〇 |
90:23 | 名古屋 | 藤井 | 名古屋DF藤井のハンド疑惑も、肩 | 〇 |
93:17 | 広島 | 長沼 | ファールチャージ→アドバンテージ | 〇 |
図(酒井のPAファール時の切り抜き)(本来のファールの判断は写真ではできないもの、リプレイがなく分かりにくいため、状況整理のための図を載せます。西村さんも不当にブロックしたみたいなジェスチャーをいていました)
さあ、いかがですか?
読み飛ばした皆様、黄色マークのところを見ただけでも、何か気付くことありませんか?
えっ?名古屋に結果的に不利な判定になっている?
それはそうなのですが、キーワードがあります。それが、「ボールへの意図」と「アクシデント」です。
ですので、私は前半のHTに以下のようなツイートをしました。
いち早く基準に(つまり、ボールにチャレンジしていけば、激しくいっても大丈夫)気付いた広島はよりアグレッシブに闘ったという訳です。つまり、西村主審の基準は何一つブレてないんですね。ただし、グラサポの皆さんがブレてると感じるのも無理がない。「プレーの意図」を基準にするって若干分かりにくいんです。(実は去年も同じような記事を書きました。家本さんの試合のレビューです。この試合でも、グラサポの皆さんはフラストレーション溜めまくりでしたね)
2021年J1リーグ29節 横浜FM戦レフェリング解説 #grampus
普段だったらきっとタフでいい試合になるレフェリングかなと感じましたが、名古屋は中2日のデーゲーム。タフにいけないですよね。
グラサポからすると、名古屋に不利なジャッジ連続。客観的に見ても、「結果として」名古屋に不利なジャッジに。これが、フラストレーションを溜まった原因ですね。
あともうひとつ。意外と正解率高くないですか?
私の集計では37のジャッジに係る事象のうち、
- 〇:正解・妥当:32
- △:どちらでもよい、十分サポートできる:3
- ▲:ギリギリサポートできる:1
- ×:誤り:1
という結果でした。つまり、35/37が文句をつけれない、「妥当」の範囲内のジャッジだったのです。しかし、文句をつけたくなる▲と×が名古屋にとって不利に働いてしまったということです。レフェリーって大変ですね。
ただ、このような感情抜きに分析することで、ロジカルに物事を捉えると違ったものが見えて来ることが分かるかと思います。
さて、次の事象に行きましょうか。
J1 15節 名古屋VS福岡 チアゴの退場シーン
動画上では2:40~
おそらく、AWAY広島戦でこのプレーがあったら、先述の基準からするとイエローかなと思います。(ボールへの意図はあった、アクシデンタルの接触のため)
ただし、この試合では主審は異なり、基準も試合を通じて「行為そのもの」で判断されていました。(どちらかというと、この方が競技規則に忠実に判定できる、楽な判定方法かと思います)
ですので、このシーンは「プレーの意図を大切にする」家本さんのジャッジだとイエローカード止まり。一方で「足裏が遅れて相手の膝にがっつり入る」という「行為」を見た清水主審のジャッジだとレッドカードになったわけです。
つまり、どちらも間違いではありません。
ただし、この試合で私が退場のジャッジよりも問題に思ったのは、一貫性です。
というのも、比較的競技規則通りに裁くと楽で分かりやすくはあるのですが、しっかりとしたポジショニングを取らないと、ファールを見過ごすことになります。
ファールを見過ごすと、基準がブレているように感じるというカラクリです。
ただ、終わったことには仕方がないので、今後レフェリング技術の改善に努めていただくしかありません。まだ、PR1年目。伸びしろですね。
レフェリーごとにスタイルが違うのは悪か?
2試合の主審の基準をとってみても、だいぶ基準に違いがあるのが分かると思います。
まだ西村さんや清水さんは可愛い方です。
J1には、イエローカードに恨みでもあるのか、というぐらいカードを出さない福島さんという超個性的なレフェリーもいますし、FIFA基準でバチバチの木村さん、さらによりバチバチの荒木さん、自分から倒れるプレーには絶対に笛を吹かない鉄の意志をもつ小屋さんなど、バリュエーションが豊かです。
最近、
- レフェリーなんて個性がいらない
- みんな機械的に同じ基準で裁いてくれないの?
という意見を目にしました。そこで緊急アンケート。
「レフェリーによって判定が違う・見解が分かれるのは」(試合内での基準はブレていないのは前提で)という質問について、約3割の方が「誰が笛を吹いても同じ判定がいい」と答えました。個人的な予想よりも多かったのですが、名古屋のサポーターは昔からレフェリーに泣かされるイメージがあるので、致し方ないかもしれません。
(何故レフェリーごとにスタイルがちがうのかは以下の過去の記事をご参照ください)
結論から言うと、私は主審によってスタイルが違うのは仕方ないと思うし、その方が楽しいと思っています。(以前の記事では、競技規則に限界があるので全て言語化することは不可能と解説しましたね)
さらに、機械的に画一的にファールを取る審判が増えると、サッカーが面白くなくなると考えています。
サッカーは同じシチュエーションは2度となく、プレーの仕方・意図・状況・強度はその場面場面で変わります。例えば足の接触があった際に
・足でブロックして接触を誘発したので、ノーファール
・足の接触でけられたり、躓いたのでファール
この2つの事象の判断には、主審の主観やサッカー観が大きく影響するはずです。
これを機械的に判定しようとすると、競技規則に忠実にレフェリングするしかないかと思います。
上記の事象も競技規則通り「足を蹴られた、トリップされたのでファール」となり、どうしてもプレーの意図や強度、状況をくみ取れなくなるかと思います。そして、機械的に判定するレフェリーが増えると、「ファールを取るのが上手い審判」が急増する訳です。ファールを取るのが上手いレフェリー、誰か思いつきませんか?昔の家本さんですね。
競技規則の奴隷と化してコンピューターのように正確な判定を繰り返すことができる審判を増やせばどのレフェリーが裁いても同じような判定になるわけですね。
そんな状況、求めてますか?
色々な意見があるかと思いますが、私はレフェリーにも個性があったほうが面白いかなと思います。(どこの国のレフェリーを見ても個性がありますし)
とはいえ、「個性」と「技術」は別問題です。レフェリーにとって大切なことは、レフェリング技術の向上に限ります。特に、個人的にはFIFA基準で吹けるレフェリーが増えてもらいたいと思っています。(ただし、FIFA基準はJリーグ基準とは結構乖離があると思っているので、要注意。例えばVARはもっと積極的に介入するし、カードや退場者は簡単に出るし・・・この話はおいおい・・・)
さいごに
さて、いかがでしたか。
ルールやワンシーンの解説ではなく、レフェリング全体に関するという解説でした。
この話、需要あるのかな・・・と結構疑問ではあります。
レフェリングって難しいですよね、ちょっと視点が違うだけで、全く別の印象を持ったり、基準がぶれていると思うものも実は一貫していたり、人によってカードの色が違ったりと。なので、私のお勧めはひとつひとつの判定の「正誤」を見つけることではなく、「受け入れられるか否か」の視点でみることです。そうすると、許容する範囲が広くなって、精神衛生的に良いです。
あともう一つ、判定は必ずしも正解は一つではないということを覚えておくことが大切です。同じ事象でも2通り、3通りの答えがあり、それがすべて間違いじゃない、正解ということもありえます。
レフェリングを色々な角度から見てみる、そうするとより面白くサッカーが見れるのではないかなと思います。
試合のレフェリングで不明点があれば気兼ねなくメンションしてください!
長文失礼しました!