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【2025年版】プロサッカー移籍の裏側:育成組織が手にする「トレーニング補償(報奨)金」「連帯貢献金」とは【豆知識】

お題箱からのネタです。

プロサッカー界における選手の移籍は、単なる「戦力の移動」ではありません。そこには、若手選手の育成に心血を注いできたクラブや教育機関の努力に報いるための、緻密な経済システムが存在します。

数多いるスター選手も、最初からビッグクラブにいた選手は多くありません。多くのチームは市井のクラブから自国リーグのクラブへステップアップしていくものです。

そのステップアップの各段階のチームが、その選手を育成した対価を得られなかったとしたらどうなるでしょう?

たくさん収穫できた畑に肥料をあげなければ、だんだん土は痩せ、収穫できなくなります。肥料を買うお金がなければ・・・

そこで、適切に「肥料を買う ※比喩」お金を分配する仕組みが必要になったのです。この記事ではその仕組みを解説します。

2025年現在、国際サッカー連盟(FIFA)と日本サッカー協会(JFA)が運用する各種の「報奨金制度」は、テクノロジーの導入によりかつてないほどの透明性と確実性を備えています。本記事では、特に「U-18から大学を経てプロ入りし、その後に海外移籍した」という具体的なケースを例に、育成組織が享受できる権利について解説します。

1. 移籍システム改革の「いま」:FIFAクリーリングハウスの完全稼働

FIFAは「育成報酬を、実際に選手を育てたクラブへ迅速かつ確実に届ける」という目標を掲げ、抜本的な改革を進めてきました。

  • FIFAクリーリングハウス(FCH)の役割: 2022年に稼働したこの決済機関は、2025年時点で実務の中心となり、累計分配額は5億米ドルを突破。
  • 自動化の実現: 以前は育成クラブが自ら請求を行う必要がありましたが、現在は最新の規則に基づき、デジタル化されたシステムが自動で権利を算出し、支払いを仲介します。

2. 国際基準:2つの報奨金「TC」と「連帯貢献金」

国際移籍において発生する報酬には、大きく分けて2つの種類があります。

① トレーニング・コンペンセーション(TC)

選手が「初めてプロ登録された際」や「23歳までの国際移籍」の際に支払われるものです。

「アマチュア選手がプロ選手として登録された場合」は、12歳~21歳までの各所属クラブに対して「トレーニング費用基準額」 x 所属年数が支払われます。

また「プロ選手がプロ選手として移籍した場合」は、直前の所属元に対してのみ、選手が21歳まで所属した年数 x 「トレーニング費用基準額」が支払われます。

  • 対象期間: 原則12歳〜21歳の誕生日を含むシーズン。
  • 計算の仕組み: 獲得側クラブのカテゴリーに応じた「トレーニング費用」×「育成年数」で算出されます。

トレーニング費用基準額

大陸連盟

カテゴリー I

カテゴリー II

カテゴリー III

カテゴリー IV

AFC (アジア)

$40,000

$10,000

$2,000

UEFA (欧州)

€90,000

€60,000

€30,000

€10,000

CONMEBOL (南米)

$50,000

$30,000

$10,000

$2,000

CONCACAF (北中米カリブ)

$40,000

$10,000

$2,000

カテゴリーの分類

  • カテゴリーⅠ(上位):欧州の主要トップリーグ所属クラブ(例:プレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、セリエA、リーグ・アン等の最上位クラブ)は概ねUEFAカテゴリーⅠに相当することが多い.
  • カテゴリーⅡ:国内で2部相当や育成投資が高いが最上位ほどではないクラブ群(大きめの国内リーグの上位クラブや成長中の協会のトップクラブ)に割り当てられることが多い.日本の最上位クラブがカテゴリーIIになる。
  • カテゴリーⅢ:中規模協会の上位クラブや、育成コストが中程度のクラブが該当する例が多い.
  • カテゴリーⅣ(下位):小規模協会のクラブやアマチュア主体のクラブ、地域クラブなど。12〜15歳分の育成費は常にカテゴリーⅣ単価で計算される点も重要.

※ 最新のカテゴリーは各国協会が公表する分類表やFIFAの年次「Training costs and categorisation」資料で協会別の割当表・金額を確認できます.

質問のケースだと、他チームでプロを経ているため、TCは発生しません。

U-18からストレートにトップ昇格した場合は年数分のトレーニング費用が発生します。

② 連帯貢献金(Solidarity Contribution)

契約期間中の選手が「移籍金」を伴って移籍する際、その移籍金の5%を過去の全育成クラブで分け合う制度です。

  • 特徴: 23歳以降の移籍でも、引退まで「有料移籍」のたびに発生します。
  • 分配率: 12歳〜15歳は各0.25%、16歳〜23歳は各0.5%が割り当てられます。

3. 日本独自の「JFAトレーニング補償金」制度

日本国内の移籍(アマチュアからプロ入りなど)については、部活動や大学サッカーという日本特有の文化を反映した独自の体系が構築されています。

トレーニング補償金Ⅰ(アマからプロへ)

高校・大学などの選手が国内プロクラブと初契約する際に発生します。

年代

該当年齢

J1契約時の年額

J2契約時の年額

小学年代

12歳

10万円

5万円

中学年代

13-15歳

10万円

5万円

高校年代

16-18歳

15万円

10万円

大学年代

19-22歳

30万円

20万円

トレーニング補償金Ⅱ(プロからプロへ)

23歳以下の選手が国内移籍する際に適用される、FIFAのTCに近い性質の補償金です。

4. 【ケーススタディ】Aチーム(U-18)→大学→J1クラブB→海外移籍

質問のケースにおいて、育成組織A(U-18)にいつ、いくら支払われるのかをシミュレーションします。

フェーズ1:大学からJ1クラブBへ加入

ここではJFAの「トレーニング補償金Ⅰ」が適用されます。

  • チームA(U-18)の受領額: 16歳〜18歳の15万円 x 3年間分 = 計45万円
  • 大学の受領額: 19歳〜22歳の30万円 x 4年間分 = 計120万円

フェーズ2:J1クラブBから海外クラブへ移籍(移籍金10億円の場合)

ここでFIFAの「連帯貢献金」が発動します。

  • 連帯貢献金総額: 5,000万円(10億円の5%)
  • チームA(U-18)の配分: 10億円 × 1.5% = 1,500万円
  • 大学の配分: 10億円 × 2.0% = 2,000万円

※重要

ポイント: 大学を経由してもU-18時代の登録実績は消えません。国際移籍のたびに、当時の貢献度に応じた多額の資金が還元される仕組みになっています。

5. 実務の要:電子プレーヤーパスポート(EPP)

2025年の実務において最も重要なのが、選手の全履歴を記録した「電子プレーヤーパスポート(EPP)」です。

  • 自動生成: 移籍が発生すると、JFAの登録システム(KICKOFF等)からデータが吸い上げられ、EPPが作成されます。
  • 教育機関の認定: 大学や高校も正式な「育成組織」として認識されており、登録さえ正確であれば、FCHを通じて自動的に分配対象となります。
  • 厳格な支払い: 移籍先クラブには30日以内の入金義務があり、遅延した場合は2.5%の賦課金が課されるなど、回収の確実性が高まっています。

6. まとめ:育成組織が今取り組むべきこと

このエコシステムを維持し、正当な報酬を受け取るためには、現場レベルでの正確な事務管理が不可欠です。

  • 正確な登録管理: 選手の氏名や登録期間を、協会のシステムに1日の狂いもなく入力すること。
  • FIFA IDの把握: 自クラブおよび所属選手のIDを適切に管理すること。
  • コンプライアンス対応: 高額な入金を受ける際の審査(KYC)に備え、銀行口座情報や代表者証明を整理しておくこと。

選手の成長はスポーツ面での喜びであると同時に、クラブの未来を支える「財産」でもあります。多様化する選手のキャリアパスに即し、ルールを正しく理解して運用することは、現代のクラブ経営において技術指導と同じくらい重要な責務と言えるでしょう。

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

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