グラぽ

名古屋グランパスについて語り合うページ

メニュー

SNSにおける批判と誹謗中傷の境界線 ルヴァンカップ カターレ富山戦 [マクロ] レビュー

SNSにおける批判と誹謗中傷の境界線 ルヴァンカップ カターレ富山戦 [マクロ] レビュー

ショートの振り返り

とっても残念な敗戦でした。

詳しくは今回のyuttyさんのレビューを見て欲しいのですが、なにせん今回のレビューは長い。

気持ちがほとばしっていたからだと思いますが。

ものすごくざっくり言うと、

  • 横浜FC/横浜FM戦同様に狭い幅の3バックで対応。ただこの狭い3バックは強力なセンターフォワード対策だったはずで、機動力のある武らへの対応としては適切だったのかどうか
  • 富山両サイドハーフに押し込まれる展開に
  • グランパス側攻撃は、富山が鬼運動量でスライドして対応
  • グランパス側は全体的に弱気なプレー選択が多く、浅野が孤立する展開が多かった

という感じ。

負けが込んでいると、プレーの選択そのものがネガティブな方向にいって、前に向かないことが多い。

なんとか気持ちを切り替えられる勝利が欲しいところでした。

SNSにおける批判と誹謗中傷の境界線 

1. はじめに

A. 目的と背景

近年、X.com(旧Twitter)をはじめとするソーシャルメディア上でのコミュニケーションが活発化する一方で、特定の個人や団体に対する厳しい意見表明が、健全な「批判」の域を超え、違法な「誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)」へとエスカレートするケースが後を絶ちません。特に、公の立場にある人物に対するコメントは、時にその境界線が曖昧となり、議論を呼ぶことがあります。

ここではJリーグ・名古屋グランパスの監督である長谷川健太氏に対して最近寄せられているとされる厳しいコメントを題材として、オンライン空間における「批判」と「誹謗中傷」の一般的な意味合い、および日本の法制度における定義と区別を明確に解説することを目的とします。

具体的なコメント例を用いながら、両者の本質的な違いを分析し、その境界線を見極めるための視点を提供します。

B. 区別の重要性

「批判」と「誹謗中傷」を区別することは、自由な意見交換が可能な健全な公共的議論の場を維持すると同時に、個人の名誉や尊厳を不当な攻撃から守るために極めて重要です。オンライン上のコメントは瞬時に拡散し、対象者に深刻な精神的苦痛や社会的評価の低下をもたらす可能性があります 1

インターネット上の誹謗中傷問題が社会的な関心を集める中で、侮辱罪の厳罰化(2022年施行)など、法的な対応も進められています 4。このような背景からも、オンラインでの表現活動に関わるすべての人が、両者の違いを正しく理解し、責任ある情報発信を心がける必要性が高まっています。

C. 免責事項

本記事で取り上げる長谷川健太監督に対する具体的なコメント(本記事用に仮設されたもの)は、あくまで「批判」と「誹謗中傷」の概念的な違いを説明するための例示として使用します。特定のコメントが法的に見て誹謗中傷に該当するかどうかを断定するものではありません 7

なお、今回の記事のためにX.com上から批判・誹謗中傷に当たると思われるポストを2000ほど収集し、URL・ID・内容を保存していますが、そのまま引用せずに元投稿が特定できないように仮設しています。

個別の事案における法的評価は、具体的な状況や証拠に基づき、司法機関によって慎重に判断されるべきものです。本記事の分析は、一般的な原則に基づき、両者の違いを理解するための一助となることを意図しています。

2. 用語の理解:批判 vs. 誹謗中傷

A. 一般的な意味と社会的理解

日常的な文脈において、「批判」と「誹謗中傷」は異なるニュアンスで使い分けられています。

  • 批判 (Criticism): 一般に、物事の優劣、正誤、是非などを評価・判断し、その欠点や改善点を指摘することを指します 2。多くの場合、何らかの根拠や基準に基づいて行われ、対象の行動、業績、作品、意見などに焦点が当てられます 1。表現が厳しい場合もありますが、本来は建設的な議論や改善を目的とすることが期待されます 2。対象の良い点は評価しつつ、問題点を指摘するという側面も持ちます 8
  • 誹謗中傷 (Defamation/Slander): これは「誹謗」と「中傷」という二つの言葉が組み合わさったものです 1
    • 「誹謗」は、他人を悪く言うこと、悪口を言うことを意味し、しばしば侮辱的なニュアンスを含みます。
    • 「中傷」は、根拠のない事柄を言い立てて他人の名誉や社会的評価を傷つけることを指します 1。一般的には、根拠のない悪口、虚偽の情報の流布、人格攻撃、侮辱など、相手を貶める意図を持った不当な言説として理解されています 2
    • 批判が対象の「行為」や「意見」に向けられることが多いのに対し、誹謗中傷は対象の「人格」そのものに向けられる傾向があります 2

留意すべき点として、「誹謗中傷」という言葉は日常的に広く使われていますが、それ自体が特定の法的基準や構成要件を定義する法律用語ではありません 9

法的な文脈では、誹謗中傷に該当しうる行為は、刑法上の「名誉毀損罪」や「侮辱罪」といった個別の犯罪類型に照らして判断されます。日常用語としての「誹謗中傷」と、法的な犯罪類型である「名誉毀損罪」「侮辱罪」を区別して理解することが、正確な分析のためには不可欠です。

B. 日本における法的定義

日本の法制度において、他者の評判や名誉感情を害する可能性のある表現行為は、主に刑法の名誉毀損罪と侮辱罪によって規制されています。

  • 1. 名誉毀損罪 (刑法230条):
  • 構成要件: 公然と「事実を摘示」し、人の社会的評価(名誉)を低下させる行為が該当します 17。ここでいう「事実」とは、真実であるか虚偽であるかを問いません 17。重要なのは、具体的な事実(例:「A氏は会社の金を横領した」「B氏は過去に服役した」「Cさんは不倫している」17)を挙げて、それによって対象者の社会的な評価が客観的に低下する危険を生じさせることです 17
  • 真実性の扱い: 日本の刑法における名誉毀損罪の顕著な特徴は、摘示した事実が「真実」であっても、原則として犯罪が成立しうることです 17。これは、真実性の証明が完全な免責事由となる米国などの法制度とは大きく異なります 19。ただし、後述する「公共の利害に関する場合の特例」の要件を満たす場合は、処罰されません。
  • 罰則: 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科されます 17。また、民事上も不法行為として、損害賠償請求や謝罪広告などの名誉回復措置請求の対象となりえます 18
  • 2. 侮辱罪 (刑法231条):
    • 構成要件: 公然と人を侮辱する行為が該当します。名誉毀損罪との大きな違いは、「事実を摘示しない」点にあります 1。具体的な事実を挙げずに、抽象的な表現で他者の社会的評価や名誉感情を害する、あるいは軽蔑の感情を表す行為が対象となります 1。例としては、「バカ」「無能」「ゴミ」「ブス」「死ね」といった罵詈雑言を公然と浴びせる行為が挙げられます 5
    • 近年の法改正: 2022年7月7日に施行された改正刑法により、侮辱罪の法定刑が従来の「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」から、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」へと大幅に引き上げられました 4
    • 法改正の背景: この厳罰化は、インターネット上での誹謗中傷、特に事実の摘示を伴わない侮辱的な投稿が深刻な社会問題となっていることを受けたものです 4。プロレスラー木村花さんの事件などが契機となり、抑止力を高める必要性が認識されました 5。名誉毀損罪の「事実の摘示」という要件を満たさないため、従来の侮辱罪では軽微な処罰しか科されなかったような悪質なオンライン上の罵詈雑言に対しても、より厳しい姿勢で臨むという法改正の意図がうかがえます。これは、オンラインコミュニケーション特有の加害形態(事実に基づかない直接的な罵倒)に対応しようとする法制度の動きを示しています。
  • 3. 公共の利害に関する場合の特例 (刑法230条の2):
    • 免責の条件: 名誉毀損罪(刑法230条)に該当する行為であっても、以下の3つの要件をすべて満たす場合には処罰されません 8
    1. その行為が公共の利害に関する事実に係るものであること (公共性)
    2. その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること (公益目的)
    3. 摘示された事実が真実であることの証明があったこと (真実性の証明)
    • 適用: この特例は、報道機関による報道や、公務員・公職選挙の候補者など公的な立場にある人物に対する正当な論評・批判の自由を保障するために重要な役割を果たします 4。政治家の政策や公務員の職務遂行に関する事実は、通常、公共の利害に関わり、公益目的も認められやすいため、真実であればこの特例により免責される可能性が高まります 4。まだ起訴されていない人の犯罪行為に関する事実も、公共の利害に関するものとみなされます 18
    • 法制度のバランス感覚: この特例の構造は、日本の法制度が「個人の名誉保護」と「表現の自由・国民の知る権利」という二つの価値をどのように調整しようとしているかを示唆しています。まず原則として(真実であっても)名誉を毀損する事実の摘示を広く規制し、その上で、社会的に価値のある言論(公共性・公益目的・真実性を満たすもの)についてのみ、例外的に免責を認めるという枠組みです。これは、真実性がほぼ絶対的な抗弁となる、あるいは公人に対する批判では「現実の悪意」の証明を原告に求める米国法などとは異なるアプローチです 19。個人の名誉・評判を重視しつつも、厳格な要件の下で公共的な議論の必要性を認めるという、日本独自のバランス感覚を反映していると言えるでしょう。

    C. 主な違いの要約(表)

    以下の表は、「批判」、「名誉毀損罪」、「侮辱罪」の主な違いをまとめたものです。

    特徴批判 (批判)名誉毀損罪 (刑法230条)侮辱罪 (刑法231条)
    主な根拠・焦点行為、実績、意見、具体的な出来事に基づく評価・判断社会的評価を低下させる具体的な「事実」の摘示事実の摘示を伴わない抽象的な軽蔑・侮辱表現
    対象行為、決定、仕事ぶり、作品など事実の摘示を通じた「社会的評価(名誉)」「社会的評価」または「名誉感情」
    具体的な事実の摘示通常、論拠として存在する必要(犯罪成立の核心要素)不要(むしろ事実の摘示がないことが特徴)
    典型的な意図・目的評価、議論、改善、意見表明社会的評価の低下相手を貶める、辱める
    真実性の役割批判の根拠となる原則として犯罪成立を妨げない(特例適用には真実性の証明が必要)事実の摘示がないため、基本的に無関係
    公共性の関連しばしば高い(特に公人・公的活動について)免責特例(230条の2)の重要な要件直接的な要件ではないが、表現の社会的相当性の判断で考慮されうる
    法的評価通常は適法違法(ただし特例適用時は処罰されない)違法
    主な法的根拠なし刑法230条刑法231条

    この表は、日常的な概念である「批判」と、日本の刑法で定められた「名誉毀損罪」「侮辱罪」との間の重要な差異点を明確に示しています 1。特に、事実の摘示の有無、真実性の扱い、公共性の要件などが、法的な評価を左右する上で鍵となる点を浮き彫りにしています。

    3. 事例検討:長谷川健太監督へのコメント

    A. 背景

    最近2週間(2025年4月初旬~中旬)のX上での長谷川健太監督に関する投稿増加は、名古屋グランパスの不振、特に4月12日のG大阪戦(0-2敗北)や開幕からの未勝利記録(28年ぶり開幕5戦未勝利)が背景にあります。以下のような議論が観察されます:

    • 批判の例
      • 試合後の監督コメント(例:「準備してきたつもり」)に対する疑問や、選手起用(例:ケネ選手の名指し批判)への具体的な不満。
      • サポーター団体関係者の投稿(例:「チームとして闘えないのは何故?」)は、監督と選手の意見相違を指摘し、チーム運営への問題提起として批判に分類される。
    • 誹謗中傷の例
      • 「長谷川健太はよ辞めろ」といった解任要求を含む感情的な投稿。これらは試合結果への不満を超え、個人攻撃に発展。

    プロスポーツチームの監督は、その采配やチーム成績が公衆の関心の的となる公的な存在であり、その職務遂行に関する議論や評価、すなわち批判は、一定の範囲で許容されるべきものと考えられます 4。しかし、その表現が度を超えれば、法的問題を生じさせる可能性もあります。

    以下に示す例は、説明のために仮設されたものであり、実際に投稿されたコメントを直接引用するものではありません。また、これらの例が法的にどのように評価されるかを断定するものではありません。

    B. 「批判」と見なされる可能性のあるコメント例(仮設)

    • 例1: 「(特定の試合名)での長谷川監督の選手交代は遅すぎた。あのタイミングでの投入では流れを変えられなかった。ハーフタイムでの修正が必要だったのではないか。」
      • 分析: このコメントは、特定の試合における具体的な采配(選手交代のタイミング)という監督の職務遂行上の判断に焦点を当てています 2。その判断が試合結果に与えた影響について、具体的な理由(流れを変えられなかった)を挙げて疑問を呈しており、戦術的な議論の範疇にあると考えられます 1。表現は厳しいかもしれませんが、監督の専門的な能力や判断に対する評価であり、人格攻撃には至っていません 1。サッカーという公共の関心事に関する議論の一部と見なせる可能性があります 8
    • 例2: 「最近のグランパスは守備組織の脆さが目立つ。長谷川監督のトレーニングで、この点は改善されているのだろうか。」
      • 分析: チームの具体的なパフォーマンス(守備組織)の問題点を指摘し、それに対する監督の取り組み(トレーニング内容)について疑問を呈しています。観察可能な事実(試合内容や結果)に基づいた問題提起であり 1、監督の職務(チームのトレーニングや戦術構築)に関連する内容です 2。これもまた、チームの戦い方に関する正当な関心に基づく意見表明と解釈できる余地があります。
    • 例3: 「ケンタさんの下ではチームの攻撃に創造性が欠ける。カウンター一辺倒では引いた相手を崩せない。」
      • 分析: チームの戦術スタイル(攻撃の創造性、カウンターへの依存)を評価し、その有効性に疑問を呈しています 2。具体的な試合結果やプレー内容を根拠とした戦術・戦略レベルでの意見であり 1、監督の指導方針に対する評価と言えます。これも、スポーツに関する公共的な議論の範囲内と見なされる可能性が高いでしょう。

    C. 「誹謗中傷」(名誉毀損・侮辱)と見なされる可能性のあるコメント例(仮設)

    • 例1(侮辱罪の可能性): 「ケンタは無能。さっさと辞めろ!」
      • 分析: 「無能」という言葉は、具体的な事実を摘示せずに対象者の能力や人格を否定・蔑視する抽象的な侮辱表現です 9。このような人格攻撃は、正当な批判とは見なされにくく、公然となされれば侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性があります。
    • 例2(名誉毀損罪の可能性): 「長谷川監督は特定の選手を起用するために裏金を受け取っているに違いない。」
      • 分析: これは、監督が不正行為(収賄)を行っているという具体的な事実を摘示し、その社会的評価を著しく低下させる可能性のある主張です 17。もしこの主張が虚偽であれば、名誉毀損罪(刑法230条)が成立する可能性が高いです。仮に真実であったとしても、公共の利害に関する事実であり、専ら公益を図る目的で、かつ真実であることの証明がなければ、処罰の対象となりえます 17。根拠なくこのような深刻な不正疑惑を流布することは、極めて問題が大きいと言えます。
    • 例3(侮辱罪・名誉毀損罪の可能性): 「あのハゲ詐欺師は辞任すべきだ。」
      • 分析: 「ハゲ」という身体的特徴を揶揄する言葉は、事実の摘示を伴わない侮辱表現であり、侮辱罪に該当する可能性があります 1。「詐欺師」という言葉は、文脈によっては具体的な欺瞞行為を示唆し、対象者の社会的評価を低下させる事実の摘示と解釈され、名誉毀損罪に該当する可能性も考えられます 17。このように、人格攻撃的な侮辱表現と、事実の摘示とも受け取れる表現が組み合わされている場合、両方の罪に問われるリスクがあります。
    • 例4(侮辱罪の可能性): 監督個人に対して、極めて下品で攻撃的な言葉(例:「死ね」「クズ」など 9)を投げつけるコメント。「彼はただお金を稼ぎ続けたいだけの寄生虫だ」
      • 分析: このような表現は、具体的な事実の摘示を伴わず、相手の人格を著しく貶め、強い侮蔑感情を示すものであり、典型的な侮辱行為と評価される可能性が高いです 1
    • 例5(境界線上の投稿)
      • 投稿内容(意訳):
        • 「健太の戦術、毎試合同じで進歩がない。選手もやる気なさそうに見えるし、このままじゃ降格もあり得るぞ。いい加減変われよ。」
    • 分類:批判と誹謗中傷の境界
      • 批判的要素
        • 戦術の単調さや試合結果への懸念は、チームのパフォーマンスに基づく意見。
        • 「降格もあり得る」は、成績不振を根拠にした推測。
      • 誹謗中傷的要素
        • 「いい加減変われよ」は感情的でやや攻撃的な表現。
        • 「選手もやる気なさそう」は主観的で根拠が曖昧、選手への間接的な攻撃とも取れる。
      • 分析
        • この投稿は、戦術への不満という批判から始まるが、感情的な表現や曖昧な決めつけが混じるため、誹謗中傷に近づく。
        • 境界を越えないためには、「変われよ」ではなく「戦術の多様性を期待したい」など、建設的な表現に留めるべき。

    これらの例が誹謗中傷と見なされる可能性が高いのは、監督の具体的な采配やチームの成績に対する意見というよりも、根拠の薄い、あるいは全くない人格攻撃、侮辱、または社会的評価を不当に貶める虚偽の主張を含んでいるためです 1。その目的も、建設的な議論ではなく、対象者を傷つけ、貶めることにあるように見受けられます 2

    4. 批判と誹謗中傷を区別する上での重要要素

    前述の事例検討を踏まえ、「批判」と「誹謗中傷(名誉毀損・侮辱)」を区別する上で特に重要となる要素を、法的原則と照らし合わせながら整理します。

    A. 事実的根拠の有無 vs. 根拠のない主張・意見の断定

    • 批判: 通常、具体的な試合内容、統計データ、観察可能なチームのパフォーマンスなど、何らかの事実や根拠に基づいて行われます 1。例えば、「(特定の試合での)交代が遅かった」(批判例1)という意見は、実際の試合という出来事を根拠としています。
    • 誹謗中傷: 名誉毀損罪は具体的な「事実」の摘示を要件としますが、その事実が虚偽である場合や、真実であっても公共の利害に関する特例の要件を満たさない場合があります 17。特に「中傷」は、根拠のない噂やデマを流布する行為を指します 1。例えば、「裏金を受け取っている」(誹謗中傷例2)という主張は、明確な証拠がなければ根拠のない中傷となります。侮辱罪は、そもそも事実の摘示を伴いません 17
    • 意見表明の注意点: 個人の感想や意見そのものが直ちに名誉毀損となるわけではありません 20。しかし、主観的な評価を客観的な事実であるかのように断定的に述べたり、意見に名を借りて根拠のない事実を暗示したりすると、法的リスクが高まります 17。例えば、「采配が疑問だ」という意見表明は許容されやすいですが、「あの采配は無能の証拠だ」と断定し、人格攻撃にまで踏み込むと、侮辱と評価される可能性があります。オンラインでの発言では、意見と事実を区別し、断定的な表現には慎重さが求められます。

    B. 職務遂行への論評 vs. 人格攻撃

    • 批判: 対象者の職務、役割、業績、公的な活動などに関連する事柄に焦点を当てます 2。長谷川監督の例で言えば、戦術、選手起用、チームマネジメントといった監督としての仕事ぶりが対象となります(批判例1, 2, 3)。
    • 誹謗中傷: 対象者の人格、能力、容姿、私生活など、職務遂行とは直接関係のない個人的な側面を攻撃する傾向があります 1。例えば、「無能」(誹謗中傷例1)や「ハゲ」(誹謗中傷例3)といった表現は、監督の仕事ぶりへの評価ではなく、個人的な資質や外見への攻撃です。
    • 公人に対する批評の範囲: 長谷川監督のような公的な立場にある人物に対しては、その職務遂行に関する限り、公共の利害との関連性が認められやすく、批判の許容範囲は比較的広いと考えられます 4。しかし、それはあくまで職務に関連する範囲での話であり、職務と無関係な私生活上の事柄を暴露したり、人格や容姿を侮辱したりすることまで正当化されるわけではありません。公共の利害に関する特例(刑法230条の2)も、職務遂行に影響を与えない純粋な私事や、単なる人格攻撃には適用されにくいと考えられます 8。公人であるからといって、あらゆる罵詈雑言やプライバシー侵害が許されるわけではないのです。

    C. 公共の利害との関連性 (公益性)

    • 批判: 公的な人物や社会的な事象に対する批判は、多くの場合、公共の利害に関連します 8。ファンがチームの戦略について議論すること(批判例3)は、スポーツ文化における健全な意見交換の一部であり、公共の関心に応えるものと言えます。
    • 誹謗中傷: 名誉毀損罪が免責されるためには、摘示された事実が公共の利害に関わり、専ら公益を図る目的であり、かつ真実であることの証明が必要です 18。たとえ真実であっても、ゴシップ的な興味を満たすだけのような私生活上の暴露などは、公共の利害や公益目的の要件を満たさない可能性があります 19。侮辱的な表現は、それ自体が建設的な公共的議論に資することは通常ありません。

    D. 表現方法 (侮辱的・攻撃的表現の有無)

    • 批判: 表現が厳しくなることはあっても、理想的には論理的で節度ある言葉遣いが期待されます。
    • 誹謗中傷: しばしば、侮辱的、屈辱的、下品、過度に攻撃的な言葉遣いを伴います(侮辱的表現)1。「無能」「詐欺師」「死ね」「クズ」といった言葉(誹謗中傷例1, 3, 4)は、その内容以前に、表現自体が侮辱的であり、誹謗中傷と判断される一因となります 1
    • 表現の重要性: たとえ根拠のある批判であっても、その表現方法が社会通念上許される限度を超えて侮辱的であれば、それ自体が侮辱罪(刑法231条)に該当する可能性があります 1。法的には、何を言ったか(内容)だけでなく、どのように言ったか(表現方法)も問われるのです。批判のつもりが、感情的な表現によって侮辱罪のリスクを負うこともありえます。

    E. 見かけ上の意図 (目的)

    • 批判: 一般的には、評価、問題提起、改善提案、議論の喚起などを目的として行われます 2
    • 誹謗中傷: 主な目的が、相手の名誉を毀損すること、社会的評価を貶めること、精神的な苦痛を与えること、あるいは単に鬱憤を晴らすことにあるように見える場合があります 2。名誉毀損罪の免責要件である「専ら公益を図ることにあった」という目的(公益目的)18 も、発言の意図・目的が問われることを示しています。
    • 意図の推定: 発言者の内心の意図を直接証明することは困難ですが、裁判などでは、発言の内容、表現方法、文脈、根拠の有無などから、その意図が推認されることがあります。全く根拠のない悪質な虚偽情報を流布したり、執拗に人格攻撃を繰り返したりするような場合は、加害意図や悪意が認定されやすくなります。

    5. 結論

    長谷川健太監督に対するX上の投稿は、名古屋グランパスの不振を受けて批判と誹謗中傷の両方が混在しています。批判は試合結果や采配に基づく建設的な意見(例:選手交代のタイミングへの指摘)であり、チームの改善を求める意図が含まれます。一方、誹謗中傷は根拠のない個人攻撃や侮辱(例:「無能」「辞めろ」)で、感情的な発散に終始します。境界は、発言が事実に基づいているか、行動に焦点を当てているか、敬意ある表現か、建設的意図があるかで判断されます。

    サポーターとしては、情熱を傾けるからこそ感情的になりがちですが、批判を効果的に伝えるためには、事実を基に冷静な表現を心がけることが重要です。また、誹謗中傷は法的な問題を引き起こす可能性もあり(例:町田の告訴ケース)、クラブや監督への敬意を保ちつつ、健全な議論を促進することが求められます。

    A. 要点の再確認

    本記事では、「批判」と「誹謗中傷(名誉毀損・侮辱)」の違いについて、一般的な理解と日本の法制度における定義、そして具体的な(仮設)事例を交えながら分析しました。要点をまとめると以下のようになります。

    • 批判: 主に職務遂行や公的な活動、作品などに対し、事実や根拠に基づいて評価や意見を述べる行為。建設的な議論や改善を目的とすることが多い。
    • 名誉毀損罪: 公然と具体的な事実(真偽を問わず)を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為。公共性・公益目的・真実性の証明がない限り違法。
    • 侮辱罪: 公然と事実を摘示せずに、人を侮辱する行為(罵詈雑言、人格否定など)。違法。

    オンライン、特に匿名性の高い環境では、感情的な書き込みがエスカレートしやすく、批判と誹謗中傷の境界線は時に曖昧になりがちです 7。しかし、両者を区別する上で、事実的根拠の有無、対象(職務か人格か)、公共性・公益目的、表現方法の相当性、見かけ上の意図などが重要な判断要素となります。

    B. 責任あるオンライン表現に向けて

    インターネット上での自由な意見表明は尊重されるべきですが、それは他者の権利を不当に侵害しない範囲において認められるものです。オンラインで情報を発信する際には、以下の点を心がけることが求められます。

    • 批判と誹謗中傷の違いを意識する: 相手の人格や尊厳を傷つけるような表現は避け、具体的な行為や事実に焦点を当てた建設的な意見表明を心がける 2
    • 情報の真偽を確認する: 不確かな情報や噂を安易に拡散しない。特に他者の評判に関わる情報については、その根拠を慎重に見極める 2
    • 冷静さを保つ: 感情的な状態での投稿は、意図せず誹謗中傷に該当する表現を用いてしまうリスクを高めます。投稿前に一呼吸置き、内容を見直す習慣をつけることが望ましい 25
    • 匿名性の罠に注意する: 匿名での投稿であっても、発信者情報の開示請求などを通じて個人が特定され、法的責任(民事・刑事)を問われる可能性があることを認識する 2

    オンラインでの発言は、現実世界での発言と同様、あるいはそれ以上に、大きな影響力を持ちます。一人ひとりが責任ある態度で情報発信を行うことが、健全なオンライン環境の維持につながります。

    C. 最終免責事項

    改めて強調しますが、本記事で用いた長谷川監督に関するコメント例は、あくまで批判と誹謗中傷の違いを説明するための仮設的なものであり、特定のコメントに対する法的な評価を示すものではありません。本記事は、啓発目的で作成されたものであり、個別の法的根拠を提供するものではありません。

    D. (参考)相談窓口

    インターネット上の誹謗中傷に関する問題で悩んでいる場合、以下のような公的機関や団体に相談することができます。

    これらの窓口は、被害を受けた際の対応について専門的な知見を提供しています。

    引用文献

    ‘6 Cases Where Defamation is Not Recognized: An Explanation by a Lawyer’ | MONOLITH LAW OFFICE | Tokyo, Japan, 4月 17, 2025にアクセス、 https://monolith.law/en/internet/cases-not-recognized-as-defamation

    誹謗中傷と批判の違い|法的措置を検討した方が良いケースとは? – 法律事務所桃李, 4月 17, 2025にアクセス、 https://okamoto-saiken.com/shouhisha-trouble/%E8%AA%B9%E8%AC%97%E4%B8%AD%E5%82%B7%E3%81%A8%E6%89%B9%E5%88%A4%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%EF%BD%9C%E6%B3%95%E7%9A%84%E6%8E%AA%E7%BD%AE%E3%82%92%E6%A4%9C%E8%A8%8E%E3%81%97%E3%81%9F%E6%96%B9%E3%81%8C/

    SNSでの誹謗中傷はなぜ起こる?SNSにおける誹謗中傷の現状と特徴 – イオンモバイル, 4月 17, 2025にアクセス、 https://aeonmobile.jp/column/sns-false-accusation/

    インターネット上の誹謗中傷等への対応|警察庁Webサイト, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/countermeasures/defamation.html

    法務省:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00194.html

    New Japanese Law Makes ‘Online Insults’ a Jailable Offense – Reason Magazine, 4月 17, 2025にアクセス、 https://reason.com/2022/07/09/new-japanese-law-makes-online-insults-a-jailable-offense/

    Japan’s tougher penalties against defamation go into effect – ARAB NEWS, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.arabnews.jp/en/japan/article_75657/

    誹謗中傷と批判の違いは?誹謗中傷への法的措置も交えて弁護士がわかりやすく解説, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.authense.jp/defamation/column/slander/19/

    どこからが誹謗中傷となる?過去の事件・事例をもとに対応や対策例を解説 – Spaceship Earth, 4月 17, 2025にアクセス、 https://spaceshipearth.jp/slander/

    【事例つき】「誹謗中傷」と「批判」の違いを弁護士がわかりやすく解説 – ベンナビIT, 4月 17, 2025にアクセス、 https://itbengo-pro.com/columns/287/

    誹謗中傷と批判の違いとは 問題なく意見交換する方法を実例から学ぶ – エフェクチュアル, 4月 17, 2025にアクセス、 https://effectual.co.jp/sorila/blog/the-difference-between-slander-and-criticism-how-to-exchange-opinions-online-without-problems/

    どこから誹謗中傷になる?意見・批判との違いや企業ができる対策を解説 | SFA JOURNAL, 4月 17, 2025にアクセス、 https://next-sfa.jp/journal/harmful-rumor/where-does-slander-come-from/

    誹謗中傷の意味、どこからが誹謗中傷なのかを解説 | コラム – リリーフサイン, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.reliefsign.co.jp/column/230301

    SNS・ネットで名誉毀損された時の法的対応 | 顧問弁護士SOS | みらい総合法律事務所, 4月 17, 2025にアクセス、 https://roudou-sos.jp/sns-defamation/

    SNSにおける誹謗中傷の対策方法とは?具体的にどうすべきか解説します – イオンモバイル, 4月 17, 2025にアクセス、 https://aeonmobile.jp/column_old/sns-false-accusation-measures/

    どこからが誹謗中傷なのか?法律ではどこから犯罪になるかも解説, 4月 17, 2025にアクセス、 https://solution.brandcloud.co.jp/column/hibou-chusyo/defamation-crime-legal-standards/

    誹謗中傷と批判の違いとは?それぞれの意味も徹底解説!, 4月 17, 2025にアクセス、 https://blitz-marketing.co.jp/column/4214/

    Insult Crimes in Japan: Explaining Specific Examples and the Differences from Defamation | MONOLITH LAW OFFICE, 4月 17, 2025にアクセス、 https://monolith.law/en/internet/offense-of-contempt

    Japan: Law on Defamation – Loc, 4月 17, 2025にアクセス、 https://tile.loc.gov/storage-services/service/ll/llglrd/2019670054/2019670054.pdf

    The Protection of Reputation in Japan: A Systematic Analysis of Defamation Cases | Law & Social Inquiry | Cambridge Core, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.cambridge.org/core/journals/law-and-social-inquiry/article/protection-of-reputation-in-japan-a-systematic-analysis-of-defamation-cases/C48F328DD21F4EF1ADFB57521B740E8B

    Is it true that in Japan you can get sued for defamation for a negative online review even if you outlined only factual information there? : r/AskAJapanese – Reddit, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.reddit.com/r/AskAJapanese/comments/1jumply/is_it_true_that_in_japan_you_can_get_sued_for/

    COMPARING US LIBEL WITH OTHER NATIONS | Comm Law and Ethics 400, 4月 17, 2025にアクセス、 https://revolutionsincommunication.com/law/intl-libel/

    誹謗中傷と正当な批判の違い|表現の自由で保障される言論の範囲 – 弁護士法人心, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.kawasaki-bengoshi.nishio-office.com/useful/others/hyougen-jiyu/

    インターネット上の誹謗中傷をめぐる 法的問題に関する有識者検討会 取りまとめ 令和4年5月 公益 – 法務省, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.moj.go.jp/content/001386622.pdf

    Defamation – Wikipedia, 4月 17, 2025にアクセス、 https://en.wikipedia.org/wiki/Defamation

    あなたは大丈夫?SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは? | 政府広報オンライン, 4月 17, 2025にアクセス、 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202011/2.html

    About The Author

    グラぽ編集長
    大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
    名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

    Comments & Trackbacks

    • Comments ( 1 )
    • Trackbacks ( 0 )
    1. 長谷川監督のことを中傷するつもりもないのですが、今の成績からするとプロとしてけじめを付ける必要性は感じています。
      タイミングとしては指揮試合数か株主総会かなとは思っています。

    LEAVE A REPLY TO 匿名 CANCEL REPLY

    *

    CAPTCHA


    This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

    Share / Subscribe
    Facebook Likes
    Posts
    Hatena Bookmarks
    Pocket
    Evernote
    Feedly
    Send to LINE