さて、この土曜日にいよいよリーグ戦が始まります。新しい選手の加入のワクワクがある一方で、新型コロナウイルス感染症による打撃をチームは受けている状態です。そんな中でリーグ再開を喜んでいいのか悪いのか複雑な思いをしている方も多いと思います。
リーグ戦が始まるにあたって今のチーム形をざっくりと整理していきながら、新戦力が入った部分の期待も想像もしていきましょう。
(注:あくまで応援につなげるために、名古屋グランパスのサッカーをポジティブに理解しようとする記事です。)
攻撃編
昨シーズンに比べて、体感でも前線へのロングボールが減ったと感じる今シーズン。特に酒井が離脱した後に見られたロングボールに頼らない場面での左右でのボールをゴール前に運ぶ設計についてを振り返る。
(補足:相手のフォーメーションによって細かな選手配置の違いはありますが、今回は相手のフォーメーションを442と想定した図を使っています。)
左側での作り方:パターン1
まずは左サイドでの作り方。
左では酒井が離脱した後に動きが目立ったのはLWB(左ウイングバック)の相馬だった。
大外で相馬がボールをもらった際に相手のサイドの選手に対して”内に切り込むor縦を使う”の2つの選択肢を突きつける事が多くなった。
内側に切り込む選択肢は相手の目線を強制的に自分に向けさせる事と同時に中央で瞬間的に数的優位を取れることにも繋がって行く。
さらに相馬(LWB)のプレーの選択肢を助けたのは左のインサイドハーフ(LIH)の選手の選手の動き。
酒井がいた頃は酒井の近くにいるために左のウイングバックの奥に陣取るという意図の選択だったが、酒井がいなくなった今は相馬のプレーの選択肢を増やす意図に変化した。
左のインサイドハーフが大外に開く事でスペースを作り出し、相手の最終ラインがスペースを埋めるために横の動きを付ける。
その相手の横のスライドに対して逆サイドにいる選手達が縦に侵入する。という狭い場所で崩せなかった時の保険も同時に作り上げる。
E1で相馬が見せた逆へのボールの振り方や内側での立ち方は名古屋で目線の優先度が奥に出来たことや自分が内側でプレーする形が増えたことによる恩恵だろう。
この形で重要になるポジションの選手は中盤の底(DH:レオシルバ)の選手。
左のウイングバックの選手のサポートで自分が顔を出して相手に選択肢を迫れるか?レオシルバはその部分に充分長けているので当然相手からマークを厳しく食らう。そのなかでレオシルバが一瞬だけ相手を外して受けようとする瞬間を周りが見逃さずにいられるか?
新戦力(重廣、永木)がその位置に入った場合どういう動きをするのか?が今後の見どころ。
左側での作り方:パターン2
左側の作り方でもう一つ名古屋が持つ手札がある。
名古屋は3バックなので相手チームによってはのんびり構えてくれずにある程度プレッシャーをかけに来るチームもある。特に中盤の底(DH)に対してマークを貼りつつ、最終ラインにプレッシャーをきつくかけるような展開も見られる。
そんな時には左のインサイドハーフが降りてきて相手の目線を引き付ける。降りて来たインサイドハーフを放置すると相手はサイドで数的不利を背負うので中央の選手が寄って来る。その寄りで生まれたスペースを使ってゆく形を目指していた。柿谷が降りてきて相馬、仙頭の3人で一気に抜け出してゴール前まで行くような崩しも見られていた。
この形では、右のインサイドハーフの選手が中央にできたスペースをどう使うのか?が重要になってくる。今までは中央のスペースにレオシルバが侵入してボールを受けて時間を作って周りの動き出しを待つ展開が多かったが、新加入の重廣と永木、レオナルドがどういうスペースの使い方をするのかが楽しみだ。
サイドで選手が縦並びになっているのはパターン1と変わらないが、並ぶ選手のポジションが変わると出来上がるスペースは中央になるのも面白い部分。
右側での作り方
中断期間に入る数節前から右の前線の選手が降りて来て右のインサイドハーフが左同様にウイングバックの奥に立つ形が明確に見え始めた。前線の選手が反転できる位置で受けに降りてくることで相手選手に守備での選択肢を与える。中央の選手が降りてきた選手に寄れば中盤の底の選手が持ち上がり、サイドが寄ってくるならば、サイドの奥をインサイドハーフとウイングバックの数的優位で取ってしまおうという形だ。大外で選手が縦並びになっているのは変わらないが、左と違う点は右のユニット(ウイングバック、インサイドハーフ、前線)の三角形が循環しているということ。
左では選手の配置が明確に変わることで攻撃のパターンが変わっていたが右に関しては前を向けてボールを運べる前線の選手(マテウス)が「循環する配置の中でどこでボールを触るのかによって相手がパワーをかける場所が変わる」事を利用してウイングバックやインサイドハーフが相手のパワーがかかってない場所を利用する形となる。立ち位置も3人が循環している部分も左の攻め方と違う部分。
右の形で重要になるのは図の「2列目の裏」となる場所に誰が侵入してくるのか?ということだが、稲垣がサイドに流れると頼りになるのは左の三枚(LCF、LIH、LWB)になってくる。特に中盤と前線は選手間競争を促す補強となった。シュートに行く前の2列目の裏のスペースがどうなっているかがリーグ再開後の注目ポイントだ。
今後の注目点:攻撃編
- 左ウイングバックの内側への切り込み(相馬のカットイン)に対して、浦和や鹿島は2枚(サイドバックとサイドハーフ)を使って横と縦に蓋をしてきた。その蓋に対して仙頭が降りてくる選択をチームが取り(2つ目のボールの前進方法)、相手のプレッシャーからのボールの脱出が難しくなった時の中盤の底(DH)と右のインサイドハーフ(稲垣の場所)の選手のボールを受ける場所への顔の出し方が今後のポイント。この部分は重廣や永木がもたらすスパイスが助けになるかもしれない。ボールを運ぶためにパスを受ける場所へ顔を出せる選手(前で受ける場所を探せる)である両選手がチームに変化をつけられる選手として活躍してほしい。
- 相馬を一枚前で使いたい(LWBの選手を4バックにして一枚前に置く)のはE1での活躍を見ればそう思うが、左の前線に永井の選択肢ができるとLWBに攻撃に参加できる選手を置いておく意味がより出てくると考える。仙頭の大外の配置と永井で相手の最終ラインにプレーの瞬間風速で牽制がかけられればその二人がいたスペースに長い距離走って入って来る攻撃的な選手は必ず脅威になる。
- どの形であってもスタートは最後列から。どれだけロングボールに逃げずに最初のスタートのスイッチを「速く」いれられるか?がポイント。その為に丁寧なボールの扱いを。
- 番外編としては3421という形にした時に、2シャドー(3421でいう2の場所の選手)が352の時のようにウイングバックと縦並びになるとウイングバックに複数枚プレッシャーが行くと手詰まりになる部分をどうするか?天皇杯のセレッソ戦で3421にしてシャドーにいた阿部が大外で縦並びになった事でウイングバックの内田がボールを持ってもどうすることも出来なくなった案件があったので、再開後の形も注目。
守備面
守備においてはシーズン開始直後から前からプレッシャーにいこうとするが簡単にはがされる展開が続く中で、守備のテコ入れをして守備基準を作った。
名古屋が基準としていたのは相手の中盤の底になる選手。その選手を前線2二枚が挟む所からスタートする。
その選手を挟んでしまえば相手としては縦の楔を入れるためには前の選手を降ろすしかない。ボールを受けたい選手があからさまに降りる動きをするので名古屋のインサイドハーフの選手は対応しやすい。そうなると相手が考えるのは外でボールを回すこと。そのボール回しの質を落とすために相手の中盤の底の選手を挟んでいる前線の選手の一枚が最終ラインを追うことで名古屋の守備の動きがスタート。相手がボールを受ける瞬間に右ではウイングバックが、左ではインサイドハーフがプレッシャーに行く形を取った。
前からハメに行くことの代償として中盤で残る選手が数的不利になるが、そこはセンターバックとハメに行ってない方向の逆サイドの選手のフォローで乗り切る形を作った。チアゴや藤井が守備で前にチャレンジするシーンが見られたのはこの設計だった為。
ちょっとした誤算
ただ名古屋が誤算だったのは、ハメるのに失敗した後のインサイドハーフの選手のプレーの出力が予想以上に緩かった事や、ハメてる時に逆のインサイドハーフの立ち位置が後ろが回収してくれると高を括った立ち位置が多い事。それに加えてハメに行く事でセンターバックが長いボールで背後を取られる勝負をさせられる回数が増えた為に中央の前のスペースとの2つの場所のケアが難しくなり、中央は最悪中盤の選手が戻ってくれるので裏の警戒として最終ラインが低くなってしまう事が誤算だった。
リーグ中断前に鹿島に最終ラインの前にボールを落とされて勝負されたり、清水が最終ラインの前のスペースからガンガン打ち込んできたのは誤算から生まれた場所での勝負だった。
この誤算を何とかするために名古屋は中盤の底の選手を挟んで相手のボール回しを誘って相手全体が下がって来るまではプレスに行かずに様子を見るようになった。
重廣や永木が入ることで「本当はチームとしてこうしたいんです(が、できていない)」が出来るようになるのか? 守備の反応出力や、ハメに行くときのフォローの意識がチームとしてどう変わっているのか?が再開後の注目ポイント。両選手ともハードワークの看板が歩いてるような選手なのでチームの設計にあったいい補強だと思うので楽しみだ。
今後の注目点:守備編
- 鹿島にやられた中盤の裏にひたすらロングボールを出される、ひたすら両脇のセンターバックの裏に走られて最終ラインがいっぱいいっぱいになる現象はどうなるのか?
- 攻撃→守備の切り替え時のインサイドハーフの出力不足(反応が少し緩い)部分を重廣と永木が入ってどうなるのか?
- 柿谷、マテウスが非常に守備で重要な役割を担っている中で同じ役割をレオナルド、永井が出来るのか?それともそもそもの守備の設計を変えるのか?はかなり気になる部分。
まとめ
リーグ中断前までのチームの形をまとめてみました。「今年の名古屋はなんも仕込まれてない」といった声も聞こえてきますが、練習やトレーニングマッチを観に行っている限り、細かな言語での選手とのやり取りや練習内容が実際の試合のどういった部分に作用するのか?など細かな説明をコーチ陣(特に大島コーチ)はしている印象がありました。こうやって整理しても、どういう風にゴール前まで前進するのか?は非常にロジカルに作られているように見えます。
僕らに出来る事は今あるサッカーを理解して感情を後押しする力に変えていくしかありません。リーグ戦を前に皆さんの応援する気持ちが湧くような助けになれば幸いです。