記事内では選手名の敬称略とさせていただきます。ご了承ください。
【事実】7月29日の流れ
日刊スポーツで第一報
この日はサンフレッチェ広島のファン感謝デー。
否定はありませんでしたが、ファンからの声が寄せられていることを報じています。
その後、サンフレッチェ広島の大本営と言える中国新聞で第2報が出されました。
無料部分を見る限り、以下のように述べています。
同日、取材に応じた森島は「評価していただいたことは、どのチームであってもありがたい」とした上で、移籍の可否について「何も決めていない」と話すにとどめた。
【事実】7月30日の流れ
スポニチでマテウス・カストロにサウジアラビアのチームからオファーが来ていることがわかりました。合わせて移籍のオファーがあったことも第3報が出ています。
【一般論】シーズン中に移籍をする理由
シーズン真っ最中の夏の移籍ウィンドウで移籍をするというのは、契約の切れ目の冬移籍とは少々違うところがでてきます。
一般的に考えられる理由は以下の通りです。
- 選手キャリアをステップアップする(海外移籍を含む)
- クラブのカテゴリーアップ(J2→J1など)
- 出場機会を求める
- クラブ・監督との衝突
- 大好きなクラブ・憧れている or 尊敬する指導者からの誘い
- 家庭の事情
- サラリーアップ
1は前田直輝や相馬勇紀が挑戦をしてきました。
2は久保藤次郎がそこにあたるでしょう
3については、かつての丸山祐市や中谷進之介がこのパターンですね
4はひょっとすると乾がセレッソを退団した時はこの理由だったのかもしれません
5のパターンは、浦和の鈴木彩艶がジョアン・ミレッコーチの指導を受け続けたい、としているのが典型ではないでしょうか
6は外国籍選手が途中退団する時のパターンでよくありますね
7はかつてダヴィが買われた時がそれにあたるでしょうか。お金には抗えませんでした
では、今回オファーを出している森島にとって、どこか条件は当てはまるでしょうか?
- 同一カテゴリーで順位も近いので、ステップアップにはなりませんし、カテゴリーアップにもなりません。(1、2がX)
- 中心選手なので出場機会はもちろんあります。(3がX)
- 大好きなクラブというほどジュニアユース所属に何か思い出があるようには見えません。(5がX)
- 4のクラブ・監督との衝突や6の家庭の事情は外部の我々にはわかりません。
ですから、可能性としてあるのは4、6、7ということになりそうです。今回緊急性が高いこともあって資金はかなり積んでいると思われるので、もし受け入れてもらえた場合は、可能性として1番高い理由は7の可能性があるかもしれません。
【事実:データの比較】マテウスが抜けるのであれば補強は必須、だがなぜオファーを出したのが森島司だったのか?
結論から先に言うと、マテウス・カストロの代わりになれる選手なんて居ません。それでも彼を除く現有戦力でJ1リーグ・ルヴァンカップ決勝トーナメント・天皇杯を戦い抜くには心許ないというのが正直なところでしょうか。
もし彼が出て行ってしまうようであれば、補強は必須です。
しかし、補強をするとしても、何故森島司だったのでしょうか?そこを考察したいと思います。
まずは、その2人を徹底的に比較してみましょう。
プレイングスタイル指標
まずは森島司の個人のデータを見てみましょう。いつものFootball-LABさんからの引用になります。
こうしてみると、決定力やシュートのマテウス・カストロ、クロスやパス、ビルドアップの森島司という違いがあるのがわかります。シュート系の値が強烈過ぎて、トータルの値では随分とマテウスが上に行ってしまいます。
個人スタッツの比較
スタッツの詳細をSofascoreで見てみましょう。
ヒートマップ
まず、森島司のヒートマップです。
次にマテウス・カストロのヒートマップです。
左と右のエリアの違いはあるものの、基本的に使っているエリアは左右対称ですがよく似ていることがわかります。
攻撃関連データ
このあたりも大きな違いがあるわけではありませんが、まずは平均シュート数の違いです。マテウス・カストロの場合は、ここでシュートを打っちゃうのか!っていうこともありますが、そこから生まれる得点というのもあり、マテウス・カストロの個人の能力は高いことがわかります。
パス関連データ
やはり目を引くのはビッグチャンス構築数の数です。決定的な仕事をできることはある意味才能にも関わるところでもあり、わたしがマテウス・カストロの代わりはいない、と断言する理由でもあります。
しかし一方でパスの成功率、特に敵陣でのパスの成功率に違いがあることがわかります。
これはマテウス・カストロが通ったらビッグチャンスになる!というようなパスを出して、よくカットされてしまうことが影響しているでしょう。狙うパスが多いからこそ、ビッグチャンスを作れるのですが、失敗した数だけカウンターのピンチを生んでいるということでもあります。
森島司は司令塔らしく、正確なパスを配球することが身上のようです。敵陣パスで70%オーバーはなかなかありません。
その他データ
マテウス・カストロで一番印象深いのは、強引に持ち上がるドリブルで30m以上を持ち上がってしまうことが何度もあることです。持ちすぎて潰されることもありますが、そのプレーに助けられたことも何度もありました。
強引さは森島司にはないので、ポゼッションロスト=ボールを失うプレーは少ないです。
なにげにデュエルの勝率は森島司のほうが高いのですが、そもそもデュエルを仕掛ける数はマテウス・カストロのほうが多い、という状態です。
総論
基本的にマテウス・カストロは狙うプレーが多いため、様々なスタッツが悪い部分はありますがトライする数(試行数)が多いため、大きなチャンスを数多く作る能力はある。
ただし成功率から考えるとそれなりにピンチも作っている。
森島司は非常に真っ当な司令塔で、マテウス・カストロとはタイプが違うことがわかる。
これは多くの人が感覚的に感じていたと思われることが、データで検証できました。
そうなると、なぜオファーを出したのが森島司なのか?という疑問は深まるばかりです。
それでも何故森島司だったのか
シーズン中に現在の中心選手とはタイプの違う選手にオファーをすることは、サッカーのやり方を変えることに繋がります。
かなりリスクの高いことですが、そんなことは強化部のメンバーも当然よく知っているはずです。それでもオファーを出した理由を考察してみましょう。
【推論】長谷川健太監督は現在のサッカーをアップデートしようとしている
Football-LABさんが出している、ゴール期待値というデータを見てみましょう。
ゴール期待値とは、「シュートが得点に結びつく確率」を0~1の範囲で表した指標です。試合を通じていくつもシュートを打つわけですが、それによって何点入る可能性があるのかを試合ごとに出すことになります。
縦軸が試合あたりのゴール期待値で、横軸が実際の試合あたりの平均ゴール数です。
- 平均ゴール数は北海道コンサドーレ札幌・横浜F・マリノス・ヴィッセル神戸の3チームが1.95でトップ
- 北海道コンサドーレ札幌はゴール期待値も2位でバランスが良い
- サンフレッチェ広島はゴール期待値はナンバー1なのに、平均ゴール数は14位
- 名古屋はゴール期待値と実際の平均ゴール数に差がない
名古屋グランパスのゴール期待値は7位で、昨年までのサッカーを想像するとよくゴールが取れているイメージですが、まだゴール期待値では7位で、ユンカーらの決定力に助けられて平均ゴール数4位になっているだけだということがわかります。
ゴール期待値が低いということは、良い形でシュートを打てていないということになるので、そこを改善したい、と考えたのでは?というのが第1の推論です。
これと合わせて考えたい指標があります。AGIです。
「攻撃の際にどれだけ相手ゴールに近づけたか」を表す指標が「Approach Goal Index」、略して「AGI」です。「AGI」は攻撃時間のうち、相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間の割合が高い=押し込めていることを表しています。
また攻撃が始まってから、敵陣のペナルティエリアまで到達するのにかかった時間が短い場合に高い評価となるようになっています。
実はAGIでもダントツでナンバー1なのがサンフレッチェ広島です。名古屋グランパスは9位。ゴールに近づけていない、という現実があります。そこがゴール期待値にも現れています。
この2つから明らかなことが、サンフレッチェ広島のサッカーは「押し込むことができて、ゴール前のチャンスをたくさん作れている」ということです。
そのような今の名古屋グランパスとは異なるサンフレッチェ広島のサッカーに長谷川健太監督が魅力を感じている、というのが第2の推論です。
しかし実際のところ名古屋グランパスの現在のサッカーはそれなりの結果が出ています。しかし、前半戦終盤に東京戦・京都戦と敗れており、そろそろ名古屋グランパス対策というのが確立されつつあるというのも確かです。
ここで自分の推論を述べます。
- 長谷川健太監督は現在のサッカーのAプラン(中盤でボールを奪い、縦に速いサッカーでゴールを陥れる)だけでは勝てなくなると予想している=現状のメンバーはAプランに特化している
- シーズン中にBプラン(押し込んで、シュートチャンスを増やす)サッカーを仕込むことはできない=Aプランに特化したメンバーにBプランを仕込むことは簡単ではない
- 結果Bプランに慣れた人を連れてきて、人を入れ替えることでBプランを遂行できるようにしようと考えた。
そのとき、普段からBプランを遂行しているサンフレッチェ広島の中心選手を連れてくれば、グランパスのBプランが遂行しやすくなる、と考えたとしてもおかしくありません。
最後に
上記はあくまでも外部からみた推論に過ぎません。事実と推論の部分を切り分けて記述していますが、推論の部分が正しい保証は一切ありません。あくまで編集長の推論です。
また、オファーを出していることは事実のようですが、森島司がオファーを受諾するとは限りません。
まだどうなるかはわかりませんが、ただ鬱々とニュースを待っているよりは、いろいろみんなで考えることも良いのでは?と思ってこの原稿を書きました。
何故森島司だったのか、などの理由を皆さんも考察をして、その結果を是非教えて下さい