現在名古屋グランパスには2人の期限付き移籍契約で加入している選手がいます。内田宅哉選手とキャスパー・ユンカー選手です。
2人とも順調に出場機会を得ており、内田宅哉選手は15試合で800分、キャスパー・ユンカー選手は17試合で1297分出場しています。
2人の契約は、ユンカー選手は「期限付き移籍期間は、2023年12月31日までです。」、内田選手は「期限付き移籍期間は、2023年2月1日から2024年1月31日までです。」となっています。
そもそも期限付き移籍契約って?
「期限付き移籍」とはその名の通り、現在所属しているクラブの契約を保持した状態で、期限・期間を定めて他のクラブへ移籍することです。
選手側のメリット
期限付き移籍のメリットは「出場機会が増え、自分をアピールすることができる(可能性がある)」ことです。
選手は試合に出場してナンボです。試合に出場しないと勘が鈍りピークのパフォーマンスが出せなくなります。
そのため、選手は試合に出ることができる期限付き移籍を選択する場合があります。
クラブ側のメリット
移籍先のクラブにとってのメリットは完全移籍と比べてかなり安く有望な選手を獲得することができることです。
完全移籍となる前に、クラブと選手がフィットして活躍してくれるのかを試すこともできる点もありがたいはずです。海外のクラブはよくそういう使い方をすることがあります。
移籍元のクラブにとっては将来的にはレギュラーを期待しているが、現在出場機会を与えられない選手に経験を積ませることができる可能性があるというのがメリットになります。
選手側のデメリット
期限付き移籍は半年・1年で移籍期間を終了するケースがほとんどです。そのため、期限付き移籍契約ではない選手とポジション争いになった場合には、それが理由で使われないことがある、というのが最大のデメリットです。
クラブ側のデメリット
選手の保有権が移籍先のクラブにはないため、獲得後、選手が成長したとしても、期限終了後には移籍元のクラブに戻るという可能性があります。期限付き移籍の選手を主力に据えるとそういう危険性があります。これがデメリットです。
レンタル移籍?ローン移籍?
日本では期限付き移籍契約のことをレンタル移籍と呼びます。欧米ではローン移籍と呼ぶことがほとんどです。(レンタル移籍というのは通じません)
なんでレンタル移籍と呼ぶのでしょうか?
日本では、商慣習上の言葉として「レンタル」「ローン」「リース」という言葉があります。
リースで契約した場合にはリース会社、レンタルで契約した場合にはレンタル会社が所有権を持っています。
つまり、何年契約していても、何年払っても所有権が移ることはありません。
ローンは、日本では「分割払いを終えたら、自分のものになる」契約として知られています。所有権が契約で定めたタイミングで借り手のほうに移ります。
このローンと混同されてしまうのを嫌って、「レンタル移籍」という俗称を導入したのでは、と言われています。
期限付き移籍契約の種類
期限付き移籍契約には種類があります。ポイントは期限付き移籍契約の際に支払う費用(仮にこの記事では「レンタル料」とします)により分類できます。
- 無償期限付き移籍:レンタル料を取らない期限付き移籍です。出場機会を得られない若手を出場機会の保証と引き換えに無償で期限付き移籍させる場合や、買い取り前提で短期間貸し出す場合などがあります。
- 期限付き移籍(移籍元がレンタル料を払う):移籍元がレンタル料を払うパターンで、これはどうしても選手を試合に出し続けたいという場合に選択するパターンですが、特殊な例です。
- 期限付き移籍(移籍先がレンタル料を払う):ほとんどの期限付き移籍はこれです。移籍金ほどではありませんが、いくらかのレンタル料を支払います。
これとは別にもう1つの期限付き移籍契約があります。それが「育成型期限付き移籍」です。若手選手の出場機会を確保するために使われることがほとんどです。
- 育成型期限付き移籍:18-23歳の選手が所属クラブより下位カテゴリ所属クラブ(例:所属元がJ1クラブの選手はJ2以下)へ移籍する制度です。メリットとしては春と夏の移籍期限内ではなくても移籍が可能なことと、移籍元の求めに応じて、期間内にいつでも戻すことができるということです。たとえばジェジエウが怪我をした際に川崎フロンターレが田邉秀斗選手をわずか2ヶ月で戻したことがありました。
名古屋グランパスでは東ジョンと甲田英將、成瀬竣平が「育成型期限付き移籍」をしています。
期限付き移籍期間が終わったらどうなるの?
基本的に期限付き移籍契約が終了したら、いったん所属元のチームに復帰することになります。移籍先がそれでもその選手と契約を続けたい場合は、通常の移籍交渉になります。
期限付き移籍契約終了時点で所属元との契約が切れるとフリーエージェントになりますが、基本的にそうならないように、これからも契約したい選手の場合は契約延長してから期限付き移籍を行います。
たとえば前田直輝選手は2022年に期限付き移籍契約を延長しましたが、その際にはおそらく契約を延長していると予想されます。
買い取りオプションってなに?
買い取りオプションとは、期限付き移籍終了後に移籍金を支払うことで、その選手を完全移籍で獲得する事ができるという優先権を付けた契約のオプションです。
キャスパー・ユンカー選手はデンマーク国内の報道では買い取りオプション付きで期限付き移籍契約をしているとされます。
追記:キャスパー・ユンカー選手の代理人、デンマークのELITE CONSULTING AGENCY(ガンバ大阪のイッサム・ジェバリの代理人でもあります)のInstagramによると、「a season Long loan deal with an option to buy to @nagoyagrampus」と書かれています。買い取りオプションが付いていることは確定のようです。
ポイントは買い取りオプションを付けた場合、移籍元(所属元)が戻ってきて欲しい場合でも、移籍先が「オプションを行使する」と表明したら、そちらが優先されるということです。
もしもユンカー選手の契約に買い取りオプションが付けられていたら、名古屋が定めた買い取り料金を支払った場合は完全移籍になります。ただし、買い取り料金は相当高いと思われます。
結局、内田宅哉やユンカーはこの夏返さないといけないの?
たとえば銀行から30年ローンでお金を借りて家を建てていたとします。30年という期限を定めてお金を借りているわけです。その期限借りていられるということを「期限の利益」と呼びます。
いったんローン契約が成立したら、30年間決まったペースで返済するという、ある意味「義務」を果たすことで、お金を借りていられるという、期限までに完済すれば良いという「権利」のようなものを得られるということが「利益」なんですね。
たとえば名古屋グランパスもおそらくレンタル料を支払うことで、2人の期限付き移籍契約期間の間は名古屋グランパスで働いて貰うことができるという利益を得ています。
期限の利益を喪失するのは、契約に定めた約束事を名古屋グランパスが遵守しなかったときだけです。
なので、この夏内田宅哉やユンカー選手を返すという必要はありません。
2人はこの冬どうなる?
通常の移籍と同様になると思われます。
まず1番大事なのは本人の意思です。
本人が期限付き移籍元に戻りたいか、名古屋グランパスに居続けたいか、です。
次に、名古屋グランパスが買い取りオプションを行使できるか、です。
キャスパー・ユンカー選手を浦和レッズが獲得したときの移籍金は200万ユーロ(3億円程度)とも言われています。年齢を重ねていますのでこの金額よりも高くなることはあまり考えられませんが、それでも買い取りをするとなると2億円以上の移籍金がかかることが想定されます。ユンカー自身の年俸も最低でも100万ユーロはかかっていると思われるので、はたして名古屋グランパスにそれだけの資金が用意できるのか
また内田宅哉も期限付き移籍契約2回目の延長は考えられません。おそらく「買い取りオプション」が付けられているでしょう。17試合800分のペースで使っているので、おそらくシーズンで1600分前後の出場時間になると思われます。買い取りオプションの行使は義務になるでしょう。
この2人の買い取りに加えてさらに資金が確保できるか、が来年の争点になりそうです。