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2023年シーズンレビュー(4) konakalab編 データで振り返る2023グランパスシーズンレビュー(前編):選手起用編 #grampus

シーズンレビュー第4弾は小中先生から、前後編でお届けします!小中先生はこの1月に以下の本を上梓されました!是非皆さんもチェックしてみてください!

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概要

  • ここ数年同様、2023年も「いつものメンバー」だったのかどうかを検証してみる
  • 選手起用のトレンドと名古屋の傾向を把握する

本編

(本記事単独でご理解いただけるよう、過去の記事と重複した記述が多くなっています.)

2020年、新型コロナウイルスの影響で大会日程が大幅に過密になる方向に変更されました.選手の健康管理も含めた対策の一つとして、「交代選手枠5名」のが2020年から臨時ルールとして採用されたのち、2022年12月には正式ルールとなりました.

参考:5人交代制は永続ルールへ…規則改正機関IFABが推奨 | Goal.com

参考:サッカー=選手交代5人制、競技規則として正式に明文化 | Reuters 

このルールはもちろんJリーグでも採用されており、これを前提とした選手起用が定着しつつあります.

「多くなった交代枠を活用しているかどうか?」は、「出場時間が多くの選手に分配されているかどうか?」と言い換えられます.この観点から、「出場時間集中係数」と名付けた指標を定義・算出しています.

また、過去2シーズンはシーズンレビューを書きました.この記事はこれらのレビューの続編です.

さらに今年のレビューでは、後編として「その選手が出場している時間での得失点差」(プラスマイナス)のためのデータがそろいましたので、それも合わせてご報告します.(今年度の卒業研究の学生さんがデータ取得を頑張ってくれました).

「出場時間集中係数」の説明(再掲)

(過去の記事(好調名古屋グランパス、過密日程で心配なのは…?:出場時間の集中度合いをはかってみる | グラぽ )から係数の算出方法の説明を再掲します.)

サッカーは11人の選手が90分プレーするスポーツです.選手交代も無く、1シーズン全試合同じ選手がプレーするのが「最も出場時間が集中している」状況と考えられます.

実際には選手交代や試合ごとのスタメンの変更があり、出場時間は選手の間で分配されます.通常、J1のチームは1シーズンで30名前後の選手を起用することが多いので、ひとまずここでは「30人の選手が1シーズンの試合時間をすべて均等に分け合う」状況を「最も出場時間が集中していない」ことと定義しましょう.

これらの状況を表したのが下の図です.図では、試合の出場時間が長い順に並べ替え、さらにその時間を順に積み上げて棒グラフにしています.灰色が11人のみがフル出場、青色が30人が均等に出場している場合です.横軸は出場時間が多いほうからの選手の順番、縦軸は合計の出場時間数です.

図1 出場時間集中度の説明 灰色:11人に集中、青:30人が均等
図1 出場時間集中度の説明 灰色:11人に集中、青:30人が均等

実際の選手起用は灰色よりは短く(下)で青よりは長く(上)になります.そのとき、青色の図形からはみ出た面積を灰色で見えている部分の面積で割ることで、選手の出場時間の集中度合いをはかることとしましょう.実際に11人フル出場であれば1.0、30人が均等に出場していれば0.0であり、このように決めた値は必ず0.0から1.0の間の値となります.そして、実際の出場時間が灰色に近い程1.0に近い値が出てきます.この値をここでは「出場時間集中係数」と呼ぶこととします.

算出と分析:名古屋はどれくらい「スタメン固定」なのか?

言葉の説明ではわかりにくいので、2023年シーズンの名古屋の出場時間を利用して図を描いて出場時間集中係数を算出します.以降、出場時間はすべてJ1リーグ戦のものです.また、データはSoccer D.B.(https://soccer-db.net/ )さまで公開されているものを利用しています.

図2 出場時間順位と累積出場時間から出場時間集中係数を算出.名古屋グランパス.2023年リーグ戦終了時点
図2 出場時間順位と累積出場時間から出場時間集中係数を算出.名古屋グランパス.2023年リーグ戦終了時点

直近5年間の出場時間集中係数と関連する値を表に示します.

出場選手数集中係数順位勝点
2023290.872652
2022290.820846
2021230.789566
2020220.888363
2019280.8821337
表1:直近5年間の出場時間集中係数と関連する値

2022年と比較して出場選手数は同数で、若干特定の選手に出場時間が偏ったことがわかります.では、この変化はリーグ内で見るとどうなのでしょうか?2005年以降の集中係数をJ1リーグ戦で算出し、年ごとに箱ひげ図を作図しました.

箱ひげ図についてこちらのページを参照してみてください!:https://cacco.co.jp/datascience/blog/statistics/203/

図3 J1リーグ各クラブの出場時間集中係数. 2005年から2023年.赤四角は名古屋.上部の数値は名古屋のJ1リーグ戦順位.
図3 J1リーグ各クラブの出場時間集中係数. 2005年から2023年.赤四角は名古屋.上部の数値は名古屋のJ1リーグ戦順位.

リーグ内でいうと、直近数年同様名古屋は「選手起用が一部の選手に偏っていたクラブ」であることが分かります.2023年は集中係数が2番目に大きいクラブでした.

年ごとの全体の変化を見ると、2020年以降分布の中央値が明らかに小さくなっており、各クラブが選手交代のルール変更を積極的に利用していることが分かります(負傷離脱や移籍などの要因もあり得ますが、これらは年ごとに大きく変わらないと仮定しています).また、パンデミック前・ルール変更前の2019年からすでに選手起用を分散させる傾向が現れていることや、2022年はその2019年の傾向に近いことが興味深いです.

では、上位チームはどのような選手起用戦略を実行していたのでしょうか?集中係数と順位の散布図を示します(2005年以降のJ1リーグ戦).(横軸:出場時間集中係数、縦軸:順位.J1、2005年から2021年.オレンジ:2022年.赤四角:名古屋)

散布図については以下のページで見方を確認してみて下さい:https://cacco.co.jp/datascience/blog/statistics/536/

図4 上位チームの集中係数と順位の散布図 出場時間集中係数、縦軸:順位.J1、2005年から2021年.オレンジ:2022年.赤四角:名古屋
図4 上位チームの集中係数と順位の散布図 出場時間集中係数、縦軸:順位.J1、2005年から2021年.オレンジ:2022年.赤四角:名古屋

出場時間集中係数と順位には相関が認められます(相関係数0.53).

2023年優勝のヴィッセル神戸は28人出場で集中係数は0.884.今年は最も出場時間が特定選手に集中していたチームが優勝しました.ただし、その値も過去の上位チーム(集中係数が0.9を越える)には届いていません.

ここ数年のトレンドを見るために、直近5年(2019-2023)とそれ以前のマーカを変えてみます.分配係数と順位の相関もそれぞれの期間ごとに計算してみます.

図5 分配係数と順位の相関 横軸:出場時間集中係数 縦軸:順位 J1 2005年から2018年 オレンジ三角:2019年から2023年 赤四角:名古屋 黒破線:線形近似直線(2005年から2018年) 緑点線:線形近似直線(2019年から2023年)
図5 分配係数と順位の相関 横軸:出場時間集中係数 縦軸:順位 J1 2005年から2018年 オレンジ三角:2019年から2023年 赤四角:名古屋 黒破線:線形近似直線(2005年から2018年) 緑点線:線形近似直線(2019年から2023年)

やはり全体的な傾向として出場時間はより分配される方向(オレンジ三角にはコロナ前の2019年を含みます)です.2018年以前は優勝や上位チームは集中係数が大きい傾向にあり、「いかに主力選手を長時間出場させられるか」が上位進出への鍵だったようです.特徴的な例は、2012、13、15優勝チームのサンフレッチェ広島で、いずれも集中係数は0.9を越えていました.

しかし、2019年以降はマリノスやフロンターレといった、選手を交代しつつもピッチ上の戦力を維持できるチームが出現しつつあります.この5年間の上位3チームはおおむね集中係数が0.75前後です.

推測を交えた私見・評価

2023年のグランパスは序盤絶好調で3つのタイトルすべてで上位争いをしていましたが、マテウス選手の移籍を境に苦しい戦いを強いられました.「いかに主力選手を長時間出場させられるか」のチャレンジに失敗してしまった格好です.大きな敵がリーグ内では無く中東にいたのは皮肉な感じがします.リーグ後半戦、長谷川監督が交代選手に苦言を呈していたことも記憶に新しいのですが、それが選手のみの責任なのかどうかは判断が難しいと感じております.

出場時間という限られたデータではありますが、そこからでも「交代選手が出ても強いチームを作る」トレンドが生まれつつあることや、対して名古屋はそういった傾向にまだ乗れていないことが推察されます.

今オフにはすでにJ1復帰(2018年)以降の功労者、売り出し中の若手選手の移籍が複数決まりました.それはさみしいお別れではありますが、ここ数年は名古屋下部組織出身者の加入も多く、2024年(以降)は選手が変わっても強い名古屋、を作れるのかどうかに着目したいと思います.

我々の「名古屋」の名前を冠して今年1年誇らしく戦い抜いた選手・監督はじめクラブ関係者の皆様に御礼申し上げます.これからもずっと、名古屋グランパスが「名古屋」という名前を冠する意味があるクラブになってほしいなぁ、と常に願っております.

(後編へ続く)

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