躍進の陰に進化あり
11試合終了時で7勝2分2敗のリーグ2位。
素晴らしいスタートを切った今季ですが、その要因が大きく減った失点であることは言うまでもありません。
今季の守り方のコンセプト、ハーフコートの檻に相手を閉じ込めることを目論んだ今の守備は、特に後ろの6人には高い対人守備力、セカンドボール奪取力が必要不可欠。
怪我や出場停止等のことを考えると、チームとしては「代わりがいない」のでは困るわけですが、現状の後ろ6人の組み合わせは、守備という意味で言えば「余人をもって代えがたい」のも紛れもない事実でしょう。
そしてその一角として、急激な進化を遂げつつあるのが、中谷進之介その人です。
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昨季のしんちゃん
昨季加入時、脆弱にもほどがあったグランパス守備陣の救世主として諸手を挙げて歓迎された中谷ですが、その当時にコンウェンさんがこのような記事を書いています。
(「炎のストッパー中谷進之介」)
移籍当時のツイート情報等によるとプレーは、足元の技術あり、対人強い、当たりに行く系のDFスタイルで、空中戦はあんまり?と言った評価でした。性格は熱く、生意気なところもある、…なるほどなるほど(ネットにどつかれながら)。調べるなかで一番驚いたのは、柏時代ベストセーブに選ばれている事でした。最初同姓同名のGKいたかなと思いましたが、本人でした。最後の最後まで諦めずゴールライン上でボールに食らいつく姿、熱い。素敵。
ここでも書かれていたツイートによる情報はプレーを見た後の印象ともおおむね合致しています。
ただし、流石に足元の技術およびビルドアップについては、同時期に加入した丸山に一日の長あり。
中谷のこの部分については強化部および監督も満足とは思っていなかったのでしょう。
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シーズンオフの間に、CBにはオフに千葉和彦という名うてのフィードの名手が加入することとなりました。
今季序盤のしんちゃん
かくしてキャンプに入り、昨季にはあまりなかったポジション争いに身を投じることとなった中谷。
当時の報道を見ても、いったんはレギュラーポジションを千葉に奪われてサブの扱いとなっていたようです。
潮目が変わったのは、もしかするとシミッチの加入のタイミングかもしれません。
彼の加入が現在のチームの守り方を試すことを可能にし、またCBへの要求要件をビルドアップ能力から対人守備力と機動力優先に変えました。
その結果、FC東京への大惨敗含む対外試合を経つつも、中谷は千葉からレギュラーポジションを奪い返し、現在に至っています。
その後の中谷のプレーぶりは皆様もご存知の通り。
Footballistaへ寄稿した記事で指摘したような、「後ろのスペースを守る」タスクゆえのラインの不安定さなどを露呈しつつも、その機動力と対人の強さでチームの守備力向上に貢献してきました。
嵐を呼ばないCBしんちゃん(アゲイン)
そしてここ数試合の中谷のプレーを見ていると、一つ上のステージの選手に進化しつつあるのではないか、そんな風に思えます。
先日の浦和戦は、その進化が如実に出た試合でした。
手計算で数字を出してみます。
ショートパス:成功31本、失敗0本
ある程度以上の距離の縦パス:成功4本、失敗2本、被インターセプトなし
画面で見ている限り、ショートパスの失敗はなし。
特筆すべきはランゲラックへのバックパスが1本もなかったこと。
もちろん浦和のコンディションが悪く寄せの迫力を欠いたという理由はありますが、味方が顔を出したところにしっかりと出せていることは評価されてよいでしょう。
ショートパスによる前進が効果的に行えていたこともあり、大きく蹴り出すシーンはほとんどありませんでしたが、少ないながら長いパス、鋭い縦パスにもチャレンジ。
裏狙いのフィードこそ相手に対応されましたが、それ以外はほとんどを成功させ、チームの前進に一役買いました。
その中でも、もっとも目立ったのは前半41分58秒辺りのプレー。
ワンタッチで戻ってきたボールを止めて前方を確認。
顔を出した米本が二人に挟まれて狙われてるのを見るや、その真後ろのスペースに受けに来たジョーへ、相手が触れないくらいの絶妙な高さの浮き球の縦パスを通してみせています。
他にも狭い相手の間を通してみたりと、チャレンジも行っての結果は誉められて良いと思います。
ボール奪取:4
クリア:8(うち4本はマイボール)
出足鋭く前でつぶし、あわよくば取り切る守備は元々の特徴でもありますが、その前に出る判断は試合を追うごとにキレが増しているように感じます。
特に、前半42分42秒辺りで、浦和陣内のセンターサークル辺りまでボールを受けに来た武藤に岩波が通そうとしたグラウンダーの縦パスを読み切ってインターセプトしたプレーは圧巻でした。
他にも相手が受けるところを前に出てインターセプトだったり、ファウルとなったものの相手カウンターを未然につぶす形も多くなっています。
また、ヘディングやクリアについても、ただ蹴り出す、頭ではね返すだけでなく、極力味方につなげることが意識されており、実際中谷が行ったクリアのうち4回は味方が拾ってマイボールにすることができました。
あまり得意でないという触れ込みだった空中のボールの扱いですが、これを見る限り大きく向上しているようです。
シュートブロック:1
浦和戦の後半は少し前への圧力を強めた浦和の、特に鈴木の守備が影響して、危ない形で相手のカウンターが発動することが何度かありました。
ただ、この日はロストからの被カウンター時、特に中谷丸山の対応、およびその後の両SB両CMFの帰陣のスピードと対応が素晴らしく、今までほど肝を冷やすシーンを生むことなく対応できていました。
その中でもゴール正面でシュートを打たれるシーンはありましたが、中谷が冷静な対応でブロックするなどで事なきを得、クリーンシートを達成しています。
この日の中谷はラインの一員としての振る舞いと、ラインから離れて相手をつぶしに行くこととの切り替えの精度が抜群でした。
迷ったり遅れたりというシーンはほとんど見られなかった、というところは素晴らしかったと思います。
士別れて三日なれば刮目して相待すべし
浦和の選手のコンディションがイマイチだったという部分があるとはいえ、この浦和戦の中谷のプレーは安定感、傑出度ともにこれまでにないレベルで素晴らしいものでした。
ここまでのことがができるようになった理由は何か。
実際の試合での振る舞いを見て、そして各種インタビューを読む限り、そのカギは「準備」という言葉に集約されるように思います。
まずひとつめは、練習における、大きな意味、時間軸での「準備」。
詳しくは今月号のGRUNのインタビューをお読みいただきたいところですが、練習では相当細かいところ、技術のみならず判断に至るまで、プレーについての指摘が入るようです。
おそらく自主練においてもかなりの課題感を持って行っているのでしょう。
そしてもうひとつの「準備」は実際のプレー中の備えです。
周囲の確認、次のプレーの予測、そして判断。
浦和戦ではかなり首を振って、ディフェンスラインのコントロール、および相手選手の確認に気を遣っているところが画面上にも映し出されていました。
こういったプレーは一朝一夕で出来るようなものではなく、普段から意識して改善してようやく身についていくもの。
昨季加入以来の彼の努力が花開き始めている、ということなのではないでしょうか。
週末には難敵・川崎フロンターレとの一戦が迫っています。
現状の川崎の指向を考えると、ビルドアップに参加する選手には強い圧力をかけてくるでしょうし、相手攻撃陣の技術も素晴らしいチーム。
最後尾にて、攻守の安定化を担う中谷にも大きなプレッシャーがかかることが予想されます。
一皮むけつつある彼がどのようなプレーを見せてくれるのか。
金曜夜を楽しみにしたいと思います。
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