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[コラム]グランパスでひとつになる

サブ、スタッフも含めた円陣
サブ、スタッフも含めた円陣

田口泰士が「やろう!」と声がけをして始めた円陣ですが、チームとして「ひとつになる」ということを重視してのことだと思います。これはとても大事なことだと思います。

会社の組織を再構築するコンサルタントが言っていた言葉を思い出します。

「変革はとても痛みを伴うこと、だからみんなが同じ方向に向いていることが重要である。一人のリーダーが何とかできるものはではない。みんなが変革をしなければ、という気持ちを持つようにうながし、いろいろな変革をさせるリーダーを組織内に育てながら、阻害要因を排除していかなければならない。」

「リーダーは、4つの活動をしていくことが必要。
(1)何を変えていくべきなのかを理解させるプロモーション活動
(2)変えていくべきこと、あるいはまだ見えていない不満や不安を口にだすことができる土壌を作るコミュニケーション活動
(3)なにかを変えるためには「実力」と「理解」も必要である。実力をアップさせ、理解をうながすためのトレーニング活動
(4)互いの考えを理解させるコミュニティ活動
4つの活動を通じて、変革を継続的に行い、推進者のチームの輪を組織内に広げていく必要がある。チームビルディングを行い、変えたいと思う人の輪を組織内に広げていくことが大切。 」

要するに、監督が「変われ!」っていうんじゃダメで、みんなが「変わりたい!」って思うようにならなければダメだ、ということです。そのための下地作りが監督の大事な仕事だということです。

ずっとセットプレーが続くような野球やアメリカンフットボールとは異なり、サッカーでは監督がした指示というのはダイレクトにピッチのなかに影響というのは出づらいという特徴があります。

だから、これからチームがどうしていこうか、ということへの理解が、チームに浸透させる必要があるのです。これは上記の引用文の(1)に当たることですね。今年のグランパスではビデオを使ったミーティングも多用されているようです。トレーニングだけではなく、アタマでも理解できるようにうながしているようです。

しかしチームとして何をやりたいという大まかな方向性を、具体的な行動に落とし込めるのは「選手本人」だけです。選手本人がチームのやりたいことと、自分のプレーを結び付けなければならないのです。

http://www.targma.jp/akasyachi/2016/03/20/post10656/ (有料記事)

リカバリー以外のメンバーで行われた練習は、ウォーミングアップを経てパスのバリエーションメニューをこなし、3対1のボール回しで体を温めると、まずは4+4対4のポゼッションゲームへ移行。トランジションやボールへの寄せ、動き直しの質が求められるメニューに選手たちは苦慮。小倉隆史GM兼監督は組が交代するたびに身振り手振りを交えてレクチャーを繰り返し、「頭を使わなきゃ!」と選手たちにクレバーさを求めた。

このエピソードは、上記の引用文の(3)のトレーニング活動を通じて、その選手が取ったプレーの選択肢について指導が行われているわけです。

小倉監督の「弱気?」と取られる発言の真意

小倉監督は度々「監督の実力不足」「自分が悪い」と発言をして、スカパー!などでは解説者の方から「監督がそんなことを言っては駄目だ」と強烈な駄目だしを食らっていました。

小倉監督の狙いは、上の引用文で(2)(4)で言っているような風通しの良いコミュニティを作ろうとしているのだと思います。

この方法というのは正解なのでしょうか?

リーダーシップのスタイル

監督の指導スタイルを、リーダーシップのスタイルと言い換えることができるかもしれません。リーダーシップのスタイルについて、アメリカの作家ダニエル・コールマンが以下のように分類しています。

1. Vision Leadership・ビジョンリーダーシップ
・あの人の夢に参加したいと思わせる力
・ブレない信念や価値観
・変革が必要な場合や組織が急成長している場合に有効
・部下が方向性を理解していない場合に有効
・理想論だという不満も上がることがある
2. Coaching Leadership・コーチングリーダーシップ
・自分の考え、スタイル、やり方を押し付けないで相手のやり方を尊重
・ついてこいと強要せず、相手の行動を支える
・相手の性格や特徴を把握し、それを活かしたやり方を見出す
・深い洞察と思慮に裏付けられたコミュニケーション能力が必要
・メンバーのポテンシャルを最大化する
・仕事の現状と理想との間に差がある場合に有効
・短期的な成果を求めていない場合などに有効
・部下の将来の成長を重視する傾向があるため直近の目標が達成されにくい
3. Democratic Leadership・調整リーダーシップ
・意思決定プロセスにメンバーを参加させ、合意のもと仕事を進める
・人の感情の動きを読み取る力が必要
・利害関係が入り混じっていたり、手詰まりな状況にある組織に有効
・改善はできても次元を超えたドラスティックな変革は難しい
4. Affiliative Leadership・仲良しリーダーシップ
・周囲と同じ目線に立ち、周囲からの信頼を得て、友好的な関係を保つ
・自分の強みより弱みを素直に認め、これをメンバーに補ってもらう
・メンバーが有能で、高い自律性を持っている場合に有効
・「いい人」でいるばかりでは乗り越えられない壁があることも知る必要がある
5. Pacesetting Leadership・実力リーダーシップ
・高い個人技で、背中で引っ張るといった徒弟制度的な育成方法
・部下に対しては細かく指示をしたりしない率先遂行型
・実力が重視される職場で、自分の技能や能力が他のメンバーよりも明らかに高く、自他共にこれを認めている場合に有効
・部下のモチベーションやコミットメントが低いと逆効果
6. Commanding Leadership・指示命令リーダーシップ
・強制的に指示命令するコマンダースタイル
・比較的単純な業務や、緻密な業務を遂行する場合に有効
・業務効率が良く、短期間で成果を出すことができる
・部下は自分で考える能力が身につかない
・離職率が高い

1のビジョンリーダーシップは、Jリーグで言えば川崎フロンターレの風間さん、浦和レッズのペトロビッチさん、サンフレッチェ広島の森保さんなどのスタイルでしょうか。ある意味ピーキーなやり方です。

逆に日本人監督の多くは6の指示命令リーダーシップ型の監督スタイルなのではないでしょうか。監督という立場の権威付けを裏に持ち、それによって言うことを聞かせるというスタイルです。小倉監督への批判は、このスタイルを否定することになるからこそのものなのかもしれません。

名古屋で言えばストイコビッチ元監督は、日本ではあまり見られない5の実力リーダーシップだったのではないでしょうか。練習をしていてもストイコビッチさんよりも上手い選手がいなかった、ということはよく言われていました。ただ政権晩年は「部下のモチベーションやコミットメントが低いと逆効果」という特徴が明らかにでていたような気がします。

小倉監督のスタイルは、4の仲良しリーダーシップではないかと思います。今、名古屋の選手が逆に一つになれているのはメンバーに「オグさんをなんとかしてあげないと」という気持ちが素直にあることもあるのではないでしょうか。小倉監督は練習中には厳しい言葉をなげかけることもありますが、メディアに対しては選手個人を責める言葉は言わずに、自分の責任としています。だからそれを聞いた選手の気持ちに刺さりやすいのかもしれません。

プレーをしていた選手が、自分のここが悪かった、ということを認識していないということはほとんどありません。どう改善したら良いのか、ということがわからないことはあるかもしれませんが。

いまは年齢も若く、選手にとって共感しやすいということも仲良しリーダーシップを実現しやすい理由かもしれません。ですからいつまでも4の仲良しリーダーシップが続けられるわけではありません。今小倉監督がやっている仕事を見ていると、将来的には2のコーチングリーダーシップに向かいたいように思います。

名古屋には才能のある、素晴らしい素材がたくさん居ます。彼らをいかそうと思ったら、変な型にはめるよりもコーチングリーダーシップを適用できるようになると良いのかもしれませんね。

グランパスは今、変革期

グランパスは今、変革期です。今は4位とそこそこの順位を保てていますが、負傷者などが出てくれば、勝てなくなる時期がでてきてもおかしくありません。

おそらく、仲良しリーダーシップの最大の弱点は、負けがこんだ時に、選手がいうことを聞かなくなる可能性があることです。そうなったらチームは瓦解してしまうことでしょう。

そうならないようにするには、まずは選手同士がしっかりと「一つになること」。負けがこんでも悪者を作らずに、問題に対処できるようにすること。監督がいくら笛吹けども踊らず、では何も成し遂げることはできません。

そして、サポーター同士が「一つになること」。サポーターの不安や不満は、スタジアムの空気として、選手に伝染します。

小倉監督を支えて、チームの変革が実現できるように、サポーター同士も一つになりましょう!

About The Author

グラぽ編集長
大手コンピューターメーカーの人事部で人財育成に携わり、スピンアウト後は動態解析などの測定技術系やWebサイト構築などを主として担当する。またかつての縁で通信会社やWebメディアなどで講師として登壇することもあり。
名古屋グランパスとはJリーグ開幕前のナビスコカップからの縁。サッカーは地元市民リーグ、フットサルは地元チームで25年ほどプレーをしている。

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