6000人程のルヴァンカップ。そこにいた人たちにとっては大きな希望を見た試合となった。
結果は敗戦となったが、それ以上に得るものがあった試合。振り返っていく。
試合情報
神戸の形
神戸は旧来のグランパス対策の定番とも言える、自チームのサイドの選手(パトリッキと泉)で名古屋のウイングバックを押し込み、センターバックのラインを上げる形を取った。
神戸は中盤の底のサンペールを2人で抑えにくる名古屋FWの横に選手を置き、名古屋のセンター2枚(豊田、倍井)に守備で選択肢を迫る形を取った。豊田と倍井の裏には神戸は中坂と富永を配置し、プレス連動すると山田の脇を使えるような配置をとった。
左サイドではリンコン、中坂、パトリッキが場所を入れ替わりながら長田と甲田の攻略を試み、右では高橋が泉の外や中を駆け抜ける事で河面と鈴木を外側へ引っ張り出す形を作っていた。
神戸の攻撃時に山田がサイドに引っ張り出されることでバイタルスペース(ペナルティエリア中央前の空間)ががら空きとなりピンチになる状況が何度か訪れた。
名古屋の右と左
試合開始直後、神戸は構えて名古屋の中央を消し、ウイングバックには人を当てる事を基本の形とし、そこから最終ラインへのプレスを始める形を取る。
山田を浮かせたくない神戸はサンペールも連動して前から来るが、それをいなすきっかけを作っていたのが榊原と豊田の2人だった。本来ターゲットとしていたサンペールが自分の周りからいなくなることもあり、その空いたスペースに顔を出して受ける動きで神戸のプレスを開始5分で裏返してしまった。
左サイドの倍井と鈴木は右のユニットよりも輝く回数が少なかったが、これは彼らのポテンシャルの問題というよりは構造上の不具合によるものが多かった。
まずは倍井が関西圏で活躍中の影響なのか執拗に扇原にマークされていた事。それに加えて神戸側の山田を消す為の前線が倍井サイドの富永とリンコンで挟んでいた事。これにより山田は右サイドか、半列下がって顔を出しに動く事が多くなった。
神戸側は狙ったのかは分からないが、左サイドでは鈴木と倍井を人で見る形とし、榊原が絡むことが多くなる右サイドでは中央にボールを出させないように中を絞めるような形をとった。
中へのボールの供給路がブロックで断たれてしまった事により、倍井や鈴木へのボールの供給が難しくなってしまった。但し、右サイドで豊田や甲田、榊原の技術で縦に進行できるシーンが増えたタイミングで甲田が受けたらブロックの間を横方向に侵入して相手を剥がすような選択も見られた。
27分のシーンのように右から早い速度でやり直し、河面から倍井の直通路を空ける形をもっと意図的に取れれば鈴木や倍井のサイドの光る回数はふえたのかもしれないが、右サイドが詰まっていても崩す自信がある選手達で構成されたユニットという事もあり、「早くやりなおして縦に刺す」といった緩急の「急」の部分の使い方の難しさが見えた。「急」の扱い方が上手いリーグ戦のメンバー達とのマリアージュに期待したいところ。
緩急の「急」の部分で倍井が輝いたのは前半23分。カウンターでボールを受けた倍井が“斜めに横断”するようにドリブルをする。扇原とパトリッキがいるサイドへ持ち運び、神戸の全てのディフェンダーの目を引き付けた。その後も貴田にボールが届けられると、大外へ飛び込むように走り込み、倍井の“ゴールまでの道筋を想定する能力”の高さが垣間見えるシーンだった。
両チーム修正を加えた後半
後半に入って明らかに榊原は前半より中央でボールを待つ形を作った。そうする事で扇原が倍井から剥がれていき、倍井が山田からボールを受けて前を向く形が前半より増えた。
神戸側もプレスに行く場面ではサンペールが山田まで張り付くような形を作った。それに対してすぐに河面がサイドに捌けてボールの受け所となるなど、両チームとも後半開始10分程で形の修正合戦が続く。
とくに神戸は前半にプレスを誘うと長田も引っ張られて連動してくる事を見ていたのかパトリッキを落としてウイングバックを誘い出す形を多用。前半は引いて甲田と長田で抑えていた場所から後半は石田と長田を引っ張り出す事に成功する。
試合雑感
- 河面は守備時のディレイの仕方がサイドラインでプレイするプレイヤー寄りだなと改めて身体の使い方を見て思った。(身体の使い方はセンターバック仕様じゃないが、球の出し方や技術的には今の名古屋の後ろをやってくれると大戦力)
- 前線はかかり過ぎていたのか周り見てたら1点!のシーンがかなり多かった。良くも悪くも若さ
- 内田はボールホルダーに寄って行く事で周りのスペースをコントロールするようなスタイルで前半の豊田とはかなり色が違った。それをどう使うか?が失点されてから投入されたこともあって全員で共有出来ておらず苦しい展開となった。球を扱う技術などはピカイチ。前監督の時から練習参加してるだけある逸材
- 長田。身体の入れ方、競り方等、何も遜色なくやり遂げていた。フィードも出来る。プレッシャーに対してもバタつかない。現地で見た人はもしかするとものすごいものを見ていたのかもしれない
- 豊田、倍井、榊原といったオフザボールの天才達。素晴らしい矛を見せてもらった。トップリーグで継続してやっていくのに必要なのは「パワー」ここからが正念場。
- 14分の河面のアウトサイドでの球の入れ方。受ける側が欲しいと言ったら入れられる能力はかなり魅力的
さいごに
全員が納得のいくようなプレイタイムでは無かったのかもしれませんが、若い選手達にとっては大きな大きな1歩、リーグ戦で控えに回ることの多い選手達にとっては逆襲の第一歩かと思います。チームとしても継続とチャレンジが並行できている時期。
チーム成績も何とか維持していきたいですね。