5月無敗フィニッシュで中断期間に突入。3-0とはいえチーム全体の課題はかなりある試合となりました。次につなげるためのワンポイントレビュー
試合情報
「新潟スタイル」と呼べる手前からビルドアップを試みる新潟に対し、名古屋は「背水の陣」と称すべき魂のハイプレスで挑んだ。この試合の序盤における最大の焦点は、名古屋の前線が新潟の4バックにどう対応するかだった。
守備構造の重要性
名古屋が4-4-2、新潟が3-5-2で対峙したことで、新潟はサイドハーフ(SH)とサイドバック(SB)でウイングバック(WB)にアプローチする形を構築した。これにより、新潟は大外で数的優位を作り出した。
名古屋の2トップは、新潟の2センターバック(CB)と、和泉選手とセントラルミッドフィールダー(CMF)でボランチのマークを受け持った。しかし、これにより新潟サイドバック(SB)が名古屋ウイングバック(WB)に、どのタイミングでアプローチするか不明瞭になる場面が見られた。実際に7分58秒や8分02秒のシーンでは、WBの守備にギャップが生まれ、大外から展開されてCBとCMFが釣り出される形が作られてしまった。
名古屋がブロックを組んだ際、外側からギャップを作る構造があったにもかかわらず、新潟はその選択肢を囮にし、最終ラインでの勝負を仕掛ける選択をした。構築したチーム構造に頼らないのはもったいない印象も受けるが、それを活用できなかったのは、新潟の守備から攻撃への切り替え状況に起因していたのかもしれない。
例として15:02からの展開を見てみる。名古屋がボール保持の最終ラインからビルドアップを開始する場面だ。新潟は名古屋の3バックにアプローチするのか、2トップでCMFを消すのかの2択から始めるのが定石である。2トップということもあり、奥村は中山とボランチの脇のスペースを消すように立つ。原は諦めて逆サイドから様子を見るが、ここで小見が奥村とは異なる行動を取る。
プレスの選択とその影響
小見は、SBをハメに行くぞと言わんばかりに目配せをし、ボールホルダーの佐藤を猛追する。佐藤も仕方なく徳元へパスを出すが、そこでボールを奪い切れなかった。小見が佐藤を追いかけた時点で、永井がボランチの脇まで降りてくる。徳元と同時に受けに降りてくることで、藤原は2択を迫られた。この選択が曖昧になると、SBの裏に走り込まれ、ゲリアがサイドの対応を余儀なくされる。これにより、守備から攻撃への切り替えが生じるが、最終ラインが右にスライドしているため、攻撃開始時のプレス回避のSBの位置には奥村が降りてくる。
こうなると、せっかくSBの位置でプレスを引っ張り、SHとSBの連携による押し上げの形が作れなくなり、結局ジェームズから谷口へロングボールを供給し、CBの脇で個の勝負をさせる形になってしまった。
守備と攻撃の切り替え
その後の17:01からの崩しと比較すると、新潟としては守備から攻撃への切り替えの際に、攻撃したい形を崩さずに守備を行えるかどうかを再考する必要があることがわかる。
👍ポイント
監督インタビューで樹森監督は、次のように語っている。 「前半、もう少しゆっくりなテンポでボールを動かしてもいいのではないかという話をハーフタイムにした。どうしてもボールを動かしながらテンポアップするタイミングが早く、結果としてボールを下げてしまう回数が多かった。そこで『相手コートに押し込んでから、ボールを動かす時間帯や回数を増やしていこう』とハーフタイムに話した」
この発言は、上記の解説によくあてはまる。要するに、守備から攻撃への切り替えの際に、自分たちが狙う配置を整える前に攻めに移ることで、苦しい展開を強いられていたことを示している。
ビルドアップの選択
新潟の形を理解すると、名古屋が前半に長いボールを多用した理由と、それに頼らざるを得なかった背景が見えてくる。
新潟は中央の前線と中盤が2-2の構成であるため、CMFが2トップに消される場面が多かった。そのため、縦方向のパスを入れるよりもWBを経由してボールを前進させるか、椎橋がSBの位置まで下がって繋ぐのが、地上戦での名古屋のボール前進方法である。WBに預けた際、SHが出てきてもSBが出てきても、相手のボランチの脇に選手を配置したい意図がある。(過去のレビュー参照。「IHを使って中盤で数的優位を確保してから攻撃を始める」という考え方)
名古屋の優先スペース
しかし、今節の新潟のように2トップと2CBが噛み合う状況では、SBがWBにプレスをかけることでSB-CB間のハーフスペースが急所となる。そのため、そこに素早く侵入したい意図が見て取れる。和泉、キャスパー、永井は、とにかく前半にSB-CB間のスペースを第一優先とし、ボランチ周辺の数的優位は二次的な優先度として捉えていた。その結果、最終ラインのビルドアップ開始時には、相手ボランチ周辺に選手が立たず、順序立てて崩していくフェーズに入りにくかった。
この状況で問題となるのは、WBに対するサポートが遅れることだ。そのため、WBが相手の注意を引いた瞬間にボランチ脇からハーフスペースへアタックするような展開が作れず、WBが素早く対応されたり囲まれたりする場面が発生した。(20:30からのように、ボランチ脇に選手を配置し、WBを経由してハーフスペースへ展開する形が増えると良かった)
この試合で攻め方の指標となったのは和泉だった。キャスパーも永井もワイドに逃げる動きや、最終ラインとの縦向きの駆け引きが得意なFWである。そのため、和泉もそれに同調するのではなく、トップ下として中盤とのつながりをもう少し強調できれば理想的だった。
👍ポイント
キャスパーも永井も、和泉が動かないと気を利かせてトップ下の動きをしてしまう。そのため、整理が不十分となり、後半は選手の役割を強制的に分担した。さらに、意外とボールを持てたことによりラインが高くなり、前線の3枚が前に張りっぱなしとなった結果、後方からの長いボールのセカンドを拾うために稲垣も椎橋も前に出ていった。
しかし、セカンドボールを拾えなかった時のダメージは大きく、原は前半から裏を取られる回数が多かった。中山の高い位置取りと、前線がトップ下に張り付いて稲垣が前に出る動きが重なり、原に負担が集中した。これは能力の問題ではなく、前半の構造的なミスによるものだった。その結果、後半の新潟は原のサイドに照準を定めて攻め込んできた。
前半から走らされ、内田も試合に入り損ねた厳しい状況だったが、よく耐えていた。
役割の整理とプレー選択の紙一重の差
後半に入り、和泉もプレーを修正した上で、役割をキャスパーよりローテーションしやすく、守備の足も担保できる森島へ変更した。永井、森島はWBのサポートに入ることができるため、和泉はトップ下とトップを行き来するような3-4-2-1へとシフトした。
森島はCBのケアを怠り、ピンチを招く場面もあったが、稲垣がフォローした。(その後の菊地の得点シーンでは、小見が単体でプレスに入ったため、菊地のカットイン時の守備人数が減少した。監督インタビューによれば、攻撃時にSHのポジションを内側に変更した様子だったため、原を捨てて引く選択も考えられたかもしれない。この状況は森島の選択にも似ており、構造に対するプレー選択の甘さが見えた部分だった)
新潟は2トップもサイドの優位に参加しながら、逆サイドのSHを内側に入れ、大外からSBの小見、奥村が外から中へ抜け出し、逆サイドへ展開する形を増やしていった。
前半から中盤より前の守備構造が曖昧だったため、2点目、3点目の失点は、新潟の各選手の判断の限界が招いたものだった。
つぶやき
- 相手の構造の違いはあるとはいえ、フリーマン「マテウス」が起用される理由が分かる試合だった。後半には修正を加えたものの、和泉ならもう少しチームの指針になれたはずだ。フィニッシュ周りのプレー選択の優秀さは際立っており、だからこそ和泉を外しにくい。 どれだけ繋ぐことができても、剥がすことができても、守備構造の理解が一人でも間に合わなければ急所が生まれることを痛感させられた。だからこそ、「守備で走れる」「サボらない」という前提条件を満たせるかどうかが、名古屋のポジション争いにおいて重要なポイントになる。これは、順位を上げるための必要な投資だ。
- 新潟の失点は、以前の名古屋に見られた「CBの頭や体の負荷が限界に達する時間帯で失点する」感覚と似ていた。
- 新潟もロングランが少なかったわけではなく、ハイプレスと後ろ向きのランニングの上下動をこなしたCB陣には拍手を送りたい。