10月21日に開催されたV・ファーレン長崎vs名古屋グランパスの一戦は1-1の引分でした。特に試合前半の展開は、グランパスが上手く攻められず、グランパスファンにとってフラストレーションの溜まる内容でした。J2ではトップクラスの攻撃力を持つグランパスが攻め切れなかったのですから、それだけ長崎が上手く守ったと言えます。
グランパスがどう攻めたかったのか、そして長崎がどう守ったのか。グランパスの攻撃時基本形と、そして長崎が上手く守った象徴的なシーンを例に、見ていきましょう。
グランパスの4-4-2に対し、長崎は3-4-2-1を基本としています。
グランパスの攻撃
グランパスの攻撃時には、各選手がフォーメーション配置にあまり縛られない動きをします。その動きの基本を少々無理やり図と文章とにすると、概ね次のようになります。
・両センターバックはペナルティエリアの両幅まで開く。
・小林がセンターバックの空けた真ん中へ落ち、最終ラインでの組立に関与する。
・両サイドバックは最終ラインより1列上がる。
・田口は中央で動き回る。
・小林と田口は、ボールが前進し、相手を押し込んだ場合には、相手ペナルティエリア近くまで前進する。
・青木はイムよりやや内側のエリアで縦への突破または相手ペナルティエリアへの侵入を狙う。
・佐藤は左サイドでのボール回しに関与しつつ、玉田の空けたスペースへ侵入。
・玉田は前線の広い範囲(図中の網掛け部分)を動き回る。最前線には張り付かない。
・シモビッチは最前線に張り付き、ポストプレーまたは相手ペナルティエリア内へ。
・ボールを前に運ぶ際には、サイドハーフ+サイドバック+小林or田口(+玉田)で数的同数または数的優位を作り、サイドで前進する。
それらの動きの最終目標は、相手を崩し、得点することです。そのために、図中の相手ペナルティエリア付近の円の辺りで、フリーで前を向いてボールを持ち、そこから仕掛けるために、ボールおよび人をそこまで前進させなければなりません。
図中の黄色の矢印線がボールの動きを表しています。櫛引から田口、青木、イム、青木と繋ぎ右サイド奥への突破を狙いましたが、長崎の島田に防がれました。長崎は青木、イム、櫛引の縦方向へのパス・ドリブルコースを切っていて、グランパスの右サイドを前進させないように守っています。
長崎が前線の澤田へロングボールを送るも、武田が直接キャッチ。武田から櫛引、和泉と繋いだところで飯尾、澤田、ファンマがチェックに行く。和泉は、前方向へのパスおよびドリブルコースを塞がれる。ここで長崎はグランパスの左サイドを前進させないように守っています。この後、武田までボールが戻されるも、そこにもファンマのチェックが入り、武田の苦し紛れのロングキックは精度を欠き、ボールを奪われました。
ワシントンから佐藤へボールを出したところで澤田が縦を切りつつプレス。佐藤はプレスに体勢を崩され、和泉へ出すもののパスが弱い。受けた和泉も縦を切られており、中へ切り返したところでボールを奪われシュートに持ち込まれました。ここでも長崎は佐藤と和泉の縦方向を徹底的に切り、グランパスのサイドを前進させないように守っていました。
三つの例から、長崎はグランパスのサイドを前進させないように守っていた、とわかります。長崎はグランパスのボールを前に運ぶサイドの縦方向を徹底的に切ることで、
・理想はグランパスのディフェンスラインからボールを奪取しショートカウンターからの得点
・長崎にとって危険な位置までボールを運ばれないようにする
・ゴールキーパーやディフェンダーからのロングキックは許容する=あまり脅威ではない
との認識で守っていたのではないでしょうか。そして、J2では爆発的なグランパスの攻撃力を防いだ長崎のこの守備を、今後の対戦チームが参考にすると予想されます。
今後のグランパスの攻撃は
では、そういった守備をしてくる相手に、グランパスはどう攻めるべきなのでしょうか。それを考えるために、グランパスが長崎の陣地へ攻め上がった場面を例として見てみましょう。
左サイド+小林でボールを繋ぎ、小林にプレスをかけられたタイミングで田口、櫛引経由で逆(右)サイドのイムへ展開。それに合わせ斜めに走りこむ青木へイムがスルーパスを出すもカットされました。グランパスの選手はボールのあるサイドに寄り気味で、それに合わせて長崎もボールサイドに寄せてきます。当然、ボールとは逆サイドにはスペースがあるはずで、サイドチェンジしてから攻めることは有効な選択でしょう。
相手陣地のスローインにイムが競り勝ち、そのボールが相手にクリアされるも、クリアボールを再びイムが拾いました。
そのイムからシモビッチ、玉田とワンタッチで繋ぎ佐藤へ。佐藤がキックフェイントで相手ディフェンダーを交わすもシモビッチへのラストパスの精度を欠き、シュートには至りませんでした。
小林、イム、青木と繋ぎ、青木はマイナス方向へドリブルして小林に戻します。
小林、田口を経由し再び青木に渡り、青木から左サイド最前線まで上がっていた和泉へロングパス。この後、前線までフォローに上がっていた田口へ和泉がパスし、田口から決定的チャンスが生まれかけましたが、最後のパス精度を欠きました。
これらの事例から、長崎のようなプレスをしてくる守備に対しては、
- ボールサイドとは逆サイド=相手がいないサイドを攻撃に使うことと、
- 相手陣地でボールを奪い返してシュートに繋げるカウンター
が有効だとわかります。決まれば非常に美しい攻撃です。風間八宏監督が志向しているのはこういう攻撃でしょう。
ロビン・シモビッチは点取り屋
しかし、長崎戦のように相手に対策をされ、なかなか得点を奪えない時はどうしたら良いでしょうか?グランパスには美しい崩しではない武器があります。シモビッチです。シモビッチの高さやリーチを上手く使うことで、足元でのボール繋ぎとは別に、シモビッチからのポストプレー等で一発でチャンスを作り出せる可能性は高いと思われます。従って、今後チームとして磨いていくべき攻撃選択肢の一つは、ゴールキーパーまたはディフェンスラインからのシモビッチへの高精度のロングパスではないでしょうか。現在のグランパスは、原則としてボールを保持しつつ前進しようとするため、後ろからのロングボールは相手のプレスを受けた苦し紛れの選択結果となりがちです。苦し紛れではなく、自信を持った高精度のボールをシモビッチへ送れば、シモビッチがボールを収め、チームが上がるための時間を作ってくれるはずです。
グランパス全体の攻撃のことを考えるなら、シャビエル玉田のツートップの時のように、ロビン・シモビッチが中盤まで下りてきてボール繋ぎに関与するという方法もあるかと思います。しかし、ロビン・シモビッチ………ロビンは点取り屋です。ストライカーです。199cmの身長および手足のリーチは素晴らしい武器だし、身体だって強い。でもグランパスファンならご存知のとおり、ロビンの最大の武器はペナルティエリア内で相手ディフェンダーとの勝負を制する技術です。アウェイ大分戦やホーム湘南戦でのゴールのように、ペナルティエリア内で相手ディフェンダーと1対1の勝負をさせれば、勝負を制しゴールを決めてくれるはずの選手です。そんな選手をグランパスは相手ペナルティエリア内で使うべきであり、そこで使えないのはチームとしての敗北です。ポストプレーで預けるにしても、その後ロビンが相手ペナルティエリアに侵入できるように味方がフォローすべきです。ロングボールでロビンに預けたら何故か周囲に味方がいなくてロビンが孤立していたりする、そういうのを見たくないのです。高確率で点を取る最後の決め手として、ペナルティエリアで待ち構えているロビンへ良いボールを送りたい。点を取れる選手に点を取れるボールを供給したい。そこでオシャレなゴールを奪うロビンを見たい。攻撃の選手ならば誰だって自らシュートを打ち、得点したいのかもしれないけれど、ロビンへのパスも忘れず選択肢に入れて欲しい。なんか適当にシュート打つくらいならロビンの胸から下にパスを出せ青木。わかっているのか青木。
とてもいい記事。読みやすく分かりやすい。そして最後は気持ち。
お読みいただいてありがとうございます。
気持ち部分が伝わったのなら、とても嬉しいです。