皆さま、SDGsってご存じですか?
最近新聞や雑誌、CMなどにもよく出てきている言葉なので、全く聞いたことがない、という方は少なくなったように思います。
一応説明しますと、
SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標とは、2015年に国連にて採択された、2030年に向け、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、17の目標と169のターゲットからなる宣言および目標です。
さて、翻って我々の愛するプロスポーツの世界においても、「持続可能な発展」はそれぞれの競技において強豪と呼ばれる存在になるためには必要不可欠。実際にそれを実現して強豪でい続けているのが、NPBにおけるソフトバンクホークスであり、Jリーグにおける鹿島アントラーズであり、そこに肩を並べつつある川崎フロンターレ、と言えるのではないでしょうか。
でも、何をもって「持続可能」と言えるんでしょうか?プロスポーツにおいて発展というのは「結果を残し続けること」「そのためにクラブの規模を必要な分拡大していくこと」の両輪です。一時の投資でチームを強化しても、持続可能ではありえない。上記3つのクラブ・チームは一時でない投資を、選手と仕組み両面でかけていることは間違いありません。(鹿島はやや悩みが大きく、変革期のようにも映りますが)
さて、持続可能であることはどうすればわかるのでしょうか。以前はよく「〇〇が入れば〇〇のポジションは10年安泰」なんて言われていたことがありました。ただ、実際に本当に安泰であることは稀なように思います。怪我、伸び悩み、チーム方針との齟齬、伸びたら伸びたで海外とかステップアップという名目で移籍…。10年先のことなんてわかりはしません。
ただ、「わからない」と断じてしまったら、このエントリは終わってしまいます。諦めたらそこで試合終了だよ(by安西先生)。10年でなくもう少し短いスパンでならどうでしょう。5年でもまだ長い?1年では「先を見通す」というには短すぎる?では3年ではどうでしょう。3年というのはアスリートにとっては短いようで長い時間です。高卒ルーキーが見違えるように大きくなって羽ばたくことも、全盛と思っていたベテランが見る影もなく衰えてプレーするカテゴリを落としていく悲哀を見届けることも、十二分にありえる時間でしょう。
ということで、ここでは3年先のことを考えられた選手構成にできているか、そして出場機会がどのようなバランスになっているかという視点で見てみたいと思います。
<データの見方を定義する>
次に、見る方法について。基本的に、シーズンを迎えた1/1の時点の年齢で、概ね3歳ごとに以下のように区切ります。考え方も添えて説明すると
- 「A=20歳以下」…ユース・高卒から概ね3年目くらいまで。ここで出場機会を得られる選手は極めて有望だが、有望すぎて海外に飛び立ってしまう場合も
- 「B=21~23歳」…高卒4年目くらいから大学の特別指定、大卒数年の選手が混在。3年後には主力になっていてほしい層。Aと同じく出来が良すぎると海外に羽ばたいていく
- 「C=24~26歳」…ここからは海外に行くことも少なく、国内で引き抜かれなければ3年後も主力として頑張ってくれる目算の立つ、サッカー版SDGsの要と言って差支えがない層
- 「D=27~29歳」…主力中の主力。ここが成績を残せないチームは上昇はおぼつかない。健康状態にもよるが、3年後は円熟のベテランとしてチームを支えてくれる層
- 「E=30~32歳」…円熟のベテランたち。といっても最近のベテランは元気なのでこの時点では十二分に主力である。ただし3年後となると衰えなどからカテゴリを下げていくことも珍しくなく、あてにはならない
- 「F=33歳以上」…現時点で大ベテランである。ここまで生き残っていること自体が異能なので平気でプレーする化け物も存在するが、やはり基本的に3年後をあてにすべきではない
という考え方の下で選手を年齢層別に分け、その選手たちがどのように出場機会を与えられているかによって、少なくとも3年後のチームの姿がある程度予測できるのでは、そのように考えました。
お付き合いいただけると幸いです。
<データ1 リーグ・カップ戦で最低1試合出場した選手の比率>
まずは選手比率について、2021シーズンの試合で1試合でもピッチに立った選手の年齢層別の人数比がどのようになっているかを見てみましょう。サンプルは上位5チームと、新任の長谷川監督が在籍していたFC東京の6チームとさせていただきました。こちらをどうぞ。
横軸に人数を取っている図ですので、グラフが長ければ長いほど多くの選手が使われている、ということになります。見ていただいていかがでしょうか。まず思うのは、
名古屋グランパスの使われた総選手数少なっ!
でしょうか。2021シーズンで使われた選手は延べにして26人。もちろんACLに参加していて若手を抜擢しやすい環境であるルヴァン杯予選が免除されているという理由があるとはいえ、同様の条件である川崎より更に3人少ない数字はなかなかの制限ぶり。
また、26歳以下の選手で出場機会を得たのが10人というのはこの中では抜きんでて少ない数字。一方で30歳~32歳の人数が8人と最も多く、2021年シーズンは円熟期のベテランの奮闘が支えたと言えそうです。
他のチームに目を向けてみると、バランスのいい川崎と鹿島、24歳~29歳の選手を厚くし勝負をかけた横浜FM、ベテラン大ベテランを軸に据えつつも若年層にも出場キャップを与えている神戸、中間層の層が薄いためベテラン大ベテランのサポートを受けさせつつ若手を登用せざるを得なかったFC東京、という構図に映ります。
<データ2 リーグ戦での年齢層別出場試合数>
続けて、リーグ戦に限った年齢別の出場試合数を見てみましょう。リーグ戦は当然各チーム勝利を最優先で臨みますので、戦力として計算できる選手が優先的に出場機会を得ることになります。2021シーズンはその結果、どのような比率になったかというと…
このようになりました。
時間数にすると、名古屋グランパスの23歳以下の出場時間数がいかに少ないかが実感できますね。彼らがここまで台頭できないようだと、入れ替えがうまくいかなかった時は3つづつ歳を重ねることになるわけで少し心配になります。
26歳以下と27歳以上の出場時間のバランスが名古屋と近い川崎ですが、20歳以下を除く各年齢層ごとの出場時間の偏りが名古屋よりも小さく、3年後に次の層にスライドしても良好なバランスが見込めます。彼らが今行なっているユース組が大卒で戻ってくる仕組みが今後も機能するのであれば、理想的なバランスで推移するのではないでしょうか。
高卒選手の戦力化を特徴とする鹿島は流石の比率。横浜FMはいい形で若手主力を集められていることが反映されている印象です。神戸も同様ですが、かなり積極的に23歳以下の選手に出場機会を与えています。苦しい順位を反映しているのがFC東京。24歳〜29歳の、水色と橙色のゾーンは本来主力として多くの時間を得ていてほしいゾーンで、ここがこれだけ少ないのは厳しい。相次いで若手の主力を海外に送り出さざるを得なかった事情はありますが、そこを埋められなかったことが苦境を招いたのではないか、と想像できます。それでも、試行錯誤をしたとはいえ当てにできるベテランだけではなく、若手にも出場機会を与え続けたところに長谷川監督の個性が見え隠れするように思います。
<データ3 カップ戦での年齢層別出場試合数>
では、カップ戦となるとどうでしょうか。
カップ戦は勝ち上がりによって総試合数が変わってくるため横軸のグラフの長さは各チーム違いますが、比率という意味で言うといかがでしょう。チームごとで比べてみると、意外なほど変わっていないように映ります。流石にリーグ上位のチームとなるとどのチームもタイトルに向けてそれなり以上の陣容で臨むということなのかもしれません。
いずれにせよ、これだけ23歳以下の選手に出場機会が与えられていない状況は、この数年はともかく3年後、そしてその先を考えた場合にかなり苦しい、今回の名古屋の監督交代劇は、この部分を重く見たという背景もあったのではないか、というのが私の感想です。
<過去と比較してみよう~成功例と失敗例>
さて、2021の数字を一通り見てみましたが、これだけだと今後どうなるのか、ちょっとピンと来ませんよね。そこで、3年を経て、上手くいったチーム、そして、3年を経て崩壊したチームを例として見てみたいと思います。
成功例としては、2018年にリーグ優勝、そして3年後の2021年もリーグ優勝した川崎フロンターレを見てみましょう。そして失敗例は?トラウマを抉るようで大変申し訳ありませんが、2013年と2016年の名古屋グランパスを取り上げたいと思います。3つのデータを続けてどうぞ。
川崎フロンターレではさすがに20歳以下でチャンスを掴むことは難しいようですが、優勝争いを4年続けながら21歳から26歳までの層を伸ばすことに成功しています。名古屋グランパスに関してはピクシー政権末期の2013年と2021年の傾向が似通っていることがわかります。
強制的に若返りを計らざるを得なかった名古屋グランパスの2016年が川崎フロンターレの2018年に似ていますが成績は真逆になっています。質としては2021年のFC東京の状況に近かったと言えるのかもしれません。
ここでも2013年のグランパスの高齢化が顕著です。ACLがあったわけでもないのに、出場選手の固定化が進んでいるのがわかります。2021年のグランパスは23歳以下の出場時間を除けばそれなりのバランスです。
総論としてまとめると、2018の川崎は前年も優勝。にもかかわらず、この年でも24歳~29歳の選手がこれだけいる盤石の状況でした。そして2021はさらに年齢バランスを是正。若い選手たちの戦力化が上手く続けば、盤石の態勢を維持できる、そういうバランスになっています。
一方の2013名古屋はどうでしょうか。2013はストイコビッチ監督の最終年度。久米GMにより大学の有望株をゲットできていた時期ではあったもののなかなか戦力化に苦労した結果、ピクシーが信用できるベテランに大きく偏りました。選手ベースでも50%を越えていますが、なんとリーグ戦での出場時間数では、30代以上の選手の出場時間が全体のなんと78%を占めています。カップ戦はやや是正され、それでも69%。3年後の活躍が覚束ないベテラン勢がほとんどの出場時間を占めたこのシーズン、リーグ戦は11位、カップ戦いずれも敗退してタイトルを逃しストイコビッチ監督は退任。後を託した西野監督もチーム状態を立て直せず、折り悪くクラブライセンスの財務基準を満たすために緊縮を迫られたタイミングと重なって世代交代に見事に失敗。その歪みを一身に受け止めた小倉監督率いる2016シーズンに降格の憂き目を味わうこととなりました。
<2022シーズンに向けて>
ここまで選手の年齢別の各データから、3年後の状況を読み取れるか、ということを考えてきたのですが、2013グランパスの数字を見ると、
「良くなる兆候はともかく、悪くなる兆候は読み取れる可能性が高い」
ように思います。さて、恐らく様々な事情がある中マッシモ・フィッカデンティ監督と別れを告げた名古屋グランパスの2022年以降はどのようになっていくのでしょうか。今年の選手の年齢層別を見ると
このようになります。ここには前項のデータのように「出場」つまり出番が与えられているかという概念が入っていないため何とも言いづらいですが、20歳以下の選手がほぼユース上がりの選手であることを考えると、やはりここ何年かの、特に大卒選手獲得の頓挫や27歳以上の実績選手に偏った選手獲得が影響し、歪な選手層になっていることは間違いありません。そういう意味では、
「2013を経た2014よりは若干マシなスタート地点だが、この2年の舵取りを誤ると2016シーズンの再演がありうる」
というのが現状なのかもしれません。2021シーズン、FC東京において試行錯誤しながら若手にも出場機会を与え続けた長谷川新監督がどのような手腕を見せるのか。期待と不安が入り混じった新シーズンが、間もなくやってきます。
応援しつつ、見守っていきましょう。