みなさん、ごきげんよう。JUNです。
グラぽでは、ずいぶんと久しぶりの投稿となりました。ご無沙汰しています。
はじめに
ご存知でない方も多いと思いますので簡単に自己紹介します。私は愛知県生まれの名古屋育ち、現在は東京に住んでいる関東グラサポです(瑞穂公園ラグビー場で平木初代監督と交わした握手がきっかけでサポになりました)。普段は税理士であるとともに、企業勤めで経理領域が長く、すっかり会計界に染まっているため、サッカー戦術やプレーを語るみなさんとは異なり、主に数字や会計を用いたクラブ経営の観点でグランパスやJリーグを楽しんでいます。また、私の勤める会社が某クラブを所有している関係上、クラブ経営の裏側も若干のぞける立場であったりもします。
もし興味がございましたら過去の投稿もお読みください。
前置き長くなりましたが、今回は先日発表された「名古屋グランパスのクラウドファンディング」についてピックアップし、背景にあるクラブ側の考えや思いを中心に述べたいと思います。お金や数字の話が多くなりますが、予めご容赦ください。
「グランパスがクラウドファンディングを始める」と聞いたとき、みなさんはどうお感じになったでしょうか?
「グランパスって、そんなにヤバいの? 前監督や大型FWの違約金のせい??」
「グランパスほどのクラブにクラファン必要なんだっけ? あれ、親会社の●●は?」
「ヨシ!、我々サポーターがグランパスを助けるときがきた。」
「え、まいったな。お布施できるお小遣いないよ・・・」
など、さまざまな疑問や思い、感情が湧いたことでしょう。
クラウドファンディングとは
「クラウドファンディング」とは、「クラウド(crowd:群衆、観衆、× cloud:雲)」・「ファンディング(funding:資金調達、財政的支援)」と分解でき、インターネット等を通して、画期的なアイデアや社会貢献への思いを伝え、賛同・共感してくれた不特定多数の法人や個人(支援者)からお金を集めるしくみとなります。
クラウドファンディングは、支援者に対するリターンの形態により投資型、購入型、寄付型に大別されるほか、目標資金調達額に満たなくても成立するAll-In方式と満たない場合には成立しないAll-or-Nothing方式があります。今回グランパスは、クラブ運営費を賄うために限定グッズなどをリターンとする「購入型」で、調達額が1円でも成立する「All-In方式」を採用しています。
目的と期待される効果
グランパスの小西社長のコメントにあるように、今回のクラウドファンディングの目的は、「新型コロナウィルスの影響によるクラブの経営危機を乗り越えるため」とあります。
そして、クラウドファンディングにより集めたお金については、選手の年俸や移籍金といったチーム強化費・チーム運営費・試合運営費等クラブ経営のために使うことを明言しています。選手の補強費のほか、施設や環境、スタッフの待遇改善など、ぜひ有効に使って欲しいものです。
一方で、「グランパスは、本当に危機的な経営状況なのか?」、「クラウドファンディングは言うほど簡単ではないし、コロナ影響を賄えるほどの金額を集めることができるのか?」といった疑問が湧くと思います。少なくとも私は湧きました。
それでは、検証のため具体的な数字を覗いてみましょう。
グランパスの現状と経営課題
小西社長は、「新型コロナウィルスが直撃した2020年シーズンの売上(営業収益)は、2019年シーズンに比べると14〜19億円の減収が見込まれます。」とコメントしています。また、中スポでは「売上予算70億円に対して、最大19億円の減収となる。」とあります。
2019年シーズンの売上が69億円であり、2020年シーズンもほぼ同額である70億円の売上予算を組んでおり、それに対して50億円程度まで下がる可能性を示唆していることになります。
過去の数字とも並べて見てみましょう。2017年シーズンのJ2時代を割引いたとしてもここ数年は右肩上がりに成長しており、2019年シーズン序盤には風間サッカーの魅力やエンタメ性が最高潮を迎え、デジタルマーケティングや各種イベントを駆使した営業努力も加わり、スポンサー収入のほか集客やグッズ販売も大幅に伸長し、クラブ人気とともに経営成績もピークを迎えました。しかしながら風間サッカーのわずかな綻びから成績が下降線をたどり、シーズン終盤にはJ2降格の危機がリアルさを増し、やがて経営陣は最悪の事態を回避するため監督交代という最終手段をとりました。幸いにしてJ2降格を免れたのものの、それと同時に失った代償も大きく、特にサッカーのエンタメ性については大幅に減退し、やがて集客や財務的な数字にもインパクトを与えていきました。
2020年シーズンの状況は、売上の減少が最大△19億円にまで及ぶと公表されています。新型コロナウィルスの感染拡大により無観客試合や上限5,000人の入場制限試合が長引くことによる入場料収入のほか、グッズ販売や単発イベントのスポンサー協賛金の減少といった影響が出ていることは明らかです。ただし、減収の要因がすべてコロナで説明されてしまうことには注意が必要です。私は2019年シーズン終盤に失ったクラブ人気(サポーター離れ)も大きな要因のひとつであり、経営陣は今後の経営課題として強い危機感を抱いているのではないかと考えています。
それを裏付ける数字を載せておきます。
失いつつある忠誠心を取り戻せ
いかがでしょうか?クラブ人気のバロメーターのひとつであるファンクラブ会員数(有料会員の裏には何十倍ものサポーターがいるので読み替えてください)。ご多分に漏れず売上と同様に2014年から2019年シーズン(27,157名)まで順調に推移しました。一方で、2020年8月19日現在では、25,459名と前年に比べ△1,698名(△6%)も減少しています(東海3県で△1,564名)。これは2019年シーズンまでに加入したライト層を中心に離脱しているものと考えられますが、勝つことですべてのサポーターをつなぎ止め、かつ、新規のサポーターを増やせるほどJクラブの経営は単純ではない現実を突きつけられています。経営陣は決してファンクラブ会員収入の減少を危惧しているわけではなく、恐れているのは、これまでの施策で培ったサポーターやスポンサー基盤が揺らぎ失われることでしょう。財政危機の根本はクラブ人気にあるほか、中長期的な成長にはクラブ人気の地盤拡大が必要不可欠ですから。
実際のところ、グランパスは蜜月な関係にある親会社やスポンサーを持つクラブであるため、相対的に足もとの財務的な危険性は高くなく、むしろ親会社等からは宣伝広告機能や地域密着性の高さなど、改めて本来あるべきクラブの存在価値を問われていると思います。加えて、現状のクラウドファンディングの計画規模では見込まれる売上の減少分を補うにはやや無理があります。そこで、自由に身動きが取れないコロナ禍における現状打破のきっかけとして、クラウドファンディングに大きな動機があるのでは?と感じたのです。また、当然ながら入場制限の解除後も含め今後さまざまな施策を用意していることでしょう。
今回のクラウドファンディングの目標額は、名古屋らしく7,580万円と設定していますが初めての試みでもあり金額やリターンの設定は悩んだものと想像します。当然ながら先行して実施した鹿島や浦和といった他クラブをベンチマークしたと思います。彼らの実績が目標額を大幅に上回っている現実を目の当たりにし、決してお金で測るものではありませんが、各クラブに対するサポーターの愛や忠誠心に嫉妬したことでしょう。これが今のグランパスに足りないものであり、失われた忠誠心を取り戻すきっかけにすべきではないかとも感じたはずです。
ちなみに、グランパスの目標額が鹿島や浦和の目標額1億円を下回っているのは、謙遜というよりもこれまでの歴史を踏まえると致し方ないところでしょうか?
<他クラブの実績>
鹿島は1,000万円を超えるコースなど単価を高めに設定、一方で浦和は比較的単価を抑え幅広く支援を受けて、ともに目標額を上回りました。また、札幌は運営費を賄うのみならずスポンサーを支援する目的で実施し、こちらも目標をはるかに超えた結果となりました。
- 鹿島アントラーズ(目標額:1億円 → 達成額:1.31億円、支援者:2,599人)
- 浦和レッズ(目標額:1億円 → 達成額:1.18億円、支援者:7,196人)8/24現在
- 北海道コンサドーレ札幌(目標額:300万円 → 達成額:5,605万円、支援者:4,901人)
さいごに
クラウドファンディングは、本来「叶えたい夢や社会的な課題解決に対して、投資・寄付してもらうもの」です。グランパスはクラブ経営の危機を乗り越えるためにクラウドファンディングを行います。ただし、さまざまなクラブ事情を抱えることを背景にして、単に運営資金を賄うために意思決定したとは思えません。現経営陣が当初思い描いたビジョンや経営方針は、2022年度シーズンには100億円の売上規模達成を目論んでいました。残念ながら風間監督の失速と失脚により大幅な犠牲と修正を迫られ、新体制での巻き返しを図る矢先にコロナが直撃と、立て続けに想定外の事象が起こり、理想的な成長曲線が大きく歪み経営的に厳しい局面を迎えています。また、足もとのコロナ禍によるさまざまな制限はもちろんのこと、前任に比べエンタメ性に劣るマッシモサッカーでは昨シーズンまでと同じ戦略でサポーターやスポンサーの基盤づくりを再現することが非常に難しい状況です。このクラウドファンディングは、小西グランパスが思い描くゴールへ向けた再生手段のひとつであり、決して金銭的な要求だけではなく、クラブ人気の凋落を避けるべく我々サポーターに愛するクラブと団結する心を強く望んでいるものと受け取っています。
「名古屋グランパス クラウドファンディング 〜ファミリーと共に乗り越えよう〜」
具体的なリターンは「お礼メール」758円〜「楢崎さん&山口さんのOBグッズ」75.8万円。支援募集は9月30日(水)23時までとなります。
なお、在庫に限りのあるグッズが仮に全て購入された場合には、1.5億円を超えます!目標額を超えることはもちろんのこと、ピッチ外となりますがオリテンの意地として鹿島や浦和と良い勝負をしたいですよね。
なお、第1弾として行われる今回のクラウドファンディングは、購入型のものであり税制上の優遇がある寄附金控除を適用できないことに注意が必要です。また、第2弾として準備されている寄附金控除が適用される「ふるさと納税型のクラウドファンディング」では、名古屋市とタイアップすることが予想されるものの、ふるさと納税の制度趣旨を踏まえると(ふるさとを離れていない)名古屋市民は返礼品を受け取れない可能性があるなど、これまた注意が必要となります。
(8/26追記)
現行のふるさと納税制度では、地元民への返礼は禁止され(感謝状など経済的価値がないものを除く)、返礼品はその自治体の地場産品であることや寄附金額の3割以内といった制約があるほか、一定の負担も生じることから、自治体の理解と調整が必要です。例えば、豊田市であれば、(名古屋市民に対して)豊スタやクラブハウスツアーといった返礼品が可能かも知れません。ただし、ふるさと納税は地元の税収を減らすというジレンマが起こるため実現の難しさを残します。
駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。Twitterのフォローや励ましも歓迎しています。