はじめに
天皇杯がはじまってしまうので、簡単に振り返ってみます。多くの人が怒り、悲しんでいました。Twitterのタイムラインがここまで荒れたのは、本当に久しぶりだったと思います。
試合の流れは、不運なオフサイド判定もありながら、ジョアン・シミッチのところで守備が決壊し、5点を奪われる大敗になってしまいました。
ネットではジョアン・シミッチのCB起用を含めて、議論が紛糾しました。
よく見る意見をまとめると、以下のようになると思います。
- ジョアン・シミッチのCB起用について
- なぜジョアン・シミッチがCBなのか
- なぜ本職センターバック(千葉和彦、櫛引一紀)を何故起用しないのか
- 和泉竜司のSB起用について
- なぜ吉田豊ではないのか
- なぜ和泉竜司だったのか
- なぜ太田宏介を補強しなければならないのか
- エドゥアルド・ネットの起用について
- なぜ中2日のネットを起用したのか
- なぜ最後まで引っ張ったのか
- 米本拓司の起用について
- なぜ中2日の米本拓司を起用したのか
- なぜ最後まで引っ張ったのか
なぜ?なぜ?なぜ?・・・・・
いやもっと言うと、「わけわかんねぇ」っていう感情が渦巻いていたのではないでしょうか。
人は理解できないものを見ると、怒り出したり、怖がったり、軽蔑したりする。
これは古くから哲学者のパスカルやコナン・ドイルなんかも指摘しています。ルヴァンカップ仙台戦アウェイから、このヴィッセル神戸戦にかけては、わけわかんねぇという選手起用が続いています。
単純に負けが込むだけでも、ネガティブな感情が渦巻くのに、プラスアルファでわけわかんねぇっていうマイナスな感情が溢れていたら、そりゃ荒れますよね。
少しずつ考えてみましょう。
現状の整理
名古屋グランパスの現状は以下の通りです。
- 名古屋のハイライン対策が何通りか組み上がりつつある
- 徹底的に裏を突かれているので、ラインが上げられない(無理にラインを上げると裏を突かれる)
- 中盤の米本拓司・ジョアン・シミッチのフィルター回避が定番化しつつある
- 上記に伴って得点力が低下している(第6節から16節まで、平均得点が1.0/試合)
清水エスパルス戦、徹底的にサイドの裏を突かれまくっていました。失点はいずれもサイドからのクロス一発でした。
大分トリニータ戦、だいぶ押し込んではいましたが、サイドからのクロス一発でピンチをいくつか作られていました。
ベガルタ仙台戦、パスが回らないなかで徹底的にショートカウンターをしかけられました。
6月はだいたいこんな感じでした。
なにかを変えなければならない
結果がでない。そうなったらどうするべきでしょうか。
執る選択肢は3つしかありません。
- 今結果が出ないのは運が悪い、巡り合わせが悪いだけ。何も変えない。
- 現在執っている施策の精度が低い。精度を上げていく。
- 現在発生している問題を評価し、その問題点を改善する。
風間八宏監督は「いつも通りやるだけ」=2)精度を上げる、という風に答えるだけでしょうが、実際には、精度を上げていくというのは、短期的には無理な部分があります。ACL出場圏の3位以内を目指すのであれば、「すぐに」勝ち点は必要なのです。
そうなると3)現在の問題点を改善する、ということになります。そのために、勝ちがなかったこの4試合、実は様々なテストがなされていました。
- 松本山雅FC戦では、負傷のジョーに代わって、赤崎秀平が試されました。
- ベガルタ仙台戦では、不振のガブリエル・シャビエルに代えて前田直輝、負傷のジョーに代えてマテウスがFWで試されました。
- 大分トリニータ戦では、ジョーの慣らし運転をしました。
- 清水エスパルス戦では4試合勝ちなし、を受けて、左サイドにマテウスが試されました。
ジョーの負傷にはじまって、来日以来はじめてとも言える、ガブリエル・シャビエルのスランプが続きました。普段だったら当然のように決めているシュートがまったく枠に入りません。それに伴ってプレーに精彩を欠くようになっています。おそらくそういうときのために、と期待されて獲得されたマテウスがイマイチチームに馴染めていません。前田直輝の復調、相馬勇紀が
なにかを変えよう、そういう様々なトライのなかで、ついに恐れていた我らがキャプテン丸山祐市の負傷が発覚してしまいました。
ジョーの負傷と松本山雅FC戦の敗戦にはじまった試行錯誤は、ルヴァンカップ仙台戦(アウェイ)を経て、より複雑さを増していたのです。
なぜジョアン・シミッチがCBなのか
どんなチームも、守備から攻撃に転じるときに自陣からパスを繋ぐ(=ビルドアップする)ことができる人が必要です。好調時の名古屋はCBの二人、中谷進之介と丸山祐市の2人が、ジョアン・シミッチに預けてボールを前進させる、というのが定番でした。
たとえば単純な守備力で言ったら、左センターバックといえば櫛引一紀の粘り強い守備も高く評価できると思いますが、あっという間にグランパスのサッカーに馴染んだ丸山祐市がキモでした。櫛引一紀がドリブルでボールを持ち上がる姿も僕はとっても好きなんですが、パス出しの起点になれることと、十分な守備力を持つこと、トータルで考えるとなぜ丸山祐市だったのかがわかります。丸山祐市は名古屋グランパスの守備ラインに欠かせないものになっているのです。
その丸山祐市が怪我で欠場を余儀なくされます。
丸山祐市の代役捜し
もともと、中谷進之介と競わせる目的で獲得したと思われる千葉和彦は、普通に考えたら候補ナンバーワンです。左脚から繰り出されるパスに魅力があり、セットプレーでのヘディングにも強い選手です。ただ、スピードがあるわけでもなく、そうなると守備のラインが高めに設定されるようになった今年のグランパスでは、使いづらい場面が出てきてしまいました。主にルヴァンカップでの試合出場になっていましたが、ルヴァンカップ大分戦では大分の機動力に手を焼き、後半早くに2枚目のイエローを貰って退場してしまいました。この印象はあまりよくなかったかもしれません。
もう1人、本職のセンターバックというと櫛引一紀です。前述の通り、止める蹴るのレベルは名古屋グランパスに来てびっくりするほどレベルアップしましたが、時折大きなミスが出てしまうことがあります。3日前のルヴァンカップ仙台戦アウェイでも、櫛引一紀選手が、仙台の選手に直接パスをしてしまって奪われ、危うくルヴァンカップ敗退の危機を招いてしまいました。
この印象はあまりよくなかったかもしれません。
本職2人が本来なら務めるべき、丸山祐市の代役。上記の要素を鑑みると、簡単には決められなかったことは想像できます。
ジョアン・シミッチが選ばれた理由
ジョアン・シミッチは丸山祐市とともに最終ラインに入ってボールを前線に運ぶ役割を担っていました。ポジションをよく見ていただくとわかるのですが、守備から攻撃への切り替わりのときにはほとんどの場合、ジョアン・シミッチは最終ラインとほぼ同じ位置にいます。シミッチの素晴らしいところは、そこから前線近くまでしっかりとボールを運んでいくことができるところです。ボールも中盤では狩れるし、ヘディングも強い。中盤の守備はある程度以上こなすことができます。
監督としては、どうしても最終ラインからはパス出しできる選手が欲しい。
そうなると直近でパス出しにミスのあった櫛引一紀が候補からまず消えたのだろうと考えます。
そうなると千葉和彦が候補に挙がりますが、ひょっとすると大分トリニータ戦での退場が頭をよぎったかもしれません。
そこで第3の選択肢として、ジョアン・シミッチが挙がったのだろうと想像します。
ジョアン・シミッチをCBのポジションに下げた場合、リスクが2つあります。
- 本職ではない守備がどこまで通じるか
- 最終ラインからボールを受け取って、前線に運ぶのが誰になるのか
メリットは
- おそらく丸山祐市以上にパス出しはしっかりできる
- ヘディングも強い
リスクのうち、ボールを運ぶ役割は、エドゥアルド・ネットが担うことができます。またラストパスの精度は決して高くないジョアン・シミッチに対して、エドゥアルド・ネットの場合はそこを通すか!という鋭いパスを通すことができます。
ポジションの枠の関係で、せっかく復帰できたのに普段は併用できずにベンチ外が続いていました。しかしネットとシミッチを併用できたら、大きな副次効果も生まれそうです。
リスクを承知の上で、試したくなる魅力はあったのではないか、と推察します。
これが、誰もが驚いたジョアン・シミッチCB起用の理由だと思います。
とにかく点を獲りたかった
繰り返しになりますが、ここ11試合の平均得点はちょうど1得点。0封できないと勝てないのです。なんとしてでも複数得点を獲れるように、変えようとしていたのはわかります。
ネットの獲得時点から、風間八宏監督は彼をものすごく高く評価していました。鼠径部痛を抱えながらも騙しだましプレーする彼を最後まで外すことができなかったのは、彼のセンスを高く買っていたからにほかならないと思います。
ただ、守備には難を抱えています。そうすると中2日で厳しかったのは承知で、米本拓司を起用せざるをえなかったのでしょう。
おそらくリードしていたら、千葉和彦を入れてジョアン・シミッチをセントラルMFに上げ、中2日のネットを下げる。同時に疲労が心配される米本拓司を小林裕紀に変える。同じく中2日の前田直輝を相馬勇紀に代える、という構想だったのではないでしょうか。
負けていたならば相馬勇紀、金井貢史を入れていく。
これまで3人もDFを控えに入れたことがあまりなかった風間八宏監督が、吉田豊、金井貢史、千葉和彦とDFを3人入れたのは意味があったのだと思われます。
そして実際、ヴィッセル神戸戦では3点を獲ることができました。
点を獲るためのリスクをとった選手起用で、点は獲ることができました、が、リスクの面がわかりやすく出てしまいました。これはとても残念な結果でした。
監督は6戦勝ちなしの責任をとるべきなのか
これで川崎フロンターレ戦から数えて6戦勝ちなし、という結果に終わりました。監督を解任しろ!という声も挙がってきています。
個人的に、サッカーの監督に限らず、指揮官がその職を追われるのは、チームが崩壊しているときだと思っています。残念なことですが、2016年には、小倉隆史監督の指導に対して楢崎正剛選手をはじめとする複数人が疑問を呈する、ということがありました。レギュラーの選手からそういう声が挙がるようであれば、確かになんらかの動きを見せる必要があったのでしょう。指揮官の言うことを聞かない状態になっているチームが、うまく動くとは思えないからです。
現時点で風間八宏監督の指導がそういう状態になっているようには見えません。だから個人的には今解任は尚早と思います。むしろ風間監督を代えて、目先ちょっと勝てたりするかもしれませんが、
一生懸命軸を作ろうとしている(まだ成功はしていないけど)チーム作りを、またリセットしてしまう結果になることに恐怖を覚えます。
ただし、もう一つ重要な要素があります。仕事には切れ目があって、契約にも切り替え時期があります。
1年契約の風間八宏監督にとって、毎年末がその切り替え時期です。
これを読んでいる皆さんのほとんどはそうだと思いますが、我々は仕事をすると、なんらかの指標で評価されます。指標には目標値があり、それをクリアできているかどうかということは大事な要素になります。
今年のチームとしての目標が、インタビューや報道の通り、3位以内(もしくはなんらかのタイトル獲得)であるならば、それを達成できなかった場合には、その未達を以て、お互いの次の契約をどうするべきか考えるはずです。その結果切り替える、となったならば、それは致し方ないでしょう。
これから10戦以上勝ちなし、降格危機、となるならば解任もありだと思いますが、いずれにせよ、シーズンが終わったときに評価するほうが適切だと思います。新監督にはチームを承継できる時間が必要なので。