まず最初に編集長より。サッカーのなかでファールをいっさい冒さずに試合を終える、ということは至難のわざです。しかし、だからといってファールをし放題というわけではありません。ある一定の基準を超えたものについては罰せられます。
ただサッカーのプレーはあまりにも複雑なので、これ、という線をビシっと決めて、それで白黒をつけることが難しくなっています。だからこそ、今度のワールドカップで導入されるオフサイド判定の半自動化テクノロジーのようなファクトで白黒をつけられるもの以外は、審判という「人間」の判定を必要としています。人間の判断をできるだけ揃えるために競技規則(ルール)があります。それですら完璧ではないので、毎年カイゼンサイクルを回しながら少しずつ変えている、というのがサッカーの現状なわけです。それをまずは踏まえて見ないとサッカーでは納得のいかないことばかりかもしれません。
それを念頭においていただき、今回話題になったジャッジについて、OTC公式さんに振り返っていただこうと思います。お読み下さい!
みなさま、こんにちは。グラサポのルール&審判担当のOTC公式(@Gram_Leorep)です。
いや、暑いですねー。明日は運命のルヴァン2戦目!3連戦を勝ち越しましょう!
まさかリーグ戦でこんなに気持ちよく勝てると思っていなかったんです。嬉しいです。
でも、「名古屋がラフプレー多い」とかでTLが燃えているではないですか。
そこで、率直に思った・・・ 「えっ、うちのチームってラフプレー多い?」
そこで、このツイートをしました。
https://twitter.com/Gram_Leorep/status/1556659058739884032?s=20&t=ACgdCVuwdC4FsLnSAZjzcA
いやー、燃えてます。無数の方々から、リプライが来ました!
過去のプレー動画を持ち出してくれた方、競技規則に基づかない謎理論を展開してくださる方など・・・団結力って素晴らしいですね。(もっと別の方向に向けてくれれば・・・)
でも、サッカーをやっているのですから「競技規則」つまりルールに基づいて議論をしないと、ただ単に「なにか騒いでいる人」になってしまいます。
感情に流されずに、「ルール」に基づくことで初めて建設的な議論ができ、サッカーリテラシーが上がっていきます。
よく目にする「荒い」という表現は、個々人の印象や主観で水掛け論になります。
ですので、本コラムでは、あくまでも事象とそのジャッジについて、客観的に論理的にお話ししますので、お付き合いください。
もちろん私もサポーターですので、自チームの選手が危険なラフプレーによって、ケガをしたら腹が立つのはわかります。お気持ちはお察ししますが、競技規則や、これまでのジャッジの傾向に基づきコメント頂ければありがたいです。
それでは、話題になったシーンを見に行きましょう。すべて私の見解です。
個人的な見解ですが、実際のレフェリーが何を思ってジャッジするのかというポイントについて触れています。
※本コラムや私が普段使用する「ラフプレー」は競技規則で定義されている、「無謀な力で反則を犯す」ことをいいます。「印象的に荒いプレー」「ケガにつながったプレー」ということではないので、ご注意ください。
第1章:ファールとは?(結果的に怪我をさせるプレーはラフプレーか?)
私の書いたコラムをご覧の方はおなじみ、単に引っ張った、推した、蹴ったという「事象」のみでは、即ファールにならないことは理解していただいていると思います。
ラフプレーを減らすには〜柏MF 戸嶋選手の負傷から考えるルールとレフェリング〜 | グラぽ
意外と知らないサッカー競技規則~「アドバンテージ」と「カード」の関係性~ | グラぽ
ジャッジ解説 オフサイド特集 ~藤井陽也の幻ゴール~ #grampus | グラぽ
最近の話題になったジャッジを振り返る – 主審によって判定基準が異なるのは仕方ないか? #grampus | グラぽ
おさらいです。
ファールの判断は、事象(例えば、蹴った、押した)に加えて、主に以下の要素も重要になってきます。
- プレーの意図
- 強さ・勢い
- プレーの優先権(可能性)
- 方法
- タイミング
- 因果関係
- コンタクトの部位
- 危険性
- メンタル
例えば、同じ「押す」でも、
- 片手で、相手のピンチを止めるために後ろから押す
- 両手で相手の後方から走ってきてスピードをつけて押す
- ボールをキープするために、ブロックのように相手を押す
- 片手で肩を押す
で全然違いますよね。このように、同じ事象でも意図や強さ、方法が異なれば判定は変わります。
その強さが無謀であればイエローカード、過剰であればレッドカードなわけです。
(無謀とは相手競技者が危険にさらされていることを無視する、または結果的に危険となるプレーを犯すことです)
そしてラフプレーというのは、競技規則上は「無謀」なプレーのことです。
編注:
競技規則12条には、この「不用意」「無謀」「過剰」の定義が記載されています。
・不用意(Careless):競技者が相手に挑むとき注意や配慮が欠けていると判断される、または、慎重さを欠いてプレーを行うこと。
・無謀(Reckless):競技者が危険にさらされていることを無視して、または、結果的に危険となるプレーを行うこと。
・過剰(Excessive):必要以上の力を用いて相手競技者の安全を危険にさらすこと。
ここで重要なのは、「負傷の度合い」は判定に考慮されないということです。あくまでも、ファールの強さ・危険度に関する判断となります。
なお、怪我という結果はジャッジに影響を及ぼすものではないので、ご注意ください。
例えば、相手をトリップした結果、相手が怪我をしようがしなかろうが、不用意なトリップでタクティカルファールでなければ、カードは出ませんし、競技規則上ラフプレーではありません。
上記を頭に入れて事象を見ていきましょう。
第2章 事象① ルヴァン杯プライムステージ準々決勝 第一戦 名古屋vs浦和 46:50
ショルツ負傷のシーン
- 判定:ノーファール
- 判定への個人的見解:妥当(100%ノーファール)
結果的に、アクシデンタルに稲垣がシュートを打った足がDFショルツの足を踏むシーン。
これは、サポーター感情だとラフプレーと言いたいのは分かります。足を踏まれてケガしたので。
ただ、シーンを見返してみてください。ポイントは以下の通り(意図・プレーの優先権・可能性・危険性)です。
- 稲垣は意図的にショルツの足を踏んだか?(意図)
- 稲垣のシュートは無謀だったか?(プレーの優先権・可能性)
- 危険を無視したプレーか?(危険性)
意図・プレーの優先権・可能性・危険性はそれぞれどうでしょうか?
- 意図→シュートを打った直後の足で、ファールの意図はない。
- 可能性→ボールは稲垣がコントロールしてシュートしていた。
- 危険性→足裏を見せたスライディングのシュート、ハイキック、頭がある所へのシュート、相手が保持しているボールへのシュートであったら、危険性がある。ただし、あくまでも稲垣のボールなので、危険性はないし、危険性を予知することは不可能。
よってフットボールコンタクト(アクシデント)によりノーファールは妥当。
ショルツ選手は不運。早期回復をお祈りします。
第3章 事象② 8/6 J1 24節 名古屋vs 浦和 28:25
柴戸の負傷
- 判定:ファール(ノーカード)
- 判定への個人的見解:妥当(10~20%程度イエロー)
100%永井のファール。完全に不用意。(The不用意といえる、典型的な例)
以下、ラフプレー(イエローカード)ではない理由。
- 意図:相手に対してタックルを喰らわすというプレーではなく、避けきれなかった(コンタクトあったが、ボールを追っていた)
- 状況:ボールをチェイスするタイミング。
- タイミング:△アフターチャージ。(これが最もインパクトが大きい)
- コンタクトの部位:頭や足ではなく、肩。
- 危険性:足を蹴った、頭にとびかかったという部類ではない。
→上記より、ファールをする必要性のある状況でもなく、危険な方法でのアプローチではないが、タイミングがアフターとなっているから結果的にやや危険。意図的にタックルしたわけでもないので、「FK+注意しておこう」という結論に。
結果的に負傷になってしまったのは、不運。
近年のサッカーは15~20年前と違って、アフターチャージ=イエローとなっておらず、
より、意図や方法がより見られています。コンタクト部位や意図からしても、「不用意」と判定されて、カードが出ないのは納得です。
ただし永井は昔から止まれずに、アフターチャージ気味になる癖があるので、気を付けて欲しい。柴戸選手の早期回復をお祈りします。
第4章 事象③ 8/6 J1 24節 名古屋vs 浦和 63:25
平野怪我シーン
- 判定:ノーファール(ノーカード)
- 判定への個人的見解:妥当(20~30%程度ファール)
森下のスライディング後に足が上がり、平野が転倒。個人的にはノーファールで妥当。
もしファールであれば、VAR介入対象となるAPPとなるシーンなので、VARも介入される。
編注:アタッキング・ポゼッション・フェイズ(APP):APPとは、攻撃側チームがボールを保持し攻撃に移る局面のことをいいます。得点につながる攻撃がスタートし、結果的に得点したりPKを得た場合に、VARは攻撃スタートから結果に至るまでに攻撃チームよって反則がなかったか遡ってレビューすることが可能です。
ノーファールの理由は以下。
- 意図:ボールへプレーしている。
- プレーの優先権:50:50。ただし、森下が早くボールに到達。
- 方法:スライディング。スライディングという方法をチョイスしただけでは、危険とは言えない。
- コンタクトの部位:ボールのへスライディングした後の足に、相手がつまづいている
- 危険性:森下の足裏が相手に入っている、相手の足を蹴ったであれば、ほぼファール。一方、森下のスライディングはボールを挟み、相手の足を蹴ったり、足裏は入っていない。また、結果的に足はあがったが、上がったこととの転倒は因果関係があるとは言えない。よって、スライディングをすることによるコンタクトと同等と扱うべきであり、一定の注意を払っている。当該コンタクトはフットボールコンタクトで不用意ではない。
平野選手の早期回復をお祈りします。
第5章 事象④ 8/6 J1 24節 名古屋vs 浦和 73:05
永井警告シーン
- 判定:ファール(イエローカード)
- 判定への個人的見解:妥当(80~90%程度イエローカード)
事象③の森下のシーンと見比べてください。これが、The無謀なプレーの代表例。いわゆる「ラフプレー」です。
- 方法:スライディング
- 可能性:やや浦和寄りのボール。永井はややチャレンジ。
- 意図:ボールへのプレー
- 方法:スライディング。浦和選手の方向にボールが向かい、その同方向にスライディングという方法をチョイスしたら危険にさらすことになる。
- 勢い:ダッシュからのスライディングで、勢いがついている。危険
- 危険性:ボールに行った後に、相手の足に接触。足裏を回避するために足をたたんだが、十分危険なプレー。足裏が入っていれば、レッドの対象。
→こういうプレーは本当に危険なので、選手は注意して欲しい。
(読者の皆様:このプレーがラフプレーの典型的な例です。)
第6章 さいごに
いかがでしたでしょうか?今回は名古屋のファールに焦点をあててみました。個人的には全ての判定は妥当で、推測される理由もリーズナブルだとおもっていますが、皆様はいかがですか?(このコラム、需要在りましたか?)
私は、怪我をしたプレーがすべて「ラフプレー」と扱われることに強烈な違和感を持っています。
怪我は本当残念です。浦和サポーターの感情も理解します。
しかし、「競技規則」つまりルールと照らし合わせて考えると、「ラフプレーでやられた」と思っていても、冷静に見てみると、フットボールコンタクトや不用意なファールであったことが分かると思います。
編注:フットボールコンタクトについてはこの記事を参照してください。最近の話題になったジャッジを振り返る – 主審によって判定基準が異なるのは仕方ないか? #grampus | グラぽ 広島の藤井選手が相馬選手にしたものがノーカードだったことなどはこれによります。
(今回は結果的に、ショルツ選手、平野選手はフットボールコンタクトで負傷してしまい、柴戸選手は不用意なファールで負傷してしまいました。)
フットボールは安全であるべきな反面、「コンタクトはフェアに激しく」してほしいと思っています。ラフプレーは絶対避けられるべきですが、タフなフットボールとコンタクトの多さ、多少の激しさやファールはトレードオフだと思っています。
従って、我々はラフプレーや乱暴なプレーを除いて、怪我をさせた選手・チームを激しく非難したり、非論理的に非難するべきではありません。というか、そこからは何も生まれません。
某サポーターから「このラフプレーばかりの試合を子供に見せたいか?」と聞かれました。
ラフプレーは見せたくないですが、Jリーグの名古屋vs浦和は見せても全然大丈夫です。
ここで大切なのは、
- 何がフットボールコンタクトで、どれが不用意なプレーか、その理由は何か?
- フットボールコンタクトがある前提で怪我しないためにはどうプレーすべきか?
- 本当のラフプレーは何で、なんでやったらいけないか?
を考える、教えることです。
余談が過ぎました。
ルヴァン2戦目も、タフでフェアな試合になりますように。
長文失礼しました。