昼は風が冷たいだけのスタジアムも、試合後は震えるような寒さとなった京都戦。やりたいことが少しだけ見え隠れした京都戦を振り返ります。
試合情報
京都は前節、中盤に3人配置する形を取ったが、名古屋戦では中盤2枚で挑む形の3421の形をとり、名古屋と同じ形で対峙することを選ぶ。
一方で名古屋は米本が復帰し、練習でもかなりコンディションを上げていた長澤がベンチに。U20代表入りで離脱した甲田の代わりのウィングバック枠で石田が開幕戦に引き続きベンチに入る事になった。
前節を踏まえた修正と攻防
試合開始から目立った変化は、キャスパーが守備者としての役割を消されなかった事と、横浜FC戦よりも明らかに守備での運動量が上がった事だ。ここが前節と大きく異なる。
キャスパーがボールを頻繁に引き出す為に顔を出す金子の周りに立ち、最終ラインに対してプレスを継続する時間も前節より明らかに長くなった。
(それでもマテウスにさっさとサイドへのプレスが終わったら絞り直してくれ!とジェスチャーで指示されるシーンがDAZNに映っていたが)
キャスパーにタスクを与える事でシャドーにいる永井とマテウスもやることは明確になり、今回は昨シーズンと同じ“構えてスタート”を選択する。
DAZNにも音声が拾われていたが、この名古屋の選択に対してセンターバックに「持ち上がれ」という指示が曺(チョウ)監督から出る。
構えた名古屋に対して京都が取った攻略は「キャスパーをずらしてスペースを造る」、「センターを引きこむ」事だった。
15:12〜のシーンが分かりやすい。
金子はキャスパーに見張られているのが分かっていて最終ラインからボールを引き取る動きを見せてサイドに寄る。キャスパーが付いてくるとボールで逆を付いて金子がいなくなった所に川崎が入って来る。
中央にボールが入ると稲垣、米本は受け手に食いついてくる。京都を窒息させたい名古屋は、センターが食いつくことに連動してそのままプレッシャーを掛けに行きたい。
その為にFWの選手が前に残りたいので、中盤の空間のギャップを埋めるために最終ラインを上げる。その上げたタイミングで京都は裏を取りに来る形になった。
ギャップとは、選手と選手との間にできる隙間のことを意味します。ボールや選手が動けば、相手側選手も動きます。それによってキレイに配置された状態では存在しないスキマができあがるので、それを作って、活用するのがサッカーの戦術のキモになります。
森下や和泉が相手に押し込まれていないのに低い位置を取らされたのは、左はパトリックと一美を使い、徹底してサイズ差を使った長いボールで攻められていた事。右は最終ラインの意図の裏を書かれる事が原因だった。
押し込まれる事は是か否か
両ウイングバックが押し込まれた名古屋だが、押し込まれる事を容認しているような形。特に白井に押し込ませてその裏側をキャスパーや永井が使う形が多く見られた。この形はウイングバックが高い位置を取れていると相手が押し込まれる形となる為、難しくなる。
キャスパーが左に流れて勝負するときの永井の位置が特徴的だった。
米本と永井が比較的近い位置に立ち、キャスパーへの左側からのプレッシャーを減らす。(自分たちに守備者を付かせる)こうすることでキャスパーは自分の利き足側の脅威が無くなり背負う相手との駆け引きが出来る。これがかなり効いている印象が強く、足元につけるにしろ空中のボールをコントロールするにしろ相手からかなりアドバンテージを取っていた。
マテウスもキャスパーが左右に寄ったら中央に絞ってキャスパー始動でつながるボールを近い位置で受けるように動いていたのも目立った。
得点シーンのキャスパーの相手の背負い方も自分の右半身で相手を抑えて左足への制限がかかりにくい状況を造っての受け方。そして得点者の永井と米本は再三キャスパーのプレーのセットアップに関わった選手達。押し込まれたことで生まれた選手の相互理解。それが得点につながった。
一方で和泉や森下が苦労したのはサポートが少ないが故にプレッシャーに晒されたときに苦しくなる部分だった。苦しくなる原因、サポートがあまりないように見える原因は名古屋のボールの運び方の約束にあった。
名古屋のボールの展開の仕方
名古屋のビルドアップはウイングバックにボールが付く所から始まる。ウイングバックにボールが付くと名古屋のセンターバックの選手達は外に流れてウイングバックと縦方向に並んでもいいのでサポートに入る印象が強い。
相手としてはウイングバックを潰しても、その縦の裏にボールが入ることが怖いのでサポートに流れたセンターバックにもプレッシャーが行く。
そうなるとボールの受け取り役として一番近い距離にいるのはセンターの選手だが、センターバックの選手が大外に流れる段階でウイングバックからセンターというボールのルートがかなり見え見えであり、センターバックにプレスに行く選手も中盤でセンターを見張る選手もコースをかなり絞って対応することになる。
名古屋としては相手の「制限」により配置が偏る事を逆手に取り逆方向へ展開して前進する形(54:10~55:50付近のボールの動かし方)を取りたいが、ウイングバックの選手から出せるパスの選択肢が少ない事と少ないが故に“質”が大事な事が負担となっているように見えた。
右サイドでは数回森下にボールが付くも、藤井がサポートの為に相手を剥がしておらず(自分で剥がせばいいと思っているのかもしれないが)広いスペースへ展開出来ずに無理な縦方向への勝負を強いられるシーンもあり、このボールの動かし方をするにあたって「ボール(パス)の質」と「受けるための準備の質」が課題として浮き彫りになった。
選手の意思表示力
名古屋のボールの展開の仕方を助けたのは米本だった。解説しなくとも彼の顔の出し方やボール捌きは素晴らしかった。では前節その場所を任された内田とそんなに差があるのか?と言われると能力的には若くて走れてボールをコントロールする技術も内田の方が高いと言えるだろう。ではなぜ米本がよく見えたのか?
明確に違う所は意思表示のパワーではないだろうか?内田はピッチで起きている事象に対して必要なプレーを的確に選択して「チーム」というダムが溢れないように管理してくれていた。一方で米本は「物事のスタート」ダムに水を入れる係という印象を受ける。守備のアプローチでは最初に反応し、攻撃ではチャレンジングなパスを入れる。そして稲垣を「管理者」として存在させる。
もちろん彼らが組んだ時間による阿吽の呼吸の部分もあると思うが、米本の選手を理解する力と意思表示のパワーがチームとしていいように傾いてくれた。
内田も今回の試合では「管理者」として左のウイングバックに入り、相手を崩すのに必要な顔出しや抜け出し、守備で的確なプレー選択をしてくれていた。彼のような選手がいないと「チームスポーツ」が出来ないのもまた事実。
試合雑感
- 長いボールばっかり!という印象になったが、裏一辺倒というよりはスペースに落とすチャレンジもしていたのでやりたいボールの動かし方に見合うプレーの質がついてこればもう少し意図を持った長いボールが見れるのでは
- 速い攻撃の時の各選手の走る場所やスタートする位置が「適当では無くなった」印象を受けた
- 和泉や稲垣、米本が飛び込んでくるような攻撃も見られた。展開して飛び込んで点を取る形を成功体験として早く経験しておきたい。
- 練習でやっている事にチャレンジしよう!という意志がかなり見られた試合だった。
さいごに
いきなり訪れるアウェイ連戦を前に連勝となりました。課題と修正のいい流れを続けてほしいですね。