お題箱からのリクエストです
そもそも強化っってなに?
プロサッカーチームにおける「強化」とは、一言で言えば「チームを強くし、勝利(=クラブの目標達成)に導く」ための活動全般を担う役割です。
GMや強化部長が率いる「強化部(強化部門)」がこの役割を担当します。彼らは、監督や選手といった現場スタッフがピッチ上のパフォーマンス(=サッカー)に100%集中できる環境を整えつつ、同時にチームの未来を設計する、クラブの心臓部とも言える重要なセクションです。
「強化」の具体的な業務内容は、大きく以下のカテゴリーに分けられます。
1. チーム編成(最も中核となる業務)
クラブの「人事業務」全般を担当します。
- スカウティング(発掘):
- クラブの戦術や方針に合う選手(プロ、大学生、高校生など)や、監督・コーチを探します。
- 国内外の試合を視察し、リストアップします。
- 獲得・契約:
- リストアップした選手や監督に対し、移籍交渉(他クラブとの交渉)や契約交渉(年俸、契約年数など)を行います。
- 代理人(エージェント)との交渉も重要な業務です。
- 放出・移籍:
- 戦力的な判断に基づき、選手との契約を更新しない決定(契約満了)や、他クラブへの移籍(放出)交渉を行います。
2. 情報分析
チームの「羅針盤」となる役割です。
- 情報収集・分析:
- 国内外の移籍市場の動向を常にチェックします。
- ライバルチームの戦力や戦術を分析し、自チームの編成に活かします。
3. 予算管理
GMから配分された強化予算を管理する役割です。サッカーチームの場合は時に予算超過しないと必要な選手獲得ができない場合があるので、その場合はより上位(GMや社長など)と交渉して予算を追加交渉します。
- 強化予算の管理: クラブの経営陣と連携し、チーム強化に使える総予算(主に選手や監督の人件費、移籍金など)のうち、強化に使用できる予算分を管理・執行します。
- 投資判断: 限られた予算の中で、「どのポジションに」「いくら使って」選手を獲得するか、最適な投資判断を行います。
4. 環境整備(現場のサポート)
現場が活動に集中するための「バックオフィス」としての役割です。
- 練習環境の整備: 練習グラウンドやトレーニング施設が常に良い状態であるよう管理します。
- 遠征の手配: アウェイゲーム時の移動手段、宿泊先、食事などを手配します。
- 用具管理: 練習や試合で使うボールやユニフォームなどの用具を管理・発注します。
- 医療サポート体制の構築: 選手の怪我の治療やリハビリをサポートするメディカルスタッフ(医師、トレーナー)と連携します。
5. 育成(アカデミー)との連携
クラブの未来を育てる役割です。
- 選手の昇格: ユース(U-18)や下部組織からトップチームに昇格させる選手を見極め、判断します。
- 育成方針の共有: トップチームと育成組織で、一貫したサッカースタイルや指導方針を持つための橋渡し役となります。
このように、「強化」の役割は、短期的な「勝利」(=良い選手を獲り、勝てるチームを作る)と、長期的な「クラブの発展」(=予算を守り、将来性のある選手を育てる)という、両方の視点を持ってチームを設計・管理することにあります。
GMと強化部の違い
日本のJリーグのクラブでは、「GM」と「強化部長」をほぼ同じ意味で使ったり、一人の人物が「GM兼強化部長」として両方の肩書を持ったりするケースが多く見られます。
また、GMを置かずに「強化部長」や「スポーツダイレクター(SD)」、「フットボールダイレクター(FD)」といった役職が、チーム強化の最高責任者を務めることも一般的です。
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名古屋グランパスの場合はどうだったの?
名古屋グランパスの場合は以下のような棲み分けになっていると思います。
強化部は主に現場の統括、GMはその上でチーム内のすべての統括です。
GM: クラブの経営層に近い立場で、チーム強化だけでなく、育成(アカデミー)部門、マーケティング、時には事業運営全体など、クラブの広範な領域に責任を持つ場合があります。「General(全般的な)」という名の通り、より広い視野でのマネジメントを行います。チームの方向性を経営陣とともに作り上げる役割でもあります。
強化部長: トップチームの強化に特化した実務的な責任者として、GMの決定した方針のもと、選手獲得や交渉などの現場実務を指揮します。
名古屋グランパスでは山口素弘GM(2025年まで)は執行役員を兼ねていました。これはチームの様々な決定事項を承認する権限をある程度与えられていたということでもあります。
2026年の名古屋グランパスはどうなる?
まず注目はGMを置くのかどうか。
清水社長はサッカー業界にそこまで長く居たわけではないビジネスマン寄りの方です。
来年強化部長に就任するとされている中村直志さんはここ数年アカデミーのお仕事をしていたので、強化部長以上の役割を課すのは少々負荷が高すぎると思います。
そうなると、GMを招聘することになると思います。
GMにどこまでの権限を与えるのか。
山口素弘GMと同等の執行役員の権限を与えるかどうかが焦点になります。
まず重要な前提として、「執行役員」は会社法で定められた「役員(取締役など)」とは異なり、各企業が社内規定(執行役員規程など)に基づいて任意で設置する「役職(呼称)」です。
そのため、その権限の範囲は法律で一律に決まっておらず、個々の会社の規定や、取締役会・代表取締役からの委任内容によって大きく異なります。
この前提を踏まえた上で、日本の企業で「執行役員」に一般的に与えられている(許されている)権限は、主に「担当分野における業務執行の最高責任者」としての権限です。
執行役員に一般的に許される権限
執行役員は、取締役会(経営の意思決定)が決定した経営方針や戦略に基づき、実際の業務を「執行(実行)」するトップとして、以下のような権限を持ちます。
1. 担当領域の業務執行に関する決定権
- 担当する事業部、部門、あるいは機能(部署など)の日常的な業務運営に関する最終決定権を持ちます。
- 取締役会で決まった大きな方針(例:今期の順位XX位など)を達成するための、具体的な施策を決定し、実行する権限を持ちます。
2. 予算執行に関する権限
- 取締役会で承認された担当部門の予算の範囲内で、経費の支出や投資を決定・承認する権限(決裁権)を持ちます。
- ただし、一定額(例:1億円)を超えるような大規模な投資や支出については、執行役員単独では決められず、取締役会や代表取締役の承認が必要となるのが一般的です。
3. 部門内の人事に関する権限
- 担当部門に所属する従業員(部長、課長、一般社員など)の業務を指揮・命令する権限を持ちます。
- 部門内の人事評価(査定)や人材配置(異動)について、強い権限(事実上の決定権や、人事部・社長への具申権)を持ちます。
- 部門に必要な人材の採用(中途採用など)や育成方針を決定する権限を持ちます。
4. 重要事項の起案・提案権
- 担当業務において、取締役会の決議が必要となるような重要な事項(例:大規模な設備投資(古くなりすぎているU-18の寮をどうにかして欲しい・・・など)、他チームとの業務提携)が発生した場合、それを取締役会に「起案(議案として提案)」する役割と権限を持ちます。
権限の源泉と限界
執行役員のこれらの権限は、あくまで会社(具体的には取締役会や代表取締役)からの「委任」に基づいて与えられたものです。
したがって、以下のような限界があります。
- 会社の経営方針の決定権はない: 「この会社は今後どの事業に進出すべきか」といった会社全体の経営の基本方針を決定するのは、原則として取締役(取締役会)の役割です。執行役員は、その決定に従って業務を実行します。(※会議体に参加して意見を述べることはあります)
- 取締役会の監督下にある: 業務執行の状況は、取締役会に対して報告する義務があり、その監督を受けます。
これらに注目していくことで、チームがどうなっていくのかがわかると思います。
