新しい境地
10戦勝ちなしという長いトンネル。
相手の対策を乗り越えられなかったことに端を発したこの苦境は、いつしか怪我人と移籍者が続出するという事態に陥りました。
その泥沼から脱出しようとするその試行錯誤の中で、1人の男が爆発的な成長をしつつあります。
中谷進之介。
圧倒的な運動量で中盤で狩り続け攻撃にも参加する米本、全体を見渡したフォロー力と正確な長距離砲を武器に名古屋のDFラインに君臨する丸山。前半戦の快進撃の要因の一つである前からの守備を支えたこの二人をケガで欠いたチームは苦しんでいます。
そんな中、藤井陽也という新しいパートナーを得て、丸山とのコンビで進化を遂げた前半戦(https://grapo.net/2019/05/15/9896/)に続き、丸山のいない中で更なる進化を続ける男、中谷進之介について、久々かつクリーンシートでの勝利となった川崎戦を中心に見てみたいと思います。
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DFリーダーとしての統率と守り方
部下(後輩)ができて張り切った経験はみなさんにもきっとあるでしょう(唐突)。いいところを見せなきゃいけない。部下を育てなきゃならない。そんな気持ちでいつもより仕事を頑張る。普段やらないことまでやっちゃう。一つのモチベーションであり、成長のチャンスです。
中谷が今そんな気持ちなのかは正直知りませんが、頼れる上司丸山をケガで欠き、自分がDFリーダーとして戦わなければならない、しかも相棒は年下の1年目ルーキー、気合は入るでしょう。「立場は人を作る」なんていう言葉もありますが、その気持ちの変化が行動に表れたのか、とにかく首を振り周囲を確認していました。自分と藤井とその相手関係だけでなく、サイド宮原吉田やその相手の位置もつぶさに確認、身振り手振りで警戒を促したり位置の指示を出している様でした。
印象的だったのは75分、縦に入ったボールをカット後クリア、その後チーム全体に対し、(おそらく)押し上げろ、のジェスチャー。やや疲れが出てきて押し込まれつつあったチーム全体の意識修正を図っていました。これまではこういったコントロールをやってなかったとは言いませんが、「丸山の相棒」だった中谷が一皮剥けた証に感じられました。上司がいない間に部下とともに成長する。なんて素晴らしい男でしょうか。新妻にいいところ見せたいだけかもしれませんが(違)。
小さな守備の変化
ところで、押し込まれつつある中でみせた押し上げろ、の指示、ここに川崎戦で見られた守備の仕方の変化が端的に表れています。絶好調の前半戦に見せた相手陣内で奪い返すサッカーは、鬼運動量米本離脱により奪回能力の低下がみられたことで、実行できなくなりました。そのため守備の修正を余儀なくされました。ここ数試合のロスタイムの失点は、その修正が不完全な状況で、勝ちたい・守りたい意識が強すぎてペナルティエリアに引ききった結果、くらったものです。しかし、今回の試合ではボールを奪う位置をその中間、自陣センターライン手前側に設定されている様に見えました。4-4-2の陣形でバランスよく中盤で圧縮して、運動量が落ちても間延びせず、リスクを大きくしない守り方にシフトしたと考えます。後半押し込まれつつあったチームをみて、中谷はDFリーダーとして完全勝利のために、もう一度その守り方を徹底しようとしたのではないでしょうか。なお、それでも押し込まれた際はリスク対策として、左サイドバック吉田が中央に絞り、和泉がサイドバックの位置までさがり5-3-2でブロックを組む形が多く見られました。約束事だったのか、和泉が自主的に相手サイドに合わせ下がった結果なのかはわかりませんが、通常時は中盤にて4-4-2でバランスよく守り、押し込まれた際には中の人数厚くするという良い守備ができていました。
守備における「速さ」
一方個人的な能力面でも進化が感じられます。私は中谷の最も大きな特徴は、アジリティを生かした守備だと考えています。その俊敏性で前方の相手に食いつきボールを奪う。あるいはDFラインの裏をとられた際には最高速で相手に追いつき緊急対応を行います。名古屋の様に相手を押し込むスタイルには欠かせない能力です。今回川崎戦ではその速さがより進化していた様にみられました。といっても足が速くなったと言っているわけではありません。見ていて感じたのは守備の「目の速さ」です。パスが出た瞬間、センターライン近くまで一気に詰めボールを奪う(13分)、センターサークル内でボール奪取(49分)など、素晴らしい集中力で、奪えるという判断がとても早く、かつ判断した瞬間の一歩目が非常に速いのが印象的でした。相手イエローカードを誘発したカウンターの起点となった奪取もボールに対する素早いアタックによるものでした。もともとそういったスタイルの守備をする選手ですが、以前に比べても自信をもって飛び出せているように感じます。この試合では結果危なくなってしまったのは56分前にカットに出るもはたかれピンチを迎えたシーンくらいでしょうか(ミッチサンキュー、サンキューな!)。
ナッキーさんの記事にもあった様に、藤井も「目の早さ」の片鱗を見せており、お互い刺激を受けながらレベルアップをしているのでしょう。新妻にいいと(略)。また、前述したボールの奪いどころが位置的にもリスク的にもCBが前にでやすい守り方であり、自信をもって飛び出せる要因となっているのかもしれません。
積極的な組立参加と攻撃意識
もう一つ目に見えて向上しているのが足元の技術です。皆さんご存じの通り名古屋のサッカーにおいて最も重要視される能力である、ボールの扱いが非常に上手くなっています。DFリーダーを担うようになり、最終ラインでの組立の中心になった中谷。実戦でのボールタッチ数が増えることでより技術が向上、それにより精神的な余裕も増えたのか、冷静なボールタッチができるようになりました。試合開始直後の前田へのフライパス、80分吉田へのフィードなど、丸山ほどの距離は無いですが、冷静に効果的な展開ができています。パス成功率はなんと95%でした(sofascoreより)。ちなみに藤井が84%、ジェジエウ80%、谷口89%でした。単純なクリアもほとんど無かった様に思え非常に高精度な組立が出来ていました。
技術の向上と連動して攻撃意識も更なる進化が見られます。様々な攻撃参加がありましたが
、一番は言うまでもなく名古屋2点目のシーン。まさかCBがあのタイミングでゴリゴリドリブルしてくるとは思ってなかったのでしょうか、相手プレスの甘さもありながらですが圧巻の持ち上がりでした。私の感想はこのツイートがすべてです。すき。
二点目の時のしんちゃんの動きなんなん。CBの癖に数枚剥がしてナイスパスからのなんならリターンもらって自分でフィニッシュまである様なワールドクラスストライカーJôと被るくらいいい位置取り。そして和泉シュート時はJôよりゴール前に詰める動き。そしてガッツポーズと雄叫び。ふざけてんの?すき。
— コンウェン (@konwenga) August 10, 2019
最後に
敵チームの徹底した名古屋対策、主力の相次ぐケガにより苦しい戦いを余儀なくされてきた名古屋グランパス。やっとやっと長いトンネルを抜けることができました。その苦境を糧に素晴らしい成長を遂げた中谷進之介。藤井陽也という新しい相棒を手に入れ、名古屋の新しい壁を築きつつあります。とはいえ10試合勝ち無しからのやっと1勝。この試合一過性では意味がありません。上司丸山が戻って来た時に「あ、僕と藤井がやるんで大丈夫っすよ。丸さんは何かあったとき責任だけとってください」と言える位、二人して大きく大きく成長してもらいたいです。中谷・藤井という名古屋の新たなる守り手二人にこれからも注目していきたいと思います。