もう年の瀬ですね。
W杯イヤーのため普段より早くシーズンが終わり、何かいつもと違う感がある
2022年の年末、いかがお過ごしでしょうか。
どうも、グラサポのルール・レフェリー担当のOTC公式(@Gram_Leorep)です。
私がグラぽに登場するということは、そう。
2022年をルール、レフェリング面から振り返っていきたいと思います。
普段の戦術的な話や選手のパフォーマンス等の記事とはかなりテイストが違いますが、
私なりの見解をなるべく分かりやすくまとめましたので、是非お読みください!
1.2022シーズンのJリーグ全体的なレフェリングの傾向
まずは、分かりやすい全体的なカードの枚数から振り返り。2021年と22年では試合数が違うので、1試合平均で比較します。
●1試合でのカード平均枚数
2021 | 2022 | |
イエローカード | 1.8 | 2.26 |
タクティカルファール | 0.83 | 1.03 |
ラフプレー | 0.78 | 0.99 |
レッドカード | 0.08 | 0.14 |
DOGSO | 0.026 | 0.058 |
著しく不正 | 0.018 | 0.026 |
乱暴 | 0.002 | 0.013 |
イエロー2枚 | 0.028 | 0.042 |
開幕前にJFAから繰り返し発信された、「競技者の安全を脅かす行為には躊躇なくレッドを出しますよ」との声明。ふたを開けてみれば、数字だけ見ると、その宣言通りの結果になったと感じています。単純比較すると、イエローカードは25%増加、レッドカードは75%増加という結果になりました。
思い返せば、2000年~2012年頃は所謂「カードでコントロールする」タイプのレフェリーが主流で、カードは乱発。
その過去の反省から、何となくできた「カードは悪で、コミュニケーションで収めてカード0の試合は美しい」という近年の風潮。
2022シーズンはその謎風潮からの脱却の兆しが見え始めたというシーズンでした。
「安全を脅かす行為は排除」という強いJFAのメッセージを基に、コミュニケーションの基盤があるレフェリーについては「コミュニケーションはもちろん大切にするけど、必要な懲戒措置はとります。」というレフェリーが増え、レッドもイエローも結果的に増加したのかなと思います。
この傾向(ちゃんと懲戒措置を行うということ)は個人的には良いと思っており、少なくとも「カードの基準」についてはFIFAの基準に近づいているのかなと考えます。国際舞台で日本がより戦いやすくなるためには、サッカーの結果を左右しかねないレフェリング面において、Jリーグがガラパゴス化しすぎないことが何よりも大切だからです。
Targmaの石井さん(@targma_fbrj)の記事で飯田主審のインタビュー(無料/飯田淳平インタビュー:選手より過酷な国際審判員(FIFAレフェリー)の移動とAFCが求めるレフェリングとは? : 石井紘人のFootball Referee Journal (targma.jp))でも、日本とAFCの基準の違いについて記載があるので、是非読んでみてください。
ちなみに、各国のリーグと比較しても、いまだにJリーグは圧倒的なカードの少なさを誇ります。
レッドの数だけでいえば、セリエAやリーガは2021-22シーズンで0.24と4試合に1枚、フランスでは0.27となっています。多いことは褒められたことではないのですが、基準を近づけていくことやその基準に慣れることは大切かなと思います。
2.2022シーズンのレフェリングの課題
1章では全体的なレフェリングの傾向について述べましたが、続いては課題です。大きく2点あると考えています。
- VARの介入基準
- レフェリーのポジショニング
①VARの介入基準
VARの本格稼働2年目となった2022シーズンでしたが、「VARの力量の差」が顕著になったと感じています。VARの介入基準、皆さん覚えていますか?
そうです「はっきりとした明確な誤り」「見逃された重大な事象」でしたね。
シーズンを通じて、理解に苦しむVARの「過干渉」や「不介入」(どの試合とは言いません)があったと思います。
実は、競技規則には「明白な誤り」は定義されていません。そこでJFAは「10人中8,9人が誤りと思ったら」と、VARの人に「他人もこう考えるに違いない」と推量させることにしたんですね。
また、日本のVARは主審とコミュニケーションを取る際に、まずは主審の見解を聞く運用をしています。世界では、VARが積極的に自分の意見を伝えるのに対して、日本はまず主審の判定を聞くことになっています。
その結果、VARが介入するべき事象を見ていたとしても、
- 自分は誤りだと思うけど、主審の説明と矛盾してないから介入しない
- 自分は誤りだと思うけど、他の人は違う意見かもしれないと推し量りすぎる
というカラクリで過干渉があったり、不介入があったりします。これは是非、来シーズンに向けて改善して欲しい課題です。
なお、2022シーズンのVARの特徴は過去にまとめたので、見てみてください。
②レフェリーのポジショニング
みなさん、W杯見ました?レフェリーの方々、すごくなかったですか?
延長含め、120分裁いた試合のロングカウンターもPAエリアからPAエリアまでおいていかれず、走りぬく姿に私は感銘を受けました。(そんな観点で試合を見ている人は少ないはず・・・)
さて2022年シーズンは、全体的にポジショニングが甘く、正しく判定できていないことが感覚的に多かったかなと感じています。(どの試合・誰とは言わないので、抽象的な表現になってしまいすみません)
「VARがあるのに、審判のポジションニング大切?間違えていればVARが直してくれるやん!」とお考えの方!のびしろですね。グラぽの記事をこれから読んでくれれば大丈夫です。
そもそもポジショニングが微妙で変な判定を繰り返すと、選手もサポーターもフラストレーションがたまりますし、試合が壊れます。そして、最も致命的なのがVARを無力化します。
VARはPK、退場(イエロー2枚目除く)、得点、人間違いの4パターンについてのみ介入できます。また、基本的にはどちらともいえる事象の場合、「主審の判断をサポート」するスタンスを取ります。
どちらともいえるPKの判定には基本介入できませんし、明らかにおかしいイエロー2枚目の判定にも介入できません。主審の最初の判定の大切さ、分かったでしょ?
こちらも、来シーズンに期待です。
3.2022シーズンの名古屋の傾向と話題のシーン振り返り
まず、名古屋の警告数・退場数を見ていきましょう。
名古屋はイエロー31枚、レッド2枚。イエローはリーグ5番目の少なさで、2021シーズンと全く変わらない枚数でした。
内訳的には、タクティカルファール14枚、ラフプレー15枚。
特に、タクティカルファールについてはリーグ3位の少なさです。基本的に攻めていないグランパスとしては、攻めてボールロストしてカウンターを受け、ファールで止めてイエローという類のタクティカルファールの数が少なくなるのは、当たり前と言っちゃ当たり前でした。(ちなみに、風間体制のときは、ほとんどタクティカルファールでした)
ラフプレーの数も15と、平均的で悪くもない平均的な数でした。
特に多くのカードを貰ったわけではなかったものの、やはり名古屋の絡んだ大きな判定は以下の3つでしょう。
振り返っていきます。
- vs 福岡 チアゴの一発退場 (清水主審)
- vs 鳥栖 PK疑惑&藤田一発疑惑 (井上主審)
- vs 福岡 脳震盪&紳士協定違反 (中村太主審)
細かいものは、例えばハルヤの幻のゴールとか、川崎Fのハンド疑惑とか挙げればそれなりにありそうですが・・・
体力の限界を迎えそうなので、3つに。
・vs 福岡 チアゴの一発退場 (清水主審)
ジャッジリプレイにもなったシーンでした。
私の見解では、一発退場やむ無し。(家本さんの見解では、厳しすぎるとのこと)
世界的な流れとして、プレーの「意図」よりも「結果」を重視する傾向にあります。
あの距離で相手競技者がいて、足裏を見せてクリアするのは、リスクが伴います。
ボールをクリアしていたならまだしも、非常に危険なプレーのため、これはレッドになる危険性があるプレーとして
覚えておきましょう。
・鳥栖 PK疑惑&藤田一発疑惑 (井上主審)
これは、かなり反響があった試合だと思います。
そしてPKだろうし、藤田の一発退場であると信じているシーン。
但し、私のジャッジリプレイの家本さんの解説とは見解が異なります。
- PK疑惑のシーンは、井上主審は「トリップ」でファールを取ったはず
- 藤田退場疑惑シーンは、井上主審が避けようとしたので目線が「ずれた」ではなく、
井上主審の角度からは稲垣がアフターでチャレンジしたと見える角度
(カメラの角度と90度ぐらいアングルが変わるため)
ですので、主審のせいというよりはVARが適切に介入しないといけないシーン。
このような状況のためにVARがあるのに・・・と強く感じた試合でした。
・vs 福岡 脳震盪&紳士協定違反 (中村太主審)
これも話題になりましたね。これも、私はこんなツイートをしていました。
ジャッジリプレイで家本さんは「すぐさま試合を止めるべき」と言っていていましたね。
Jリーグレフェリーデベロプメントマネージャーの東城さんは以下のように述べています。
「試合を停止するのか非常に難しい事象。ドクターをすぐに呼ぶなど、その場で適切な対応をしてくれた」
「GKとDFがぶつかった後、ボールが左へ流れた。理想論かもしれないが、そこで止められたらよかった。その後では止められなくなる。非常に難しい。正解はない」
このようにコメントする等、とても難しい事象でした。
これ、もしも止めた場合、GKへのドロップボールで試合がスタートされるという、結果的には連係ミスで得をする場面です。
皆さんはどう思いますか?
紳士協定違反、これたまにやるチームありますよね・・・(どことは言いませんが)
いずれにせよ、レフェリーとしてはノーチャンス。
来シーズンはフェアな試合がより増えればいいですね。
4.2023シーズンの展望とVAR
2023シーズンだ大きく変わることが一つあります。それはVARのオフサイドの3D判定化です。また、オフサイドラインのカメラの台数が2台→5台になります。
VARは非常に奥が深いため、VARの師であるまっつん(@foot12ma12)さんから教えを受けましたので、以下にまとめます。
ご存じの通り、今までは2Dといって、地面と接地した部位(足)で判定をしていました。この手法で最も効果的なシーンは、ゴールに最も近い体の部位がDFもオフェンスも足と断言できる場面です。そのようなシーンで絶大な効力を持ちます。
例えば、この杉本健勇のゴール取り消しのシーン。(1:30~2:10頃まで見て下さい )
これは、DFは地面に対してまっすぐに立っており、足が一番ゴールに近い場所と断言できるので、取り消しになります。
一方で、足以外の部位がゴールに最も近い場合、2Dは無力化します。例えば仙台vs札幌の1点目(0:55~)
ルーカス・フェルナンデスはオフサイドポジションっぽいのですが、DFの最もゴールに近い部位が足ではなく上半身ですので、VARの山本さんは原則に従い、副審の現場判断を尊重する結果になりました。
これらのジレンマが一気に解消されるのが3Dです。3Dは1cm単位の精度での判定が可能となります。
精密すぎて、「1cm、膝が出ていたのでゴール取り消し」みたいなことが起きて議論が起こるんですね。それはフットボールかと。でも、それ(厳密さ)が流れなのかもしれませんね。
あと、もう一つ、3Dラインの生成は2D以上に時間がかかります。いままでは、慎重にラストタッチのポイントを決めて、ラインを引くだけでしたが、より時間がかかります。
意外と知られていないのですが、VARの2Dラインの使用は「権利」でした。VARが「オフサイドっぽいな」と思っても、「足よりも体がゴールに近いから、2Dで生成しても意味ないよね。はい、現場尊重」とサクサク進んでいたものが、3Dが導入されると、強制使用に変更されます。
オフサイドっぽいものは全て3Dを用いて時間をかけてチェックするので、時間がとてもかかります。その点は注意が必要です。
いずれにせよ、これも「世界」の流れに乗っていますね。前述したとおり、世界の流れに乗ることは日本が世界で今後躍進するために必要なことですので、
我々がいち早くなれましょう!
●レフェリーについて
絶対的な「柱」、佐藤隆治PRが引退してしまいました。あまりにも早い、突然の引退で、正直ショックを隠せません。2010-14のW杯で笛を吹いた西村さんや松尾さんも来シーズン51歳。
木村・山本・飯田のほぼ同級生コンビがどこまで引っ張れるか、若手がどこまで底上げできるかがレフェリー界の命運を担っています。
具体的には国際経験を積んでいる荒木主審には、今年以上に海外で飛び回って欲しいし、笠原主審とセンス抜群の谷本主審(個人的次期PR大本命)は切磋琢磨していってほしいです。
J2から上がってくるのは、マップで書いたようにパッと見た感じ、先立主審・長峯主審・松本主審らへんの誰かがJ1にきそう。J2から上がってくると、J1のレベルにすぐにフィットするのは大変だから、少し時間がかかる。
サポーターも、長い目で見てあげるのが大切です。だって、絶対的な柱だった佐藤さん、最初は結構やばかったもん・・・今でこそ安定感ある飯田さんだって、不可解判定が多くて「あー、今日飯田さんか、はずれだなぁー」て思ってたこともあったし。
大切なのは、レフェリーがだれであろうと勝てる、絶対的な強さ!その絶対的な強さをぜひチームには身につけてほしいです。
2022シーズンは名古屋サポの私としては、「何回ワーストな試合を見せるんだよ・・・」と思うぐらい、ワーストが次々に更新されていて辛かったです。
2023シーズンこそは!!!よきシーズンになりますように!
1年間、ありがとうございました。
良いお年を!