北海道コンサドーレ札幌の狙い
そもそもコンサドーレは大敗が続いており、この試合に期するところが大きかったということを理解しておかなければなりません。
コンサドーレの狙いはだいたい以下のようなものだったと考えて間違いないでしょう。
- アンデルソン・ロペスを含めた4-5ブロックで名古屋グランパスのビルドアップを窒息させる
- 高い位置でボールを奪い、速攻で決めきる
- ルーカス・フェルナンデスを中心に名古屋グランパスの攻撃を支える左サイドバック吉田豊に強いプレスをかけて攻撃に行かせない
- あまり上がってこないオ・ジェソクを見越して、菅大輝と福森晃斗は高いポジションを取る
プレビューでも述べた通り、北海道コンサドーレ札幌はマンマークに近い、厳しいディフェンスがウリのチームです。その圧力は中2日のため、後半に落ちていくかと想像しましたが、まったく落ちることなく最後まで走りきりました。その献身的な運動量は賞賛に値すると思われます。
この試合で言うと、コンサドーレの狙いは90%以上(ゴールできなかったこと以外)達成されていたと思われます。
グランパスの失敗
結果論になってしまいますが、この試合ではグランパスはあまり良いプレーができませんでした。原因には以下の要素があると思います。
- 恐らくはターンオーバーを見越して、高さのあるオ・ジェソクを先発起用した
- 守備では一定の成果を挙げた
- 成瀬竣平のように縦にしかけることでボールを引き出すことができなくなった
- 右サイドの前にいた選手が活かせなくなった
- 後半途中からセントラルMFの2人(稲垣祥・シミッチ)の脚が止まりつつあったが、バランスを壊すことを恐れて(?)交代できなかった
- 自陣にピン止めされていて、攻撃の回数がそもそも少なかった。
- マイボールになったときに冷静に繋げないことがあった
結果的に自陣内でプレーする時間が多くなり、グランパスらしいサッカーができずに終わりました。
判定はどうだったのか
西村主審の判定基準は、最近の主流である「あまり選手のボディコンタクトについては基準が甘く、手を使ったプレーには厳しく対処をする」というものでした。
実際そのため手を使ってカウンターを止めた宮澤にはイエローが出ましたが、アンデルソン・ロペスが繰り返していたボディコンタクトはファールになったりならなかったりでした。
判定基準は一貫していたと思われます。そこにコンサドーレがうまく適応できていたと考えてよいでしょう。
ボディコンタクトはどこからがファールなのか
以前の記事に取り上げたように、ボディコンタクトの代表格であるショルダーチャージは、相手競技者の肩に自分の肩をぶつけてボールを奪うための方法で、唯一相手競技者にチャージする方法として認められています。
間違えてはいけないのは、「肩を使えば相手選手のどこをどんな押し方で押しても構わない」というわけではないことです。あくまで「原則として肩と肩」でなければならず、肩で相手競技者の背中に当たれば当然ファウルチャージになります。
本来、ボールにプレーするわけでもなく、「肩対肩」ではない相手競技者へのチャージは、ファールなのです。
また、仮に「肩対肩」で当たっても、そのチャージングのあと自分がボールキープする意識がなく、相手選手にプレーさせない、あるいは相手選手を跳ね飛ばすだけのショルダーによるチャージであれば、やはりファウルチャージと判定される可能性が高くなります。(ボールを自分のものとするためのチャージングではないため)
ただし2020年のシーズン前にこんな記事が上がっていました。
まず、最初に強調されたのが「コンタクトプレーの判断基準」で、ビデオ映像を使った説明があった(この映像は加盟各クラブで選手・監督向けの説明にも使用されたものだ)。
最初に見せられた映像は「これはファウルを取らない」といういくつかの事例だった。昨シーズンの試合で主審が笛を吹いてFKもしくはPKとなった場面の映像が流され、そこに「これはファウル」という趣旨のテロップが付けられていた。
正当なコンタクトプレー(たとえば、正当なショルダーチャージ)であれば反則にならないのは当然だが、たとえ相手の体に手がかかって相手が倒れたとしても、自然な動きの中での手の動きであったり、ボールの位置とまったく関係のないところでのコンタクトであればファウルは取らずにプレーを流す。あるいは、手を懸けられたFWが簡単に倒れたりしたら(シミュレーションでなくても)、これも反則は取らないというのだ。
「これまでの判定基準が変わるものではない」ということも同時に強調されたが、それは競技規則が変更されていないのであれば審判委員会としてはそう言わざるを得ないのであって、最初に「これは今年はファウルを取らない」という趣旨の映像を見せたのだから、事実上「これまでよりもファウルは取らずにプレーを流しますよ」というメッセージなのだと解釈すべきであろう。
(引用元:https://news.jsports.co.jp/football/article/20190310218270/ )
審判・選手への説明に使ったビデオをそのまま私たちが見ることはできない(一般に公開されているのは恐らく簡易版)ので具体的にどのような解釈ができるかわかりませんが、コンサドーレは今年の基準をうまく使いこなそうとしているチームであることが想像されます。ただ結果的に警告数ナンバーワンのチームであることも確かです。
相馬勇紀のプレーは何故ハンドになったのか
ハンド(正確にはハンドリング)の基準は2019年の改正で明確にされました。
実は手にボールが当たった=すべて反則、ではありません。ボールに”意図的に触れた”と認められた場合のみ、ハンドリングの反則として判定されます。しかし、この”意図的”をどのように見極めるか、これが審判の裁量に任されていました。ハンドリングと認めるには、以下の考慮点が示されていました。
- ボールの方向への手や腕の動き
- 相手競技者とボールの距離(予期していないボール)
- 手や腕の位置だけで、反則とはみなさない
これらをレフェリーが総合的に判断し、意図的に手で触れたかどうかを判定します。しかしこういった基準はあるものの、人によって解釈は異なり、グレーゾーンの幅が大きかったのも確かです。そこで2019年の競技規則改正で、この「ハンドリング」の基準が、再定義されることになりました。
その中の1つが以下の図の「手や腕で体を不自然に大きくしてボールに触れる」です。
そして以下が実際のそのシーンです。相馬勇紀選手は手を伸ばして、コントロールしようとしてしまっています。
そもそも2020年の競技規則では、「脇の下から下」ではハンドリングと取り扱われます。ですからこのシーンのハンドリング判定にはまったくおかしなところはありません。相馬勇紀選手は、不用意なプレーに猛省するべきです。
もしこうだったらハンドじゃなかった
ちなみに2020年の競技規則では、1つの興味深い変更もありました。
偶発的にボールが攻撃側競技者の腕や手に当たった場合、当たった「直後」に得点、また、その競技者やチームが決定的な得点をする機会を得た場合のみ罰せられる
(出典:日本サッカー協会「競技規則の改正について」、2020年5月14日)
たとえば、このシーンで手よりも先に脚にあたり、その結果跳ね上がったボールが手に当たった、というような場合ですとハンドリング判定にならなかった可能性が高くなります。本当に難しいですね。
グランパスのGood!(よかった)
- 相馬勇紀が久々に縦のしかけでいいチャンスをいくつも作った
- マテウスが本当に献身的なプレー。素晴らしいプレスバックを魅せた
- ミッチは神(PKストップ)
- 丸山祐市も神(菅大輝のシュートをカバー)
- 札幌のストロングであるルーカス・フェルナンデスに決定的な仕事をさせたのは菅大輝のシュートへのクロスとPKのシーンの2回だけ
グランパスのMore(もうちょっと頑張ろう)
- 吉田豊へのフォローが不足していた。ルーカス・フェルナンデスとバチバチやっていた吉田豊にフォローがあるともっと左サイドの攻撃が活性化できたはず
- 吉田豊を引きつけて、できたスペースを使われるのは定番化している
- 現状、両サイドハーフがフォローしているが、そうすると攻撃の開始ポイントが低くなり、攻撃に迫力が出ない
- そうなるとロングボールに頼らざるを得ないところがあるが、ロングボールの受け口である金崎夢生へのプレッシャーがこれまで以上に強くなっている
- プレスへのパスの出口を意識したプレーをして、丸山祐市・中谷進之介をもっと助けるべきだった
まだまだ、成長する余地があるということです。これからの成長を応援していきましょう!