
らいかーるとさんから以下のお題いただきました。
低迷する順位、それでも観客数は過去最高 名古屋グランパスの“不思議な現象”に迫る
2025年シーズンのJ1リーグ。名古屋グランパスは20チーム中16位と、ちょっぴり苦しいシーズンを送っています。ところが、スタジアムに足を運ぶ人の数は、なんとクラブ史上最高を記録しているのです。
「どうしてだろう?」と不思議に思いませんか?
この記事では、そんな「グランパスのパラドックス」の秘密を、様々な角度から探っていきます。
先に結論をお伝えすると、このたくさんの人がスタジアムに集まる状況は、決して偶然ではありません。クラブがここ数年、こつこつと続けてきた「取り組み」が、花開いた結果なのです。
Jリーグで常に勝ち続けることは非常に難しく、強さだけで観客を惹きつけ続けるのも容易ではありません。実績ナンバーワンの鹿島アントラーズでさえ、最後にタイトルを獲得したのは2016年です。
それを踏まえて、グランパスは、試合の勝ち負けだけに左右されない、安定したクラブ経営を目指してきました。そのために、試合の日を単なる「サッカー観戦の日」から、「一日中楽しめるエンターテイメントの日」へと進化させてきたのです。
その秘密は、次の3つのポイントに隠されています。
- 夏の一大イベント「鯱の大祭典」で、新しいファンを増やす!
- 美味しいスタジアムグルメや、家族で楽しめるサービスで、試合の日がもっと楽しくなる!
- ファンとの心の距離を縮める、きめ細やかな工夫。
この3つがうまくかみ合うことで、チームの成績がどうであれ「スタジアムに行きたい!」と思える、強い集客の土台ができました。
このグランパスの取り組みは、他のスポーツクラブにとっても、お手本になるかもしれませんね。
前編となる今回は、まず一般的に「どうすればスタジアムにお客さんがたくさん来てくれるのか?」というお話から始めたいと思います。
スタジアムにファンを呼び込むには?短期的なアイデアと長期的な視点
プロスポーツの試合に、たくさんの人に来てもらうための方法は、大きく分けて「すぐに効果が期待できるもの」と「じっくり時間をかけて取り組むもの」の2つがあります。
まずはコレ!すぐに試せる短期的なアイデア
こちらは、特定の試合や期間に話題を作り、「スタジアムに行ったことがないな」「行こうかどうしようかな」と迷っている人の背中を、そっと押してあげるためのアイデアです。
アイデア | 内容 | 期待できる効果 |
1. 有名人やインフルエンサーを呼ぶ | 試合前やハーフタイムに、話題のタレントさんや人気のインフルエンサーに登場してもらい、イベントを盛り上げます。 | ★★★★★ |
2. お得な企画チケットを販売する | 「ビール1杯付きチケット」や「学割」、「女性割引」など、特定の人に向けた割引や、練習見学ツアー付きのような特別な体験をセットにしたチケットを用意します。 | ★★★★☆ |
3. 人気のアニメやゲームとコラボする | 人気の作品と協力して、キャラクターがデザインされた限定グッズを配ったり、特別なイベントを開催したりします。 | ★★★★☆ |
4. 来場者限定のグッズをプレゼントする | その日しか手に入らないユニフォームやタオルマフラーなどを、来てくれた人全員、または早い者勝ちでプレゼントします。 | ★★★☆☆ |
5. SNSで集中的にアピールする | 試合の直前に、SNSでチケットプレゼント企画をしたり、選手からのメッセージ動画を流したりして、注目を集めます。 | ★★★☆☆ |
特に、有名人をゲストに呼ぶ方法は、その方のファンがスタジアムに来てくれるきっかけになりますし、ニュースにもなりやすいので、とても効果が期待できます。コラボ企画も、新しいファン層に興味を持ってもらう良いチャンスになります。
特別な一日を作る!「自分たちのスーパーボウル」という考え方
アメリカンフットボールの優勝決定戦「スーパーボウル」は、ただの試合ではありません。国中がお祭り騒ぎになる、年に一度の特別なイベントです。これくらい注目される試合は、ファンを増やす上で、とてつもないプラスの影響力を持っています。
【スーパーボウルのすごいところ】
- 国民的お祭り:「スーパーボウル・サンデー」と呼ばれる日曜日は、たくさんの人が家族や友人とパーティーを開きながらテレビ観戦します。
- 圧倒的な注目度:アメリカで一番見られるテレビ番組で、試合中のCMは世界で最も高額と言われるほどです。
- 豪華なハーフタイムショー:世界的なスーパースターが登場するライブは、アメフトに興味がない人からも注目されています。
もし、自分たちのリーグにも、このような「年に一度のお祭り」のような試合を作れたら、どうなるでしょうか?
【メリット】
- 新しいファンが爆発的に増えるかも:「お祭りなら行ってみようかな」という、普段スポーツを見ない人も巻き込めます。
- リーグ全体の価値が上がる:注目度が上がれば、スポンサーも集まりやすくなり、リーグ全体が豊かになります。
- シーズンがもっとドラマチックになる:「あの舞台に立つ!」という明確な目標ができることで、シーズンを通しての戦いが、より一層盛り上がります。
【デメリット】
- 普段の試合の価値が下がってしまうかも:「そのお祭りの日だけ見ればいいや」と考える人が増えると、シーズンを通して安定してお客さんに来てもらう、という目標とは逆効果になってしまうかもしれません。
- 昔からのファンが寂しい思いをするかも:チケットが手に入りにくくなったり、値段が高くなったりして、これまでチームを支えてくれたファンがスタジアムに行けなくなってしまうのは、一番避けたい事態です。
「スーパーボウル」のような特別な試合を作るのは、たくさんの新しいファンを惹きつける可能性がある一方で、これまでのファンを大切にする視点も忘れてはいけない、ということですね。
じっくり育てる、長期的なアイデア
こちらは、目先の試合だけでなく、何年もかけてチームのファンを増やし、安定してスタジアムに足を運んでもらうための、じっくりとした取り組みです。
アイデア | 内容 | 期待できる効果 |
1. チームを強く、魅力的にする | 勝つことはもちろん大事ですが、「見ていてワクワクする」「最後まで諦めない」といった、人を惹きつけるチームの個性を作ります。 | ★★★★★ |
2. スタジアムでの体験を最高のものにする | 美味しいグルメ、快適な座席、子どもが遊べる場所など、試合以外のお楽しみを充実させ、「スタジアムに行くこと自体が楽しい!」と思えるようにします。 | ★★★★★ |
3. 地域の人たちと、もっと仲良くなる | 選手が学校を訪問したり、地域のお祭りに参加したりして、「私たちの地元のチーム」として愛される存在を目指します。 | ★★★★☆ |
4. みんなが見たい!スター選手を育てる | 「この選手が見たいからスタジアムに行こう!」と思えるような、人気と実力を兼ね備えたスター選手を育て、チームの「顔」になってもらいます。 | ★★★★☆ |
5. ファンクラブをもっと魅力的にする | チケットを他の人より早く買えたり、特別なイベントに参加できたりと、ファンクラブに入っていることが嬉しくなるような特典を充実させます。 | ★★★☆☆ |
一番大切なのは、やはりチームが強くて、見ていて面白いことです。それが、ファンが応援し続けてくれる一番の理由になります。
そして、今の時代は「スタジアムでどう過ごすか」も、とても重要です。家族やカップルなど、色々な人に来てもらうためには、試合以外の時間の楽しさを演出することが鍵になります。
これらの短期的なアイデアと長期的な取り組みを、バランス良く組み合わせ続けることが、たくさんのファンに愛されるクラブへの道筋です。
ただ、ここで注目したいのは、「強く、魅力的なサッカー」というところです。強さって勝ち続けることなんでしょうか?
やっぱり「勝ち負け」は大事?
チームが強ければ、お客さんはたくさん入るのでしょうか?実は、優勝したチームの観客数が、必ずしも一番多いわけではないのです。
【チームが強いときの良いところ】
- 「勝利」は最高のエンターテイメント:やっぱり、応援しているチームが勝つ姿を見るのは、何より嬉しいものです。
- 新しいファンが増える:チームが勝ち続けると、ニュースで取り上げられる機会も増え、「ちょっと見てみようかな」という人が増えます。
- スタジアムが一体感に包まれる:勝利を信じる応援は、スタジアムを熱くし、その雰囲気がまた新たなファンを呼び込みます。
【チームの成績が良くないときの悩み】
- スタジアムから足が遠のいてしまう:負けが続くと、応援に行くモチベーションを保つのが難しくなってしまいます。
- スタジアムの雰囲気が暗くなる:ため息や野次が増えると、初めて来た人や家族連れは、少し居心地が悪く感じてしまうかもしれません。
- 世間から忘れられてしまう:メディアへの露出が減ると、チームの存在感が薄れてしまい、スポンサー離れにも繋がる可能性があります。
【ここから分かること】
チームの強さは、観客数に大きな影響を与える、とても大切な要素です。でも、それだけに頼ってしまうと、経営は不安定になってしまいます。
大切なのは、「ファンが求めているのは『楽しかった!』という素敵な体験であり、チームの強さは、その体験をより良くするための一つの要素に過ぎない」 ということです。
だからこそ、チームが苦しい時期でも「スタジアムに行きたいな」と思ってもらえるような、独自の魅力を作っておくことが、とても重要になります。
チームの成績に左右されない、強い「ファンベース」を育てる5つの方法
「ファンベース」とは、チームを応援し続けてくれる、ファンの皆さんの集まりのことです。ここでは、チームがどんな状況でも応援し続けたいと思えるような価値を作るための、具体的な方法を5つご紹介します。
1. スタジアムを「目的地」にする
試合の勝ち負け以上に、「あそこに行くだけで楽しい!」と思える場所にします。
- 美味しいスタジアムグルメ:地元の有名店とのコラボや、選手が考えたメニューで、「あそこのスタジアムは美味しい」という評判を作ります。
- 色々な観戦スタイル:寝そべって見られる席や、バーベキューができるエリアなど、様々な人が楽しめる席を用意します。
- 試合の前後も楽しめる工夫:試合前にはトークショー、試合後にはグラウンドでキャッチボール体験など、一日中楽しめるイベントを企画します。
- 家族に優しい環境:子どもが遊べる広いキッズエリアや、授乳室などを整え、「家族で安心して楽しめる場所」を目指します。
2. 「私たちのチーム」という、仲間意識を育む
ファンがチームを、単に応援する対象としてではなく、「自分たちの人生の一部」と感じられるような、強い絆を築きます。
- 地域との深い繋がり:選手やスタッフが、地域の学校やお祭りに積極的に参加し、地元の人たちとの交流を増やします。
- オリジナルの応援文化:ファンが一体になれる応援歌やスタイルを、チームも一緒になって盛り上げます。
- ファン参加型のイベント:新しいユニフォームのデザイン投票など、ファンがチーム運営に関わる機会を作ります。
3. 選手の「物語」を共有し、心の距離を縮める
選手のプレーだけでなく、その人柄や努力のストーリーを伝えることで、ファンが感情移入できる選手を増やします。
- 公式メディアで選手の素顔を発信:YouTubeなどで、練習風景や選手のプライベートな一面を伝え、親近感を持ってもらいます。
- 若手や控え選手にも光を当てる:スター選手だけでなく、頑張っている若手選手の物語も紹介することで、チーム全体への愛情を深めます。
- ファン感謝デーを大切にする:ファンと選手が直接触れ合える時間をたくさん作り、感謝の気持ちを伝えます。
4. 次の世代のファンを育てる
子どもたちが、初めてスタジアムに来たときに「楽しかった!」と思える、素敵な思い出を作ることが、未来のファンを育てる上でとても大切です。
- 子ども向けのスクールを開く:スポーツの楽しさを教えながら、小さい頃からチームに親しみを持ってもらいます。
- これからのファンベースを創る小学生・中学生らのチケット優待:子ども向けの優待があると親にとっても娯楽の選択肢として提案しやすくなりますし、はじめてのサッカー観戦をしてもらえる可能性が高まります。
- キッズ向けのファンクラブを作る:「また来たい!」と思えるような、子どもが喜ぶ特典を用意します。
- 地元の学校と協力する:選手が学校で授業をしたり、子どもたちを試合に招待したりします。
5. 試合がない時期も、ファンとの繋がりを保つ
シーズンオフも、ファンとの接点を持ち続け、関心が薄れてしまうのを防ぎます。
- オンラインでファンが集まる場所を作る:ファン同士が交流したり、特別なコンテンツを楽しめたりするオンラインコミュニティを運営します。
- 昔の名試合を配信する:YouTubeなどで、過去の試合映像を配信し、チームの歴史を共有します。(権利と費用の問題があるのでたくさんはできませんが)
- オンライントークイベントを開く:オフシーズン中に、選手やコーチが参加するオンライントークショーなどを開催します。
これらの取り組みは、すぐに結果が出るものではなく、何年もかけて、こつこつと続けることが大切です。しかし、一度こうした強いファンとの絆が築かれれば、チームは目先の成績に一喜一憂することのない、安定した経営の土台を手にすることができるのです。
ファンの「好き」という気持ちを、ずっと大切にし続けるために
ファンになってもらう段階が「仲間を増やす」ことだとすれば、ファンで居続けてもらう段階は「ファンであることの価値を高め、関係を深める」ことです。そのためには、ファン一人ひとりを尊重し、対話を続ける姿勢が欠かせません。
1. ファンの声に耳を傾け、応える
ファンを「お客様」としてだけでなく、「チームを一緒に作るパートナー」として大切にします。
- 定期的なアンケート:スタジアムでの体験などについて意見を募り、「皆さんの声を受けて、来年からこうします」と、実際に改善したことを報告します。
- ファンとの交流会:選手やスタッフが、ファンと直接お話しする場を設けます。チームが苦しい時こそ、真摯に声に耳を傾ける姿勢が、信頼に繋がります。
- SNSでのコミュニケーション:ファンからの質問に答えたり、投稿を紹介したりして、「ちゃんと見てくれているんだな」と感じてもらえるようにします。
2. 「応援してきて良かった」と思える、特別な体験を
長く応援してくれるファンが、誇りを持てるような仕組みを作ります。
- ファンクラブのランクアップ制度:来場回数や継続年数に応じて会員ランクが上がり、特別なイベントに参加できるなど、「お金では買えない価値」を提供します。
- 長年のファンへの感謝を伝える:ファンクラブを長く続けてくれている方を、公式サイトやスタジアムで表彰します。
- 一人ひとりに向けたメッセージ:「お誕生日おめでとうございます!」「いつも応援ありがとうございます!」といった、個人に向けたメッセージを送ります。
3. いつも新しい発見や楽しさを
ファンが飽きないように、常に新しい刺激を提供し続けます。
- 伝統を守りながら、新しい挑戦も:毎年の恒例イベントは大切にしつつも、時には演出を新しくするなど、マンネリを防ぐ工夫をします。
- テクノロジーで、もっと便利に、もっと楽しく:公式アプリで、座席から食べ物を注文できたり、選手の詳しいデータが見られたりするなど、観戦体験をより豊かにします。
- チームの歴史や物語を共有する:クラブの歴史を振り返る展示などを企画し、ファンであることの深みを増してもらいます。
4. ファン同士の繋がりを応援する
チームとファンだけでなく、ファン同士が繋がることで、応援はもっと楽しくなります。
- 公式のファンコミュニティを作る:ファン同士が安心して交流できる、オンラインの場所を用意します。
- 応援するサポーターグループの活動をサポートする:熱心に応援をリードしてくれるサポーターグループの活動を、チームとして支援します。
- ファンが企画するイベントに協力する:ファンが主催するイベントの告知に協力するなど、ファン主体の活動を後押しします。
一度築いたファンとの絆も、何もしなければ、その熱量は少しずつ冷めていってしまうかもしれません。大切なのは、ファンを「一度獲得したら終わり」ではなく、「生涯のパートナー」として、対話を続け、共に成長していくことです。
その姿勢こそが、チームが良い時も悪い時も、変わらず支え続けてくれる、温かいファンとの関係を育んでいくのです。
後編では、ここで取り上げたアイデアを、名古屋グランパスがどう活かしているのかについてご紹介していきます。
AI感