セレッソ大阪は変わった
第1節、2019年のオープニングゲームとしてヴィッセル神戸を迎えたセレッソ大阪は大きく変わった姿を見せてくれました。
布陣は水沼宏太がちょっと下がりすぎて5-3-1-1にも見える3-4-3。
これは守備に関しては上手く行きましたが、攻撃はあまり機能をしませんでした。ヨニッチを中心とした3バックはペナルティーエリア幅を締めており、時折両サイドを破られても決定機にはほとんどなりませんでした。シュートシーンを見ても完全に崩しきったものはそれほど多くありません。
ただビジャが左サイドに張っていたこともあって船木が対応に追われ、釣られて丸橋もラインを下げることになり、せっかくの彼らの攻撃力が活かせない状況になっていました。
ソウザはこのように語っています。
3バックで行ったこともあって、サイド(ウィングバック)が下がったことで前に出られなくて、(水沼)宏太も引いてしまい、ディフェンスの時間が多くなってしまったのかなと思います。ただ、そこはチームなので、守る時はみんなでしっかり守ることが大切です。練習でやっていること(ポゼッション)をもっと出せればよかったです
https://www.mycerezo.jp/news/match/9/00014998/
通常こういう状況ではなすすべもなく決壊して失点するものですが、5-3ブロックはしっかりと守り切りました。
最終的に、後半に都倉を投入し、セットプレーから得点をあげると、その1点を守り切ったセレッソの勝利となりました。
注目すべきなのは、ロティーナ監督のこのインタビューの締めです。
Q:柿谷選手を1列下げてプレーさせたことの意図と、その効果については?
「そのサイドから、ウチは守備でダメージを受けていました。というのも、そのサイドにイニエスタが落ちて、そこでボールを受けられていました。でも、同時に、自分たちの攻撃になればイニエスタの後ろにスペースができていることも見えていました。そこを曜一朗に使ってもらうことがアイディアでした。
それに、トク(都倉賢)も深さを持って相手の裏に抜けていく、つまりディフェンスラインを下げさせることのできる選手であって、トクを入れることで、スペースを作ることも狙いでした」
https://www.mycerezo.jp/news/match/8/00014996/
イニエスタが中心ではありましたが、イニエスタに預けきりのヴィッセル神戸。そのイニエスタの空けたスペースを活用して反攻をしたセレッソ大阪。実に興味深い試合でした。
ところでこの試合後インタビューで、ロティーナ監督が繰り返し注目しているのが「スペース」というキーワードです。どうやらロティーナ監督はまだ始動してまもないチームに対して、スペースの管理から仕込んでいるのではないか、と仮説を立てることができます。
なぜロティーナ監督は3バックを選択したのか
通常、3バックが選択されるのは以下のようなケースが多いと思われます。
- 運動量の多い(=上下動が激しくできる)サイドバックがいる
- 能力の高いセンターバックが3人以上いる
- 中央レーンで能力を発揮するタイプの選手が多い
- カウンターやストーミング戦術で威力を発揮する
(ストーミング戦術についての解説記事はこちら)→https://www.footballista.jp/column/49105
グラぽの考えでは、この4つがすべて当てはまると思っています。ソウザ、柿谷、清武弘嗣という優秀なセンターライン。丸橋祐介、「新星」船木翔という運動量豊富なウィングバック。押し込まれていたとも言える前半も、度々鋭いカウンターを見せていました。当てはまりますでしょう?
ただ、3バックには弱点もあります。それはサイドチェンジ・ロングボールに対する守備が苦手というところだと思われます。
4バックの場合、70mの領域を4で割ると18mの守備エリアをうけもてば良いのですが、3バックの場合は24mの領域をうけもつ必要があります。そうなると事実上、3バックだけで守り切ることはできないのでセンターハーフや、ウィングバックのフォローが必要になります。そうなると、サイドにロングボールを蹴り込まれるとウィングバックが押し下げられますし、センターバックが多少なりともサイドに引き出されるとバランスがわるくなり、守備が崩壊する恐れがあります。DFライン3枚のバランスを保つためには、前述の通りセンターハーフやウィングバックのフォローが必要になるのです。
センターハーフがカバーに出ると、中央のエリア(バイタルスペースと呼びます)が空いてしまいますし、ウィングバックが下がってしまうと中盤のサイドに大きなスペースができてしまいます。
このように危険なスペースができあがってしまう可能性があるのですが、そういう場合はどのように対処をすれば良いのでしょうか。
ロティーナ監督の故郷、スペインでは守備の基本戦術として、カバーリングと、もう一つ、「ペルムータ」という聞き慣れない言葉が使われています。この2つが、スペースのやりくりをするのが難しい3バックには必須なプレーなのです。
ペルムータとは?
カバーリングはボールを持っている選手(ボールホルダー)に守備の選手が1枚当たったときに、自陣ゴール方向に斜めのポジションをとり、味方が抜かれた場合に備えるアクションを指します。
しかし、選手がボールホルダーに当たったり、カバーリングを行うということは、本来守るべきポジションが空いてしまうということになります。
そこで出てくるのが、ペルムータになります。
直訳では「交換」という意味のスペイン語です。
守備の際に、仲間の選手がいなくなって空いたスペースを埋める動きのプレーで、いなくなった選手はそのスペースを埋めてくれた仲間のいたスペースを埋めます。
Super Crack( https://super-crack.com/learn_reading/permuta_cobertura )というサイトで、動画で説明してくれているのがわかりやすいかもしれません。
https://www.youtube.com/watch?v=5q_Mo3pukNQ&t=2s
言われてみれば当たり前のことなのですが、実際にプレーをしてみるとなかなかできていないものだったりします。
後半64分から反攻は始まった
セレッソ大阪対ヴィッセル神戸の後半64分、都倉の投入から試合は変わりました。都倉は相手最終ラインを積極的に追い続ける姿勢を見せることで、相手の最終ラインを押し込みました。
するとなにが起こるかというと、これまでイニエスタの後ろでフォローをしていた選手が一歩遅れることになります。具体的には中盤に大きなスペースが生まれることになります。
そうすると、そのスペースは3−4−2−1の2(中盤に降りた柿谷曜一朗ら)が使えるようになります。そうなるとイニエスタも積極的に上がることができず、ヴィッセル神戸が押し込むことが難しくなってしまいます。
また、70分にフレッシュで運動量が期待できるデサバトを投入して、ペルムータが適切に行えるようにしました。するとそれまでフィニッシュまでたどり着くことができていたヴィッセル神戸の攻撃がうまくいかなくなります。使いたいスペースがなくなったからです。
これが、会見でロティーナ監督が述べた「スペースの管理」の一端であろうと思われます。
では名古屋に対してはどうくるのか
ロティーナ監督は先発をよくいじる監督ではありますが、ヴィッセル神戸戦を耐えた最終ライン+WBはいじらない可能性が高いのではないか、と思われます。
ただ、おそらくはイニエスタにマンマークをつけなかったことから、ジョアン・シミッチに対してもマンマークはつけないのではないか、と想像しています。
ただ、おそらくは徹底してスペースを自由にさせないこと、カバーリングとペルムータを徹底してくるのではないか、と想像しています。
名古屋グランパスはヴィッセル神戸以上にカウンター攻撃に弱く、自由に攻撃をさせずにカウンターで仕留める、という攻撃になることが想像されます。
名古屋はどうすべきなのか
グランパスはおそらく、風間八宏監督は「何も変えない」と言うでしょう。名古屋の止める・蹴る・外す、はまさに狭いスペースをこじ開けるための戦術です。
そこにミスが出ないようにすることが必要なのだろうと思われます。(風間八宏監督はそう考えているでしょう)
ジョーとシャビエル、シミッチや前田直輝、杉森考起、和泉竜司、相馬勇紀らが、老獪なロティーナ監督の戦術をぶち破りますように。願っています。