
アウェイの洗礼とも言える激しいコンタクトや外的要因も絡む中、負傷者を出しながらも勝ち点1を持ち帰る結果となった。
今回は、試合中における両チームの戦術的な考え方を中心に、ワンポイントレビューを。
試合情報
試合の大局~3421同士の考え方~
3-4-2-1システムのミラーゲーム、かつ相手(横浜FC)が引いて構える展開となったこの試合では、「対面の選手をいかに動かすか」が重要な焦点となった。
横浜FCが守備を構える際に目指す最終地点は、「自陣で同数、あるいは数的不利にされないこと」である。この目標を達成するため、相手がビルドアップのサポートや、名古屋の選手を釣り出すためにミラーの対面から離れる動きを意図的に作らせることが、目指すところであった。(これにより、カウンターに転じた際に相手が対面を作れず、かつ相手を自分たちが決めた守備ラインまで下げさせることができる)
実際に12分51秒からの名古屋のビルドアップの際は、人を釣るために両ウイングバック(WB)が低い位置に入り、センターの森島は佐藤のところまで下がった。 3-4-2-1の形では、大外の縦の幅が大きい(選手が縦に並んでいない)ウイングバックが動くことで人を動かし、スペースを作り出すことを狙う。そのため、ウイングバックがズレを作り出す起点(ボールの預け所)として選ばれることが多く、外に展開してから攻撃を始めるケースが多くなる。 したがって、構えた相手を釣り出すために、野上と徳元はスタートポジションが低い状態となった。これで横浜FCとしては、相手のラインを押し下げることに成功した。
ここで名古屋側の、横浜FCのウイングバックに対するアプローチ(プレスの方法)を見る。
名古屋は、横浜FCがセンターを5枚(前線3枚+2ボランチ)で囲むところから、インサイドハーフ(IH)とウイングバックが外にアプローチする形を事前に分析していた(特にインサイドハーフが外に矢印を向ける動きがポイントであった)。そこで、原と野上で横浜FCの選手を釣り出し、それによって生まれたスペースに稲垣が走り込む形で、ボールの前進を開始した。
この名古屋側のスタートに対し、人を釣り出された横浜FCとして、何が最も嫌だったか。それが次のフェーズである。
言い換えれば、横浜FCはウイングバックの縦の幅を使われ、守備を強制的に始めさせられた形である。前線3枚がセンターの圧縮を止めてプレスに出て行ったことで、自分たちが決めたラインまで相手を押し込めなくなった。 横浜FCは、稲垣の動きに山田がついていくこともあり、中央のスペースが空いてしまう。スペースができてボールが森島に入ってしまうと、「守備の連動」を始める必要が出てくる。「守備の連動」は「守備のズレ」になりやすいことは、プレスを選択することの多い名古屋を見ていれば分かりやすい。
要するにこのフェーズでは、守備で動く段階が2段、3段と連続していくことが、横浜FCにとって嫌な展開であった。
であるならば、守備の1段目(この場面ではWBとIHのプレススタートのタイミング)で、守備の連続性から生まれるズレが起きる前に、単純に瞬間的な局面のズレに反応してチャレンジ(ロングボールを出す)のは、少し勿体なかったと個人的には感じる部分であった。
☝️ポイント
瞬間的にできた局面のズレを利用することは、基本的にはこの試合で効果的であった。ウイングバックが押し返される展開や、センターを囲まれている形だったため、降りてきた選手に食いつく最初の守備の動きに反応し、最前線の木村やマテウスがウイングバックの裏を取る形は有効だった。
ただ、稲垣や和泉といった選手が、相手に囲まれている場所で意図的にズレを作る(明らかに相手の守備の連続性からくるズレを誘う)ランニングを見せた場面では、前半、最終ラインがもう少し諦めずに(その動きを)使えれば、相手の構える幅が変わってきたかもしれない。
(補足:この「連続性からくるズレ」を嫌がっていることは、山根のスライディングに味方が反応しない動きや、その流れからマテウスにボールが渡った際、ルキアンがボールにアプローチせず、上半身でマテウスのプレーを止めようとしたファールからも良くわかった)
守備局面は「約束」から
先制失点の部分の振り返りは、まず守備の(局面を)決定するシーンから見ていく。
セットプレー後の流れから、横浜FCが攻撃をやり直す展開となった。この時、マテウスも和泉も「外側」の状況をチェックしながら、プレスに行けるかを探っていた(中央は木村と山田の状況であったため)。 マテウスは、ルキアンと櫻川の位置を見て、プレス継続をやめた。その一方で和泉は、細井とンドカが外側に降りてきていないのを見て、「福森まで行けばワンチャンスある」と見た。(これは、プレスでボールが取れるというよりは、攻撃の局面に切り替わった時のことを考え、前にいた方が良いと判断したはずである。なぜなら、構えていた横浜FCの後方が薄いタイミングだったからである)
当然、キーパーは和泉の裏に蹴り出したが、この時に不運だったのは、ンドカも藤井も、強烈な反時計回りのスピンがかかったボールの勢いを殺せなかった点である。 ボールは、プレスをやめて一安心していたマテウスの裏に入ってしまった。 ルキアンが(前に出て)空けたスペースは、名古屋がここ最近、ボールサイドと逆のインサイドハーフが降りておくことで、センター(の選手)が引っ張られないようにケアしていた場所であった。キーパーのゴールキックが左だった時点で、本来の「約束事」ならばマテウスが埋めていても罰は当たらない場所だったが、とはいえ、非常にイレギュラーなボールの動きではあった。
稲垣が外に引っ張られる展開になり、ユーリ・ララが佐藤まで外に引き延ばす展開となった。これにより、藤井まで縦向きに釣られるとポケット(スペース)に通される恐れもあるため、ジョアン・パウロには張り付きづらい状況であった。 森島と藤井で遅らせよう(ディレイ)としたものの、逆に振られ、原と藤井の動く方向(矢印)の逆を取った櫻川と、フリーでボールを持った福森にキックをさせてしまった。
☝️ポイント
ルキアンが徳元の股を通した時点で、ジョアン・パウロのボールを受ける身体の向きが良すぎたため、藤井はあれ以上寄せると、ユーリ・ララが佐藤をそのまま千切って抜けた時の対応が不可能になっていた。 もし藤井があれ以上ジョアン・パウロに寄せていたら、ワンタッチでユーリ(ララ)から原の前を取った櫻川への完璧なルートを作られ、崩されていた未来が容易に想像できる。
そもそも、最初の守備の局面選択において、絶対に(プレスが)ハマらないのに「後ろ(守備陣)が勝ってくれたら…」と期待してしまったこと、横浜FCの最終ラインも(前に出て)少なくなっていたため「攻撃に転じることができたら…」という皮算用的な守備選択になってしまった部分が原因である。
チームとしての設計自体がズレているため、「最大効率の守備プレーを選択しなかったから失点した」とは個人的には考えない。あくまで「最大効率のプレーであれば失点を防げたかもしれない」というだけの話である。そしてそれも結局は、1対1に勝てるかどうかの「賭け」であることに変わりはない。
守備をしないといけない形を作る。
後半に入ると、横浜FCの守備の連続性を誘うように、名古屋が立ち位置を工夫する展開も増えてきた。
65分31秒からのように、原を上げて2CB(センターバック)のような立ち位置をとり、菊地と永井(または和泉)で相手のウイングバックを押し込む。 ウイングバックを押し込んだ上で、ボランチの間に人を立たせる(この場面では山岸、和泉、原)。 こうすることで、「そもそもセンターを囲ませない」形を作ったり、人対人が自然とできるような配置に最初からしたりした。
これは、かつて名古屋が4バックの相手に対し、選手間に立たれた選手をどう扱うかで悩んだような状況を、今度は横浜FC相手に行うような展開となった。 こういった形の使い分けが、選手起因(個人の判断)なのか、戦術起因(チームの指示)なのかはわからないが、もう少し早い段階でこの形が見られれば、違った展開だったかもしれない。 しかし、追いつき追い越す必要のある時間帯でのこの形(戦術)の選択は良かった。
試合雑感
- あの芝の長さで、足もきつくなる時間帯であった。相手はフィジカルとパワーを兼ね備え、少人数でもボールを運べる選手を揃えている。その中で「リスクを取って攻めに行け」というのは、勇気でも何でもない。ギャンブル(無謀な攻撃)をせず、相手を褒めるべきシュートで追いつかれたので、スポーツとしての納得感は強い。あの場面で守りきれなかったからこそ(批判が)言われるだけで、もし守れていれば「点を取りに行ってカウンターを食らわなくて良かった」という案件になっていただけである。
- 「前半は省エネで戦い、後半の体力差で勝負する」といったスタイルのチームには、今シーズンとことん相性が良くない。そうした相手に、ほぼ引き分けで試合を終えられているのは、実は大きな成果である。
- ウイングバックが自ら「(ビルドアップのために)降りた時」と、相手によって「(守備のために)降ろされた時」とで、組み立ての目指す地点がどう違うのかを、チームとして理解しておく必要がある。自分主導、相手主導、どちらのパターンでも有効な手札(戦術)があれば、もう少し楽な試合運びができるだろう。




