概要
- 「その選手が出場している時間での得失点差」(プラスマイナス)のためのデータ取得に成功したのでご報告します.
- 今年度の弊学科(名城大学情報工学科)の卒業研究で学生が取得してくれたデータです.
本編
(前編はこちら)
サッカーは各選手の貢献を定量化するのが非常に難しい競技です.その中でも比較的簡便に算出できるのが「その選手が出場している時間での得失点差」(プラスマイナス)という指標です.
元々はアイスホッケーやバスケットボールなど、選手交代が頻繁でそれが記録されている競技で算出されている指標です.主な用途として、直接得点が記録されることが少ない守備選手の貢献の定量化に使われます.
今年度の小中研の卒業研究でこの算出に取り組んでおり、データ取得までできたので速報的にお知らせいたします.
「プラスマイナス」の説明と難しいところ
プラスマイナスそのものは定義が明確であまり難解なところはありません
守備の選手にも得点(攻撃)の貢献を、攻撃の選手に失点(守備)の貢献を平等に分配する方法です.
ただし、値が低い選手が必ずしも能力が低いことを示すわけでは無い(同時に起用される選手に影響を受ける)点には注意が必要です.また、同時に出場することが多い選手たち(たとえばゴールキーパーとセンターバック)の貢献は区別することができません.
データ取得と処理の技術的には出場時間が少し難しいところです.
最近はVARの影響でアディショナルタイムが長くなる傾向であるのに対し、Jリーグの公式記録では出場時間にアディショナルタイムが考慮されていません.例えば、後半アディショナルタイムに交代で入った選手は、アディショナルタイムが何分であっても(10分でも)出場時間は「1分」です.しかも交代5人制が定着していますから、アディショナルタイムまで考慮した出場時間を取得する必要があります.ここが一番面倒なところで、学生さんがここを頑張ってくれました.
いくつかのチームのプラスマイナス
まだプラスマイナスを使って何がどうわかるか?まで考え切れていないので、本稿ではいくつかの特徴的なチームの数値を紹介するのに留めます.まずは我らが名古屋.
横軸と縦軸はそれぞれ出場時間(アディショナルタイム込み)、出場時間内での得失点差(プラスマイナス)です.緑の直線はシーズン通した平均得失点で、ここより上の選手は出場時にチーム平均よりより多くの得点し失点を抑えることに貢献、下の選手はその逆、となります.
サッカーでは1シーズン通した出場が珍しくないゴールキーパーやセンターバックのプラスマイナスはチーム全体と一致する傾向にあります.プラスマイナスの評価対象となるのは交代が多い選手たちです.
図より、ユンカー、永井、和泉、マテウス(以下敬称略)の前線が非常に強力だったのに対し、出場時間の短い控え選手で戦力を維持できなかった様子がわかります.ただ、前線が強力すぎたため、それを交代後も維持しよう、というのは現実的では無かったかもしれません.
次は優勝したヴィッセル神戸です.
神戸は前編(リンク)でも言及しましたが、主力選手の多く(前川、大迫、武藤、初瀬、山口)がほぼフル出場.前編で紹介した集中係数は0.884(1位)でした.その他の選手も交代で大きく戦力を落とすことなく1シーズンを乗り切りました.すでに欧州のトップレベルを経験済みでシーズン中の移籍の可能性が高くなく、経験も十分な主力選手を健康に1シーズン通して出場させる、という戦略をうまく遂行できたシーズンでした.ただし、主力選手が30歳前後で集中しており、同じメンバーで較正したとしても来年以降加齢の影響が無視できなくなるかもしれません.
次は2位の横浜F・マリノス.
まず着目したいのは、3000分以上出場選手が1名のみ、主力選手の多くが2000分台で、1000分台の選手もかなりいる点です.集中係数は0.722(11位).神戸とは異なり、選手を入れ替えつつもピッチ上の戦力を大きく落とすことなく1シーズン戦えていたことが推察されます.
3位サンフレッチェ広島.
出場時間は横浜FMより少しだけ集中気味(集中係数0.767(6位))でしたが、多くの選手を出場させて上位に進出しました.気になるのが森島選手ですが、広島在籍中(22節まで)のチーム成績は24得点22失点.名古屋移籍後(23節以降)は10得点16失点でした.同時期に移籍した選手の影響もあるので彼自身のみの影響なのかは判断が難しいところです(たまたまチーム状況が難しいチーム間で移籍をしてしまったのかもしれない).
(公式記録だけで算出できるので、公式やそれに準ずるサイトで公開してくれないかなー、と思っています.)
年始のご挨拶
名城大学情報工学部で教員をしております小中 a.k.a. konakalab (https://twitter.com/konakalab ) です.早いもので2023年もとっくに終わり2024年がはじまってしまいました.
2023年の現地観戦は2試合のみ.最終戦日没後の長良川競技場は体にこたえました.最近は瑞穂球技場(ラグビー場)の試合がレアになって盛り上がりすぎてしまう感じなので、2024年は開催ありますかねぇ.早く陸上競技場が完成してほしいです.
グラぽ的な貢献としては2023年もシーズン中の記事を全く書けずベンチ外の様相ではありましたが、年末のご挨拶 #グラぽ 編集部一同よりでレギュラーメンバーの方に入れていただいたのが大変恐縮です.2024年の投稿実績解除のため、年始ではありますが2023年レビューを執筆いたしました(苦笑).前後編書きましたのですでに2023年の1本を越えております.
2024年も、何か良い切り口のデータがそろいましたらお知らせしたいと思います.X(Twitter)にも住んでおりますので、たまに覗きに来てください.今年もよろしくお願いいたします.
小中先生はこの1月に以下の本を上梓されました!是非皆さんもチェックしてみてください!
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