こんにちは。OTC(@Gram_Leorep)公式です。
2度目の投稿をさせていただきます。
前回の記事では、「タクティカルファール(以下、「SPA:Stopping a promising attack」)へのアドバンテージ適応はノーカード」というルールについて解説させていただきました。
(まだお読みでない方はこちらの記事:意外と知らないサッカー競技規則~「アドバンテージ」と「カード」の関係性~ をご参照ください。)
意外と知らないサッカー競技規則~「アドバンテージ」と「カード」の関係性~
堅苦しいルールに係る解説記事にもかかわらず、多くのコメント・反応をいただき感謝しております。その中でも「このルール嫌だ!」「なんでこのルールができたの?」という反応が多くありました。
当該ルール改正では、従来よりイエローカードが出にくくなるのは明白で、事実、2020年8月29日 明治安田生命J1リーグ 13節 札幌 vs 名古屋 で数多くの札幌のファールに対し、なかなかカードを出さない西村主審に一種の「信頼していたのに、裏切られた」感を持った方も少なくはないかと思います。
しかし、個人的な感想としては、西村さんのジャッジは「競技規則通り」で妥当なものが多いという認識です。
そこで、今回は後編ということで、前回説明した「SPAのアドバンテージ適用はノーカード」のルール成立の背景やマニアックな類似論点、「じゃぁ名古屋はどうすればいいの?」について解説したいと思います。
1.「SPAへのアドバンテージはノーカード」成立背景のおさらい
以前の私の投稿で、とても簡単にルール成立の背景を説明したのですが、皆さんは覚えていますか?
「DOGSO(Denying Obviously Goal Scoring Opportunity:決定的得点機会の阻止)時のアドバンテージ適用した場合、アウトオブプレーで提示されるカードの色はレッドからイエローに一段階下がる」
という既存のルールに整合をとって、
「DOGSOで一段階下がるなら、SPAでも一段階下がらないとおかしいよね」という理由でルールが改正された と説明したかと思います。
ではそもそも何故、DOGSO時のアドバンテージ適用はイエローに一段階下がるのでしょうか。実はこのルール、2年前(2018/2019)に改正されたルールなのです。
2.「DOGSOへのアドバンテージは結果がどうであれイエローカード」
ここで、競技規則を見てみましょう。
(実は前回アドバンテージに係るルールを紹介した時、中略で省略してしまった箇所です。今回は全文載せます。)
「警告や退場となるべき反則に対して主審がアドバンテージを適用したとき、この警告や退場処置は、次にボールがアウトオブプレーになったときに行われなければならない。しかしながら、反則が相手チームの決定的得点の機会を阻止するものであった場合、競技者は反スポーツ的行為で警告され、反則が大きなチャンスとなる攻撃を妨害、または阻止したものであった場合は警告されない。」
下線部分が該当箇所です。
平たく言えば、「結果がどうであれ、DOGSO時のアドバンテージ適用はイエローカード」です。
ここで考えるヒントになるものは「DOGSO」という言葉です。
DOGSOって毎度お馴染み、Denying Obviously Goal Scoring Opportunity(決定的得点機会の阻止)の略ですよね。
でもアドバンテージを適用するってことは、得点機会を阻止できていないですよね?(←ここ重要)
阻止(Denying)できていないと、DOGSOではなく、単に「決定的得点の機会が継続」していることになります。OGSOなだけなんです。(そんな言葉ありませんが)
繰り返しますが、DOGSOは決定的得点機会を阻止する反則で、その反則に対してレッドカードが出ます。
「阻止していたらレッドだけど、アドバンテージが適応されることによって結果的に得点機会を阻止できなかった、じゃぁイエローにしよう。」
これがIFAB(国際サッカー協議会)が考える「公平・公正」な懲戒措置で、今回の論点の「基準」となっているのです。
今までの話を踏まえて、「SPAへのアドバンテージはノーカード」に話を戻しましょう。
SPAへアドバンテージ適用すると、PA(Promising Attack)をStopできていないので(ルー語みたいになって恐縮ですが)状況的には得点のチャンスであることには変わらず、論理的に考えると、カードが出ない普通のファールをされていることに何ら変わりがないですよね。
(もちろん、ラフプレー等を除きます)
これが「整合」のカラクリです。
頭では理解できるものの、今まで相手にカードが出た状況でカードが出ないのは、「何でー」となりますよね。
このルールには慣れるまで時間が必要なようです。
3. マニアック類似論点「クイックリスタート時のカード」
せっかくマニアック論点の「DOGSOへのアドバンテージは結果がどうであれイエローカード」に触れたので、「クイックリスタート時のカード」にも触れておきましょう。
目にしますよね、クイックリスタート。
ご存知の方も多いと思いますが、ファールを受けて得たFK等を、相手守備の陣形が整っていない時等に素早く再開する方法です。
さて、ここで超マニアックなルールを紹介。
「主審が警告または退場と判断した場合、懲戒の罰則の処置をし終えるまでプレーを再開させてはいけない。ただし、主審が懲戒の罰則の処置を始めておらず、反則を犯していないチームがすばやくフリーキックを行なって、明らかな得点の機会を得た場合を除く。懲戒の罰則の処置は、次にプレーが停止された時に行われる。なお、反則が相手チームの決定的な得点の機会を阻止したものであった場合、競技者は警告されることになり、相手の大きなチャンスとなる攻撃を妨害、または阻止したものであった場合、競技者は警告されない」
一読しても、超分かりづらいルールですね。競技規則は英語を日本語訳したものなので、たまに超絶理解しにくい言い回しがあります。
ここで言っていることは、
「クイックリスタートをカードが出る前に行った場合、元々DOGSOだったらイエローに、元々SPAだったらノーカードに」です。
えっ、ウソぉ。。。何でクイックリスタートしただけなのに、カードの色が変わるの!?
ここまで読み進めてこられた皆様、もう理屈は理解できましたよね?
そう、クイックリスタートしたということは
「素早く攻撃を再開できたんだから、決定的な得点機会や大きなチャンスは継続しているよね?それなら退場から警告にしよう。警告からノーカードにしよう。これが公正・公平でしょ?」
とIFABが言っているのです。
「公正」「公平」の概念ってとっても難しいですね。
これはもう哲学の世界です。
4.「じゃあ、どうすれば?」反則が多いチームとの対戦時の注意点
今まで出ていたイエローカードが出ない!!
そのことでファールが少ないチームにとって、どんな損が起きるのでしょうか。
「ファールをしたうえに、うちの○○選手を痛めつけた奴が罰を受けないのはおかしい!」というのはサポーター心理であれば当然思うことでしょう。
しかしそれ以上に重要な観点が「抑止力」だと個人的には思っています。
イエローを1枚もらっているのと、いないのでは今後のプレーに大きく影響しますよね。
想像してみてください。選手が早いタイミングでイエローを1枚貰っていたら、選手も当然気をつけるはずです。退場したくないですから。必然的に、コンタクトプレーの強度や無謀なチャレンジは減りますよね。
だとしたら、相手にイエローカードは極力出させておきたい。
そこで重要になるのが、「ルールの理解と賢さ」です。
以下のラグさんツイートが真理だと思っています。
例えば、記憶に新しい札幌VS名古屋の後半32分のシーン。
https://www.youtube.com/watch?v=nG6GaCEpCPE
(動画では35秒)
これは、札幌の宮澤裕樹選手がボールに全くプレーせずに、前田選手の体を抱え込むようにして攻撃のチャンスを妨げたプレーでしたが、主審の西村さんはアドバンテージを適用。
一方でファールを受けた前田選手はプレーを続行することをやめました。
プレーをやめたため、アドバンテージの状況が成立しなくなった結果、従来通りSPAが適応されイエローカードが札幌の宮澤選手に出ました。
このように選手が「アドバンテージ適用されているけど、きついな。なら、相手にイエロー出させたほうが得だな」と賢く考えることができるかも一つの戦略と言えるのです。
ファールを受けた際の状況(時間、点差、相手競技者の人数、味方の位置等)をとっさに判断することは容易なことではありません。
しかし、荒いとされているチーム(どことは申し上げませんが)に対して、
どうフェアに立ち向かうかという点では、有効な方法の一つだと考えています。
5.終わりに
終わるのに、突然な話をしますが、実は競技規則の冒頭に「サッカー競技規則の理念と精神」というページがあります。
サッカーはどうあるべき、競技規則はどのような存在であるべきかと書かれています。(実は結構いいことが書いてあり、私は気に入っています)
その中でも、最後に1文だけ紹介します。
「競技規則は、試合が魅力的で楽しいものになるように手助けするものでなければならない。」
ルール改正は大抵、今までの違いから、当初は戸惑いやフラストレーションが溜まるようなものです。しかし、サッカーをより楽しむためにIFABが検討を重ねて改正したものが、現在の競技規則になっています。
「サッカーをより楽しむために、ルールはある」このことを頭の片隅に置いて、ルールと向き合えれば、より楽しい週末が待っていると思います。
長文を読んでいただきありがとうございました。
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