グランパスに、またも怪我人が増えてきました。
怪我の原因には様々ありますが、プロフェッショナルなスポーツでは人体の限界に近いところでの激しいプレーも多く、靭帯の損傷などは防げるものではありません。ではグランパスの怪我人は、減らすことはできないのでしょうか。
医療体制とJリーグのきまりごと
J.LEAGUE HANDBOOK 2015 (http://www.jleague.jp/docs/aboutj/pdf_all_2015.pdf) という文書があります。
こちらにはチームの医療体制について、以下のように定めています。
第 52 条〔選手の健康管理およびドクター〕
(1) Jクラブは、日本国医師免許を保有する専属のドクターを置き、当該Jクラブの責任において選手の健康管理を行わなければならない。
(2) 前項の健康管理における医学的検査の項目は、協会のスポーツ医学委員会が定める次のメディカルチェック項目とする。
① 内科検査(心電図、心エコー検査含む)
② 整形外科的検査
③ 血液検査
④ 尿検査
⑤ レントゲン検査
⑥ 運動負荷検査
⑦ 体力検査
(3) Jクラブは、すべての試合に、ドクターを同行させ、原則としてベンチ入りさせなければならない。
(4) ホームクラブは、すべての試合において第 4 の審判員ベンチに AED を備えなければならない。
(5) Jクラブは、試合終了後可及的すみやかに「Jリーグ傷害報告書」をJリーグに提出しなければならない。なお、選手が試合中に負傷した場合には、ドクターの所見を得、ドクターの署名あるものを提出するものとする。
また、ドクターのほかに医師をサポートするものとしてメディカルスタッフと呼ばれる方を1名以上置くことも義務付けられています。
メディカルスタッフ
医師をサポートし、トップチームのトレーニング、試合中の医療手当およびマッサージについて責任を有するメディカルスタッフを1名以上置かなければならない。なお、メディカルスタッフは、以下のいずれかの国家資格等を保有している者が望ましい。
・理学療法士
・柔道整復師
・あん摩マッサージ指圧師
・はり師
・きゅう師
・公益財団法人日本体育協会公認アスレティックトレーナー
こちらは多くの場合は理学療法士か、アスレティックトレーナーの方が勤めてる場合が多いようです。
ドクターはシーズンが始まる前に選手の「メディカル・チェック報告書」を作成して重大な病気などがないかどうかを報告したり、試合で怪我が発生した場合の報告書の作成、そしてもちろん怪我が発生した場合の診断と治療がお仕事ということになります。
メディカル・スタッフはもともと理学療法士の方が多く、医師の指示のもとにリハビリやマッサージなどを通じて運動機能の回復をサポートする役割です。
どちらも共通なのは、怪我の直接的な予防が主たる任務ではないわけですね。
フィジカルコーチのお仕事
チームの医療体制をドクター、メディカル・スタッフと並んで一角を担うのがフィジカル・コーチです。しかし、フィジカル・コーチのお仕事というのがどういうものなのか、正確に説明できる人は少ないのではないでしょうか。
良い記事があったので紹介します。
http://www.soccer-king.jp/sk_blog/article/155666.html
フィジカルコーチという職業をご存じだろうか。チームの中で選手のコンディショニングを整えフィジカル面でのサポートを行うほか、ケガをしないためのトレーニングを指導する専門家だ。スポーツの世界では比較的知られたこの職業も、一般的な認知度はまだまだ低い。
http://www.tohoku-geo.ne.jp/information/daichi/daichi46_43.html
フィジカルコーチという仕事は、現在30人ほどいるベガルタの選手の体調や仕上がり状態を管理して、各選手のコンディションや、強化目標に応じたトレーニングメニューを考え、指導していく役割です。
各選手のコンディションは、大学病院などとも連携して、測定データとして得られる様々な数値を分析し、客観的・相対的に判断する場合もあります。また、もちろんチームの方向性や戦略として、必然的に強化が必要となる内容もあります。
ただ、僕の場合は、練習や試合中の選手のプレーをじっくり見て、あるいは本人との会話を通じて選手の気持ちなんかも推察しながら、その時々の外的、内的な様々な情報・状況を自分のフィルターを通して感じる『フィーリング』を大切にして臨機応変に判断することを重視しています。トレーニングは、選手自身が納得してやることが一番大切ですから。
どちらの記事にもありましたが、選手のコンディションをコントロールするのが主な役割です。怪我を予防するのか、調子の波を抑えるようにするのか、強化を主軸とするのか、はチームの方針によるところが多いでしょう。
Jリーグの規約では、フィジカル・コーチを置くことは必須とされていません。おいているのは規模のある程度大きいチームということになります。フィジカル・コーチのいないチームはアスレティックトレーナーやメディカル・スタッフがその役割を果たすことになります。
ただ、フィジカル・コーチの仕事は、選手の動きの理論にも流行り廃りがあるように、いろいろなメソッドがあるようです。
ブローロはどんなフィジカル・コーチ?
ブローロコーチは1996年に来日、柏やヴェルディ川崎のフィジカル・コーチを務め、西野朗監督とは2002年以来、13年以上一緒に仕事をしているベテランのコーチです。ブローロコーチのやり方はガンバ時代の評判でも、ヴィッセル神戸時代の評判でも鬼コーチ、という形容されることが多かったようです。特に心肺能力に重点を置いており、その面のステータスが重視されているようです。
こんな記事を見つけました。
http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/grampus/news/201401/CK2014011702000094.html
「選手個人個人がどういうコンディションなのかデータを取り、それを基に良くしていく。特に大事にしているのは90分間しっかりとプレーするための有酸素系の能力。それに左右の筋力のバランスや太もも回りの太さだ。足りないところは個別に指導して補っていく」と熱弁を振るった。
心肺能力系に加えて、筋力のバランスを整えることにも注目しているようです。たしかにレアンドロ・ドミンゲスについても復帰の判断は筋力の絶対値と、怪我をしていた足としていなかったほうの足のバランスでした。
主に筋力のバランスの問題がブローロにとっては怪我の防止策なのでしょうか。コンディション面ではとても多くの科学的検査機器を導入してきたことで、疲労度のチェックなどは進んでいるようです。
→【過去記事】[赤鯱新報など] グランパスが導入したCPK検査機とは?
ただ、見ているとやはりコンディション重視がブローロのメソッドなのでしょうか。
先ほど紹介したリンクの井田さん(ACミランの元フィジカル・コーチ)などの記事を見ていると、ミランでは育成年代だけでもフィジカル・コーチが5名所属していたそうです。それだけ重視されているようですし、コンディションも長いリーグ戦を戦っていく上ではとても重要なことですが、怪我になりかけの部分に対するチェック体制はもう少し強化しても良さそうですね。
日本のフィジカル・コーチ
最後に上記リンクの井田さんのインタビューを引用しておきます。
「日本ではフィジカルコーチの需要が少なく、『欲しいけど、必ずしも必要ではない』というのが現状だと思います。実際にフィジカルコーチを置いていないJクラブではコーチや監督がフィジカルトレーニングの指導を行っているところもありますし。最終的に練習メニューを決めるのは監督です。フィジカルコーチという立場としては、トレーニングを考え指導する監督をはじめとするコーチングスタッフ、ケガ人やリハビリ選手などを担当するドクター、トレーナーなどのメディカルスタッフの間の橋渡し役となり、そして選手ともしっかりコミュニケーションをとった上で信頼関係を構築できれば、チームにとってより良い結果が出てくるのではないかと思います」
これまでにも数多くの才能ある選手たちがケガを理由に現役を退いてきた。彼らの中の一人でも、もし現役時代に井田さんのようなフィジカルコーチから専門的な指導を受けていれば、さらに長く、そして高いレベルの舞台で活躍することだってできたかもしれない。
「フィジカルコーチは必要だと監督やコーチから思われるだけの力をもっと付けて、チームの勝利に貢献したい」