どちらの本拠地でも痛み分けとなり、現状自分達より上の順位のチームに対してのリーグ戦のスコアは全て引き分け。という非常に分かりやすい立ち位置となった。
どちらのゴール裏からも尋常ではない熱量の応援が飛び交った試合。
会場にいた29,743人の全員の心が震える試合。チームスタッフも含めた総力戦だった事が分かる盤面や構造での対話。
どのようなものだったのか振り返っていきましょう。
今回の試合のレビューもマリノスとの前回対戦(アウェイ戦)のレビューを読んでからご覧いただく事をおススメします。
試合情報
前回対戦から名古屋はキャスパーが頭からのスタートという変化やマリノス側は喜田の不在、水沼に代えてヤンマテウスを投入するなど両チームとも変化を加えての再会となった。
前回対戦からの変化
前回対戦では
- センターバック2枚に前線2枚を当てて球の動きを制限する名古屋
- それに対して、中盤の選手を引っ張ろうとするマリノス。
- それに対応する為に中盤まで守備のサポートに降りるのは前線で1stディフェンダーとなっていたマテウス
という構図で、マテウスが下がって来てくれるから出し手の部分に当たらなくとも出し先を埋めよう。という展開となったが、今回の対戦では前線の人員が変わった為、前回対戦の守り方から変更があった。
今回の試合では最前線の選手が守備でプレーを制限した後に中盤のケアには入らない(マテウス→キャスパーの変更)ので名古屋はマリノスのボールの出し手までプレスに行く形を取る。
出しどころが埋まるマリノスは西村とアンデルソンが名古屋のプレスの裏側で顔を出すが、マリノスのセンターバックからの配球の質や一森の地面に置いてあるボールを蹴る精度はそこまで高くなかった。おかげでグランパスは後ろを向いて受ける選手の場所ではしっかりと奪い切る、長いボールが来る時は藤井と河面で回収、という両面作戦が上手くいく時間が試合開始後から続いた。
ハメる形が上手くいっている時間に先制をした名古屋だが、ここからが難しかった。
横浜は松原、永戸にボールを預ける回数を増やすことで徐々にボールを持ちながらラインを上げる。それと同時に前回対戦時に修正をいれた形であるサイドバックの立ち位置に工夫を加えて名古屋のプレスを構造で回避し始める。
これにいち早く気付いたのは永井だった。前半24分にプレスのスタート距離を下げて藤田を見張る形を選択する。数的不利を埋める為に下がってスペースを埋める事は当然理にかなっていたが、マリノスの狙いはこれだった。
名古屋はこの試合の約束事として「ハメに行く」事を選択した。配置がどうであれ相手に隙が出来れば当然約束事を遂行するために動く。
24分に藤田の所から爆速でプレスに出た永井を皮切りに全員が連動するも前線から相手を制限していないために引き込まれる。
長い距離を走らされて広いスペースが生まれ、そこにマリノスの選手が続々と入って来て裏返される。
後ろの選手達は前の選手の「プレー(守備)の遅れ」が数的な、位置的な、時間的な不利として蓄積される。
和泉がカードを貰ったのもチームとしての不利の蓄積を消すための仕方ないカードとなってしまった。
この形で不利というより不可能と呼ぶに近い苦しさを背負ったのが河面。川崎戦の時と同様に前の選手達が長い距離プレスに行くことで守備で担当する人のほかに後から出来るスペースの管理まで行なわなくてはいけない状況に。これは後半に修正されるまで続いた。
マテウスロール
マテウスが受け持つ役割を個人的にマテウスロールと呼ぶようになった。
彼は監督やチームカラー、所属選手により色々な役割をになってきたが、今シーズンから(特に川崎戦から)中盤で時間を作る役割を担う事が増え、ボールを引き取って稲垣や米本の周りを旋回しながらプレスの回避を助ける役割を果たすようになった。
実際マリノスとの対戦でもマテウスが下がってボールを受けに来ると、プレスがぱたりと止むシーンが多かった。得点力が上がった今、全てを背負うシューターからチームを回す10番へと進化しているのは間違いなく、稲垣と米本を輝かせる為の立役者となっている。
しかし、今シーズン。マテウスにしかできない唯一の役割をこなす選手が1人存在する。それが内田宅哉。
マリノス戦で米本に代わって内田が投入された。この後のマテウスの立ち位置を見てほしい。内田が入り中盤の狭い場所や他のポジションへのサポートで頻繁に顔を出すことでマテウスが行なっていたプレス回避の為のボールの受け方や動かし方を彼がやれてしまう。
そうなるとマテウスはより高く、自由な位置を取り2列目では無く1.5列目でプレイが可能となる。
内田は加えてサイドでプレー出来る経験値もある為、森下や和泉。特に似たような境遇を背負う和泉との呼吸は目を見張るものがあり、和泉と内田でサイドを崩し切ってしまうような場面もあった。
内田が中央で相手のプレスを回避できるだけでなく味方の為に時間を造れる選手だからこそ、稲垣がサイドに張れて同点弾のきっかけになる前向きのパスを出すことが出来た。
(46分30秒の囲まれた状態からボールを預けた後の動きに注目。藤田の後ろを旋回するようにポジションを取り直す。視界から消える動きはマテウスが中盤にサポートにきてボールを引き取る時の動きにそっくり。)
後半の形
前述のとおり、内田が投入されて稲垣の位置も自由になり同点となった後、60分頃までは持たれる展開も続く。
そんな中で名古屋は稲垣とマテウスと内田で中盤で皿を作るような形にしてマリノスの選手が受ける場所を極端に絞った。
中央の受ける場所が絞られるとサイドにも恩恵が出てくる。守備で対応する選手がかなりはっきりしてきた。
右はエウベルを藤井と和泉で、左は森下が松原にハッキリ行く。
ヤンマテウスには河面が対応した。このヤンマテウスの対応は本来は河面1人になってしまうが、センターを3枚で絞る事で稲垣が中谷のケアに行ってもセンターが空く事が少なく、その結果河面のケアに中谷が行けるように。
前半は河面1人であまりにも多くの事象に対応しなければいけなかったが、後半の修正で中谷が河面の負荷を引き受ける形になった。
失点シーンの共通点
1失点目も2失点目も原因は共通している。セットプレーの延長で前線に残る選手達がロングボールの準備をする中でのシュート選択。河面に「場所を入れ替わってくれ」と指示を出した後に入れ替わった場所で変わった選手の役割を森下が引き継いでなかった事。
どちらもきっかけは「選択した事を“行なう”事が目的となっていた事。」シュートを“打つ事”が目的化してひっくり返された場面と、カバーしてもらうために「場所を入れ替える事が目的となってしまった事」
行動の先の着地点の設定を曖昧にした結果だった。
試合雑感
- マリノスは前回対戦からの修正を行なって試合に入ったものの先制された、しかし先制されてから名古屋の選手達の試合運びのズレの部分とスーパープレイが重なり同点に。
- 川崎戦からというよりアウェイマリノス戦の時からサイドバックの工夫で守備がハマらなくなる現象が起きていた。対名古屋式が完成されたい今、どうやって「攻めるための守備をするか?」
- 和泉、内田、マテウスの受けたら逆を取って剥がす動きはキツイプレッシャーの中でかなり有効だった。センターや最終ラインが顔を出すまでの時間を造れる選手がこれだけ増えたのはものすごくポジティブな事。
- 現状キャスパー以外に、点で飛びこめるFWは貴田。中島が入ってくるが、受け方や剥がし方、守備でのハードワークを含めると序列が変わるような状況ではない。周りの雑音に負けずに“素敵”を磨き続けてほしい。
最後に
次のヒーローは誰になるのか?天皇杯が楽しみですね