昨季終了後の紆余曲折を経て、いよいよ開幕が近づいてきました。
長谷川新監督のもとで新しい闘い方に取り組むであろうグランパスの面々。COVID-19の感染などもあり、けして思ったような調整にはなっていませんが、練習のレポートだったり、その後の報道を見る限りでも、昨年までやってきたことをベースにしつつもさらなる何かを積み上げようとしていることが見て取れます。
当然のことながら昨季までを知っているファン・サポーターとしては「守備力を維持しながら得点力アップを!」なんて夢を見ます。夢ならいくらでも見るがいいさ。
その夢につながるキーワードなのが、グラぽ先生も触れていましたが「ファストブレイク」という言葉です。ファストブレイクってなんだ。速攻じゃいかんのか。小耳にはさんだのですが、速攻じゃいかんらしいですが。
長谷川監督が「速攻」ではなく「ファストブレイク」という表現にこだわっているのだとすると、そこには何らかの意志が込められているのでしょう。ファストブレイクと言えば、まず初めに思い出すのはバスケ用語、というのはグラぽ先生と同様です。僕の専門フィールドに入ってくる内容、せっかくですから「バスケにおけるファストブレイク」から長谷川監督が求めるものが見いだせないか、考えてみたいと思います。
バスケにおけるファストブレイクとは
バスケにおけるファストブレイクとは。現代バスケを分かりやすく語っている名著『ボールマンがすべてではない』から引用すると、
「チームがボールを保持した瞬間、その地点から相手チームのプレイヤーが自陣に戻る前にボールを展開し、素早く高確率なシュートを打つことが可能なエリアに進めて得点を狙う速いオフェンス」
という定義になります。ポイントは
- 自分たちがボールを保持したタイミングでのプレーであること
- 相手守備が自陣に戻り、体勢を整える前の展開が必要であること
- 素早く確率の良いシュートを打てるエリアに進めること
の3つです。サッカーにおけるカウンターの要件と似通っていますよね。バスケ側の考え方も参考にすることが可能かもしれません。
ボールを保持したタイミング≒攻守の切り替え
バスケにおいて攻守の切り替えが起こる瞬間は大まかに分けると次の4つです。
- 攻撃側のシュートが外れて守備側がリバウンドを確保する
- 攻撃側のシュートが入る
- 攻撃側が反則を犯す(トラベリング、攻撃側のファウルなど)
- 守備側がボールを奪う
さて、この1~4、守備側が攻撃側に切り替わった際に、ファストブレイクを出しやすい順番を思い浮かべてみてください。
…どうでしょうか。回答を作るならば、左から出しやすい順に、
4>>>>>>>>1>>(越えられない壁)>>2>>(不可能の壁)>>3
となります。
4の「ボールを奪う」は状況にもよりますが、大半はボールが良く扱われる、コートの中でもより中央に近い=攻撃側のゴールから遠く、守備側がその後攻めるゴールに近い場所で起こります。また、多くの場合守備は自分のゴールに背を向ける形で行うため、ボールを得たところで大きな方向転換なくスピードに乗れるのも大きなメリットです。
1は相手がシュートを打って、外れた状態です。シュートを打つ→リバウンドを確保する、というタイムラグがあることで、攻撃側は外れた時に備えてある程度体勢を整えることができるため、この形で相手を上回るほど速く攻撃するとなると、その前のシュートのときに攻撃側の体勢が崩れている=すぐに戻って守備をすることが困難な状況である必要があります。
2はシュートが入った状態ですので、実はバスケのルール上はリスタート。審判にボールを渡す必要はありませんが、一回エンドラインの外からボールをパスする必要があります。1のタイムラグに加えてリスタートのためのタイムラグが加わるため、速く攻撃することは1よりさらに困難になります。
最後の3は、審判が一回ボールを保持してのリスタートとなりますので、攻撃を終えたチームがよほど間抜けでない限りは速い攻撃は不可能です。
参考としてこちらをご覧ください。
こちらの動画の0:13~0:45の一連のプレーが4からのファストブレイク、0:46~1:17あたりが1の、1:18~1:56あたりが2のパターンからの例になります。速い理想的な攻撃とはどんなものか、イメージが伝わるのではないでしょうか。
実際のところ、これらの切り替えのきっかけやその質というのはサッカーでの速攻においてもあまり変わることはありません。1を「相手がシュートやクロスをあげるような攻撃のボールを抑えてマイボールにする」と読み替え、サッカーのルール上から2と3を同一視すれば、やりやすさも含めほぼ同じであることが分かるはずです。
「守備の体勢が整っていない状態」とは
もうひとつの重要なポイントが「守備の体勢が整っていない状態」です。マンツーマンが基本のバスケにおいて「守備の体勢が整っている状態」とは多くの場合「守備側の選手5人全員がマッチアップする相手より自陣ゴール側に位置し、すぐに守備ができる状況にいる」ことを指します。裏返せばその状況を満たしていなければ、整っていない状態になるわけですね。
この条件の中でもとりわけ重要なのが、守備側の人数になります。バスケでは守備側の人数が攻撃側より少ない状況を「アウトナンバー」、守備側と攻撃側が同数の状況を「ノーマルナンバー」と呼んでいます。
まずアウトナンバーの状況であれば攻撃側が必ず一人余る状態ですから、守備は整っていないことになりますので、この機会を逃さず攻めることが求められます。
少し判断が難しいのはノーマルナンバーの時ですが、同じ同数でも、1対1や2対2と5対5では全く意味合いが違います。5対5では目の前の選手をひとり交わしてもなお残りの4人がカバーにくるのに対し、1対1や2対2のように少ない人数の同数ほど、目の前の選手を交わせば守備側のカバーが乏しくなり、大きな機会につながります。
サッカーでも、カウンター時には少人数での数的同数~数的優位が最大のチャンスだと認識されることが多いはずです。守備に戻っている人数が少ないのであれば、ノーマルナンバーでも勇気をもって攻め切ることが重要なのは、サッカーでもバスケでも変わらないんですね。
ファストブレイクに必要なもの
ここまでサッカーにおける速攻とバスケでのファストブレイクの条件が似通っているのであれば、バスケでのファストブレイクに必要な要素が、今回の長谷川監督がやりたいこと、選手に求めていることが見えてきそうです。では、バスケのファストブレイクに必要なものは何でしょうか。僕が思うに、大きく分けて2つのポイントがあると考えています。
ポイント1 奪うための守備
ひとつ目は守備です。攻守の切り替えの項目でも書きましたが、得点につながるようなファストブレイクを出すためには、前向きな守備でボールを奪えなければチャンスを大きく減らすことになってしまいます。
バスケにおいては、積極的な守備なしでシュートを打たせてリバウンドをとっても、相手の攻撃布陣が崩れてなければ簡単に戻れてしまいファストブレイクは成立しません。同じように、引きこもって守備をしていてもそこからのカウンターで得点をとることが簡単でないことは、誰よりもこの2年のグランパスサポーターがご存じのはずでしょう。
この意味で、今季のチームに求められるのは、まずはファストブレイクを繰り出すための第一段階として、昨年ほど引きすぎないところで相手のボールを奪うための守備なのではないでしょうか。
ポイント2 奪った選手のパスと、次の選手の動き
ボールを奪ってからの振舞いも重要です。バスケでは、守備の時コート中央に近い=奪ったときに相手守備が少ない状況であれば、奪った選手がそのまま持ち込むことになります。一方で、奪う場所やリバウンドを取った場所が自分たちのゴールに近い形の場合、まずは近くの、速攻に行く準備をしている味方にパスを渡し、パスを受けた選手がボールを持ち込んだり前方に空いている味方にパスをすることで速い攻撃につなげます。
先ほどの動画を見ると、後者のような形になった場合はボールを保持した選手のところに、いわゆるポイントガード=司令塔役の選手が、前方の状況とボール周りの状況、そして自分の周りの状況を確認しながら適切なポジションを取ってボールを呼び込み、自らボールを持ち込んだり前に送り込んだりしていることが分かるはずです。このあたり、バスケにおいては誰がボールを持ち、誰がどこを走り、というのはある程度約束事になっているんですね。
今季のグランパスにおいても、おそらくはこのような、ボールを奪ったときの選手と、その次の選手の動き方が極めて重要になるでしょう。ボールを奪った直後の選手が即座に前の状況を確認してボールを前に送り込むことは容易なことではありません。ボールを奪った瞬間、その近くの選手が前の状況を確認したうえでボールを受け取り、前の選手に送り込む。この辺りがある程度約束事をもってできるようになれば、昨季より多くのチャンスを作り出せるのではないでしょうか。
最後に~予想じゃなく妄想スタメン
ここまでバスケになぞらえて色々と書いてみましたが、色々な報道を見ても、少なくとも長谷川監督には昨季のようにひたすら引きこもらせるという選択肢はないように見受けられます。すぐにこのような戦い方ができるようになるかは未知数ですが、いい形で具現化されることを祈っています。
最後に、闘い方を具現化してほしい、という前提で、こんなスタメン組めたらいいなという妄想を置いておきます。長いシーズン、どこかで見られると嬉しいなあ。若手の台頭も含め、楽しめますように。
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