JリーグNo.1ドリブラーの降臨
サッカー界には、ボールを持つだけでスタジアムの雰囲気が変わる選手がいる-前田直輝もそんなプレイヤーの一人だ。
彼のドリブルのキレ、テンポ、見応えは、Jリーグの中でも群を抜いており、「JリーグNo.1ドリブラー」と形容しても過言ではないだろう。筆者の周囲でも、Jリーグで最も傑出したドリブラーと言えば、ナオキか三笘薫(*)かとよく話題に上がったものだ。
そんな彼がグランパスに加入したのは3年前の夏。当時、ネットニュースで「松本山雅の前田が名古屋に加入」という見出しを見て『前田大善が来るのか!!!』と思ってしまった。恥ずかしながら、勉強不足な筆者は松本山雅に当時在籍していたもう一人の前田を存じ上げていなかった。ただ、『ダイゼンはじゃなくてナオキ…一体誰なのだ』なんて思っていた筆者のようなファンの心を掴むことになるのは、加入からすぐのことであったはずだ。
*…今年8月に川崎フロンターレから英国1部・ブライトンへ移籍
J1残留の立役者に
さて、3年前の夏と言えば、名古屋グランパスが初めて経験したJ2から復帰した初年度で、断トツ最下位を彷徨っていた、絶望的なあのタイミングだ。(念のため補足すると、リーグ戦16試合を終え、2勝3分11敗で勝ち点9)
同時期に加入した丸山、中谷、ネットらとともに、加入直後の広島戦にいきなり先発。鋭い裏への抜け出しからのシュートや、代名詞である切れ味抜群のカットインからジョーへのラストパスなど、いきなり幾度も決定機を演出。
さらには守備で何度も全力で相手のボールホルダーを追いかけるシーンも見られ、いきなり大きな期待を感じさせてくれた(結果は0-0)。
続く仙台戦では、トリッキーなヒールパスでジョーの先制ゴールをアシスト。すると今度は自身が裏への抜け出しで2点目をゲット。早くも加入2試合目で初ゴールを決めて見せた。後半は1点を奪われるも、是が非でも欲しかった16試合ぶりの白星獲得における主役となった。
そして次節は絶対に負けられない裏天王山のガンバ戦。0-2からの逆転勝利と、結果も内容も非常に感極まるものとなったのだが(GX10のトリビュートでも紹介)、ナオキも得意の裏への抜け出しとドリブルからジョーへのラストパスで、同点ゴールを演出した。
さらに続く鹿島戦でも1G2Aと、8月は完全にナオキフィーバー月間に。鮮烈な加入初月を過ごすことになったのである。そして、その後も得点とアシストを重ね、終わってみれば加入後のリーグ戦は18試合中15試合に出場し、で7G4A。J2へまっしぐらな泥沼状態から見事にグランパスを救ってくれた。
前年のシャビエルに続き、夏加入のアタッカーの補強が当たることになったわけだが、個人的には、「この動きがシーズン開始前からできていれば…」と思ってしまうところだ。ただ、「これがグランパスの火事場の馬鹿力なのだろうな」と納得もしていた。
その後はすっかりグランパスのアイドルに
翌年度も前年の勢いそのままに…とは行かず、序盤は先発とベンチスタートが交じり合う状況ではあったが、シーズン後半から復調。3-0と大勝した川崎戦では、鋭いクロスをヒールで切り替えしてシュートを決めるなど、らしさを発揮し、終わってみれば9Gをマーク(シーズン後半のみで7G。アシストは4)。
シーズン終了後に行われた大須商店街の練り歩きイベントでのインタビューでは、小学生低学年ごろと思われる男児サポーターから、「前田選手は来年も残ってくれますか…?」という質問が。一瞬、多少の緊張感も飛び交ったが、残るつもりの旨を回答してくれた(その後の結果は皆さんもご存じの通りだ)。
加入2年目のシーズン終了時には、すっかりグランパスのアイドルになっていたのである。(筆者も彼に惚れ込んだサポーターの1人であり、2018シーズン~2020シーズンは、毎年ナオキのユニフォームを購入)
唐突、だが既定路線の海外移籍-絶対戻ってくるな!
「前田選手は来年も残ってくれますか…?」という質問は、筆者自身も胸中で毎年考えていたことだ。
確かにユトレヒトへの移籍自体は唐突ではあったが、加入から間もないタイミングで『ナオキはすぐにでも、日本代表に呼ばれ、いずれは海外の名門クラブへ移籍することになるだろう…』と常に考えていた。来季は彼のユニフォームを購入することができず、非常に残念ではあるが、それでも今季まで残り続けてくれて感謝だ。
いま思えば、先述の練り歩きイベントにて、イベント終了後にばったりと出くわしたナオキ&アッキー(秋山陽介)コンビに、是が非でもサインをもらっておけば良かったと後悔している。人生のビッグチャンスはそう簡単には訪れない。ナオキにとっての今回の移籍も、年齢を考えるとラストチャンスだったといっても過言ではないだろう。
以前から「ナオキは必ず代表に呼ばれる」「ナオキはいつか海外の名門クラブに引き抜かれる」と言い続けてきた。代表歴はまだないが、アタッカーで言えば直近では江坂(浦和レッズ)が29歳目前で代表デビュー。
稲垣も今年29歳で代表デビューを果たし、来月に行われるキリンチャレンジカップにも招集をされている。オランダで結果を残せば、代表招集はもちろん、さらなるステップアップもあり得るだろう。
ユトレヒトでの背番号は7番となったことが公式に発表されている。クラブからの大きな期待の表れだろう(ちなみにネームが「MAEDA」となっており、背番号と併せてかなりの違和感を感じるファンも少なくはないだろう)。
夏までのローン移籍ということで、買取オプションが行使されなければシーズン中盤にグランパスへ復帰することになる。復帰となれば、それはそれで嬉しいと思うだろうが、彼には絶対に結果を残してほしい。
ここで言いたいことは、「戻ってきて欲しいけど、絶対に戻ってくるな!」だ。戻るとすれば、何年か先-現在の酒井(浦和)や長友(F東京)や大迫(神戸)のように、海外でやり切った上だ。その上でJリーグに復帰する際には、ぜひともグランパスを選んでもらえると嬉しい。
近年、名古屋の補強は上手くやってる。特に田口やジョーの退団やマルの離脱では、絶望に苛まれたものである。ただ、その度にグランパスは切り抜けていたし、より強くなってきた。だから大丈夫だ。安心して海外へ行き、クラブには移籍金を残し、次のサイクルに繋げてくれればいい。もしも本当にダメなら帰ってきて、名古屋で活躍してくれればいい。
だが、もう一度言う。「戻ってきて欲しいけど、絶対に戻ってくるな!」
数年先、グランパスへ再加入する日を待っている。ありがとう。いってらっしゃい!